あばずれローニャ

黒神譚

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第1話

イケメン以外に用はない・12

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「があああああっ!」

ライトニングの光を直視してしまった化物たちの悲鳴が遺跡にこだまする。
オーガも掌で目を半分隠しはしたものの目を軽く焼かれてしまったようだった。

・・・でも。
手負いの獣ほど恐ろしいという。
視界が狭くなったオーガは怒りと混乱で手にした幅広剣をやたら滅多に振り回してきた。
それはまるで竜巻のようだった。私は改めて手加減をされていたことを知る。
凄まじい勢いで、動く物や視界に入った物を切り刻んで大暴れする2体のオーガによってゴブリンが巻き添えを食う。一撃で一刀両断されたり、蹴飛ばされてバラバラに吹き飛んだりした。
その膂力りょりょく、凄まじく。その上、でたらめな剣筋は次の動作を全く予想できなかった。
男性の頃の私なら見切れたかもしれないけれど、今の私には彼らの剣を見切ることは不可能だった。

だから、彼らの剣を長剣で受け止めることができたのは幸運だった。

「きゃああああ~っ!!」

防衛の加護を受けているはずの私の体は昼間にオーガに吹き飛ばされた時よりも激しく吹き飛ばされ、遺跡の壁に強かに打ち付けられてしまった。
ぶつけられた時の私は「はっ・・・」と、呼吸を漏らすだけで声も上げられない。チャームの加護が無ければ死んでいただろう。

そんな私をかばうために護衛の二人が矢をつがえて飛び出してきた。

(駄目よ!! メイソンッ!! オリバーッ!!
 私のために死なないでっ!!)

前から一度言ってみたかったセリフだったけど、今すぐには声を上げられなかった。
メイソンもオリバーも私のために戦ってくれるけど、オーガには歯が立たない。あっという間に私達とオーガの距離は縮まってしまった。

絶体絶命。最早、オーガの刃は私達に届きそうになった。
その時だった。フイに私の体は持ち上がり、誰かに抱きかかえられて走り出す。 

「きゃあっ!」

と、か弱くか細い悲鳴が出た時、私を抱き上げた力強い男性がハンスだと気が付いた。人質救出が成功し、私達を助けに来てくれたのだ。

「無事かっ! このまま撤退するぞ!」

ハンスは馬に乗ったまま体を倒して低空走行で私を抱き上げたのだ。その卓越した馬さばきと逞しい肉体に抱きかかえられて私は思わず
(ねぇ。チャーム・・・ハンス様ってカッコよくない?)と尋ねてしまった。もちろん面食いのチャームは納得しない。
(はぁっ!? アンタ馬鹿じゃないのっ!? いくらなんでもチョロ過ぎんでしょーがっ!!)と、却下された。

さらにダメ出しで
(駄目よ、こんなオッサン! それに絶対に既婚者よ!)とまで言われた。

(何よ! いつも節操無いくせに変なところで貞操観念出さないでっ!?)

と、言い返すもいつまでもこんな言い争いをしているわけにはいかない。撤退出来るのはいいけど今が最後の攻撃のチャンスだと私の魂に刻まれた戦闘経験が告げている。

「待って! ハンス!
 オーガの目が眩んでいる今が最大にして最後のチャンスよっ!!
 あと一体だけ倒して去るべきよっ!!」
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