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第3章「ゴルゴダの丘」
第72話 絶望と希望
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アンナお姉様達がお姿をお消しになられると、人間の部隊が動き始め、いよいよ私の出番が回ってきました。
私は鎧に身を包み、遠くから近寄ってくる兵士を城の窓から眺めていましたが、やがて敵が近づくに合わせて城門の前にまで降り、乗馬して敵を待ち構えます。
程なくすると敵軍が城から馬で走って四半刻以下ほどの距離まで近づき、そこで一旦停止いたします。
次に白旗を掲げた7名が乗る馬車がゆっくりと近づき城と軍隊の中央で停止しました。
「どうやら人間たちは神々の真似事がしたいようですね。」
私がヴァレリオ様の親衛隊長のジャコモ・ベルナルディに話しかけると、ジャコモは私に
「これは古伝に則った戦いの作法です。おそらくあの7名の内、身なりがよすぎる5名が人間の国の中でも大国の5国の国王でしょう。
ジェノバ国王ピエトロ・ルー。
ヴェネト国王ベニート・ホー・ルー
リグリーア国王ヤコボ・ロー
サレルノ国王エンツォ・マー
リミニ国王ダニエラ・ター・ター。紅一点の彼女だけはわかりやすいですね。でも、他は誰が誰だか・・・。」
「ダニエラ・ター・ター・・・。私と同じ女王なのですね。」
ジャコモの説明を受けて改めて7名を見ていると、確かに身なりの良すぎる人間が5名。そして、私と同じピンクの鎧を着た女性らしい人物がいるのがわかりました。
(私と同じ女王。一体どのような方なのかしら・・・)
彼女に興味がそそられた私は心の中でつぶやくのでした。
「姫様。敵とはいえ王族をあまり待たせてはいけません。
これから戦うというのに王同士で語り合うこの古伝の習わしは、応じても応じなくても問題はないのですが、我軍の品格を問われてしまいます。
そして何よりも姫様が和平を望まれるのなら、その会話をできる今を利用しない手は無いかもしれません。
いずれにしても速やかにご決断、お下知くださりませ。」(※下知とは命令のこと)
ジャコモは私にそう催促すると深々と頭を下げて私の下知を待つのでした。
私はしばらく黙っていましたが、ジャコモの言う通り和平の話を持ち出せる絶好の機械なら利用しない手は無いでしょう。
「ジャコモ・・・。私、彼らと話してみたいと思います。」
私がそう下知するとジャコモは顔を上げて、自分が最も信頼する4名の騎士を私に紹介します。
「この者達は元々、エデンができるまでは各国の騎士団長を務めたほどの騎士。護衛としてお供されるのなら、私とこの者達以外にあり得ません。」
ジャコモは自信満々にそういうのですが、それもそのはず4名ともジャコモに勝るとも劣らない屈強な騎士達でした。彼らなら大丈夫でしょうと私も同意し、ジャコモに向かって頷きました。
しかし、彼らだけが護衛であることに不満を持つ御方がおられました。
「ラーマ姫。私もお前の騎士として護衛につこう。
明けの明星様に命を吹き込まれし私の使命はお前の護衛。嫌と言ってもついていくのでそのつもりでいてくれたまえ。」
私の馬の影から声がしたかと思えば、魔神様が姿をお見せになられました。この魔神様は以前、明けの明星様の魔力をお借りして死霊術を使った時に偶然、復活させてしまった魔神様でした。今は明けの明星様の手によって魂を吹き込まれて私の護衛をしてくださっておられます。
魔神リーン・リーン・グー様。普段はヴァレリオ様ほどの身長ですが、その本性は現在は絶滅してしまった巨人族、そのたった一人の生き残り。・・・いえ、最近まで死んでいたので黄泉返りですね。
漆黒の髪に金の瞳を持つ闇の魔神様です。
ジャコモたちはリーン・リーン・グー様の邪悪な気配にドン引きしつつも、やがてその頼もしさに気が付き、気を取り直して出撃を決意します。
「姫様。
では、参りましょう。どうぞ、私の後からおいで下さいませ」
ジャコモはそう言うと自分の馬を軽やかに優雅に操って城門の外へ移動を始めます。私も彼の言うとおりに馬を操って城門の外へ出ると、私の前後左右に馬に乗った騎士が護衛としてついて来てくれました。
さらに私の馬の影には魔神リーン・リーン・グー様が隠れています。何も恐れるものはありません。
私たちはジャコモを先頭に敵兵の前に立ち並ぶのでした。
通常ならば、ここで呼び出した人間の国の王たちが名乗りを上げるはずでした。ですが、彼らは私を見た途端に驚きの声を上げたのでした。
「な、なんと美しい姫なのだっ!!」
「と、とてもこの世の者とは思えぬ。豊穣神ミュー・ニャー・ニャー様と比べても全く比類なき美しさだっ!!」
「もしかしてこの姫が魔族の国王どもを誑し込んだ魔女か?」
「いや、そうであろう。で、あれば魔族国家の平定も納得も出来よう。」
人間の王たちから口々に身に覚えのない言いがかりをつけられて若干苛立つ私でしたが、それでもまずは挨拶からです。
「無礼な振る舞い、今はその罪を問わないでおきましょう。
それよりも人間の国の王は古伝の作法もお忘れか?
私を呼び出したのだから、まずは自己紹介をするべきでは?」
私にそう言われてハッと我に返った人間の王たちは、自己紹介を始めるのでした。そして彼らの素性はジャコモが予想した通りの人物たちでした。彼らは順番に自分の名を告げた後に、今度は彼らが私の名を問うのです。
「・・・。魔族と人間の混血の姫よ。聞かせてくれたまえ。君の名は?」
ジャコモ国王ピエトロ・ルーは彼らを代表して、私に兜を脱いで尋ねるのでした。礼法を護った挨拶に私は感心しつつ、同じく古伝の作法に則った女王の仕草で私は自己紹介をします。
「私の名はラーマ・シュー。魔族統一国家エデンの女王です。
側に控えるこの者達は我が家臣故、気になされませぬよう・・・」
私の自己紹介を聞いた人間の王たちは「おお。見た目だけでなく名前まで麗しい姫君だ」と讃えてくれたのですが、そのあとがいけません、
「どうだ? 我が妃にならぬか?
魔族は全員皆殺しだが、そなたは別だ。生かしておいてやるから、降伏しろ。」
「いやいや。この者は我が側室にする。
その方は下がっておれ」
「いやいや、我が妻に・・・」
などといやらしい目で私を見ながら私を口説き始めたのです。
これから戦争だというのに、なんとお気楽な連中なのでしょう? きっと彼らの心は魔神様だけではなく、土と光の国を滅ぼした異界の魔王がバックにいることの安心感に胡坐をかいてしまい危機管理能力が霧散してしまっているのでしょう。
私は呆れたようにため息を一つ吐くと、彼らに和平を勧めます。
「聞きなさい。人間の国王たち。
私たちは戦争を望みません。もし闘えば、あなた方は敗北します。
無駄な殺生はしたくはないのです。だから色欲に溺れていないで私の話を聞きなさい」
「争いよりも同盟を締結しませんか? 互いに領土不可侵を誓いあい、対等な外交をしましょう。傷つけあってなんになるというのですか。それよりもお互いの国の子供が豊かに過ごせる未来を共に築こうではありませんか」
私がそう勧告しても人間の王たちは私の体を舐めまわすように見つめ卑猥なことばかり言うのですが、ただ一人、人間の女王ダニエラ・ター・ターだけが私と会話をなさるおつもりのようで私の勧告に対して返答をよこしたのでした。
「ラーマ姫。そなたは本当に穢れのない存在のようですが、それは聞き入れられません。
何故なら、戦えば我らこそ必ず勝利するからです。我らの神はそなたが契約している神々よりも強い。
戦争になればどちらが勝つかは目に見えています。」
彼女は自信たっぷりにそう言いました。その自信、わかります。
だって、彼女たちのバックには土と光の国を滅ぼした異界の魔王様がおられるのです。自信をもって当然です。
彼女の気持ちもわかる私でした。きっとこの和平交渉は上手くいかないでしょう。ここまで自信過剰になられたら会話で説得するのは難しいのです。
しかし、むざむざ死んでしまう道を選ぶものを見過ごすことは出来ません。
私は改めて彼女に提案するのでした。
「・・・勝てるとお思いですか? 俄かには信じがたいでしょうが、我らのバックには魔神様をはるかに凌駕する存在が控えているのですよ?」
「争う事は無益です。あなた方は全てを失い。大勢が死に絶えます。
しかし、私たちはそれを望みません。あなた方を敗北させ服従させることも望まないというのです。
どうか、あなた方の明日のために私と和平条約を結ぶ道をお選びください。」
私の提案は人間たちからすれば酷く傲慢なものに思われたのでしょう。
ダニエラ・ター・ターだけでなく、他の王たちも私の提案を聞いて「はっ!」と鼻で笑うのでした。
「お前ら魔族は俺達がどれほどの存在に操られているか知るまい。
戦争で負けるのはお前達だ。」
ジェノバ国王ピエトロ・ルーはとても意味深長な事を言いました。それは彼らが彼らの背後にいる異界の魔王様の非道さと恐ろしさを認知していると証言するに等しい言葉でした。私は尋ねます。
「あなた方は、自分たちの背後にいる魔王様の恐ろしさを知っているのですか?
知っている上で戦争を仕掛けたのですか? 一体、なぜ?」
私は問います。いくらなんでもそんな危険な魔王様に心許して戦争を起こすなど、無策に過ぎるのです。
しかし、ピエトロ・ルーは答えます。
「我等の魔王が危険だと?
それがどうした? 例えそうだとしても従わなければ殺される。」
従わねば殺される。そんな危険な相手となんの取引が成立するというのでしょうか? 私は彼らを正気を問いただします。
「どうして、そんな危険な相手に約束を守ってもらえると思うのですか? 彼の者があなた方を皆殺しにする気でいるかもしれないと思いつつも何故従うのですか?」
ピエトロ・ルーは答えました。
「そうと分かっていても従うしかない。
例え魔族の国を滅ぼしても、我ら一族郎党が皆殺しにされるかもしれない。」
「しかし、そう思っていても従う以外の道はない。
私たちは自分たちを守るために信じるしかない物にすがってまで生き残りたいのだ。」
その返答は衝撃的でした。彼らは知っているのです。自分たちを操る異界の魔王様の恐ろしさを。たとえ従ったとしてもその後に皆殺しにされるかもしれないことを・・・。
しかし、それでも従った方が生き残れる可能性がある。あるんだと信じて、思い込むことで行動しているのだと宣言するようなもの・・・。私は彼らの絶望を知って、この和平交渉の難しさを改めて知るのでした。
私は鎧に身を包み、遠くから近寄ってくる兵士を城の窓から眺めていましたが、やがて敵が近づくに合わせて城門の前にまで降り、乗馬して敵を待ち構えます。
程なくすると敵軍が城から馬で走って四半刻以下ほどの距離まで近づき、そこで一旦停止いたします。
次に白旗を掲げた7名が乗る馬車がゆっくりと近づき城と軍隊の中央で停止しました。
「どうやら人間たちは神々の真似事がしたいようですね。」
私がヴァレリオ様の親衛隊長のジャコモ・ベルナルディに話しかけると、ジャコモは私に
「これは古伝に則った戦いの作法です。おそらくあの7名の内、身なりがよすぎる5名が人間の国の中でも大国の5国の国王でしょう。
ジェノバ国王ピエトロ・ルー。
ヴェネト国王ベニート・ホー・ルー
リグリーア国王ヤコボ・ロー
サレルノ国王エンツォ・マー
リミニ国王ダニエラ・ター・ター。紅一点の彼女だけはわかりやすいですね。でも、他は誰が誰だか・・・。」
「ダニエラ・ター・ター・・・。私と同じ女王なのですね。」
ジャコモの説明を受けて改めて7名を見ていると、確かに身なりの良すぎる人間が5名。そして、私と同じピンクの鎧を着た女性らしい人物がいるのがわかりました。
(私と同じ女王。一体どのような方なのかしら・・・)
彼女に興味がそそられた私は心の中でつぶやくのでした。
「姫様。敵とはいえ王族をあまり待たせてはいけません。
これから戦うというのに王同士で語り合うこの古伝の習わしは、応じても応じなくても問題はないのですが、我軍の品格を問われてしまいます。
そして何よりも姫様が和平を望まれるのなら、その会話をできる今を利用しない手は無いかもしれません。
いずれにしても速やかにご決断、お下知くださりませ。」(※下知とは命令のこと)
ジャコモは私にそう催促すると深々と頭を下げて私の下知を待つのでした。
私はしばらく黙っていましたが、ジャコモの言う通り和平の話を持ち出せる絶好の機械なら利用しない手は無いでしょう。
「ジャコモ・・・。私、彼らと話してみたいと思います。」
私がそう下知するとジャコモは顔を上げて、自分が最も信頼する4名の騎士を私に紹介します。
「この者達は元々、エデンができるまでは各国の騎士団長を務めたほどの騎士。護衛としてお供されるのなら、私とこの者達以外にあり得ません。」
ジャコモは自信満々にそういうのですが、それもそのはず4名ともジャコモに勝るとも劣らない屈強な騎士達でした。彼らなら大丈夫でしょうと私も同意し、ジャコモに向かって頷きました。
しかし、彼らだけが護衛であることに不満を持つ御方がおられました。
「ラーマ姫。私もお前の騎士として護衛につこう。
明けの明星様に命を吹き込まれし私の使命はお前の護衛。嫌と言ってもついていくのでそのつもりでいてくれたまえ。」
私の馬の影から声がしたかと思えば、魔神様が姿をお見せになられました。この魔神様は以前、明けの明星様の魔力をお借りして死霊術を使った時に偶然、復活させてしまった魔神様でした。今は明けの明星様の手によって魂を吹き込まれて私の護衛をしてくださっておられます。
魔神リーン・リーン・グー様。普段はヴァレリオ様ほどの身長ですが、その本性は現在は絶滅してしまった巨人族、そのたった一人の生き残り。・・・いえ、最近まで死んでいたので黄泉返りですね。
漆黒の髪に金の瞳を持つ闇の魔神様です。
ジャコモたちはリーン・リーン・グー様の邪悪な気配にドン引きしつつも、やがてその頼もしさに気が付き、気を取り直して出撃を決意します。
「姫様。
では、参りましょう。どうぞ、私の後からおいで下さいませ」
ジャコモはそう言うと自分の馬を軽やかに優雅に操って城門の外へ移動を始めます。私も彼の言うとおりに馬を操って城門の外へ出ると、私の前後左右に馬に乗った騎士が護衛としてついて来てくれました。
さらに私の馬の影には魔神リーン・リーン・グー様が隠れています。何も恐れるものはありません。
私たちはジャコモを先頭に敵兵の前に立ち並ぶのでした。
通常ならば、ここで呼び出した人間の国の王たちが名乗りを上げるはずでした。ですが、彼らは私を見た途端に驚きの声を上げたのでした。
「な、なんと美しい姫なのだっ!!」
「と、とてもこの世の者とは思えぬ。豊穣神ミュー・ニャー・ニャー様と比べても全く比類なき美しさだっ!!」
「もしかしてこの姫が魔族の国王どもを誑し込んだ魔女か?」
「いや、そうであろう。で、あれば魔族国家の平定も納得も出来よう。」
人間の王たちから口々に身に覚えのない言いがかりをつけられて若干苛立つ私でしたが、それでもまずは挨拶からです。
「無礼な振る舞い、今はその罪を問わないでおきましょう。
それよりも人間の国の王は古伝の作法もお忘れか?
私を呼び出したのだから、まずは自己紹介をするべきでは?」
私にそう言われてハッと我に返った人間の王たちは、自己紹介を始めるのでした。そして彼らの素性はジャコモが予想した通りの人物たちでした。彼らは順番に自分の名を告げた後に、今度は彼らが私の名を問うのです。
「・・・。魔族と人間の混血の姫よ。聞かせてくれたまえ。君の名は?」
ジャコモ国王ピエトロ・ルーは彼らを代表して、私に兜を脱いで尋ねるのでした。礼法を護った挨拶に私は感心しつつ、同じく古伝の作法に則った女王の仕草で私は自己紹介をします。
「私の名はラーマ・シュー。魔族統一国家エデンの女王です。
側に控えるこの者達は我が家臣故、気になされませぬよう・・・」
私の自己紹介を聞いた人間の王たちは「おお。見た目だけでなく名前まで麗しい姫君だ」と讃えてくれたのですが、そのあとがいけません、
「どうだ? 我が妃にならぬか?
魔族は全員皆殺しだが、そなたは別だ。生かしておいてやるから、降伏しろ。」
「いやいや。この者は我が側室にする。
その方は下がっておれ」
「いやいや、我が妻に・・・」
などといやらしい目で私を見ながら私を口説き始めたのです。
これから戦争だというのに、なんとお気楽な連中なのでしょう? きっと彼らの心は魔神様だけではなく、土と光の国を滅ぼした異界の魔王がバックにいることの安心感に胡坐をかいてしまい危機管理能力が霧散してしまっているのでしょう。
私は呆れたようにため息を一つ吐くと、彼らに和平を勧めます。
「聞きなさい。人間の国王たち。
私たちは戦争を望みません。もし闘えば、あなた方は敗北します。
無駄な殺生はしたくはないのです。だから色欲に溺れていないで私の話を聞きなさい」
「争いよりも同盟を締結しませんか? 互いに領土不可侵を誓いあい、対等な外交をしましょう。傷つけあってなんになるというのですか。それよりもお互いの国の子供が豊かに過ごせる未来を共に築こうではありませんか」
私がそう勧告しても人間の王たちは私の体を舐めまわすように見つめ卑猥なことばかり言うのですが、ただ一人、人間の女王ダニエラ・ター・ターだけが私と会話をなさるおつもりのようで私の勧告に対して返答をよこしたのでした。
「ラーマ姫。そなたは本当に穢れのない存在のようですが、それは聞き入れられません。
何故なら、戦えば我らこそ必ず勝利するからです。我らの神はそなたが契約している神々よりも強い。
戦争になればどちらが勝つかは目に見えています。」
彼女は自信たっぷりにそう言いました。その自信、わかります。
だって、彼女たちのバックには土と光の国を滅ぼした異界の魔王様がおられるのです。自信をもって当然です。
彼女の気持ちもわかる私でした。きっとこの和平交渉は上手くいかないでしょう。ここまで自信過剰になられたら会話で説得するのは難しいのです。
しかし、むざむざ死んでしまう道を選ぶものを見過ごすことは出来ません。
私は改めて彼女に提案するのでした。
「・・・勝てるとお思いですか? 俄かには信じがたいでしょうが、我らのバックには魔神様をはるかに凌駕する存在が控えているのですよ?」
「争う事は無益です。あなた方は全てを失い。大勢が死に絶えます。
しかし、私たちはそれを望みません。あなた方を敗北させ服従させることも望まないというのです。
どうか、あなた方の明日のために私と和平条約を結ぶ道をお選びください。」
私の提案は人間たちからすれば酷く傲慢なものに思われたのでしょう。
ダニエラ・ター・ターだけでなく、他の王たちも私の提案を聞いて「はっ!」と鼻で笑うのでした。
「お前ら魔族は俺達がどれほどの存在に操られているか知るまい。
戦争で負けるのはお前達だ。」
ジェノバ国王ピエトロ・ルーはとても意味深長な事を言いました。それは彼らが彼らの背後にいる異界の魔王様の非道さと恐ろしさを認知していると証言するに等しい言葉でした。私は尋ねます。
「あなた方は、自分たちの背後にいる魔王様の恐ろしさを知っているのですか?
知っている上で戦争を仕掛けたのですか? 一体、なぜ?」
私は問います。いくらなんでもそんな危険な魔王様に心許して戦争を起こすなど、無策に過ぎるのです。
しかし、ピエトロ・ルーは答えます。
「我等の魔王が危険だと?
それがどうした? 例えそうだとしても従わなければ殺される。」
従わねば殺される。そんな危険な相手となんの取引が成立するというのでしょうか? 私は彼らを正気を問いただします。
「どうして、そんな危険な相手に約束を守ってもらえると思うのですか? 彼の者があなた方を皆殺しにする気でいるかもしれないと思いつつも何故従うのですか?」
ピエトロ・ルーは答えました。
「そうと分かっていても従うしかない。
例え魔族の国を滅ぼしても、我ら一族郎党が皆殺しにされるかもしれない。」
「しかし、そう思っていても従う以外の道はない。
私たちは自分たちを守るために信じるしかない物にすがってまで生き残りたいのだ。」
その返答は衝撃的でした。彼らは知っているのです。自分たちを操る異界の魔王様の恐ろしさを。たとえ従ったとしてもその後に皆殺しにされるかもしれないことを・・・。
しかし、それでも従った方が生き残れる可能性がある。あるんだと信じて、思い込むことで行動しているのだと宣言するようなもの・・・。私は彼らの絶望を知って、この和平交渉の難しさを改めて知るのでした。
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