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第3章「ゴルゴダの丘」
第62話 戦闘準備
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「敵はこちらに神と契約する能力があることを知った。我々が更なる神と契約する時間を敵は与えたくなくて作戦を急いでいるんだろうな。私もそうする。」
ヴァレリオ様は冷静かつ合理的に敵の動きを予測されるのでした。
「そして現時点で我々が戦闘になった場合、恐らくピエトロ・ルーには自信があるのだろう。
敵軍は幾柱かの数の神を味方につけている。その神の数で今のところ我らを圧倒している自信があるのだ。」
「故に敵の攻撃を恐れない。
まずは我らの領地を奪い、拠点を増やし、増援を待ち。その後一気呵成に襲い掛かってくるつもりであろう。」
その言葉に家臣団は息を飲みました。
「こちらにも神がいることを知っていながら、なお自信があるのですか・・・。
我々に勝ち目はあるのでしょうか?」
エリザが恐ろしさのあまり震える声で分をわきまえない発言をするのですが、その疑問はその場にいた誰もが思っていた事なので、賤民が断わりもなく王に話しかけるという無礼を気にする素振りはありませんでした。誰もが同じ恐怖を感じていたのです。
「まぁ、・・・。大丈夫だろ。」
ヴァレリオ様は意外なほどあっさりとお答えになられました。
「ラーマは明けの明星様がおられるので心配はないし、こちらにも魔神シェーン・シェーン・クー様と魔神アンナ・ラー様がおられる。
早々敗れはしまい。」
家臣団はその言葉を聞いて一気にアンナお姉様を見つめます。その仕草は家臣団の不安を象徴しているようでした。
ですが、アンナお姉様もこれまたアッサリをお答えなさるのです。
「まぁ、大丈夫でしょう。
こちらにはヴァレリオもいます。
以前、ラーマにも話しましたがヴァレリオは霊位こそ魔王ですが、既に低い階位の神なら相手にならないほどの戦闘力を備えていて、それなりに強力な神と言えます。
つまり、こちらにも3柱の神がいるという事です。
クーちゃんが合流した暁には敗れることはないでしょう。」
その御言葉に家臣団の顔がパッと輝きました。
彼らの嬉しそうな表情は『闘神であらせられるアンナ・ラー様が我らが魔王様をかなり強い神と太鼓判を押して下さったぞっ!!』と言うような一族の誇りと歓びを感じさせました。
そうして、家臣たちの気合いが高まった気運をヴァレリオ様は見過ごすことなく、速やかな行動に出られます。
「では、作戦を話す。
まずは領民全てを我が王城の背後まで撤収させよっ!! 兵を総動員させるのだ。
向こうが2日後に国境付近に来るというのならば、こちらはその二日を利用させてもらおう。不休になってもまず4日で防衛都市まで撤退させろ。その後は領民各自で王都まで逃げてもらう。今日を含めて全9日で領民の避難を完了させるように領民には厳命せよ。」
「それから、私の親衛隊は私と共に来い。敵が5日の行程を2日で来るなら、兵士の疲労は限界に達しているだろう。そこで我々は、まず国境付近で敵の迎撃、奇襲を行う。これは威力偵察であり、疲労困憊の敵兵を休ませないためのものだ。」
「ここで精一杯の嫌がらせをしておけば、敵の進軍速度は落ちる。領民を逃がすことも可能だろう。」
ヴァレリオ様は家臣団に命令なさると、私の方を見て
「ラーマには、この城の防衛準備を頼む。
それから君の権限で増援とフェデリコをここに呼んでくれ。優秀で信頼できる指揮官が欲しい。あの男の狂気的な作戦は思慮深いジェノバのピエトロ・ルーに刺さるはずだ。
今、すぐに頼む。」
「はいっ!! 魔王様っ!!」
私がヴァレリオ様の命令に返事をするとヴァレリオ様は私に一人の大男を紹介しました。
その者は長身のヴァレリオ様と比べても引けを取らない背の高い男だったのです。
「ロレンツォっ!! こちらに来い。お前がラーマ姫の補佐をしろ。」
ロレンツォと呼ばれた騎士は速やかに立ち上がると椅子に座る私の頭よりも自分の頭が低くなるように床に跪き頭を下げました。
「ラーマ。この男の名前はロレンツォ・バローネ男爵。
旧来の私の家臣の一人でゴルゴダ建国と共に私の権限で爵位を与えたんだ。
この者とこの者の家臣200名を君に預ける。城の防衛準備を進めてほしい。」
ヴァレリオは私が兵法の教育を受けていることを知ってこの任務を任せてくれたのです。これに応えなければ女が廃るというもの。私はロレンツォに「よろしく頼みますよ。」と挨拶すると彼を立たせて早速命令を下します。
「エデンに増援の知らせを送りますので、速やかに紙とペンとインクをご用意なさい。急ぐのですよっ!」
ロレンツォは「かしこまりました。」と承ると兵士に命令を伝えて用意させるのでした。
そして、私は筆記用具が揃う前にアンナお姉様に確認を取ります。
「ジーノとマリオ。それにジュリアたちがここにいるという事は、アンナお姉様の御計らいですわよね?」
アンナお姉様は小さく頷かれますと
「そうですよ。あなたを運んだ後に失神していたものですから、ついでに一度、エデンに戻りジュリアたちを馬車に乗せてここまで運んだのです。
最初はそんなつもりはなかったのですが失神したあなたをこの城に連れて来た時、私の報告を聞いたヴァレリオが『ぜひ、その者達の苦労も労いたいので招待してくださいませ。』と、頭を下げてきたのでそのようにしました。」
アンナお姉様のご説明を聞いてほっと胸を撫で下ろした私は、確認のためにもう一度尋ねました。
「それは、つまり。通常の馬車ではなくて神馬の馬車でございますね?」
その言葉を聞いてアンナお姉様は私が言いたいことをお察しになられました。
「いいですわよ、ラーマ。馬車を神馬に変えて彼らをエデンに送ってあげましょう。
ただし、私は敵兵に奇襲を仕掛けるヴァレリオをサポートしてあげなくてはいけません。私ができることは片道切符の馬車を作ってあげることだけです。」
と言って馬車を高速移動する神馬の馬車に変えることを了承くださいました。馬車に乗るのはもちろんジュリアたちですが、ジーノやマリオといった男は勿論、ジュリアたちも戦争の大変さを知っているので、神馬の馬車に乗ることを恐れる素振りは見せませんでした。頼りになる家臣です。
私は彼らの顔を見て安心して任せられると安心し、兵士が用意してくれた紙に命令書を書き、私の描いた命令書であることを証明する王家の指輪で印を押してジーノに手渡しました。
「では、しっかり働くのですよ」
「かしこまりました姫様。かならずフェデリコ様にお届けいたします。」
挨拶もそこそこに私たちは大急ぎに戦の準備を進めます。私はロレンツォを率いて別室で作戦会議です。そしてその間にも各々が自分のなすべきことを進めるのでした。
中でも層群の指揮を執られるヴァレリオ様と馬車のご用意をしてくださるアンナお姉様は大忙しでした。
そんな大変な事態なのに、私はアンナお姉様が私ではなくヴァレリオ様に着いたことを心配するのでした。
いえ。大変な事態だからこそ心配するのです。
(お姉様が私ではなくてヴァレリオ様につくとは珍しい・・・。きっとそジェノバの軍に攻撃を仕掛けることはヴァレリオ様であっても、アンナお姉様のサポートがないと危険だという事なのですね・・・。)
アンナお姉様の行動からヴァレリオ様の危険を悟る私は気が気ではありませんでしたが、アンナお姉様が一緒にいてくださるのなら大丈夫だろうと心に言い聞かせて、ヴァレリオ様の事をお姉様に任せるのでした。
そこから私たちは完全に別行動となりました。
私はゴルゴダ王城の防御を固める準備を。
ヴァレリオ様はアンナお姉様と共に敵を奇襲するために出陣。
ジーノ以下密偵部隊はフェデリコへの書状を携えエデンに帰国。
それ以外のゴルゴダの兵士は総動員して国境付近の領民を防衛都市まで撤退させるために出兵。
こうして私は数日間にわたってヴァレリオ様とアンナお姉様と会えなかったのです。
その間、寂しくなかったのかと言えばウソになりますが、私は私で自分の仕事に専念しなくてはいけなかったのです。
私は先ず、ロレンツォに命じて王城に蓄えてある武器、食料などの備品の正確な数をリストアップするように命じました。それから、王城周辺の地図を見ます。
王城は北に山。西に大きな川が流れている小高い丘の上に立てられていました。この立地条件は北から敵が回り込んでこみ難いように北に山がある場所を選んであるのです。
さらに王城の東側には水路が築かれています。この水路は王城の西側を流れる大きな川から水を引いた用水路です。広い農地を支えるこの用水路は農耕の手助けになることは勿論、敵の侵略に備えて敵が向かってくる東側の防壁にもなるのでした。
「ロレンツォ。城下町に住む町民達に非常事態宣言を発して彼らをかき集めて西の大川から引いている水を東側の水路に流れないように堰き止める工事をさせておきなさい。
堰き止める場所は水路と王城の間の位置。
ここに大量の水をせき止めて置けるため池がありますね?」
私の言葉を聞いたロレンツォは私の狙いを正確に察知してニヤリと笑うと「流石ラーマ姫様。万事抜かりなく準備いたします。」と頼もしい返事をするのでした。
それから私は200いるロレンツォの兵の内、100を弓矢製作に当たらせます。
「100の兵士に弓矢と手槍の製作にあてがいなさい。これは既に王城に準備してある弓矢や槍などと違って鉄製の鏃や鉄製の切っ先を準備する必要はありません。
十分な武具の装備をしていない雑兵に向けて使う武器です。思いの外、多くの量が必要と思います。
山に入って木を切り、7日のうちに数千本を用意しなさい。」
ロレンツォは私の指示を聞くとメモを取りながら「はっ!!」と小気味よい返事をします。
さらには「武器の配置采配は私にお任せくださいます。」と細かな気遣いも忘れません。本当に良い家臣ですね。
家臣に恵まれたヴァレリオ様の仁徳に感じ入りながらも残りの兵士の采配を命じます。
「残り100の兵士の内、20は城門の強化、点検に当たらせなさい。脆弱な点があれば補修をさせるのです。
残り80の内、20は城内の水と食料の補給経路の確保とその明瞭化です。誰が見ても一目で兵站経路と分かるようにしておきなさい。この経路に武器を置いたり、負傷兵を置いたりすると兵站が滞ります。今回はゴルゴダ王城の内部構造に明るくないエデンの兵士も加わるのですから、ここで手を抜くと後々大問題になりますよ。
それから残り60の内、10は落とし石の配置を万全に整えなさい。
残った50は、先ほど説明した川の堰き止め工事の指揮を執らせなさい。町民を指揮して正しい工事をさせるのです。」
「ははっ!!」
ロレンツォは私の命令を受けてその通りの人員配置に取り掛かります。そして、堰き止め工事以外の者にはすぐに作戦を実行させ、堰き止め工事指揮を執る者達には地図を使いながら堰き止め要領を丁寧に指示するのでした。
全ての行動準備が済んだ時、私はやっと一息ついて椅子に座ることができました。こういった行動は意外なほど体力を使うもの。私は椅子に腰かけ、ロレンツォが用意してくれたお茶を飲みながら窓の外を見上げてヴァレリオ様のご無事を願うのでした。
(ヴァレリオ様。どうぞ、ご無事で。
アンナお姉様・・・。ヴァレリオ様を御守り下さいませ・・・)
ヴァレリオ様は冷静かつ合理的に敵の動きを予測されるのでした。
「そして現時点で我々が戦闘になった場合、恐らくピエトロ・ルーには自信があるのだろう。
敵軍は幾柱かの数の神を味方につけている。その神の数で今のところ我らを圧倒している自信があるのだ。」
「故に敵の攻撃を恐れない。
まずは我らの領地を奪い、拠点を増やし、増援を待ち。その後一気呵成に襲い掛かってくるつもりであろう。」
その言葉に家臣団は息を飲みました。
「こちらにも神がいることを知っていながら、なお自信があるのですか・・・。
我々に勝ち目はあるのでしょうか?」
エリザが恐ろしさのあまり震える声で分をわきまえない発言をするのですが、その疑問はその場にいた誰もが思っていた事なので、賤民が断わりもなく王に話しかけるという無礼を気にする素振りはありませんでした。誰もが同じ恐怖を感じていたのです。
