11 / 22
▼11「教室の外」
しおりを挟む
今日の体育は体育館でドッジボールだった。体育教師が受験勉強で疲れているだろうからと気を利かせて、生徒の要望を募って決められた球技だ。
体育はいつも二組合同の男女別で行われる。女子が体育館側、男子が出入口側と体育館を二分して、それぞれに授業を受けている。
「創ーっ、しっかりとれよーっ!」
「え、あ、わっ!?」
突然投げかけられた声の方へと顔を向けると、ボールがふわりと山なりに飛んできていた。中野くんからのパスだ。けれどぼーっとしていた僕はそれを取り損ねて、爪先に当たったボールが敵のコートに転がり込む。
「ラッキー」
「あ」
慌ててボールを取りに行こうとした間抜けな背中に、軽くボールが当てられる。審判の体育教師から「三戸アウトー」と宣告されて外野行きを言い渡された。
「さっきのはダサかったぞー」
既に外野にいた中野くんから、からかいを受ける。それに苦笑を浮かべて謝りながら、僕はそれとなく壁際に寄って、またぼーっとした。
そしてまた考える。
……今度は安立さんとどんなことを話そう。
教室の外にいると、頭の中にはいつもそればかりだった。
けれどこの時に考えた話題で始まることはほとんどなくて、結局その時々に思いついたことで盛り上がる。そのくらい、僕らの会話は尽きが来ない。
それでも僕は、ずっと彼女と話すことを考えてしまう。
ふと、寒さを感じた。
長袖の体操着を着ているとは言っても体育館はすごく冷えていて、体を動かしていなければ当然体温は下がっていく。
コート内で必死にボールを避けるチームメイトは汗を流していた。
そんな様子を、僕はどこか遠くにいる気分で眺める。なんとなく、皆の輪に混ざって楽しむことが出来ないでいる。
最近はいつもそんな感じだ。
現実が現実じゃないみたいで。どことなく、見ている視界が夢のようにすら思える。
それは、頭の中で安立さんの声が聞こえるなんてことが起きているからだろうか。
いやまあ、間違いなくそのせいだ。
あれこそ、現実的ではない。だから自分の立っている場所が曖昧になってくる。
そんなことを、いつまでもいつまでも考えている。
外を眺めて。時計を見つめて。
早くあの教室に戻れないかと、彼女の声が聞けないかと考えてしまう。
そうしていたから、また回って来たパスを取り損ねてボールが敵チームへと渡った。
それがきっかけかは分からないけれど、僕のチームは負けた。
遊びだから本気にする人はいなかったけれど、中野くんとかは僕のミスを冗談交じりに責めた。
でも、僕がこうなっている理由は知らない。
例え聞かれたとしても僕が打ち明けることはないだろう。
あの会話は、僕だけの秘密だし。
体育はいつも二組合同の男女別で行われる。女子が体育館側、男子が出入口側と体育館を二分して、それぞれに授業を受けている。
「創ーっ、しっかりとれよーっ!」
「え、あ、わっ!?」
突然投げかけられた声の方へと顔を向けると、ボールがふわりと山なりに飛んできていた。中野くんからのパスだ。けれどぼーっとしていた僕はそれを取り損ねて、爪先に当たったボールが敵のコートに転がり込む。
「ラッキー」
「あ」
慌ててボールを取りに行こうとした間抜けな背中に、軽くボールが当てられる。審判の体育教師から「三戸アウトー」と宣告されて外野行きを言い渡された。
「さっきのはダサかったぞー」
既に外野にいた中野くんから、からかいを受ける。それに苦笑を浮かべて謝りながら、僕はそれとなく壁際に寄って、またぼーっとした。
そしてまた考える。
……今度は安立さんとどんなことを話そう。
教室の外にいると、頭の中にはいつもそればかりだった。
けれどこの時に考えた話題で始まることはほとんどなくて、結局その時々に思いついたことで盛り上がる。そのくらい、僕らの会話は尽きが来ない。
それでも僕は、ずっと彼女と話すことを考えてしまう。
ふと、寒さを感じた。
長袖の体操着を着ているとは言っても体育館はすごく冷えていて、体を動かしていなければ当然体温は下がっていく。
コート内で必死にボールを避けるチームメイトは汗を流していた。
そんな様子を、僕はどこか遠くにいる気分で眺める。なんとなく、皆の輪に混ざって楽しむことが出来ないでいる。
最近はいつもそんな感じだ。
現実が現実じゃないみたいで。どことなく、見ている視界が夢のようにすら思える。
それは、頭の中で安立さんの声が聞こえるなんてことが起きているからだろうか。
いやまあ、間違いなくそのせいだ。
あれこそ、現実的ではない。だから自分の立っている場所が曖昧になってくる。
そんなことを、いつまでもいつまでも考えている。
外を眺めて。時計を見つめて。
早くあの教室に戻れないかと、彼女の声が聞けないかと考えてしまう。
そうしていたから、また回って来たパスを取り損ねてボールが敵チームへと渡った。
それがきっかけかは分からないけれど、僕のチームは負けた。
遊びだから本気にする人はいなかったけれど、中野くんとかは僕のミスを冗談交じりに責めた。
でも、僕がこうなっている理由は知らない。
例え聞かれたとしても僕が打ち明けることはないだろう。
あの会話は、僕だけの秘密だし。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる