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死亡フラグVS恋愛フラグ
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「う…………あ………………」
意識を失ってからどのくらい時間が経ったのだろうか? 1時間にも思えるし、1秒のようにも感じる。傍で彼女が泣いているのが聴覚のノイズ音とともに聴こえる。わずかに残った力で瞼をかすかに明けてみるが、もう視力は光の明暗を感じるか感じないか程度にしか残っていない。
「俺は……どうなった…………? ……死んだのか………………?」
その答えはやがて容赦なく襲ってくる全身の激痛が教えてくれた。どうやらもう両手も両足も無いらしい。胴体も剥き出しの内蔵で血だるまの肉塊のようになっていた。それでも構わずに瑠璃は血まみれになりながらも体の残骸を抱きかかえて泣き叫んでいる。
「どうして……どうして……死んじゃうの…………!? やっと出逢えた大切な人だったのに…………こんな……こんな……」
人間にとって数ある死因の中でも、急性放射線障害ほど残酷な死に方はないだろう。放射線によってDNAを吹き飛ばされた細胞はその代謝や制御を失って癌化し、全身がボロボロと崩れてゆく。その上、細胞分裂をしない神経細胞や脳は傷つかないから最後まで意識は残り、全身の激痛にもだえながら死んでいく。
「ああ…………よかった……、君は無事だった………………」
朦朧とした意識の中で瑠璃が生存していることをなんとなく確認して心の中で呟いた忍武はそのまま目を閉じる。激痛を感じていたハズなのにその表情は安心したかのように眠っていた。
「アタシ……アタシ……本当はシノブ君のことが…………」
本心を吐露して泣き叫ぶ瑠璃。だが、その言葉はもう二度と忍武には届かない。
「もしも、生まれ変わったのなら…………いつかまた……アナタの……元に………………」
瑠璃はそう言って自身の胸元のネックレスを引きちぎる。それは彼女が飾って取っておいていた最後の本物の弾丸だった。それを空になっていた弾倉に一発だけ込めて、拳銃を自分の頭に向けた彼女はためらうことなく引き金を引く。
閃光、銃声、そして血しぶきとともに彼女は倒れ、後には折り重なるように眠っている二人の遺体しか残らなかった。
やがて街には雨が降り出していて、やっと現場に到着した警察が事後処理にあたっている。人質たちは救出され、野次馬やマスコミらが大挙として押し寄せたが、街のどしゃ降りになったゲリラ豪雨がそんなやかましい物音をも全て掻き消してくれるようにも思えた。
※※※
「―――――って、オイ…………なんでこんなコトに――――?」
ここは天国なんだろうか? 気付けば忍武はダブルベッドの上で眠っていた。しかし、妙に生々しい天国である。何故ならば、隣で全裸の瑠璃が寄り添って寝ていたからだ。よく見ると自分も全裸である。しかも、自分の体は先の戦いでボロボロになったいたハズなのに今は傷一つ残っていない。ここは死後の世界だとしか思えない状況だった。だがしかし、このダブルベッドも自分のいる部屋の内装もどっからどう見ても単なるラブホのようにしか見えないチープさがあった。
「なぁ、瑠璃ちゃんよ……、ここはあの世か?」
隣で忍武の腕を抱きしめて寝ている瑠璃に向かって問いかけてみる。腕にナニかが当たっている気もするが、とりあえず現状の確認が先だと自分に言い聞かせてなんとか正気を保つ。
「……うに~? 違うよー、ここは楽園だよー。はにゃ?」
やがて、眠たそうに目を覚ました彼女はすっとぼけた表情で忍武に甘えてくる。
「くっ……!? 真面目な話、いつだ? いつから俺に恋愛フラグ弾をあらかじめ撃ちこんでおいた?」
忍武はわずかに残った理性を振り絞って、瑠璃を突き放して起き上がる。何故、この俺がまだ生きているのか? その理由はこれ以外には考えられなかった。
「も~っ……、そんなの最初っからに決まっているじゃない❤ あの最初のテロ事件の時からよ。あの爆発音に紛れて一発、”ヤッて”おいたわ❤」
