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鳳凰堂女中お菊の訴え
二
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すると、翌日。噂をすれば影、再びお菊が正太郎のもとに現れた。
「何か思い出したのか?」
――何から思い出したら良いのかさえ、わからない始末だねぇ。
お菊は嘆いた。
「それならば、お菊殿。お主の年は幾つだ?」
――旦那、女に年を聞くのは野暮だよ。
以前、お糸に何度も野暮扱いされていたので、邪険にされても正太郎は平気だった。
「そうは言っても、お主がどのような女子か把握しなければ、探りを入れられないであろう」
――はぁ、そうでございますか。うぅん、確か手前は十九になったばかりだと思いますねぇ。
面倒くさそうに答える。
「十九か。独り身か? それとも所帯持ちだったのか?」
――あら、嫌だ。亭主持ちだって? まだ深い仲になった相手なんぞおりませんよ。
「そうか。それならば、何処ぞで奉公でもしていたのだろうか?」
――うぅん、そうねぇ。女中、女中をしていたような。
「女中ねぇ。商店かい? それとも武家で?」
――奉公先は商売をしていたわね。
「どんな商売だ?」
――そうだ皿。皿を売っていたよ。
「皿だと? 膳に並ぶ焼き物のことか?」
江戸時代後期に日本でも広く陶磁器が作られるようになるまで、瀬戸焼などの陶器が使われていた。
――違うって、旦那。あんな安物ではなく、細工の施した高価な皿だよ。
お菊は安物だと言うが、膳に並ぶ焼き物だって決して安くないはず。この時代、手の届かない庶民の間では、木製の椀や素焼きのかわらけ(土器)を使用していたという。
――薄くて白くて。でも、表側には色鮮やかな唐絵が描かれているんだよ。
「唐絵の描かれた皿か。それではおいそれと飯なんぞ食えぬな」
――当たり前だよ、旦那。見るため、飾るための絵皿だって話だよ。
「飯を食うための器ではなく、見るため飾るための器とはおかしな話だな」
――うちの店は銭のある客しか来ないから、それがまかり通るらしい。
「ほぉ、銭のある客が通う店か。それでは荒物屋ではないな」
荒物屋とは笊や桶といった台所用具から、草鞋、ほうき、塵取り、浅草紙、蝋燭まで扱う日用雑貨店だ。だが、荒物屋に唐絵の描かれた飾り皿なぞ売っていると聞いたことはない。
「見るため、飾るための絵皿か。それならば、浮世絵のような物を売る店だろうか」
はてさて困った。流行の浮世絵が何故もてはやされるのか、野暮な正太郎には皆見当がつかない。文字は綺麗に書けるが、絵心がないので苦手なのだ。
そういえば、母の八重は浮世絵が好きだと言っていたような気がする。だが、全く興味がないので、どこで買ったのか尋ねたことすらなかった。
「とりあえず、見るため飾るための皿がどこで売っているのか確かめてみよう」
本日の聞き取りは、これにて終了と相成った。
「何か思い出したのか?」
――何から思い出したら良いのかさえ、わからない始末だねぇ。
お菊は嘆いた。
「それならば、お菊殿。お主の年は幾つだ?」
――旦那、女に年を聞くのは野暮だよ。
以前、お糸に何度も野暮扱いされていたので、邪険にされても正太郎は平気だった。
「そうは言っても、お主がどのような女子か把握しなければ、探りを入れられないであろう」
――はぁ、そうでございますか。うぅん、確か手前は十九になったばかりだと思いますねぇ。
面倒くさそうに答える。
「十九か。独り身か? それとも所帯持ちだったのか?」
――あら、嫌だ。亭主持ちだって? まだ深い仲になった相手なんぞおりませんよ。
「そうか。それならば、何処ぞで奉公でもしていたのだろうか?」
――うぅん、そうねぇ。女中、女中をしていたような。
「女中ねぇ。商店かい? それとも武家で?」
――奉公先は商売をしていたわね。
「どんな商売だ?」
――そうだ皿。皿を売っていたよ。
「皿だと? 膳に並ぶ焼き物のことか?」
江戸時代後期に日本でも広く陶磁器が作られるようになるまで、瀬戸焼などの陶器が使われていた。
――違うって、旦那。あんな安物ではなく、細工の施した高価な皿だよ。
お菊は安物だと言うが、膳に並ぶ焼き物だって決して安くないはず。この時代、手の届かない庶民の間では、木製の椀や素焼きのかわらけ(土器)を使用していたという。
――薄くて白くて。でも、表側には色鮮やかな唐絵が描かれているんだよ。
「唐絵の描かれた皿か。それではおいそれと飯なんぞ食えぬな」
――当たり前だよ、旦那。見るため、飾るための絵皿だって話だよ。
「飯を食うための器ではなく、見るため飾るための器とはおかしな話だな」
――うちの店は銭のある客しか来ないから、それがまかり通るらしい。
「ほぉ、銭のある客が通う店か。それでは荒物屋ではないな」
荒物屋とは笊や桶といった台所用具から、草鞋、ほうき、塵取り、浅草紙、蝋燭まで扱う日用雑貨店だ。だが、荒物屋に唐絵の描かれた飾り皿なぞ売っていると聞いたことはない。
「見るため、飾るための絵皿か。それならば、浮世絵のような物を売る店だろうか」
はてさて困った。流行の浮世絵が何故もてはやされるのか、野暮な正太郎には皆見当がつかない。文字は綺麗に書けるが、絵心がないので苦手なのだ。
そういえば、母の八重は浮世絵が好きだと言っていたような気がする。だが、全く興味がないので、どこで買ったのか尋ねたことすらなかった。
「とりあえず、見るため飾るための皿がどこで売っているのか確かめてみよう」
本日の聞き取りは、これにて終了と相成った。
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