魔王〜明けの明星〜

黒神譚

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第4章「聖母誕生」

第88話 明けの明星と高き館の主

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 明けの明星様はわたくしを果樹園の中央にある、王城の外に広がる広大な果樹園の中でひときわ大きな大木の前に下してくださいました。
 その大木は木と言うよりもまるで小さな城でした。横幅は大の大人が両手を伸ばして繋ぎあったとしても30人分はあるのではないかと思われ、高さは天守閣に相当する高さまで伸びていました。
 そして、その大木からは不思議な霊気が感じられたのです。
 私はその大木にそっと手を触れて言いました。

「・・・不思議です。
 普通、木というものは大地から栄養を吸い上げてしまう存在。
 ですがこの大木はまるでこの大地の栄養を支えているかのような霊気を放っておられます。
 まさに御神木と言う言葉がふさわしい大木です。」

 私の言葉に明けの明星様は感心したように何度も頷かれるとそれが豊穣神ミュー・ニャー・ニャー様だと教えてくださいました。

「うんうん。よぉ、気ぃ付いたよくきがついたな。
 これは豊穣神であるミュー・ニャー・ニャーが姿を変えたもの。
 先の戦の罰であいつはこの大木になり、季節を問わずに飢えた人間と魔族を支える糧を産み続ける。」

 その御言葉を聞いて私は震えました。

「こ、この大木にミュー・ニャー・ニャー様が変わったのですか?
 あ、明けの明星様。
 恐れながら申し上げます。その御処罰、天地に惨ぅ御座います。
 何卒なにとぞ、何卒寛大な処置をお願い申し奉ります。」

 私がそう申し上げて頭を深々と下げると明けの明星様は、そんな私の頭を撫でながら仰いました。

高貴なる存在が背負うべき責務ノブレス・オブリージュというやつだ。
 この者は神である以上、お前たちが背負うべき責任よりも重い責任を背負わなくてはならない。
 それは当然、お前たちに敗れて生き残った水神グース・グー・ハーや龍神ヴォール・ヴォールも背負わなくてはいけない。
 なに、心配するな。これは神であるミュー・ニャー・ニャーにとっては懲役の労務のようなレベルの労働だ。
 決して重労働ではないし、その懲役期間はそう長くない。」

 そう言った後、頭を下げた私の両肩を持っ私の体を起こされますと、私の目を真っすぐに見つめて仰られました。

「懲役期間は高き館の主と俺の戦いが終わる90日の間のことだ。
 90日後、この世界は崩壊する。
 そのときにこの者は解き放たれて、お前が生み出す世界に移住し神として再び生きるのだ。」 

 90日後、この世界は崩壊するっ!?
 明けの明星様は恐ろしいことを預言なさいました。
 私は超近距離で明けの明星様に見つめられて、女性としての火照りが収まらぬ体となったのですが、その御言葉のおかげで正気を保つことができ、まともな質問を返すことができました。

「90日後に世界が崩壊するっ!?
 そ、それは真でございますか? 止める手立てはございませんの?」

「止める手立てはない。
 俺とあの者がぶつかり合えば、この世界は耐えられずに必ず崩壊する。」

 明けの明星様は即答で世界を救う方法を否定なされました。
 そして私を励ますお言葉を続けられました。

「だからな、ラーマよ。お前は世界を生み出せ。
 それができなければ、この世界に生きとし生きるもの全てが世界の崩壊と共に混沌に帰るだろう。」

 明けの明星様のオーダーはあまりにも大きな課題でした。
 そして、私は改めて自分の使命の重さに震えるのです。

「・・・・・・そ、そんな大変な御役目、本当に私に果たせるのでしょうか?
 私は明けの明星様に支えていただきここまで来ましたが、その実態は明けの明星様に捧げられた人身御供。お飾り姫です。
 私は大魔法使いでも偉大な神でもありません。一介の姫です。
 そんな私にどうすれば、そのようなことができましょうか?
 教えてくださりませ、明けの明星様。」

 明けの明星様は私の言葉をじっとお聞きになられました後、大木を指差して仰いました。

「俺は知っている。お前が何者であるか。
 お前の魂の底に何が眠るのかを・・・。
 答えを俺に求めるな。答えはお前の中にある。」

 明けの明星様は、そこまでお話になると私に口づけなさいました。
 ・・・・・・うにゅ? ・・・え?

「・・・ああっ・・・いやぁ・・ぁん・・・。
 な、なにを・・・なさいますの・・・」

 いきなりのことで私は判断が遅れましたが、すぐに腕で明けの明星様のお体を押し返そうと小さな抵抗を試みますが、すぐにその身に襲い掛かる快楽に耐えられなくなってこの身から全ての力が抜け落ちてヘナヘナと大地に座り込んでしまいました。そして、そのまま起き上がれなくなると半分正気を失ったように体をくねらせながら地面の上で身もだえいたしました。

「ああぁっ!!・・・か、体が燃えてしまいそうです・・・
 こ、こんな・・・こんな・・・
 ・・・ああっ!! 明けの明星様ぁ~~・・・酷ぉ~ぃ・・・」

 下等な生物ではとても耐えられぬような快楽を全身に浴びせかけられたような感覚を私は覚えました。
 私はグツグツと沸き立つお湯のように滾り続ける我が身の変化に耐えきれずに明星様に対して甘えるような声を上げながら責める言葉を何度も何度もうわごとのように申し上げたことまでは覚えていますが、どうやら、やがてそのまま失神してしまったようです。

 そうして、私が目を覚ました時。不思議なことに私は今日目覚めたばかりの朝のその瞬間に戻っていたのです。
 全身に溜まった疲労感も今朝、私が目覚めたときのまま・・・。その後、タヴァエルお姉様とアンナお姉様が発せられた言葉も、まるで同じ時間を繰り返したかのように、全くそのままのお言葉を繰り返されたのでした・・・。

「ラーマ・・・。あなたあんな目にあってきたのですか・・・。
 よく今まで命がありましたね・・・。」

「さあさ、お寝坊さん。
 それよりもお外をごらんなさいっ!! とっても素敵よっ!!」

 私はお二人のご様子とお話になる言葉をあらかじめ知っていたのです。
 そうしてアンナお姉様のお言葉に従って、窓からお外を見ると、やはり夢のように王城の外には果樹園が広がっていたのでした。
 ただし・・・その果樹園にはミュー・ニャー・ニャー様の化身であらせられるあの御神木がありませんでした。

「・・・おかしいですわ・・・。御神木が・・・御神木がおられません。」

 私は必死になって窓から身を乗り出してミュー・ニャー・ニャー様をお探ししたのですが、その御姿はついぞ見つけることができませんでした。
 そうして、何かにとりつかれたかのように必死になってミュー・ニャー・ニャー様を探す私をアンナお姉様は不思議そうな顔でご覧になっていました。

「・・・おちついて、ラーマ。
 そんなに身を窓から乗り出したら、危ないですよ?」

 そう言ってアンナお姉様は私を抱きかかえて室内に引き戻されました・・・。

「・・・違う・・・。」

 私は呆然と今の状況を受け入れられずに無意識に呟いてしまいました。

「違う? 何が違うというの?」

 アンナお姉様はそんな私に尋ねられます。私は必死になって説明しました。

「おかしいのですっ!! 先ほどは果樹園の真ん中にミュー・ニャー・ニャー様の化身の御神木がそそり立っていました。
 ・・・・・・見たことがないほどの大きな大木が・・・。
 それにっ!! それに窓からせり出した私を抱きしめてくださったのは、明けの明星様のはずですっ! 
 アンナお姉様ではありません・・・。
 どうして・・・それ以外はすべて全く同じことであるのに・・・どうして・・・このような違いがあるの?」

 私が狂ったように一人でブツブツ呟いていると、タヴァエルお姉様が窓の外をご覧になってお尋ねになられました。

「・・・。ラーマ。あなたはミュー・ニャー・ニャーが果樹園の真ん中で世界の糧をを支える役目を担った姿を見たのですね?
 そして・・・そこにお兄様があなたの前に現れ世界の果てについて語られた・・・そう言うのですね。」

 私は私が話していないことまでタヴァエルお姉様が良い当てになられたことを驚きました。

「そうですっ!! その通りです。
 お姉様っ・・・。私怖いですっ!! 私の身に何が起こっていますの?」

 私は思わず怖くなってタヴァエルお姉様に抱き着き怯えました。今、自分の身に起こっていることに理解が追い付かなかったのです。
 無礼にもそのお体に抱き着いてすがり、怯えて震える私をタヴァエルお姉様は責めることなく、優しく抱きしめ返してくださりながら、私に助言くださったのです。

「ラーマ。今日あなたが見たものは決して他人に話してはいけません。
 そうして、あなたは何も恐れることはありません。
 御身は女の内にて祝せられたのです。
 これより何も疑わず、ただあなたの成すべきことを成しなさい。
 そうして、あなたが世界を救うのです。」

 タヴァエルお姉様はそれだけ仰いますと、私の体をアンナお姉様にお預けになり、アンナお姉様にも次のことを仰り、窓の外から羽ばたいてどこかへ向かわれてしまいました。

 ~アンナ。あなたにも使命があります。
  あなたはラーマを支えなければなりません。
  これより争いが起こり3つの王が世界が生まれる預言に従い、服従に来るでしょう。
  その時、新たに生まれる世界に移るものと古き世界にとどまる者との争いが起きるでしょう。
  それを鎮めるためにアナタがラーマを守らなければいけません。~

 私とアンナお姉様は何を言われたのかわからずに遥か遠くに飛び去ってゆかれるタヴァエルお姉様の姿が消えるまで見送り、見送った後はお互いに困惑したように見つめあいました。


「アンナお姉様・・・一体、何が起きるというのでしょう?」

「わかりません。ラーマ・・・私にも何が何だかわかりません。
 タヴァエル様は異界の王。この異界に住む私たち神の頂点に立たれる存在。
 私たちの理の外におられる方ですので、私にとっても計り知れないのです。」

 私たちは互いに困惑し、見つめ合うしかなかったのでした・・・。
 




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