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第3章「ゴルゴダの丘」
第80話 しゃれこうべの丘
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「あなた様がこの事態を招いた異界の魔王様ですね?
我が名はラーマ・シュー。魔族の女王にしてあなた様を糾弾する者。
ご自分の心に恥じるところがないのならば、お名前をどうぞ。」
突如、大雷鳴と共にお姿をお見せになられた魔王様に対して、私は敬語を使いながらも平伏することはせずに睨みつけながら物を申します。
このお方が何者か既に存じ上げているからです。
しかし、いかに尊き位にまで昇華なさっている魔王様と雖も異界を消滅させ、その上、哀れな人間の国を裏で操り私の国を滅ぼそうとする許しがたい存在である以上、私は一歩も引くわけには、いけないのです。
ですが、私にどうこうするフェデリコは違いました。
「ちょ、ちょちょちょ・・・何を言い出すんですかっ!? このアホ姫様めっ!!
す、すみません。尊き御方、この姫、ちょっとアホな子なんで許してやってくださいっ!!
ほらっ!! 姫様も一緒に謝って下さいっ!!」
フェデリコは私の体と頭を両手で掴むとぐいぐい地面に押し付けて必死で異界の魔王様に謝ります。
「嫌~~~っ!! 私、絶対に謝りませんっ!!」
私は必死で抵抗して頭を起こそうとするのですが、しょせんは蝶よ花よと育てられたお姫様。前線で戦い続けた騎士の腕力の前では赤子も同然。私を押さえつけるフェデリコの両腕はビクともせず、私は地面に這いつくばってフェデリコと一緒に異界の魔王様に土下座する形になっています。
「だめ~~っ!! フェデリコ、余計なことしないでっ!!
こ、こんなの全然、敵対している者の姿に見えないじゃないのっ!!」
「おだまんなさいっ! このアホ姫様っ!!
このお方の逆鱗に触れたら、世界がどうなるのかわからないんですよっ!!
ほらっ!! みんなをご覧なさいっ!!
この場にいる誰もが異界の魔王様の御威光に畏怖して土下座しているじゃありませんかっ!!
姫様だけですよっ!? こんな常識外れの魔力の持ち主に対してそんな無礼を働くのはっ!!
本当に頭おかしいんじゃないんですかっ!? あなたはっ!!」
ボロカス言われました・・・。
酷いっ!! せっかく、私が非道な魔王様に対して決死の覚悟で物申したというのに、全然格好がつかないじゃないですかっ!!
ほらっ!! 大雷鳴と共に登場なさった異界の魔王様も大爆笑で私を指差しているじゃありませんかっ!!
「なんだお前っ!! 何だお前はっ!?
あははははははっ!! 余に逆らうどころか、そんなロマンスグレーのおっさんに押さえつけられてるじゃないかっ!!
あはははははっ!!」
大爆笑です。
「こ、こんなの屈辱過ぎますっ!!
手を離しなさいっ!! フェデリコ。主に対して無礼ですわよっ!
私は今からあの魔王様にガツンと言ってあげるんですからっ! 手を離しなさいっ!!」
「真正のアホなんですかっ!? 姫様はっ!!
私たちが今、生きていられるのは異界の魔王様のお慈悲によるものですよっ!?
これ以上の無礼はマジでやめてください、世界が滅びますっ!?」
フェデリコは半狂乱になって私の頭を地面にゴリゴリ押し付けます。痛すぎます。
影の中から魔神リーン・リーン・グー様が掌を差し出して地面と私の顔が擦れないように支えてくれてなかったら、私の顔は擦り傷まみれになってますわっ!?
「いた~いっ!! 本当にやめてよっ!!
いたい、いたい、いたいっ!!」
私が泣きべそをかくとフェデリコは我に返って「ああっ!? ひ、姫様、ご無事でっ!?」なんて言って手をどけてくれましたが、本当に痛かったですわ・・・。涙もショックで止まらなくなってきました。
生まれて初めてここまでひどい目にあった私がショックのあまりひきつけを起こして泣きだしたのを見て、異界の魔王様は手を叩いてお喜びになり、私の話を聞くを仰ったのです。
「なんだ? お前っ!?
えらい啖呵を切っておきながら、そんなことで泣きじゃくるのかよっ!?
おもしろいっ!?
お前のその頭の悪さと部下の忠義に免じて話を聞いてやるっ。
面を上げて物申せっ!!」
異界の魔王様がそう仰ると、フェデリコは慌てて私から身を退かせると両手をついて深々と平伏します。その様子をご覧になって異界の魔王様は満足そうに頷かれますと、今度は私の方を向いてその顎をクイッと上げて無言で「話せ」と指示なさいました。
私は、立ち上がるとまっすぐに異界の魔王様を見つめて進言いたします。
「ひく・・・だ、だからぁ・・・あなた様はそんなに偉大なのに・・・・ううっ
うええええ~~んっっ!!」
ただ、私はフェデリコに押さえつけられたショックから戻れずにひきつけを起こして話すどころではありません。
これをみて魔王様、再び大爆笑。
「あはははっ!! おい、お前っ!! いい加減にしろっ!!
泣いて話にならんじゃないかっ!!
ああ、もういいっ!! お前が泣き止むまで暫く休憩だっ!
おお~いっ!! 誰かお茶持って来いっ!! 休憩だ~~っ!!」
異界の魔王様の特別の御計らいで私たちは休憩を挟んでから、話し合うことになりました。
途中、明けの明星様とタヴァエルお姉様が私の肩を抱いたりヨシヨシと頭を撫でたりしてくださって慰めてくださったおかげでどうにか短時間で泣き止むことができ、私たちは戦場の真ん中に広げられたテーブルに着座して話し合うことになりました。
「それで? お前は余に何が言いたい?」
異界の魔王様は私を指差すと話を切り出されました。平静を取り戻した私はまっすぐにお答えします。
「まずは、御身の御尊名をお聞かせくださいませ。」
私がそう言うと異界の魔王様は顎に手を当てて「ふ~む。どうしたことか・・・。」と考え込んでしまわれました。
そこまで名乗りとは難しいものなのでしょうか?
そう言えば、フェデリコも明けの明星様と初めて敵対した時、できるだけ名前を呼ばぬようにしていましたわね。そうすることで縁を作らぬようにして呪いを避けるのだとか。
・・・しかし、異界の魔王様が私に呪いをかぶせないように気を使われる必要があるのでしょうか?
私が不審に思いながら異界の魔王様の返答を待っていると明けの明星様が解説してくれました。
「ああ。それはあれや。
高貴な者は高貴な者で下等なものに縁を作ると厄介な面倒を見てやらにゃならんからな、それがメンドイいうてこの男は嫌がっとるねん。」
「・・・へぇ、高貴なお方には高貴なお方の御面倒があるのですね。」
「せやで。俺は気前ええから何でもかんでも名前言うてるようにお前は思うてるか知らんけど、俺の明けの明星かて、本当の意味では俺の名前ではないんやで?」
「ああ・・そういえばそうですわね。
納得です。そういえば明けの明星様もこれはコードネームだと仰っておられましたもんね・・・。」
私がそう言うと異界の魔王様は、紅茶を拭きだして大笑い成されました。きったないです。
「あはははははっ!! ルーちゃん、コードネームとか言ってるのか?
バッカじゃないのっ!?」
異界の魔王様に爆笑されて明けの明星様は顔を真っ赤にして私に文句を言います。
「ああああ、アホたれっ!! そんな話、こいつに聞かせんなやっ!!」
「ははははっ! ルーちゃん、相変わらず中二病をこじらせすぎだろっ!!」
「ああああっ!? い、言うたなっ!?
お前にだってあるやろっ!! そういう名前っ!!
ほれっ!? なんやったっけ? ・・・ええと、タヴァエルっ!! こいつの恥ずかしい名前、言うたってくれっ!!」
異界の魔王様にバカにされた明けの明星様は、苦し紛れにタヴァエルお姉様の助力を求めます。
タヴァエルお姉様はいやらしい笑みを浮かべてバカにするように仰いました。
「お兄様・・・。『高き館の主』ですわっ・・・。
随分と・・まぁ・・・カッコいいコードネームだ事・・。くすくすくす。」
うわぁ・・・。タヴァエルお姉様。きっついですわぁ~~・・・。
異界の魔王様もいたたまれなくなって、椅子から起立なされるとタヴァエルお姉様を指差してお怒りになられました。
「なんだぁっ!? お前はっ!!
俺たちが考えたカッコいい名前をバカにする気かぁっ!!」
と、そこまで言ってから異界の魔王様、我に返って言いました。
「て、いうかっ!!
お前らいつの間にシレッと登場してるんだよっ!!」
・・・・・・はっ!! 言われて私もハッとしました。
「ええええええ~~~っ!? あ、明けの明星様っ!? タヴァエルお姉様っ!?
い、いいいい、いつの間にぃ~~~~っ!?」
驚く私たちにタヴァエルお姉様が呆れたように仰いました。
「ラーマ。あなたは泣きじゃくっていて気が付かなかったのかもしれませんが、あなたが泣きているときからずっといましたよ。
私たちは『高き館の主』が現界したときから、危険を察知して臨戦態勢で隠れ潜んでいたのですが・・・。
あなた達が大爆笑のお笑いトークを始めたので、戦闘の空気が一気に薄れてこのザマです。」
タヴァエルお姉様は、はぁっとため息をつくとお紅茶一口飲まれました。
「あら、美味しい。いい茶っぱを使ってますね。」
タヴァエルお姉様がご機嫌そうにそう仰ると、それがさらに異界の魔王様「高き館の主」様のお怒りを誘うのでした。
「やかましいっ!!
お前に御馳走するつもりで出したお茶と違うんだぞっ!」
「まぁまぁ、そんなにカッカすんなや、高き館の主。」
明けの明星様がそう言って高き館の主様をお宥めになると、高き館の主様は、一瞬固まってから、しげしげと明けの明星様をご覧になってからお尋ねなされました。
「ルーちゃん。なんだかおかしくないか?
なんで、そんなに訛っているんだ?
それにその少年の姿は何だ? あれだけ美しくたくましかったルーちゃんが見る影もないほど弱弱しい・・・。」
そういってマジマジ見つめながら高き館の主様は明けの明星様のお姿に違和感を感じておられるようでした。
「そもそもなんで、そんなに魔力が少ないんだ?
信じられん・・・。それともあれか? 俺の事をなめているのか?」
明けの明星様は不思議そうに尋ねる高き館の主様に向かって「お前は俺に舐められるのが好きだったろ?」と言って茶化すのでした。
「まぁ、それはな・・・。だが、それは逞しいルーちゃんだった時の話だ。
今はルーちゃんに抱かれたいとは思わない。
それどころか、そんなに弱弱しい姿を見ると、あの高貴なルーちゃんを組み伏せて泣きよがらせたい気持ちにすらなる。」
・・・はい?
「おいおい。俺は相変わらず逞しいぞ?
お前をヒィヒィ泣かせてたこいつも健在や。」
そう仰ると明けの明星様はご自身の黒ヘビをいきりたたせてテーブルをひっくり返しました。
「きゃあああああ~~~っ!! な、なにをするんですかぁ~~~っ!!」
「ダメですっ!! ラーマ、見てはいいけませんっ!! 目が穢れますっ!!」
「ああんっ!! ルーちゃん、相変わらず逞しいっ!!」
私たちは三者三葉の驚きを見せましたが・・・。しばらくして高き館の主様が訝しがるような顔をなさいました。
「いや・・・、まて・・・。どうもおかしいな?
もしかしてルーちゃん。不完全な状態で復活してるんじゃないのか?」
・・・ぎくっ!! そういえば、明けの明星様は本来の御姿の100分の1の状態で復活成されています。その事に気が付かれたのでしょうか?
そして、そんな私の心の動揺は高き館の主様が敏感に感じ取り、確信をもって確定します。
「やっぱり、そうかっ!!
ルーちゃん。相当弱体化しているな? 君が復活したことを知っていて俺はずっと警戒していたけど、そんな弱体化した姿で俺の前に出てくるとは・・・俺を誘っているのか?
かつては俺を組し抱いた君が、今度は俺にメスにされたいのかいっ?
ああっ・・・ 滾る。今すぐ君を滅茶苦茶にしてやりたいよっ!!」
そう言いながら、みるみるうちに魔力を昂らせる高き館の主様。その魔力はただ、そこにあるだけで大地を溶かし、空気を振動させます。私たちはタヴァエル様が張って下さった結界のおかげで無事ですが、多くの人間が高き館の主様の魔力に焼かれて死んでいきますっ!!
「あああっ!? お、おやめくださりませっ!?
あ、あなた様の家臣が死に絶えてしまいますっ!!」
私が懇願しても猛り狂った高き館の主様の高ぶりは収まるところを知りません。
「やかましいっ!! こんな人間が俺の家臣だとっ!?
無礼を言うの大概にせよっ!! この場で全員殺してくれようかっ!?」
高き館の主様がそう仰ったときでした。あたり一面から大雷鳴が鳴り響き、次元の壁を引き裂いて数えきれないほど異界の門が現れました。
そして、異界の王だけでなくヴァレリオ様、アンナお姉様、魔神シェーン・シェーン・クー様もこの場に馳せ参じるのでした。
「高き館の主・・・。1000を超す異界の王がお前を討伐にやって来る。
お前の企みはラーマが阻止し、お前の配下の魔神もお兄様の配下の魔神が懲らしめた。
今日は潔く去れ。それとも今日、ここで死ぬか?」
タヴァエルお姉様が尋常ではない殺気を発すると、高き館の主様は怒り狂って人間をさらに殺し、叫びました。
「覚えていろっ!! 必ず貴様らを殺して見せるっ!! この世界を滅ぼして、今日、ここに集まった異界の王の世界も各個撃破で潰してやるっ!!
そして、ルーちゃんを俺の女として飼いならしてくれるっ!!」
高き館の主様は、そう言ってお姿をお隠しになられる瞬間、信じられないほどの魔力爆発を起こしてその場にいた者共の殺し尽くしました・・・。
あとには6万を超える屍が残るのみでした。
「きゃああああああ~~~~~っ!!!」
ゴルゴダ公国・・・。かつて異界に存在たしゃれこうべの丘と言う場所から取った名前だと教えてくださった明けの明星様を思い出しながら私は狂ったように絶叫するのでした・・・。
我が名はラーマ・シュー。魔族の女王にしてあなた様を糾弾する者。
ご自分の心に恥じるところがないのならば、お名前をどうぞ。」
突如、大雷鳴と共にお姿をお見せになられた魔王様に対して、私は敬語を使いながらも平伏することはせずに睨みつけながら物を申します。
このお方が何者か既に存じ上げているからです。
しかし、いかに尊き位にまで昇華なさっている魔王様と雖も異界を消滅させ、その上、哀れな人間の国を裏で操り私の国を滅ぼそうとする許しがたい存在である以上、私は一歩も引くわけには、いけないのです。
ですが、私にどうこうするフェデリコは違いました。
「ちょ、ちょちょちょ・・・何を言い出すんですかっ!? このアホ姫様めっ!!
す、すみません。尊き御方、この姫、ちょっとアホな子なんで許してやってくださいっ!!
ほらっ!! 姫様も一緒に謝って下さいっ!!」
フェデリコは私の体と頭を両手で掴むとぐいぐい地面に押し付けて必死で異界の魔王様に謝ります。
「嫌~~~っ!! 私、絶対に謝りませんっ!!」
私は必死で抵抗して頭を起こそうとするのですが、しょせんは蝶よ花よと育てられたお姫様。前線で戦い続けた騎士の腕力の前では赤子も同然。私を押さえつけるフェデリコの両腕はビクともせず、私は地面に這いつくばってフェデリコと一緒に異界の魔王様に土下座する形になっています。
「だめ~~っ!! フェデリコ、余計なことしないでっ!!
こ、こんなの全然、敵対している者の姿に見えないじゃないのっ!!」
「おだまんなさいっ! このアホ姫様っ!!
このお方の逆鱗に触れたら、世界がどうなるのかわからないんですよっ!!
ほらっ!! みんなをご覧なさいっ!!
この場にいる誰もが異界の魔王様の御威光に畏怖して土下座しているじゃありませんかっ!!
姫様だけですよっ!? こんな常識外れの魔力の持ち主に対してそんな無礼を働くのはっ!!
本当に頭おかしいんじゃないんですかっ!? あなたはっ!!」
ボロカス言われました・・・。
酷いっ!! せっかく、私が非道な魔王様に対して決死の覚悟で物申したというのに、全然格好がつかないじゃないですかっ!!
ほらっ!! 大雷鳴と共に登場なさった異界の魔王様も大爆笑で私を指差しているじゃありませんかっ!!
「なんだお前っ!! 何だお前はっ!?
あははははははっ!! 余に逆らうどころか、そんなロマンスグレーのおっさんに押さえつけられてるじゃないかっ!!
あはははははっ!!」
大爆笑です。
「こ、こんなの屈辱過ぎますっ!!
手を離しなさいっ!! フェデリコ。主に対して無礼ですわよっ!
私は今からあの魔王様にガツンと言ってあげるんですからっ! 手を離しなさいっ!!」
「真正のアホなんですかっ!? 姫様はっ!!
私たちが今、生きていられるのは異界の魔王様のお慈悲によるものですよっ!?
これ以上の無礼はマジでやめてください、世界が滅びますっ!?」
フェデリコは半狂乱になって私の頭を地面にゴリゴリ押し付けます。痛すぎます。
影の中から魔神リーン・リーン・グー様が掌を差し出して地面と私の顔が擦れないように支えてくれてなかったら、私の顔は擦り傷まみれになってますわっ!?
「いた~いっ!! 本当にやめてよっ!!
いたい、いたい、いたいっ!!」
私が泣きべそをかくとフェデリコは我に返って「ああっ!? ひ、姫様、ご無事でっ!?」なんて言って手をどけてくれましたが、本当に痛かったですわ・・・。涙もショックで止まらなくなってきました。
生まれて初めてここまでひどい目にあった私がショックのあまりひきつけを起こして泣きだしたのを見て、異界の魔王様は手を叩いてお喜びになり、私の話を聞くを仰ったのです。
「なんだ? お前っ!?
えらい啖呵を切っておきながら、そんなことで泣きじゃくるのかよっ!?
おもしろいっ!?
お前のその頭の悪さと部下の忠義に免じて話を聞いてやるっ。
面を上げて物申せっ!!」
異界の魔王様がそう仰ると、フェデリコは慌てて私から身を退かせると両手をついて深々と平伏します。その様子をご覧になって異界の魔王様は満足そうに頷かれますと、今度は私の方を向いてその顎をクイッと上げて無言で「話せ」と指示なさいました。
私は、立ち上がるとまっすぐに異界の魔王様を見つめて進言いたします。
「ひく・・・だ、だからぁ・・・あなた様はそんなに偉大なのに・・・・ううっ
うええええ~~んっっ!!」
ただ、私はフェデリコに押さえつけられたショックから戻れずにひきつけを起こして話すどころではありません。
これをみて魔王様、再び大爆笑。
「あはははっ!! おい、お前っ!! いい加減にしろっ!!
泣いて話にならんじゃないかっ!!
ああ、もういいっ!! お前が泣き止むまで暫く休憩だっ!
おお~いっ!! 誰かお茶持って来いっ!! 休憩だ~~っ!!」
異界の魔王様の特別の御計らいで私たちは休憩を挟んでから、話し合うことになりました。
途中、明けの明星様とタヴァエルお姉様が私の肩を抱いたりヨシヨシと頭を撫でたりしてくださって慰めてくださったおかげでどうにか短時間で泣き止むことができ、私たちは戦場の真ん中に広げられたテーブルに着座して話し合うことになりました。
「それで? お前は余に何が言いたい?」
異界の魔王様は私を指差すと話を切り出されました。平静を取り戻した私はまっすぐにお答えします。
「まずは、御身の御尊名をお聞かせくださいませ。」
私がそう言うと異界の魔王様は顎に手を当てて「ふ~む。どうしたことか・・・。」と考え込んでしまわれました。
そこまで名乗りとは難しいものなのでしょうか?
そう言えば、フェデリコも明けの明星様と初めて敵対した時、できるだけ名前を呼ばぬようにしていましたわね。そうすることで縁を作らぬようにして呪いを避けるのだとか。
・・・しかし、異界の魔王様が私に呪いをかぶせないように気を使われる必要があるのでしょうか?
私が不審に思いながら異界の魔王様の返答を待っていると明けの明星様が解説してくれました。
「ああ。それはあれや。
高貴な者は高貴な者で下等なものに縁を作ると厄介な面倒を見てやらにゃならんからな、それがメンドイいうてこの男は嫌がっとるねん。」
「・・・へぇ、高貴なお方には高貴なお方の御面倒があるのですね。」
「せやで。俺は気前ええから何でもかんでも名前言うてるようにお前は思うてるか知らんけど、俺の明けの明星かて、本当の意味では俺の名前ではないんやで?」
「ああ・・そういえばそうですわね。
納得です。そういえば明けの明星様もこれはコードネームだと仰っておられましたもんね・・・。」
私がそう言うと異界の魔王様は、紅茶を拭きだして大笑い成されました。きったないです。
「あはははははっ!! ルーちゃん、コードネームとか言ってるのか?
バッカじゃないのっ!?」
異界の魔王様に爆笑されて明けの明星様は顔を真っ赤にして私に文句を言います。
「ああああ、アホたれっ!! そんな話、こいつに聞かせんなやっ!!」
「ははははっ! ルーちゃん、相変わらず中二病をこじらせすぎだろっ!!」
「ああああっ!? い、言うたなっ!?
お前にだってあるやろっ!! そういう名前っ!!
ほれっ!? なんやったっけ? ・・・ええと、タヴァエルっ!! こいつの恥ずかしい名前、言うたってくれっ!!」
異界の魔王様にバカにされた明けの明星様は、苦し紛れにタヴァエルお姉様の助力を求めます。
タヴァエルお姉様はいやらしい笑みを浮かべてバカにするように仰いました。
「お兄様・・・。『高き館の主』ですわっ・・・。
随分と・・まぁ・・・カッコいいコードネームだ事・・。くすくすくす。」
うわぁ・・・。タヴァエルお姉様。きっついですわぁ~~・・・。
異界の魔王様もいたたまれなくなって、椅子から起立なされるとタヴァエルお姉様を指差してお怒りになられました。
「なんだぁっ!? お前はっ!!
俺たちが考えたカッコいい名前をバカにする気かぁっ!!」
と、そこまで言ってから異界の魔王様、我に返って言いました。
「て、いうかっ!!
お前らいつの間にシレッと登場してるんだよっ!!」
・・・・・・はっ!! 言われて私もハッとしました。
「ええええええ~~~っ!? あ、明けの明星様っ!? タヴァエルお姉様っ!?
い、いいいい、いつの間にぃ~~~~っ!?」
驚く私たちにタヴァエルお姉様が呆れたように仰いました。
「ラーマ。あなたは泣きじゃくっていて気が付かなかったのかもしれませんが、あなたが泣きているときからずっといましたよ。
私たちは『高き館の主』が現界したときから、危険を察知して臨戦態勢で隠れ潜んでいたのですが・・・。
あなた達が大爆笑のお笑いトークを始めたので、戦闘の空気が一気に薄れてこのザマです。」
タヴァエルお姉様は、はぁっとため息をつくとお紅茶一口飲まれました。
「あら、美味しい。いい茶っぱを使ってますね。」
タヴァエルお姉様がご機嫌そうにそう仰ると、それがさらに異界の魔王様「高き館の主」様のお怒りを誘うのでした。
「やかましいっ!!
お前に御馳走するつもりで出したお茶と違うんだぞっ!」
「まぁまぁ、そんなにカッカすんなや、高き館の主。」
明けの明星様がそう言って高き館の主様をお宥めになると、高き館の主様は、一瞬固まってから、しげしげと明けの明星様をご覧になってからお尋ねなされました。
「ルーちゃん。なんだかおかしくないか?
なんで、そんなに訛っているんだ?
それにその少年の姿は何だ? あれだけ美しくたくましかったルーちゃんが見る影もないほど弱弱しい・・・。」
そういってマジマジ見つめながら高き館の主様は明けの明星様のお姿に違和感を感じておられるようでした。
「そもそもなんで、そんなに魔力が少ないんだ?
信じられん・・・。それともあれか? 俺の事をなめているのか?」
明けの明星様は不思議そうに尋ねる高き館の主様に向かって「お前は俺に舐められるのが好きだったろ?」と言って茶化すのでした。
「まぁ、それはな・・・。だが、それは逞しいルーちゃんだった時の話だ。
今はルーちゃんに抱かれたいとは思わない。
それどころか、そんなに弱弱しい姿を見ると、あの高貴なルーちゃんを組み伏せて泣きよがらせたい気持ちにすらなる。」
・・・はい?
「おいおい。俺は相変わらず逞しいぞ?
お前をヒィヒィ泣かせてたこいつも健在や。」
そう仰ると明けの明星様はご自身の黒ヘビをいきりたたせてテーブルをひっくり返しました。
「きゃあああああ~~~っ!! な、なにをするんですかぁ~~~っ!!」
「ダメですっ!! ラーマ、見てはいいけませんっ!! 目が穢れますっ!!」
「ああんっ!! ルーちゃん、相変わらず逞しいっ!!」
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「いや・・・、まて・・・。どうもおかしいな?
もしかしてルーちゃん。不完全な状態で復活してるんじゃないのか?」
・・・ぎくっ!! そういえば、明けの明星様は本来の御姿の100分の1の状態で復活成されています。その事に気が付かれたのでしょうか?
そして、そんな私の心の動揺は高き館の主様が敏感に感じ取り、確信をもって確定します。
「やっぱり、そうかっ!!
ルーちゃん。相当弱体化しているな? 君が復活したことを知っていて俺はずっと警戒していたけど、そんな弱体化した姿で俺の前に出てくるとは・・・俺を誘っているのか?
かつては俺を組し抱いた君が、今度は俺にメスにされたいのかいっ?
ああっ・・・ 滾る。今すぐ君を滅茶苦茶にしてやりたいよっ!!」
そう言いながら、みるみるうちに魔力を昂らせる高き館の主様。その魔力はただ、そこにあるだけで大地を溶かし、空気を振動させます。私たちはタヴァエル様が張って下さった結界のおかげで無事ですが、多くの人間が高き館の主様の魔力に焼かれて死んでいきますっ!!
「あああっ!? お、おやめくださりませっ!?
あ、あなた様の家臣が死に絶えてしまいますっ!!」
私が懇願しても猛り狂った高き館の主様の高ぶりは収まるところを知りません。
「やかましいっ!! こんな人間が俺の家臣だとっ!?
無礼を言うの大概にせよっ!! この場で全員殺してくれようかっ!?」
高き館の主様がそう仰ったときでした。あたり一面から大雷鳴が鳴り響き、次元の壁を引き裂いて数えきれないほど異界の門が現れました。
そして、異界の王だけでなくヴァレリオ様、アンナお姉様、魔神シェーン・シェーン・クー様もこの場に馳せ参じるのでした。
「高き館の主・・・。1000を超す異界の王がお前を討伐にやって来る。
お前の企みはラーマが阻止し、お前の配下の魔神もお兄様の配下の魔神が懲らしめた。
今日は潔く去れ。それとも今日、ここで死ぬか?」
タヴァエルお姉様が尋常ではない殺気を発すると、高き館の主様は怒り狂って人間をさらに殺し、叫びました。
「覚えていろっ!! 必ず貴様らを殺して見せるっ!! この世界を滅ぼして、今日、ここに集まった異界の王の世界も各個撃破で潰してやるっ!!
そして、ルーちゃんを俺の女として飼いならしてくれるっ!!」
高き館の主様は、そう言ってお姿をお隠しになられる瞬間、信じられないほどの魔力爆発を起こしてその場にいた者共の殺し尽くしました・・・。
あとには6万を超える屍が残るのみでした。
「きゃああああああ~~~~~っ!!!」
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