あばずれローニャ

黒神譚

文字の大きさ
140 / 150
第9話

訣別の時 24

しおりを挟む
「殺せっ!! この男を優先して殺せっ!!」

メリナは怒りに任せて命令を下す。激情のあまり戦略が消し飛ぶほどの怒りだった。
その剣幕を見たヒューゴは「こりゃ、いかんっ!!」と慌てて後退する。
その姿を追いかけようとするメリナだったが、配下のエルフに引き留められて治癒を受ける。
両軍が大将が戦闘不能の状況になり、戦線に混乱が生じ始めていた。

その状況を危険視したのはフェリックスだった。
混乱状態では数の優位が生かせない。何のメリットもない消耗戦は無駄死にが出るだけで何の成果も得られないことを武人のフェリックスは経験で知っていた。
だから彼はここで大胆にも最も適切な決断を下す。

「双方、これ以上の戦闘は何の成果も生み出さずに多くの無駄死にを出すだけであることは火を見るよりも明らか。
 無意味である。これまでといたすっ!!」

講和のシンボルである赤の布を巻いた剣の鞘を水平に高く掲げた姿勢でたった一言。その一言で戦場は静かになった。
フェリックスは人語で叫んだが、オークたちは自分たちの親方の声を聴き違えるはずもなくフェリックスの声を聞けば振り返る。そしてフェリックスの示したポーズからフェリックスが休戦を申し出たことを悟り、戦闘を止めた。

一瞬で戦場は静まり返ったのは光の勢力である討伐隊も彼の声を聞いたから。
そして、フェリックスが言わんとすることの意味を正しく理解した。
アルバートが戦闘不能となった今、討伐隊の責任者は社会地位的に考えて聖騎士レジーナだった。
彼女もフェリックスの休戦申し出を受け入れ、彼と同じく剣の鞘を水平に掲げて答える。

「休戦の申し出、もっともである。これより我らはこの場を離れるっ!!」

レジーナの申し出を受けたフェリックスは手旗信号でオークたちに後退するように命令する。彼らがフェリックスの命令に従って後退するのを確認したフェリックスはレジーナに返答する。

「我らもこの場を放棄し後退する!!
 貴官らの勇敢さは我らの誇りである!! 再び相まみえる日まで健勝であれっ!!」

レジーナも短く「我らも全く持ってその通りである。健勝であれっ!!」と答えると討伐部隊に撤退の指示を出すのだった。
しかし、それを許さない者たちがいた。

メリナと意識を取り戻したアルバートだった。

「勝手な真似をするなっ!! あの男を殺せっ!! 殺せっ!!」

「ダメだっ!! 撤退は許さないっ! ローニャを取り戻すんだっ!!」

両者はフラつく体で徹底抗戦を命令する。
だが、メリナは配下のエルフたちに「おやめください。これ以上動けばお美しいお顔に傷が残ってしまいますっ!!」と彼女の体を気遣って引き留めた。
討伐部隊は、そもそもアルバートの意思に反する意見を出した。

「ローニャですって? 正気ですかアルバート様っ!! 
 彼女が闇の勢力に崇拝される姿と魔神シトリーを召喚する姿を貴方もご覧になったはずだっ!
 あの女は闇の戦巫女だ。」
「そうだっ!! ローニャは救うどころか、いつか殺さなければならないっ!」
「あれは闇の勢力の人間だ。
 不道徳の極み、あばずれローニャだっ!!」

討伐隊は口々にそう言って私を憎しみの目で睨みつけていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...