魔王〜明けの明星〜

黒神譚

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第3章「ゴルゴダの丘」

第71話 アンナ・ラー争奪戦

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 明けの明星様と楽しくも甘い一夜を過ごした翌朝。人間の国の連合軍の姿がゴルゴダの王城から視認できるようになりました。ジェノバ軍は太鼓を鳴らせて進軍してきたのです。山を越え、平原に並び立つ6万を超す兵士の描く槍衾やりぶすまにヴァレリオ様が「こ、こんなすごい光景は初めて見た・・・。」と、ため息をつきました。
 
 そんなヴァレリオ様の肩を叩く明けの明星様は6万の兵の一部を指差して仰りました。

「見てみぃ。お前を呼んどるぞ。」

 私の目には見えませんでしたが、ヴァレリオ様やアンナお姉様の目にはそこに何があるのか見えるようです。
 アンナお姉様はそれを見て怯えるように言いました。

「魔神スーリ・スーラ・リーンっ!!」

 続けてヴァレリオ様が言いました。

「他の魔神も揃っていますね。どうやら私達を待っているようですね。」

 最後に魔神シェーン・シェーン・クー様が
「向こうも我々の戦争に人間を巻き込みたくない気持ちは同じだ。アンナお姉様、ヴァレリオ。待たせる理由はない。行こう。」と、誘うと明けの明星様に一礼なさるのです。

「では、旦那様、行ってまいります。
 二人の事は私にお任せください。首尾よく終わりましたら、私から先にご褒美をくださいませ。」

「ふっ。自分の役割と戦況を言われずともよく理解しとるなシェーン・シェーン・クー。
 わかった、わかった。相手が待っとるし、早よいねやいけよ。」
 
 明けの明星様に冷たくあしらわれたというのにシェーン・シェーン・クー様はどこか嬉しそうに二人の手を引いて風よりも早く駆けだして行かれました。
 明けの明星様はそんな3人を見送りながら私に向かって
「あいつらが心配やろう?
 どうなるか見せたるわ・・・。」と仰ると私の頭をご自分のお顔に近づけてある方向を指差します。
 すると、不思議なことに私の目もヴァレリオ様たちと同じように遥か遠くの景色が見え、明けの明星様の指差した魔神スーリ・スーラ・リーン様たちがおられる場所の音まで聞こえるようになりました。それは我が城から馬で駆けて半時はかかる距離だというのに、ハッキリ見え、そして会話もはっきり聞こえたのです。

 そこには魔神スーリ・スーラ・リーン様とシェーン・シェーン・クー様を襲った神。そしてこれまで姿をお見せにならなかった女神までおられるのでした。そして明けの明星様はその女神さまの素性を教えてくれるのでした。

「あの女神は名を豊穣神ミュー・ニャー・ニャー。本来は争いを好まぬ豊穣神。この度は連中の武力で無理やり従わされた哀れな女神や。」

 素性を聞いて驚きました。

「そ、そんな・・・。無理やり戦場に? 豊穣神は木々を焼き、畑をダメにする戦火をなによりも嫌うというのに・・・。」

 思わず同情せざるをえませんでした。

「・・・通りで今まで姿をお見せにならなかったはずです。
 争いは好まない神様だったのですね。でも、それが戦いに巻き込まれて・・・何とお気の毒な。」

 私がそう言って同情すると明けの明星様が捕捉されました。

「一応、アンナにはそこんとこを言い含めとるから、ま、無茶はせんだろうが、あいつは無限に傷を回復させるから実は一番、最初に叩かなあかん女でもある。」

 ・・・・・・戦いたくないのに一番の攻略対象とか・・・。アンナお姉様、どうか無茶な真似はしないで上げてください。私は心の中でそう願うばかりでした。

 そうこうしているうちにヴァレリオ様とシェーン・シェーン・クー様に引きずられながらアンナお姉様も登場なさったのです。あれほど先日、明けの明星様に「お前が向こうの魔神に呼び掛けせいっ!!」と言い含められていたのに、魔神スーリ・スーラ・リーン様恐怖症のためにこうなってしまいました。
 ですがアンナお姉様がこの場に来ただけで図らずも敵の3柱に大きな動揺を与えることに成功したのでした。
 何故ならこれまで姿を見せなかったアンナお姉様がついに姿を見せた時、男神だとばかりに思っておられた魔神スーリ・スーラ・リーン様が驚愕の声をお上げになられました。その慌てぶりは戦いどころではありません。

「ちょ、ちょっとまてぇっ!! そ、そそ、その気配っ!! まさか・・・
 「お、おおお、おまえ。魔神ギーン・ギーン・ラーかっ!?
 な、何故だっ!? なんでそんな美女になっているんだ?」

 ま、そうなりますわよね。
 魔神スーリ・スーラ・リーン様はかつての好敵手の変わり果てたお姿を見て驚きの声を上げます。もちろん、他の2柱の神々も「な、何で女に?」と驚きの声を上げました。
 そして、魔神スーリ・スーラ・リーン様は中でも特に驚かれています。

「おまけになんだっ!? その怪しからんサイズの乳房はっ!? 俺を誘っているのか? 誘っているんだな?
 めちゃくちゃ抱きたいぞっ!! 
 かつての好敵手を手籠めにするとか想像することも出来んことだった!!
 ダメだ我慢できん、今すぐその怪しげな服を脱げ相手をしてやるっ!!!。」

 魔神スーリ・スーラ・リーン様の興奮は相当なもののようです。なんで殿方って四六時中発情期みたいなアホたればっかりなんでしょうね? 少しはヴァレリオ様を見習ってください。
 そして、そんな憤りはアンナお姉様も感じておられるようで、ヴァレリオ様の背中に隠れながらも啖呵たんかを切って拒絶なさいました。

「おあいにく様。私には心に決めた旦那様がおられます。あなたの物などにはならないのです、
 かつては男神で闘神であった私ですが、旦那様に完膚なきまで叩きのめされた挙句に手籠めにされ、女にされたのです。ゆえに私の名は今はギーン・ギーン・ラーにあらず。今の私はアンナ・ラー。旦那様の女ですっ!!」

「「「・・・・・・・。」」」

 アンナお姉様の啖呵に3柱の神々は理解が追い付かないような表情で固まってしまいました。ま、そうなりますわよね。て、いうかお姉様。手籠めにされたというくだりいります?
 
 呆気に取られていた3柱の神々ですが、やがて魔神スーリ・スーラ・リーン様も「ま、まぁ・・・お前は元々性別があやふやな種族の出だし、そういうこともあるの・・・か?」と、頑張って納得しておられました。
 魔神スーリ・スーラ・リーン様の納得する姿を見たアンナお姉様は次に豊穣神ミュー・ニャー・ニャー様を指差して宣言なさいます。

「今の私は既に女神となり闘神ですらない。
 かくなる上は私はスーリ・スーラ・リーン、あなたなんかに関わる気はございません。そこの豊穣神が私の敵となるでしょう。」

 指を差された豊穣神ミュー・ニャー・ニャー様は、ただただ最初驚いたような表情で固まっておられました。無理も御座いませんね。争いを好まぬ豊穣神が戦いを挑まれたのです。恐怖に身も心も凍り付いてしま・・・うと思ったのですが、豊穣神ミュー・ニャー・ニャー様は歓喜の声を上げてその挑戦を喜ばれたのでした。

「ああっ! な、なんて美しい女神なの。
 こんな可愛い子が私を指名するなんてっ!! 嬉しいっ!! 私、たぎってしまいますわっ!!」

 そう言う彼女のスカートは女性に決してあるべきでない物のふくらみによって持ち上がるのでした。

「「ひ、ひいいいいっ!! な、なんでついてるんですかっ!!」」

 アンナお姉様と私は離れた場所で同時に悲鳴を上げました。
 その御様子を見て明けの明星様は「あっ・・。」と何かを思い出されたように呟かれました。

「おーい。アンナ。言い忘れとったわ。そいつは産む方とバラまく方・・・・・のどっちも出来る豊穣神だぞ~。
 見た目はスレンダー美人の女神だけど、一部オッサンみたいな部分もあるから、戦う際は気をつけろよ~。」
「ああああっ!! 旦那様っ!!
 そういうことは先に行ってくださいっ!!」

 遠くから念話を飛ばされたアンナお姉様は先ほどの威勢は何処に消えたのか、すっかり怯えてヴァレリオ様に抱き着いてしまいました。なんだか、当初の計画と違って随分と不利になってきました。
 しかも、これから決闘だというのにミュー・ニャー・ニャー様とスーリ・スーラ・リーン様がアンナお姉様を取り合って喧嘩を始める始末。

「まてまて、ミュー・ニャー・ニャー。こいつは俺が手籠めにする。
 おいっ!! ギーン・ギーン・ラー・・・いや、今はアンナ・ラーか。
 アンナ、お前、俺の女になれっ!! いやというほど満足させてやるぞ?」
「や~んっ!! 私の獲物ですっ私の獲物ですっ!!
 こんなアホみたいにデカいオッパイ娘。絶対に私の子を孕ませてやるんですっ!!」
 
 二柱の神、どちらがアンナお姉様を手籠めにするかと言う事で言い争いを始めました。ていうか、獲物とか言われてますし、既にお姉様、敵として見られてもいません。

 しかし、アンナお姉様とて元は闘神。この屈辱的な扱いに我慢できるはずもなく・・・。二柱に向かって魔法で生み出した大量の槍を投げつけようとしてしまい、ヴァレリオ様に止められます。

「お、おまちをっ!! ここで我らが戦えば人間が犠牲になります。
 どうぞ、お気持ちをお沈め下さい。」
「うう~~っ!! だって、だってぇ~~。」

 アンナお姉様は悔しさのあまり半泣きになって抗議しますが、それでも何とかお怒りを鎮められました。
 また、敵側の神々もヴァレリオ様によって「下郎神」などと言う不名誉な名前を与えられた神が「いい加減にしろっ!! 今は戦争中だぞっ!」といって鎮めてくれました。ただし、その時に二柱の神から「勝利の際は俺にアンナをやらせろっ!!」と言い含められていました。
 敵の神々を虜にしてしまわれるアンナお姉様の美貌。流石ですね・・・。などと私は謎の感心をしてしまうのでした。

 しかし、神々もいつまでもこんなことをしているわけにはいきません。下郎神様がついに移動を申し出られました。

「これ以上、ばかっ話をしていられるかっ!!
 ヴァレリオ・フォンターナ。死に場所は選ばせてやる。さっさと決戦の場へ移動するがいいっ!!」

 そう言って啖呵を切る下郎神様を指差して明けの明星様は言いました。

「あいつは水神グース・グー・ハー。アンナ達がアイツの情報を持ち合わせていないのは当然だ。あいつは例の異界の魔王が生み出した神。アンナ達の神のネットワークの外にいる存在だ。
 ただし、シェーン・シェーン・クーには、あいつのことを言い含めてある。アイツの正体から弱点までな・・・。」

「弱点までっ!!」

 とっても頼もしい気持ちになることを明けの明星様は仰いました・・・。そして、明けの明星様の言葉を言い終わると同時に敵味方のどちらの神々も姿をお消しになられました。

「さて、これからはお前の戦いや。ラーマ。
 神々が暗黙の了解で洗浄を離れた今、人間の国は仕掛けてくるぞ。」

 明けの明星様が仰ったとおり、お互いの軍にとって最大の脅威である神々が姿を消したことにより、前進を始めるのでした。
 それを確認した私は気を引き締めて明けの明星様に「では行ってまいります。」とお伝えして出陣の準備を進めるのでした。
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