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材木商桧木屋お七の訴え
五
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「もしも、この話が本当ならば冤罪です」
やるせない思いに駆られ、正太郎は父親の平一郎に訴えた。
「そうは言っても、桧木屋の件は我らの案件ではないからなぁ」
平一郎も渋い表情で、腕を組み考え込んでしまう。それもそのはず、桧木屋のぼや騒ぎは火付盗賊改方の範疇だ。
町奉行所がおいそれと手を出せる案件ではない。
しかも、八十吉が自害し、お七が罪を受けて、騒動は全て解決してしまったのだ。それを今更覆したところで、亡くなった二人が生き返るはずもない。
「その辺りの事情は聴かなくてもわかっています。でも、それではお七たちは報われません」
たとえ真相がわかったとしても、正太郎たちには何もできない。それでも、お七や八十吉が無事に成仏するには解明しなければならない謎がある。
それから数日後――正太郎が桧木屋の周辺を探っていると、女中らしき大年増が見目麗しい娘にこっぴどく叱られている場面に遭遇する。
「あんな美人が般若のような顔をするなんて。あの女中は一体何をしでかしたのだろうか?」
耳の不自由な正太郎にも女中が涙ながら「すみません」と謝っている声が伝わってくるようだった。
「もう勘弁してあげれば良いではないか……」
陰で見守る正太郎の心の声が聞こえたのかどうか知らぬが、やっと女中は解放され場を立ち去った。
すると、次の瞬間――娘が正太郎の方を向き、血相を変え何かを訴えた。
「とんだところをお見せして、申し訳ございません。私も怒りたくなかったんですけれど、あの女中が……」
早口でまくしたてられ、何を言っているかは判断できない。
だが、必死になって言い訳しているのがわかった。媚びたような笑みを浮かべ、上目遣いの眼差し。
さっきの般若のような表情を見ていなければ、誰しもころりと騙されるだろう。
「こちらこそ、かたじけない。通りがかりで、特にこれと言って何も聞いていなかった。そんなに謝っていただかなくても、大丈夫です」
「あら? 何も聞いていませんでした?」
「はい、何も聞いていません」
見てはいるが、聞こえてはいない。これは嘘ではない。このやり取りで安心したのか、娘は失礼しましたと言い残し去っていった。
やるせない思いに駆られ、正太郎は父親の平一郎に訴えた。
「そうは言っても、桧木屋の件は我らの案件ではないからなぁ」
平一郎も渋い表情で、腕を組み考え込んでしまう。それもそのはず、桧木屋のぼや騒ぎは火付盗賊改方の範疇だ。
町奉行所がおいそれと手を出せる案件ではない。
しかも、八十吉が自害し、お七が罪を受けて、騒動は全て解決してしまったのだ。それを今更覆したところで、亡くなった二人が生き返るはずもない。
「その辺りの事情は聴かなくてもわかっています。でも、それではお七たちは報われません」
たとえ真相がわかったとしても、正太郎たちには何もできない。それでも、お七や八十吉が無事に成仏するには解明しなければならない謎がある。
それから数日後――正太郎が桧木屋の周辺を探っていると、女中らしき大年増が見目麗しい娘にこっぴどく叱られている場面に遭遇する。
「あんな美人が般若のような顔をするなんて。あの女中は一体何をしでかしたのだろうか?」
耳の不自由な正太郎にも女中が涙ながら「すみません」と謝っている声が伝わってくるようだった。
「もう勘弁してあげれば良いではないか……」
陰で見守る正太郎の心の声が聞こえたのかどうか知らぬが、やっと女中は解放され場を立ち去った。
すると、次の瞬間――娘が正太郎の方を向き、血相を変え何かを訴えた。
「とんだところをお見せして、申し訳ございません。私も怒りたくなかったんですけれど、あの女中が……」
早口でまくしたてられ、何を言っているかは判断できない。
だが、必死になって言い訳しているのがわかった。媚びたような笑みを浮かべ、上目遣いの眼差し。
さっきの般若のような表情を見ていなければ、誰しもころりと騙されるだろう。
「こちらこそ、かたじけない。通りがかりで、特にこれと言って何も聞いていなかった。そんなに謝っていただかなくても、大丈夫です」
「あら? 何も聞いていませんでした?」
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見てはいるが、聞こえてはいない。これは嘘ではない。このやり取りで安心したのか、娘は失礼しましたと言い残し去っていった。
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