僕の思考が覗かれている。

落光ふたつ

文字の大きさ
上 下
2 / 22

▼2「自己紹介」

しおりを挟む
 僕と安立さんの脳内が双方向に繋がり、互いに状況を受け止めて。僕たちはすっかり、受験が迫っているにもかかわらず授業もそっちのけになってしまっていた。
 とは言え、まだちゃんとした会話が行われているわけではない。

『え、えっと、せっかく話す機会があるんだから何か話さないとよね。けど何の話題がいいのかしら。三戸くんでも楽しい話題? ダメだわ。そもそも男子がどういう話をして盛り上がっているのか分からないっ。強いて言うなら、下ネタ? ……それなら、ってもっとダメよ!』

 大体僕と同じ葛藤を繰り返している安立さん。ちなみに僕は下ネタ疎いので盛り上がらないと思うな。

『し、下ネタの部分も当然聞こえてるのね。やっぱり身構えるといけないわこれ』

 考えようとすればするほどドツボにハマっていく。それは、この短時間の間でも何度も味わった。
 ただ、意識したからと言って改善出来るわけではなく、共に何度も恥ずかしい目に会っていてなんだか表情筋が疲れている。
 ここはやっぱり最初ということで、自己紹介が良いのかな?
 提案すると、安立さんの頷きが聞こえてくる。

『うん、自己紹介ね。確かにあたしたち、お互いをあんまりよく知らないものね。良いと思うわ』

 提案した身なので、僕から自己紹介を始めようか。
 じゃあその、僕は三戸創。9月11日生まれで、えーっと身長は166㎝だったかな?

『あ、身長同じだ』

 体重は50㎏ぐらい……って、身長同じなの? 確かに安立さんって背高い方だったような。なんか男子としてちょっと情けない……。

『……え、体重ももしかして。あー確かにクラスの中じゃ一番高かったかも。でも2年生に170後半の子もいたからそんなに特別じゃないわよ。それに、三戸くんはそのくらいが丁度いいからっ』

 なぜか慰められる。安立さんは小さい男子の方がお好みなのか? と言っても僕は極端に小さいというわけでもない。

『まああまり大きいと威圧感あって恐いのよ。そう言うのが好きって女子も多いけど、逆に小さい方が良いっていうのもいるわね。あたしはそんなに差がない方が……って男子にタイプを暴露してしまっている……!』

 安立さんの好みをゲットした。僕にも可能性があるぞ!
 と興奮してみるが、まあ僕はこの15年間で女性から言い寄られたことのない人生。しかも相手は安立さんだし縁遠い話だ。

『そんなに三戸くんとあたしって距離あるかしら? ……いやまあそうね。そもそも話すこともなかったしね。というか三戸くんも恋愛経験ないのね』

 も、ってことは安立さんもないのか。

『そうねぇ。男子と関わるのあんまり得意じゃなかったから。そう言えばいつか、鈴が三戸くんのことをぬいぐるみにしたいとか言ってたからチャンスはあるんじゃない?』

 ぬいぐるみっ!? なにそれちょっと怖いッ!

『あーうん、でも大丈夫。餌は上げるって言ってたわよ』

 え、餌なんだね。それはいわゆるペットですよね。首輪でもつけられるのだろうか。
 鈴っていうのは北川さんのことだろう。なんかこれから見る目が変わってしまいそうだ。

『あはは。あでも、人のことあんまり言いふらすのは良くないわよね。けど隠そうとしても難しいのよねぇ』

 まあそこは仕方ないよ。ここで話したことは誰にも言わないということで。

『それは当然ね』

 うんうん、と頷き合う。
 さて、逸れに逸れたけど、一応僕の自己紹介は終わりということでいいだろう。

『あ、じゃあ次はあたしね。えっと、名前は安立香澄、です。5月9日生まれで、身長はさっき言ったように三戸くんと同じ166㎝。体重、は! 飛ばして! 好きな物! トンカツ! 49唐揚げ! ああ揚げ物ばかり言っちゃってる!?』

 恥ずかしいポイントにやはり男女差を感じる。体重はきっと49㎏ということだろう。僕と大体一緒だ。

『くっ、隠しきれない……! 三戸くんはもうちょっと食べた方が良いと思うわよ! それこそ鈴に餌付けしてもらうと良いわ!』

 ちゃ、ちゃんと自分で食べられるから!
 一応人としてのプライドがあるのでペット扱いはお断りしたい。

『にしても、三戸くんも男子にしては痩せてるわよね』

 そうかな? 山本くんなんか、170㎝超えてるのに50㎏切ってたはずだよ。

『確かに山本くん細いわよねー。ああいう人ってやっぱりあれなのかしら、食べても太らないっていう』

 なのかな? 食が細いとは言っていたけどね。

 と、気付けば僕たちの会話は止まらなくなっていた。
 話題もふと思ったらすぐに取り上げられて、二転三転と転がり時間がどんどん過ぎていく。最初の身構えた緊張なんてすっかりなくなって、思考の覗き合いに夢中になった。
 ただまあ当然のごとく、そのせいで授業はまるで耳に入ってこず、教師から当てられれば恥をかくのは自明の理であった。

『授業はちゃんと受けましょう……』

 そ、そうだね。
 一応の分別は付けようと頷き合う。何せ僕たちは受験生なわけだし。

 もう11月。高校受験はすぐにやってくる。
 そんなことは重々承知でも、やっぱり思考の制御は難しくて。

 何より、楽しかったのだ。

 冷えた教室。ストーブは前の方にしかなくて、後ろの方の席は少し寒い。
 だけど、まるで身を寄せ合ってする内緒話のようなやり取りは、不思議と体の内から温めてくれるようだった。
 とは言えこれから、自習はより必要になるだろう。
 ちゃんと現実を見ないといけないのは、分かっていることだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...