瑠璃が小悪魔のように笑ってあの時の真相を話す。どうも彼女は爆発の衝撃で忍武を押し倒してしまったあの時、すでに忍武の脳へ”キューピッドの弾丸”を撃って仕込んどいたらしい。
「つまり、実は俺はその時からあの犯人と同じ仮死のゾンビ状態で、後からお前は自らを撃って恋愛フラグを成立させたから俺の身体も再構成されたのか……………………………、女ってコエー………………」
こんな状況でも相変わらず冷静で察しの良い忍武はすぐさま真相を理解した。それにしても自らを糧にして、あの絶望的な状態を逆転させるなんて恐ろしい女だ。最初っから瑠璃がネックレスにして一つだけ大事に取っておいていた弾丸は彼女自身の固有値情報を含んでいた自分にとって本物の”キューピッドの弾丸”だったのだ。それも、いつか瑠璃にとって本当に大事な人が現れた時に使う為に――
そうして忍武の固有値情報をも事前に入手していた彼女は自分の弾丸と織り交ぜて”縁”を繋げたのである。
「一人で勝手に死亡フラグ立てちゃう男の方が恐いわよ!!」
彼女はそう言って、少し怒って叱るように瑠璃も起き上がって忍武へと顔を近づける。
「……もう二度と…………離れないでね………………………」
そうしてまた、すがるように瑠璃は忍武へと抱きつく。
「…………ああ……………………」
そのまま、揉みくちゃになって上も下も分からなくなった二人は愛を誓い合う。
「死亡フラグは一人だけで立てられても…………、恋愛フラグは二人じゃないと立てられないから――――」
どうやらこの部屋もあの世とかじゃなくて、あの後に起き上がった彼女が用意した普通の近所のラブホらしい。いくら恋愛フラグの発動によって傷は再生するとはいえ、病院じゃなくてラブホに連れ込むなんて瑠璃もどうかしている。これも”キューピッドの弾丸”の効果の結果なのかと思ったが、もはや忍武にとってはどうでもよかった。
何故ならば、恋愛フラグを成立させる前のあの時の彼女を守りたいと思った忍武の気持ちも、瑠璃の自身の心を捧げる行為も本当のことだったからだ。
「いつの日か…………………………新しい命、宿るその時まで――――」
意識を失ってからどのくらい時間が経ったのだろうか? 1時間にも思えるし、1秒のようにも感じる。傍で彼女が泣いているのが聴覚のノイズ音とともに聴こえる。わずかに残った力で瞼をかすかに明けてみるが、もう視力は光の明暗を感じるか感じないか程度にしか残っていない。
「俺は……どうなった…………? ……死んだのか………………?」
その答えはやがて容赦なく襲ってくる全身の激痛が教えてくれた。どうやらもう両手も両足も無いらしい。胴体も剥き出しの内蔵で血だるまの肉塊のようになっていた。それでも構わずに瑠璃は血まみれになりながらも体の残骸を抱きかかえて泣き叫んでいる。
「どうして……どうして……死んじゃうの…………!? やっと出逢えた大切な人だったのに…………こんな……こんな……」
人間にとって数ある死因の中でも、急性放射線障害ほど残酷な死に方はないだろう。放射線によってDNAを吹き飛ばされた細胞はその代謝や制御を失って癌化し、全身がボロボロと崩れてゆく。その上、細胞分裂をしない神経細胞や脳は傷つかないから最後まで意識は残り、全身の激痛にもだえながら死んでいく。
「ああ…………よかった……、君は無事だった………………」
朦朧とした意識の中で瑠璃が生存していることをなんとなく確認して心の中で呟いた忍武はそのまま目を閉じる。激痛を感じていたハズなのにその表情は安心したかのように眠っていた。
「アタシ……アタシ……本当はシノブ君のことが…………」
本心を吐露して泣き叫ぶ瑠璃。だが、その言葉はもう二度と忍武には届かない。
「もしも、生まれ変わったのなら…………いつかまた……アナタの……元に………………」
瑠璃はそう言って自身の胸元のネックレスを引きちぎる。それは彼女が飾って取っておいていた最後の本物の弾丸だった。それを空になっていた弾倉に一発だけ込めて、拳銃を自分の頭に向けた彼女はためらうことなく引き金を引く。
