24歳処女ですが何か?

我破破

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こんなとこで『初めて』を奪われちゃうの?

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「はぁ……、あのエロ親父め……。もう局も実家も寿退社してしまいたい……」

 少子化推進局としての巡回中も、ついつい愚痴をこぼしてしまうワタシ。パトロールがてら街に散歩に繰り出してはみたが、ちっとも気分は晴れない。

 しかし、そんなワタシの気分とも関係なく、無線機は警告音を告げる。見ると、巡回の為に付けていたAR片目グラスが逃走犯の情報を伝えていた。どうやら、顔認識システムが前に逃げた違法カップルを発見したらしい。急いでワタシは顔を上げ、システムが表示する方角を追う。

「っと……! 逃走バカップル発見! 待たんかいコラ~ッ!!!」

「ヒイイイイイッ!? 少子化推進局!?」

 逃走犯を発見したワタシは、どっかの古典的警官キャラよろしく二丁拳銃を乱発しながら、路地裏を逃げ回る対象を追いかける。こんな形相を見せつけられる逃走犯たちには相当な恐怖なんだろうが、こちらだって、日々のストレスが半端ないのだからしょうがない。

「よォ、また会ったな二丁拳銃女……」

「なっ……!? またこのッ!?」

 しかし、またもや放った銃弾は、もう少しのところで昨日と同じ大剣に飛跡を阻まれる。そこには、昨日ワタシの前から逃げたのと同じ、Drモスの奴が不敵な笑みを浮かべて路地裏上に立っていた。

「これはこれは奇遇ね、剣士さん……。ちょうどワタシも探していたところだったのよ……」

 どうやら逃走犯カップルはこの隙に逃げてしまったようだったが、もはやワタシにはどうでもよかった。今は雑魚逃走犯よりもこのレジスタンスの男を捕える事の方がよっぽど最優先事項だからである。

「そして、ワタシの名は二丁拳銃女なんかじゃないわ。新妻莉深(にいづまりみ)、アナタを逮捕する女の名前よ。ちゃんと憶えておきなさい」

 今度こそ逃がさないように、ワタシはじっくりと狙いを定める。

 しかし、Drモスの反応の方は意外なものだった。ワタシの言葉を聞くなり吹き出してしまったのである。

「プッ、『新妻(にいづま)』だって……!? なんて幸せそうな名前~……」

「うっさいわね! まだ独身よ! このっ……、人が一番気にしている事をっ……」

 いとも容易く煽りに乗せられてしまったワタシは、焦って銃を彼に向けて連発してしまう。そのタイミングをDrモスは読んでいたようで、一瞬のうちに彼は電柱の影へと隠れ、銃弾はむなしくコンクリやアスファルトへとめりこんだ。

「フフ……、わかりやすい子だ……」

 次に彼は何を思ったのか、柱上から斜めに地下までへと伸びている電線を大剣で切断してしまう。切断された電線が、反動でターザンロープのようにこちらの方へ落下して来たかと思うと、その電線はワタシの数メートル前で激しくスパークを起こし、眩い閃光を撒き散らした。

「ぐぅううううッ!?」

 Drモスは目くらまし替わりに、電線のショートを利用したのだった。目を閉じて一瞬の怯みを見せてしまったワタシに、彼は数十本の針らしきものを投げつける。

「なっ、これは……!?」

 その針はまるで千本のような細くて長い針だった。避ける暇もなかったワタシは、それらの攻撃を手足にまともに喰らってしまう。

「な、何よコレ! 腕が……、足が痺れて……!」

 その針は麻酔針のようだった。刺された手足のところから痺れが拡がっていって、まともに立てなってくる。

「安心しろ、麻痺してるだけだ」

 Drモスはそう言ってツカツカと近寄って来る。ワタシは必死に逃れようともがくが、仰向けになった状態のまま、指一本動かせない。さっきの針は局所麻酔らしく、意識はあるのに身体だけは動かせない。

「よし、それじゃあ……。『検診』を始めようか――――」

「えっ!? ちょっ……」

 何を思ったのか、Drモスはワタシの顔に近付いたと思うと、いきなりワタシの唇にキスをする。それも、経験した事のまるで無いディープキスだった。あまりの突然の事にワタシの頭の中は真っ白になる。

 ――え、何コレ……? もしかしてワタシ……、こんなとこで『初めて』を奪われちゃうの……?

 Drモスは急に欲情でもしだしたのだろうか? キスをしながら、軽くワタシの服をまさぐっている。

「いい身体だね。実に健康体そのものだ。これなら将来、たくさん子供も産めるだろう……」

 そうゆっくりと告げる彼の言葉を聞いて、ワタシはこれからついに処女を奪われる覚悟をしなければならなかった。ここは誰もいない路地裏だし、ワタシは身体を動かせない。誰かが見つけてくれる可能性は低い。もうワタシはこのまま、彼に為されるがままを受け入れるしかないのだろう。

 ――せめて、どうせなら……。もっと、ロマンチックなとこが良かったな……。

 しかし、ワタシは不思議な事にそれほど嫌な気はしなくなっていた。これは彼のキスのテクのせいなのだろうか? 初めてだからよく分からないが、彼のキスは未経験のワタシでさえその気にさせるような妖艶なものだった。彼の吐息はワタシの鼻腔をくすぐり、まるで媚薬でも注がれたかのようにワタシの身体を火照らせる。

「ふう、よし……」

「へ?」

 だが、その甘美な時間は唐突に終わりを告げる。彼はキスを済ませると、もう用は無いと言った風に立ち上がってこの場を去ろうとしたからだ。

「検診おーわりっ! じゃあね~新妻莉深くん。麻酔なら、あと5分もしないうちに切れるから、気を付けて帰れよ~」

「ちょっ……、待っ……!?」

 どうやら彼は本当に診察の為だけに、ワタシの身体をまさぐっていたらしい。あのキスも、ただワタシの気をそらす為だけに行われていたようだ。

「ウソ……」

 彼が去って行くの姿を見て、ワタシはえも言われぬ敗北感というか、悔しさに歯噛みする。どうやら、さっきのキスで感じていたのはワタシだけらしい。その事が、女としての自分のプライドを著しく傷つけていた。別に期待とかしていた訳では無かったが、一度覚悟してたモノが無くなったとなると、なんとも言えぬ拍子抜け感があった。

「何よアレ……」

 ワタシは若干涙目になりながらも、痺れが引いてきたのでむっくりと起き上がる。自分の身体を見渡してみるが、そこには傷一つ残っていない。どうやら針はとっくに彼が回収していたようだった。けっこうな大きさの針だったような気もしたが、それはまるで針灸治療のように、身体には血の一滴も出てはいなかった。

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