31 / 42
〖2章〗
〈気になる人⑤〉
しおりを挟む
あたしは後悔をした。
その日、その教室を訪れた事を。
その日、卒業を喜んだ事を。
「………」
視線の先には彼がいる。
あたしがいつも眺めていた彼。でも今日だけは、最後なんだから近付いてしまおうと思ったのだけれど、足は教室に入る手前で止まった。
喜びを分かち合い別れを惜しむ生徒達の中で、彼だけは一人暗い表情で早々に帰ろうとしている。まるで教室中の影を全て背負わされているような姿だった。
そんな彼に、一人の女子生徒が歩み寄る。
それは彼が好意を寄せる幼馴染。
会話は聞こえない。その空間は二人だけの物。
立ち去ろうとした彼に顔を近づけた彼女は、そっとその項垂れる頭を撫でた。
あたしは、その瞬間理解したのだ。
あたしの手は彼まで届かない。ずっと眺めていただけなのだから当然だ。
そして、彼女の手は彼に届く。始めから分かっていたはずの事。
気付けばその場を去っていた。
廊下を走ったつもりはなかったのに、あっという間に自分のクラスへと帰っていて、級友達から「どこ行ってたの?」と声をかけられる。
どうやら写真を撮りたかったらしい。あたしは適当に誤魔化して、皆の要望を引き受けていった。
先生にカメラマンを頼んで、友達と肩を並べた時、ふとその子があたしの顔を覗き込む。
「大宮さん、なんか暗い?」
「え?」
あたしが驚いて振り向くと、その子はニパッと笑って見せる。
「やっぱ卒業だし悲しーよねー! 寂しくなったらいつでも連絡していいからね!」
「う、うん……」
的外れに感情を指摘され、なんだかその子との距離を感じた。
それからも、友人達の感動を共有出来ず、あたしは上の空でい続けた。暗いと言われた自分の顔を思い浮かべて、酷く恥ずかしくなっていた。
それ以上の事は考えていない。
終わったとか諦めたとか、別にそう言うのじゃない。
ただあたしはその日、決めたのだ。
あたしを弱くした彼とは、もう関わらないと。
その日、その教室を訪れた事を。
その日、卒業を喜んだ事を。
「………」
視線の先には彼がいる。
あたしがいつも眺めていた彼。でも今日だけは、最後なんだから近付いてしまおうと思ったのだけれど、足は教室に入る手前で止まった。
喜びを分かち合い別れを惜しむ生徒達の中で、彼だけは一人暗い表情で早々に帰ろうとしている。まるで教室中の影を全て背負わされているような姿だった。
そんな彼に、一人の女子生徒が歩み寄る。
それは彼が好意を寄せる幼馴染。
会話は聞こえない。その空間は二人だけの物。
立ち去ろうとした彼に顔を近づけた彼女は、そっとその項垂れる頭を撫でた。
あたしは、その瞬間理解したのだ。
あたしの手は彼まで届かない。ずっと眺めていただけなのだから当然だ。
そして、彼女の手は彼に届く。始めから分かっていたはずの事。
気付けばその場を去っていた。
廊下を走ったつもりはなかったのに、あっという間に自分のクラスへと帰っていて、級友達から「どこ行ってたの?」と声をかけられる。
どうやら写真を撮りたかったらしい。あたしは適当に誤魔化して、皆の要望を引き受けていった。
先生にカメラマンを頼んで、友達と肩を並べた時、ふとその子があたしの顔を覗き込む。
「大宮さん、なんか暗い?」
「え?」
あたしが驚いて振り向くと、その子はニパッと笑って見せる。
「やっぱ卒業だし悲しーよねー! 寂しくなったらいつでも連絡していいからね!」
「う、うん……」
的外れに感情を指摘され、なんだかその子との距離を感じた。
それからも、友人達の感動を共有出来ず、あたしは上の空でい続けた。暗いと言われた自分の顔を思い浮かべて、酷く恥ずかしくなっていた。
それ以上の事は考えていない。
終わったとか諦めたとか、別にそう言うのじゃない。
ただあたしはその日、決めたのだ。
あたしを弱くした彼とは、もう関わらないと。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様を書いたストーリーです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる