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第4章「聖母誕生」
第95話 新たなる世界
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今、城内にはかつてないほどの地獄が起きています。
救いを求めて遥か天空で戦われている神々に叫んでも、この祈りは届きません。私達の戦争に加担することはできないからです。
明けの明星様と高き館の主様の戦いは異界を滅ぼすほどの力があり、その力があまりにも世界のバランスを超えるものであるため、その眷属たちも世界の理によって縛りを与えられているらしいのです。
神であるアンナお姉様もただフェデリコの死を嘆いて涙することしかできません。キュー・レイも同様に私の悲しみを心配するかのように頭をこすりつけたり、頬をなめたりしてくれるのが精一杯の事でした。
そう・・・。高位の存在は私達の戦争に手を出すことは出来ないのです。
ですが阿鼻叫喚の地獄の中でただ、絶望の涙を流すことしかできない私の耳に信じられない一言が聞こえてきたのでした・・・。
「ラーマよ。本当に敵味方の区別なく救いたいというのか?
ならば俺が力を貸してやろう。」
なんとそう言って私の影から魔神リーン・リーン・グー様がお姿を現しになられたのです。
「俺はお前の護衛であり補佐である。力を与えるゆえ以前の通りに事を成すがいい・・・。」
リーン・リーン・グー様は両腕を組んだ姿で私の影からお姿をお見せになると私の背後に立ち、何とも頼もしいほど力強い声で御助力を申し出てくださったのです。
私は驚き尋ねます。
「ええっ!?・・・ですが、それではリーン・リーン・グー様がペナルティを・・・。」
そう、神々の契約によって明けの明星様と高き館の主様の間の戦には神々が手を出せないことになっています。
もしこれに反することがあれば世界の理に逆らった罰則を受けることになっています。その罰則は魂の霊位が高ければ高いほど重い対価を支払うことになります。
これほどの戦争での罰則となれば一体、どれほどのペナルティが課せられるのでしょう・・・。
しかし、リーン・リーン・グー様は私の声に首を横に振って答え私の背中に手を当てて言うのです。
「恐らく俺は死ぬだろう。
お前に協力している間にこの体は消し飛ぶかもしれぬ。
まぁ、お前が気にするほどのことはない。」
・・・気にするなって・・・
「いや、気にしますよっ!!
何を仰っておられるんですかっ!!」
リーン・リーン・グー様は私の言葉に「ふっふっふ。」と愉快そうに笑うと私の言うことが何でもないことのように説明なさいます。
「心優しきラーマよ。気にすることはないと言っているんだ。
もとより俺は過去に死んだ身。そして今は明けの明星様のお力によって目覚めた仮初の命にすぎぬと俺自身が思っている。
今さら死の何を恐れようか。それよりも今この場の者を救えぬ事こそ神として無念極まりない状況である。
ならば、今この時。お前の願いをかなえるためにこの命、捧げよう。
遠慮なく受け取るがいい。我が魔力、存分につかうがいいっ!!」
リーン・リーン・グー様がそう仰るとこれ以上の問答無用とばかりに私の体に大量の魔力が注ぎ込まれます。そして同時にリーン・リーン・グー様のお体から血しぶきが噴き出したのです。
「きゃああっ!! リーン・リーン・グー様っ!!?」
「喚くな、うっとうしいっ!!
ペナルティが始まっただけだっ!!
こうなればお前にガタガタ騒ぐ猶予はないぞっ!! 泣き言いってないでさっさとやれっ!!
やれーーーっ!!」
ペナルティにより徐々に肉体が破壊されるリーン・リーン・グー様の苦痛に歪むお顔を見れば、どれほどのお覚悟で助けてくださるのかは語るまでも無い事・・・。
なれば、私も覚悟を決めねばなりません。
「わかりました。リーン・リーン・グー様・・・。
救ってみせますっ!! この場にいるすべての命・・・。死んでいった者達の想いもっ!!
私は次の世界に連れて行ってあげたいのですっ!!」
「応っ!! やれっ!! やって見せよっ!!
この甘ちゃんで世間知らずな小娘に何ができるのか、見届けて行ってやるわっ!!」
その御返事を受けて私は詠唱を始めます。私の唯一の特技である死霊術の詠唱を・・・。
「氷の地獄を支配なされる氷と泥の国の王の下へとたどり着けぬ幾千万の怨霊、恨み、つらみの果てのオドよっ!!
我が身命を持って許可を成す。
我が国に横たわる死者の体を依り代に再び新たなる命を授けようっ!!
黄泉返りて我が命に従えっ!!」
私がそう呪文を詠唱すると王城の中も外も蘇った遺体が立ち上がっていきます。その怨念。信じられぬほどの数と重みです。
これによりこれまでにない事が起きました。彼らの怨念とオドがまるで私に救いを求めるかのように私の魂と共鳴してくのです。
「ああ・・・感じますっ!!
あなた方の無念、悲しみ。恨みつらみ・・・その全て・・・。
その全てが私の魂に響いてきますっ!!」
その悲しい思いを受け止めた私は彼らの気持ちが手に取るようにわかり、涙を流さずにはいられませんでした。
「皆さんの想い、伝わりました。
ごめんなさいっ!! 皆さん・・・。辛かったでしょう、苦しかったでしょう・・・。
この想い。私が連れて行ってあげますっ!!
新たなる世界にっ!!」
私がそう叫ぶと無念な思いの方から私の死霊術に応えるようにして近寄ってきます。
さらに命を賭して力を注ぐ魔神リーン・リーン・グー様の魔力量はすさまじく、その御威光は私がいる城から遠く離れた場所にある全ての砦まで届いたのか、あちらこちらで同時に遺体が起き上がったようです。その様子を見て我に返った敵兵の悲鳴が各所で同時に響きわたり、それは地響きのように大地に木霊するのでした。
「ああああああっ!! 人が生き返ったっ!!」
「ばかやろうっ!! これは死霊術だっ!!
人が生き返ったりなんかするものかっ!!」
「で、でもよっ!! これが死霊術だとしたら・・・
これほどの数の遺体を動かすなんて一体、どこの誰にこんな真似ができるっていうんだっ!!」
高き館の主様に脅されて狂気に心を支配されていた敵兵たちが動く遺体たちの姿を見て正気に返り、そして恐怖の悲鳴を上げたのでした・・・。
そしてその間、私に魔力を送り続けたリーン・リーン・グー様のお体は罰則によって破壊され、粉々に引き裂かれます。
ですが・・・そのときリーン・リーン・グー様は嬉しそうに叫ぶのです。
「おおおっ!! な、なんということだっ!!
これほどの魔力を受け取り・・・。これほどの死霊の怨念をこの小さな体で一手に引き受けるとはっ・・・!!」
さらに魔神リーン・リーン・グー様は私の身に起こったあることにお気づきになって叫びました。
「ああっ・・・世界がっ!!
新たなる世界が生まれるっ!!」
そうして、その言葉通り私の胸から光り輝く小さな小さな球体・・・。異界が生まれ出たたのです。
「多くの魂の無念の力を受け取って新たな世界がっ!!
ラーマっ!! お前が世界を生み出すとはこういう事だったのかっ!!」
その声は身を砕かれる苦しみよりも歓喜に満ちていて、最後の断末魔の言葉ですら、まるで祝福を受けた者のようでした・・・。
「そして、今ならわかるっ!!」
「今ならわかるぞっ!!
お前のその善性っ!! そして私の魔力量をはるかに超えて発動しているこの死霊術っ!!
これは明らかにお前の力っ!!
・・・間違いないっ!! お前こそが大地母神にして冥府の王っ!!
我らが異界の真の王っ・・・・・!!」
魔神リーン・リーン・グー様はそうお叫びになられると、私が生み出した異界が放つ光と共に消えていきました。
「・・・ああっ!! リーン・リーン・グー様っ・・・。」
悲しみに浸る私の量肩をアンナお姉様が揺さぶって活を入れます。
「ラーマっ!! なにをしているのですっ!!
あなたに悲しみに浸る時間は無くてよっ!?
さぁ、周りをごらんなさいっ!! これほどの数の人と霊があなたの救いを求めていますっ!!」
そういわれて私はハッとなりました。
私の周りには多くの兵士、国民が希望に身を震わせて立っていたからです。
アンナお姉様に腕を引き上げられて立たされた私に対し、アンナお姉様はさらに背中を叩いて叱ります。
「さぁっ!! 何をしているのですっ!?
手遅れになる前にあなたが救うのですっ!!」
そう言われて私はハッとなりました。そうして、どういう理屈かわかりませんが、私は異界をどのように扱えば彼らを転送できるのか理解していたのです。
私は叫びますっ!!
「さぁ、みんな私の元へいらっしゃいっ!!
救いの時が来たのですっ!! 新たな世界においでなさいっ!!」
私がそう叫ぶと民衆は歓喜の声を上げながら四方から私に向かって走ってきます。そして、彼らの体は私の身に触れる瞬間には異界に転送されて消えていくので、あとからあとから押し寄せてくる人々も停滞することなく異界に消えていきました。
救われたのは生者だけではありませんでした。私と共に戦った者の霊までも私の元へやってきては異界へと消えていくのです。
その中にはフェデリコとフィリッポの姿までありました。
「フェデリコっ!! フィリッポっ!!
ああっ!! 何てことなのっ!!」
私が歓喜の声を上げるとフェデリコもフィリッポも嬉しそうに笑ってくれました。
「姫様。ようやく私とのお約束を叶えてくださいましたね・・・。
いえ、私の想像以上の綺麗ごとの世界・・・。ありがとうございます。」
「お見事で御座います姫様。このフェデリコ、あなたにお仕えできましたこと本当に幸せと存じます。」
二人はそう言って異界に消えていきました。
「さあっ!! 契約に基づきし魂よ。人々よっ!!
新たな世界に入りなさいっ!!」
私がそう叫ぶと、不思議なことに異界はこの戦場を埋め尽くすほどの大きさになったかと思うと、人々を異界へ転送してから一瞬で元のガラス球の大きさに戻ったのです。
その様子を一部始終見ていた高き館の主様に味方した種族の人たちが呆然とした表情で立ち尽くしていたのです、
そうして私の奇跡を確認した彼らは、やがて自分の非運を嘆いて悲鳴を上げて泣きだしたのです。
「あああああ~~~っ!!
なんてことだっ!! なんてことだっ!!」
「我々は敗れたのだっ!!
これでもう救いはないっ!! 俺たち全員、高き館の主様に殺されるんだっ!!」
皆が絶望の悲鳴を上げて地に座り込み嘆き悲しんでいた時の事でした。
私の前に高貴な身なりの3名の者が進み出て跪いて言いました。
「ラーマ姫様っ!! 我ら3名、あなた様に歯向かうた哀れな民の王に御座いまする。
ラーマ様が新たな世界をお産みになられた以上、これ以上の争いは無益と存じまする。」
「よって我らラーマ様に服従申し上げ奉りますことをここに誓います。」
「ですから、どうぞ。どうぞお慈悲下さりませっ!!
我らが国の民にも奇跡をお与えください。」
3名の王は地面に額をこすりつけて頼むのでした。
私は笑顔で答えます。
「恐れることはありません。これは契約の奇跡。
あなた方も今から高き館の主様との契約を破棄して私と契約を結べば世界の方からあなた方を救ってくれますよ。」
それを聞いた敵だった群衆は歓喜の声を上げて一斉に服従を誓い、私に恭順しようとしました・・・。
ですが、それを踏みとどめる立場の者達も一定数現れたのです。
「騙されるなっ!! そいつさえ殺せば高き館の主様はお救いくださる。
戦いはまだ終わってはいないっ!!」
「殺せっ!! ラーマを殺すのだっ!!」
殺せというもの。恭順せよというものが互いに言い争いをはじめました。そのせいか新たなる世界は彼らを救おうとはしませんでした。
3名の王たちも困惑して事態収拾に努めようとするのですが、これほどの数の人間が簡単にまとまるはずもなく、とうとう殺し合いを始めるまでに至ったのです。
ですが、その時。アンナお姉様が叫びました。
「ガタガタ言ってんじゃないわよぉっ!!
勝負は決したし、残り時間がないんだから、全員、さっさとラーマに服従しなさ~~~いっ!!
言うこと聞かない子は片っ端から私がぶっ殺すわよぉ~~~~~っ!!!」
アンナお姉様が物凄い量の魔力を込めた声で叫んだので、その声は戦場の隅々にまで行き届き、神の御威光を浴びた民衆たちを一瞬で震撼させ、恭順させたのでした。
「あら? これペナルティに引っかからないのね?」
アンナお姉様は舌をぺろりと出して笑うのでした・・・。
救いを求めて遥か天空で戦われている神々に叫んでも、この祈りは届きません。私達の戦争に加担することはできないからです。
明けの明星様と高き館の主様の戦いは異界を滅ぼすほどの力があり、その力があまりにも世界のバランスを超えるものであるため、その眷属たちも世界の理によって縛りを与えられているらしいのです。
神であるアンナお姉様もただフェデリコの死を嘆いて涙することしかできません。キュー・レイも同様に私の悲しみを心配するかのように頭をこすりつけたり、頬をなめたりしてくれるのが精一杯の事でした。
そう・・・。高位の存在は私達の戦争に手を出すことは出来ないのです。
ですが阿鼻叫喚の地獄の中でただ、絶望の涙を流すことしかできない私の耳に信じられない一言が聞こえてきたのでした・・・。
「ラーマよ。本当に敵味方の区別なく救いたいというのか?
ならば俺が力を貸してやろう。」
なんとそう言って私の影から魔神リーン・リーン・グー様がお姿を現しになられたのです。
「俺はお前の護衛であり補佐である。力を与えるゆえ以前の通りに事を成すがいい・・・。」
リーン・リーン・グー様は両腕を組んだ姿で私の影からお姿をお見せになると私の背後に立ち、何とも頼もしいほど力強い声で御助力を申し出てくださったのです。
私は驚き尋ねます。
「ええっ!?・・・ですが、それではリーン・リーン・グー様がペナルティを・・・。」
そう、神々の契約によって明けの明星様と高き館の主様の間の戦には神々が手を出せないことになっています。
もしこれに反することがあれば世界の理に逆らった罰則を受けることになっています。その罰則は魂の霊位が高ければ高いほど重い対価を支払うことになります。
これほどの戦争での罰則となれば一体、どれほどのペナルティが課せられるのでしょう・・・。
しかし、リーン・リーン・グー様は私の声に首を横に振って答え私の背中に手を当てて言うのです。
「恐らく俺は死ぬだろう。
お前に協力している間にこの体は消し飛ぶかもしれぬ。
まぁ、お前が気にするほどのことはない。」
・・・気にするなって・・・
「いや、気にしますよっ!!
何を仰っておられるんですかっ!!」
リーン・リーン・グー様は私の言葉に「ふっふっふ。」と愉快そうに笑うと私の言うことが何でもないことのように説明なさいます。
「心優しきラーマよ。気にすることはないと言っているんだ。
もとより俺は過去に死んだ身。そして今は明けの明星様のお力によって目覚めた仮初の命にすぎぬと俺自身が思っている。
今さら死の何を恐れようか。それよりも今この場の者を救えぬ事こそ神として無念極まりない状況である。
ならば、今この時。お前の願いをかなえるためにこの命、捧げよう。
遠慮なく受け取るがいい。我が魔力、存分につかうがいいっ!!」
リーン・リーン・グー様がそう仰るとこれ以上の問答無用とばかりに私の体に大量の魔力が注ぎ込まれます。そして同時にリーン・リーン・グー様のお体から血しぶきが噴き出したのです。
「きゃああっ!! リーン・リーン・グー様っ!!?」
「喚くな、うっとうしいっ!!
ペナルティが始まっただけだっ!!
こうなればお前にガタガタ騒ぐ猶予はないぞっ!! 泣き言いってないでさっさとやれっ!!
やれーーーっ!!」
ペナルティにより徐々に肉体が破壊されるリーン・リーン・グー様の苦痛に歪むお顔を見れば、どれほどのお覚悟で助けてくださるのかは語るまでも無い事・・・。
なれば、私も覚悟を決めねばなりません。
「わかりました。リーン・リーン・グー様・・・。
救ってみせますっ!! この場にいるすべての命・・・。死んでいった者達の想いもっ!!
私は次の世界に連れて行ってあげたいのですっ!!」
「応っ!! やれっ!! やって見せよっ!!
この甘ちゃんで世間知らずな小娘に何ができるのか、見届けて行ってやるわっ!!」
その御返事を受けて私は詠唱を始めます。私の唯一の特技である死霊術の詠唱を・・・。
「氷の地獄を支配なされる氷と泥の国の王の下へとたどり着けぬ幾千万の怨霊、恨み、つらみの果てのオドよっ!!
我が身命を持って許可を成す。
我が国に横たわる死者の体を依り代に再び新たなる命を授けようっ!!
黄泉返りて我が命に従えっ!!」
私がそう呪文を詠唱すると王城の中も外も蘇った遺体が立ち上がっていきます。その怨念。信じられぬほどの数と重みです。
これによりこれまでにない事が起きました。彼らの怨念とオドがまるで私に救いを求めるかのように私の魂と共鳴してくのです。
「ああ・・・感じますっ!!
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その全てが私の魂に響いてきますっ!!」
その悲しい思いを受け止めた私は彼らの気持ちが手に取るようにわかり、涙を流さずにはいられませんでした。
「皆さんの想い、伝わりました。
ごめんなさいっ!! 皆さん・・・。辛かったでしょう、苦しかったでしょう・・・。
この想い。私が連れて行ってあげますっ!!
新たなる世界にっ!!」
私がそう叫ぶと無念な思いの方から私の死霊術に応えるようにして近寄ってきます。
さらに命を賭して力を注ぐ魔神リーン・リーン・グー様の魔力量はすさまじく、その御威光は私がいる城から遠く離れた場所にある全ての砦まで届いたのか、あちらこちらで同時に遺体が起き上がったようです。その様子を見て我に返った敵兵の悲鳴が各所で同時に響きわたり、それは地響きのように大地に木霊するのでした。
「ああああああっ!! 人が生き返ったっ!!」
「ばかやろうっ!! これは死霊術だっ!!
人が生き返ったりなんかするものかっ!!」
「で、でもよっ!! これが死霊術だとしたら・・・
これほどの数の遺体を動かすなんて一体、どこの誰にこんな真似ができるっていうんだっ!!」
高き館の主様に脅されて狂気に心を支配されていた敵兵たちが動く遺体たちの姿を見て正気に返り、そして恐怖の悲鳴を上げたのでした・・・。
そしてその間、私に魔力を送り続けたリーン・リーン・グー様のお体は罰則によって破壊され、粉々に引き裂かれます。
ですが・・・そのときリーン・リーン・グー様は嬉しそうに叫ぶのです。
「おおおっ!! な、なんということだっ!!
これほどの魔力を受け取り・・・。これほどの死霊の怨念をこの小さな体で一手に引き受けるとはっ・・・!!」
さらに魔神リーン・リーン・グー様は私の身に起こったあることにお気づきになって叫びました。
「ああっ・・・世界がっ!!
新たなる世界が生まれるっ!!」
そうして、その言葉通り私の胸から光り輝く小さな小さな球体・・・。異界が生まれ出たたのです。
「多くの魂の無念の力を受け取って新たな世界がっ!!
ラーマっ!! お前が世界を生み出すとはこういう事だったのかっ!!」
その声は身を砕かれる苦しみよりも歓喜に満ちていて、最後の断末魔の言葉ですら、まるで祝福を受けた者のようでした・・・。
「そして、今ならわかるっ!!」
「今ならわかるぞっ!!
お前のその善性っ!! そして私の魔力量をはるかに超えて発動しているこの死霊術っ!!
これは明らかにお前の力っ!!
・・・間違いないっ!! お前こそが大地母神にして冥府の王っ!!
我らが異界の真の王っ・・・・・!!」
魔神リーン・リーン・グー様はそうお叫びになられると、私が生み出した異界が放つ光と共に消えていきました。
「・・・ああっ!! リーン・リーン・グー様っ・・・。」
悲しみに浸る私の量肩をアンナお姉様が揺さぶって活を入れます。
「ラーマっ!! なにをしているのですっ!!
あなたに悲しみに浸る時間は無くてよっ!?
さぁ、周りをごらんなさいっ!! これほどの数の人と霊があなたの救いを求めていますっ!!」
そういわれて私はハッとなりました。
私の周りには多くの兵士、国民が希望に身を震わせて立っていたからです。
アンナお姉様に腕を引き上げられて立たされた私に対し、アンナお姉様はさらに背中を叩いて叱ります。
「さぁっ!! 何をしているのですっ!?