閃光、銃声、そして血しぶきとともに彼女は倒れ、後には折り重なるように眠っている二人の遺体しか残らなかった。
やがて街には雨が降り出していて、やっと現場に到着した警察が事後処理にあたっている。人質たちは救出され、野次馬やマスコミらが大挙として押し寄せたが、街のどしゃ降りになったゲリラ豪雨がそんなやかましい物音をも全て掻き消してくれるようにも思えた。
※※※
「―――――って、オイ…………なんでこんなコトに――――?」
ここは天国なんだろうか? 気付けば忍武はダブルベッドの上で眠っていた。しかし、妙に生々しい天国である。何故ならば、隣で全裸の瑠璃が寄り添って寝ていたからだ。よく見ると自分も全裸である。しかも、自分の体は先の戦いでボロボロになったいたハズなのに今は傷一つ残っていない。ここは死後の世界だとしか思えない状況だった。だがしかし、このダブルベッドも自分のいる部屋の内装もどっからどう見ても単なるラブホのようにしか見えないチープさがあった。
「なぁ、瑠璃ちゃんよ……、ここはあの世か?」
隣で忍武の腕を抱きしめて寝ている瑠璃に向かって問いかけてみる。腕にナニかが当たっている気もするが、とりあえず現状の確認が先だと自分に言い聞かせてなんとか正気を保つ。
「……うに~? 違うよー、ここは楽園だよー。はにゃ?」
やがて、眠たそうに目を覚ました彼女はすっとぼけた表情で忍武に甘えてくる。
「くっ……!? 真面目な話、いつだ? いつから俺に恋愛フラグ弾をあらかじめ撃ちこんでおいた?」
忍武はわずかに残った理性を振り絞って、瑠璃を突き放して起き上がる。何故、この俺がまだ生きているのか? その理由はこれ以外には考えられなかった。
「も~っ……、そんなの最初っからに決まっているじゃない❤ あの最初のテロ事件の時からよ。あの爆発音に紛れて一発、”ヤッて”おいたわ❤」
瑠璃が小悪魔のように笑ってあの時の真相を話す。どうも彼女は爆発の衝撃で忍武を押し倒してしまったあの時、すでに忍武の脳へ”キューピッドの弾丸”を撃って仕込んどいたらしい。
「つまり、実は俺はその時からあの犯人と同じ仮死のゾンビ状態で、後からお前は自らを撃って恋愛フラグを成立させたから俺の身体も再構成されたのか……………………………、女ってコエー………………」
こんな状況でも相変わらず冷静で察しの良い忍武はすぐさま真相を理解した。それにしても自らを糧にして、あの絶望的な状態を逆転させるなんて恐ろしい女だ。最初っから瑠璃がネックレスにして一つだけ大事に取っておいていた弾丸は彼女自身の固有値情報を含んでいた自分にとって本物の”キューピッドの弾丸”だったのだ。それも、いつか瑠璃にとって本当に大事な人が現れた時に使う為に――
そうして忍武の固有値情報をも事前に入手していた彼女は自分の弾丸と織り交ぜて”縁”を繋げたのである。
「一人で勝手に死亡フラグ立てちゃう男の方が恐いわよ!!」
彼女はそう言って、少し怒って叱るように瑠璃も起き上がって忍武へと顔を近づける。
「……もう二度と…………離れないでね………………………」
そうしてまた、すがるように瑠璃は忍武へと抱きつく。
「…………ああ……………………」
そのまま、揉みくちゃになって上も下も分からなくなった二人は愛を誓い合う。
「死亡フラグは一人だけで立てられても…………、恋愛フラグは二人じゃないと立てられないから――――」
どうやらこの部屋もあの世とかじゃなくて、あの後に起き上がった彼女が用意した普通の近所のラブホらしい。いくら恋愛フラグの発動によって傷は再生するとはいえ、病院じゃなくてラブホに連れ込むなんて瑠璃もどうかしている。これも”キューピッドの弾丸”の効果の結果なのかと思ったが、もはや忍武にとってはどうでもよかった。
何故ならば、恋愛フラグを成立させる前のあの時の彼女を守りたいと思った忍武の気持ちも、瑠璃の自身の心を捧げる行為も本当のことだったからだ。
「いつの日か…………………………新しい命、宿るその時まで――――」
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