8 / 22
▼8「登校」
しおりを挟む
「はっはっはっ」
なんとなく走った。
鼻先が赤くなって、白い息が漏れ出る。
いつもはゆったりのんびり、なんなら朝礼開始直前に教室に着くよう歩みを調整するのだが、僕は柄にもなく走っていた。
少しでも早く教室に着きたかった。
馬鹿らしいとは思いながらも、急かされる気持ちのまま足を動かす。
そうして、いつもより30分も早く学校についた。
生徒は少なかったけれど、いないことはない。でも、階段を上がり、3年生のフロアになるとまるで人気はなくなる。部活もやっていないのに登校を急ぐ生徒などいないのだ。
そもそも僕が早く来たところで、彼女は来ていないかもしれない。
そう分かっていながらも、3年2組の教室へ。
教室には誰もいない。足を踏み入れた僕が最初の一人。頭の中にも声は聞こえてこない。
席について鞄を下ろし、息を整える。それから窓の外をぼけーっと眺めた。
早く来る必要はなかったな、と思いつつも後悔ではなかった。
それからしばらく経って、教室の外が騒がしくなってくる。時計を確認して、この時間に皆やってくるのだと初めて知った。
「あれ、三戸早いね」
「ああうん、ちょっと早く起きちゃってね」
ぞろぞろ入って来たクラスメイトの内の一人、山本くんが僕に気づいて歩み寄ってくる。それに適当な言い訳で返しながら、僕は頭の中に声が聞こえないかと探した。
「鈴、いっつも調子いいんだからー」
女子の集団。チラと見えた、安立さんと仲が良いという北川さん。彼女達が教室に踏み入れると、その声も聞こえてくる。
『三戸くんはもう来てるかしら……』
僕にしか聞こえない声。
それが今日も聞けて、僕はすっかり嬉しくなった。
おはよう、安立さん。
『あ、来てたのね。おはよう三戸くん』
なんてやり取りに幸福を感じて、僕は思わず頬を緩めてしまう。
「三戸? なんかニヤついてる?」
「あ、いやっ。あはは!」
山本くんが僕の表情の変化に気づくが、慌てて誤魔化した。そんな様子を聞いていた安立さんはクスリと笑った。
僕はそれに安堵して山本くんに向く。彼の好きなお笑いの話に相槌を返している内に中野くんもやって来た。
そうしていつもの友人との会話を繰り広げる。その端々には安立さんによる友人へのからかいも聞こえてきた。ついついそちらに耳をそばだてたくなったけれど、自重してお互いの友人へと向き直る。
すぐに教師がやって来て、生徒たちは席に着く。静かに担任の連絡事項を聞く中、僕はこっそりと彼女に言葉を投げた。
日を跨いでも声は聞こえたままだったね。
『そうね。しばらくは続くみたいね』
お互いに喜びを共有し合って、今日も二人だけの内緒話をする。
なんとなく走った。
鼻先が赤くなって、白い息が漏れ出る。
いつもはゆったりのんびり、なんなら朝礼開始直前に教室に着くよう歩みを調整するのだが、僕は柄にもなく走っていた。
少しでも早く教室に着きたかった。
馬鹿らしいとは思いながらも、急かされる気持ちのまま足を動かす。
そうして、いつもより30分も早く学校についた。
生徒は少なかったけれど、いないことはない。でも、階段を上がり、3年生のフロアになるとまるで人気はなくなる。部活もやっていないのに登校を急ぐ生徒などいないのだ。
そもそも僕が早く来たところで、彼女は来ていないかもしれない。
そう分かっていながらも、3年2組の教室へ。
教室には誰もいない。足を踏み入れた僕が最初の一人。頭の中にも声は聞こえてこない。
席について鞄を下ろし、息を整える。それから窓の外をぼけーっと眺めた。
早く来る必要はなかったな、と思いつつも後悔ではなかった。
それからしばらく経って、教室の外が騒がしくなってくる。時計を確認して、この時間に皆やってくるのだと初めて知った。
「あれ、三戸早いね」
「ああうん、ちょっと早く起きちゃってね」
ぞろぞろ入って来たクラスメイトの内の一人、山本くんが僕に気づいて歩み寄ってくる。それに適当な言い訳で返しながら、僕は頭の中に声が聞こえないかと探した。
「鈴、いっつも調子いいんだからー」
女子の集団。チラと見えた、安立さんと仲が良いという北川さん。彼女達が教室に踏み入れると、その声も聞こえてくる。
『三戸くんはもう来てるかしら……』
僕にしか聞こえない声。
それが今日も聞けて、僕はすっかり嬉しくなった。
おはよう、安立さん。
『あ、来てたのね。おはよう三戸くん』
なんてやり取りに幸福を感じて、僕は思わず頬を緩めてしまう。
「三戸? なんかニヤついてる?」
「あ、いやっ。あはは!」
山本くんが僕の表情の変化に気づくが、慌てて誤魔化した。そんな様子を聞いていた安立さんはクスリと笑った。
僕はそれに安堵して山本くんに向く。彼の好きなお笑いの話に相槌を返している内に中野くんもやって来た。
そうしていつもの友人との会話を繰り広げる。その端々には安立さんによる友人へのからかいも聞こえてきた。ついついそちらに耳をそばだてたくなったけれど、自重してお互いの友人へと向き直る。
すぐに教師がやって来て、生徒たちは席に着く。静かに担任の連絡事項を聞く中、僕はこっそりと彼女に言葉を投げた。
日を跨いでも声は聞こえたままだったね。
『そうね。しばらくは続くみたいね』
お互いに喜びを共有し合って、今日も二人だけの内緒話をする。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる