魔王〜明けの明星〜

黒神譚

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第4章「聖母誕生」

第82話 高き館の主について

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 明けの明星様の奇跡に城内は騒然となりました。中には魔法の籠だと言って籠を有難がるものもいましたが、私たちが食事が終わると、普通に食料はなくなってしまうのでした。
 明けの明星様は仰いました。

「昔、俺は同じ奇跡をする者を見た。
 ま、これはその真似事や・・・。」

「いや、あっさり言わないでくださいよ。
 世界の食糧事情を解決できますよ。戦争が無くなる奇跡じゃないですかっ!?」

 私が目を輝かせて明けの明星様を見つめていると明けの明星様はため息をつかれました。

「いや。そういうわけにはいかんのや。
 そういうことしてもたらお前ら努力せんようになって進化せんやろ?」

 明けの明星様はそう仰いますが・・・

「? 
 進化しないといけませんか? 皆がそれで安寧に暮らしていけるようになったらそれでいいじゃないですか。」

 私は反論します。何故なら、ここで明けの明星様を説得出来たら、この世界は救われるからです。
 ですが、その考えは一蹴されます。

「アホたれ。お前はこの期に及んでも分からんのか?
 この世界だけでおさまる話やったらええわ。
 せやけど外敵が攻めて来た時に進化してないお前らはどうするんや?
 一方的に殺されるだけやぞ。高き館の主の例を見てみい。小さい世界に籠って平和を歌ってりゃ、そらその世代の奴らは幸せか知らんけど、その後に待っているのは滅びの道や。」
「医療でも交通でも工事でも進化するから、よりよい世界になれるんや。
 飯から何から与えられた家畜は飼い主がおらんようになったら餓死するんやぞ。
 それがいややったら頑張って成長せぇって話や。わかるか?」

 うっ・・・。ぐうの音も出ませんわ。確かに今、外敵に世界が一つ滅ぼされた事を想うと進化は確かに必要でした。それは進化の果てにある異界の王たちが集まって高き館の主を追い返したことを考えると、確かにその通り名のでした。
 そして、家畜の例もまさにその通りです。稼ぎ手が無くなった時。過程は崩壊してしまうから、次世代が引き継ぐ必要があるという話に直結していますわね。
 私は、黙ってしまうのでした。

 しかし、ヴァレリオ様はそんな私を
「いいんだよ。ラーマ。
 僕がそうできるようになるまで進化して君を支えてみせよう。」なんて優しく囁いてくださるのです。

 これですっ!! これですわよっ!! 明けの明星様。
 明けの明星様はもう少し王子様になり切って下さいませっ!!

 私の肩を抱くヴァレリオ様腰に明けの明星様をジト目でみていると、明けの明星様は苦笑いを浮かべながらも話を本題に戻されます。

「ま。そんなことよりも問題は高き館の主の話や。
 あいつは怒り狂っとるし、俺を狙っとる。
 まぁ、以前から言うとるけど実際問題、俺は本体から染み出した絞りカスみたいなもんやから、別にどうにでもなれるんやけど、この世界に生きるお前らはそういうわけにはいかんわな。」

「そこで提案や。
 俺を完全復活させるか、異界の王たちがアイツを殺すまで傍観しとくかや。」

 その提案はタヴァエルお姉様に反対されます。

「それはいけません。
 皆、信じてはいけません。
 お兄様が完全復活なんかしたら、それこそ世界は破滅します。お兄様は真の魔王。邪悪の化身。
 それだけは皆さん絶対に信じないでください。」

 明けの明星様、ボロカス言われてます。
 しかし、それでは・・・。と私が思ったと同時にヴァレリオ様が口を開きます。

「それでは、もう一つの案。
 すなわち皆様が高き館の主様からこの世界の住民を逃がすという手段はいかがでしょう?
 私は良案と存じますが・・・。」

 ヴァレリオ様がそう仰ると明けの明星様は愉快そうにケラケラと笑われました。

「皆さまが高き館の主様を倒すって何やねん、お前も参加するんやぞ。ヴァレリオ。」

「は?」
 
 指摘されたヴァレリオ様はキョトンとしたまま固まっておられます。無理も御座いません。
 これ以上は異界の王が単体では力不足の戦い。異界の王さえそう決戦に備えておられるというのに、それよりも遥かに格下のヴァレリオ様に何ができましょう?

「明けの明星様。それはいくらなんでも危険すぎます。
 かの魔王様は明けの明星様でさえ弱弱しいと評価なさった怪物です。
 失礼ですがヴァレリオ様では土俵に上がることも出来ません。」

 私の言葉にヴァレリオ様が少なからぬダメージを受けておられますが、こればかりは言わぬ訳にもまいりません。
 私は勇気をもって進言しましたが、それでも明けの明星様のお考えは変わりませんでした。

「アホたれ。
 先の戦争で死んだ者達を見ろ。先の先の戦も見ろ。
 皆危険を冒し、時には死ぬ運命を自覚しながらも戦ったやろ。戦争とはそういうものや。
 ヴァレリオ。お前も騎士やったら死を恐れずに戦場に立て。」

 そういわれてしまったら騎士出身の魔王様であるヴァレリオ様も引き下がれません。開き直ったかのように身を引き締めてから

「高き館の主様討伐。謹んで拝命いたします。」と、お答えになられるのでした。

 と、殿方って・・・何でこんな無茶なことばかり・・・。
 私はヴァレリオ様に死んでほしくなくて反対したいところなのですが、女王という立場上、ヴァレリオ様一人をかばい立てするわけにもいかず、黙って耐えるしかありませんでした。

 そうして食堂には、しばし気まずい沈黙が訪れました。
 そんな沈黙に耐えられなくなったのか、アンナお姉様が明けの明星様に御尋ねになられたのです。

「旦那様・・・。それにしても高き館の主様はいつ襲ってこられるのでしょうか?
 どうしてすぐに襲ってこないのでしょう?
 そもそも前回、異界をお滅ぼしになられたというのに今回は人間の国を操っていました。
 ご当人様だけで異界を滅ぼせる魔王様がどうしてこのような回りくどい真似を・・・。」

 アンナお姉様が鋭い指摘をなさいます。しかし、それでは足りない点がございます。
 私は無礼を承知で横から質問を重ねます。

「それに、そもそも高き館の主様はどうして異界を滅ぼそうとなさるのです?
 真意がわかりません。」

 私とアンナお姉様の質問を興味深そうな顔で聞いておられた明けの明星様は、まず質問したことを褒めてくださいました。

「ふんふん。お前ら中々ええところに気が付いたやん。
 まぁ、そこがこの作戦の肝になると所やから、ちょっと長い話になるけど聞いとけ。」

 明けの明星様はそう前置きをなさると高き館の主様についてお話しくださいました。

「高き館の主。あいつはもともとは俺の傘下の魔王や。
 ラーマ。お前が出会った俺の偉大なる父上。全能の主たる神。
 我らはあれと戦って敗れ、封禁された魔王なんや。
 そして、俺達は別々の異界に封禁された。
 あいつはそれで今でも怒り狂っとる。我が父上の作ったもんが片っ端から気に入らんのや。
 そやから、その全てを壊したい。この世界を壊したいのは、まぁ、そういう理由やな。」

「で、あいつがなんでこの世界を前の世界の通りに壊さんのかって話やけど、あいつは前回、怒りに任せて多くを滅ぼしすぎた。多くを殺しすぎた。
 そうして、その中には父上との契約に抵触するものもあったんや。
 それであいつはペナルティを受けた。異界を滅ぼしたほどの罰則やからアイツもただではスマン。
 元気そうに見えてたけど、あいつ実際は満身創痍やで。
 それでも怒りは収まらんから、他の世界も滅ぼそうとしとる。」

「せやけど、前回ほどのペナルティはアイツほどの存在でもそう何度も受けたいものやない。
 その上、この世界には俺がある。
 今は俺という存在に脅威は感じてへんやろうけどな。それでも世界を破壊するペナルティは存在するし受けたくない。
 せやから、あいつは手順を踏んで世界を滅ぼすつもりなんや。」

「謀略によって世界を混沌の渦に沈め、世界がそうなったことを異界の王の管理能力の責任に据えることで自分が世界を滅ぼすことのペナルティをまともに受けんでも済むように治める算段やろうな。
 
 せやからあいつは今、大人しくしとるやろ?
 世界を混沌に沈める準備をしとるわけや。せやさかにな、すぐに襲ってはこないであろう今のうちに異界に出ようって話をしとる。」

 明けの明星様がそこまでお話になられると今度はタヴァエルお姉様がご説明下さりました。

「この世界を混沌から救うために避難する世界を新たに作らなければなりません。
 その世界を産むのは・・・」
「ラーマ。お兄様に決められたあなたのお仕事ですっ!!」


 ・・・はい?
 産む?
 私が?
 子供じゃなくて、異界を?

「む、むむむむ、無理です何を考えているんですか? アホたれですか?
 子供を産めとは明けの明星様からさんざん言われていますから多少の覚悟もありますが、世界を産むって私の体の大きさを見てください。
 世界が産める大きさに見せますか? タヴァエルお姉様っ!!」

 私は指令に狼狽えてパニックを起こしているとタヴァエルお姉様が若干怒りながら教えてくださいました。

「・・・。今、私をアホたれと言いましたか? ラーマ。」

「言ってません。」

「言いましたわよね?
 あとでお話がありますが、その前に重要なお話をしないといけません。」

 タヴァエルお姉様は一つのガラス球を胸の谷間からお出しになると、テーブルの上に置かれました。
 そして私にお尋ねになられるのです。

「ラーマ。このガラス球の大きさは?」

「・・・? 手のひらサイズですわ。」

 何の意味か分からずに私が見たままお答えすると、タヴァエルお姉様はポンと掌を叩きます。
 すると不思議なことにガラス玉はみるみる大きくなってとうとう王城よりも大きくなってしまいました。
 タヴァエルお姉様はそこで捕捉説明をなさいます。


「このガラス玉は実際には、この異界よりも大きい。
 あなたにはこれを産んでいただきます。手のひらサイズよりも小さい異界。しかし、それはこの異界と同じ大きさの物。
 何も恐れることはありません。あなたにはそれを産む資格があるのです。」


 そ、そんなことをいわれても・・・と、狼狽える私にアンナお姉様が助け舟をくださいます。

「お待ちくださりませっ!! ラーマにそのような事、できるわけが。
 何かからくりがあるのならば教えてあげてくださいっ!!」

 その助け舟に私が目を輝かせて聞いていると、タヴァエルお姉様は目を細めて

「アンナとは奇異なる名。
 その運命もまたラーマと同じく重いものとなるでしょう。」と、仰いました。そして続けて

「心しなさい二人とも。
 あなた方には資格と責任があります。
 それがお兄様があなた達を選ばれた理由なのですよ。」と、仰るのでした・・・。

 私とアンナお姉様は意味が解らないのですが、とてつもない責任を背負ったことを感じていました。




 


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