手遅れになる前にあなたが救うのですっ!!」
そう言われて私はハッとなりました。そうして、どういう理屈かわかりませんが、私は異界をどのように扱えば彼らを転送できるのか理解していたのです。
私は叫びますっ!!
「さぁ、みんな私の元へいらっしゃいっ!!
救いの時が来たのですっ!! 新たな世界においでなさいっ!!」
私がそう叫ぶと民衆は歓喜の声を上げながら四方から私に向かって走ってきます。そして、彼らの体は私の身に触れる瞬間には異界に転送されて消えていくので、あとからあとから押し寄せてくる人々も停滞することなく異界に消えていきました。
救われたのは生者だけではありませんでした。私と共に戦った者の霊までも私の元へやってきては異界へと消えていくのです。
その中にはフェデリコとフィリッポの姿までありました。
「フェデリコっ!! フィリッポっ!!
ああっ!! 何てことなのっ!!」
私が歓喜の声を上げるとフェデリコもフィリッポも嬉しそうに笑ってくれました。
「姫様。ようやく私とのお約束を叶えてくださいましたね・・・。
いえ、私の想像以上の綺麗ごとの世界・・・。ありがとうございます。」
「お見事で御座います姫様。このフェデリコ、あなたにお仕えできましたこと本当に幸せと存じます。」
二人はそう言って異界に消えていきました。
「さあっ!! 契約に基づきし魂よ。人々よっ!!
新たな世界に入りなさいっ!!」
私がそう叫ぶと、不思議なことに異界はこの戦場を埋め尽くすほどの大きさになったかと思うと、人々を異界へ転送してから一瞬で元のガラス球の大きさに戻ったのです。
その様子を一部始終見ていた高き館の主様に味方した種族の人たちが呆然とした表情で立ち尽くしていたのです、
そうして私の奇跡を確認した彼らは、やがて自分の非運を嘆いて悲鳴を上げて泣きだしたのです。
「あああああ~~~っ!!
なんてことだっ!! なんてことだっ!!」
「我々は敗れたのだっ!!
これでもう救いはないっ!! 俺たち全員、高き館の主様に殺されるんだっ!!」
皆が絶望の悲鳴を上げて地に座り込み嘆き悲しんでいた時の事でした。
私の前に高貴な身なりの3名の者が進み出て跪いて言いました。
「ラーマ姫様っ!! 我ら3名、あなた様に歯向かうた哀れな民の王に御座いまする。
ラーマ様が新たな世界をお産みになられた以上、これ以上の争いは無益と存じまする。」
「よって我らラーマ様に服従申し上げ奉りますことをここに誓います。」
「ですから、どうぞ。どうぞお慈悲下さりませっ!!
我らが国の民にも奇跡をお与えください。」
3名の王は地面に額をこすりつけて頼むのでした。
私は笑顔で答えます。
「恐れることはありません。これは契約の奇跡。
あなた方も今から高き館の主様との契約を破棄して私と契約を結べば世界の方からあなた方を救ってくれますよ。」
それを聞いた敵だった群衆は歓喜の声を上げて一斉に服従を誓い、私に恭順しようとしました・・・。
ですが、それを踏みとどめる立場の者達も一定数現れたのです。
「騙されるなっ!! そいつさえ殺せば高き館の主様はお救いくださる。
戦いはまだ終わってはいないっ!!」
「殺せっ!! ラーマを殺すのだっ!!」
殺せというもの。恭順せよというものが互いに言い争いをはじめました。そのせいか新たなる世界は彼らを救おうとはしませんでした。
3名の王たちも困惑して事態収拾に努めようとするのですが、これほどの数の人間が簡単にまとまるはずもなく、とうとう殺し合いを始めるまでに至ったのです。
ですが、その時。アンナお姉様が叫びました。
「ガタガタ言ってんじゃないわよぉっ!!
勝負は決したし、残り時間がないんだから、全員、さっさとラーマに服従しなさ~~~いっ!!
言うこと聞かない子は片っ端から私がぶっ殺すわよぉ~~~~~っ!!!」
アンナお姉様が物凄い量の魔力を込めた声で叫んだので、その声は戦場の隅々にまで行き届き、神の御威光を浴びた民衆たちを一瞬で震撼させ、恭順させたのでした。
「あら? これペナルティに引っかからないのね?」
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