「まぁ、・・・。大丈夫だろ。」
ヴァレリオ様は意外なほどあっさりとお答えになられました。
「ラーマは明けの明星様がおられるので心配はないし、こちらにも魔神シェーン・シェーン・クー様と魔神アンナ・ラー様がおられる。
早々敗れはしまい。」
家臣団はその言葉を聞いて一気にアンナお姉様を見つめます。その仕草は家臣団の不安を象徴しているようでした。
ですが、アンナお姉様もこれまたアッサリをお答えなさるのです。
「まぁ、大丈夫でしょう。
こちらにはヴァレリオもいます。
以前、ラーマにも話しましたがヴァレリオは霊位こそ魔王ですが、既に低い階位の神なら相手にならないほどの戦闘力を備えていて、それなりに強力な神と言えます。
つまり、こちらにも3柱の神がいるという事です。
クーちゃんが合流した暁には敗れることはないでしょう。」
その御言葉に家臣団の顔がパッと輝きました。
彼らの嬉しそうな表情は『闘神であらせられるアンナ・ラー様が我らが魔王様をかなり強い神と太鼓判を押して下さったぞっ!!』と言うような一族の誇りと歓びを感じさせました。
そうして、家臣たちの気合いが高まった気運をヴァレリオ様は見過ごすことなく、速やかな行動に出られます。
「では、作戦を話す。
まずは領民全てを我が王城の背後まで撤収させよっ!! 兵を総動員させるのだ。
向こうが2日後に国境付近に来るというのならば、こちらはその二日を利用させてもらおう。不休になってもまず4日で防衛都市まで撤退させろ。その後は領民各自で王都まで逃げてもらう。今日を含めて全9日で領民の避難を完了させるように領民には厳命せよ。」
「それから、私の親衛隊は私と共に来い。敵が5日の行程を2日で来るなら、兵士の疲労は限界に達しているだろう。そこで我々は、まず国境付近で敵の迎撃、奇襲を行う。これは威力偵察であり、疲労困憊の敵兵を休ませないためのものだ。」
「ここで精一杯の嫌がらせをしておけば、敵の進軍速度は落ちる。領民を逃がすことも可能だろう。」
ヴァレリオ様は家臣団に命令なさると、私の方を見て
「ラーマには、この城の防衛準備を頼む。
それから君の権限で増援とフェデリコをここに呼んでくれ。優秀で信頼できる指揮官が欲しい。あの男の狂気的な作戦は思慮深いジェノバのピエトロ・ルーに刺さるはずだ。
今、すぐに頼む。」
「はいっ!! 魔王様っ!!」
私がヴァレリオ様の命令に返事をするとヴァレリオ様は私に一人の大男を紹介しました。
その者は長身のヴァレリオ様と比べても引けを取らない背の高い男だったのです。
「ロレンツォっ!! こちらに来い。お前がラーマ姫の補佐をしろ。」
ロレンツォと呼ばれた騎士は速やかに立ち上がると椅子に座る私の頭よりも自分の頭が低くなるように床に跪き頭を下げました。
「ラーマ。この男の名前はロレンツォ・バローネ男爵。
旧来の私の家臣の一人でゴルゴダ建国と共に私の権限で爵位を与えたんだ。
この者とこの者の家臣200名を君に預ける。城の防衛準備を進めてほしい。」
ヴァレリオは私が兵法の教育を受けていることを知ってこの任務を任せてくれたのです。これに応えなければ女が廃るというもの。私はロレンツォに「よろしく頼みますよ。」と挨拶すると彼を立たせて早速命令を下します。
「エデンに増援の知らせを送りますので、速やかに紙とペンとインクをご用意なさい。急ぐのですよっ!」
ロレンツォは「かしこまりました。」と承ると兵士に命令を伝えて用意させるのでした。
そして、私は筆記用具が揃う前にアンナお姉様に確認を取ります。
「ジーノとマリオ。それにジュリアたちがここにいるという事は、アンナお姉様の御計らいですわよね?」
アンナお姉様は小さく頷かれますと
「そうですよ。あなたを運んだ後に失神していたものですから、ついでに一度、エデンに戻りジュリアたちを馬車に乗せてここまで運んだのです。
最初はそんなつもりはなかったのですが失神したあなたをこの城に連れて来た時、私の報告を聞いたヴァレリオが『ぜひ、その者達の苦労も労いたいので招待してくださいませ。』と、頭を下げてきたのでそのようにしました。」
アンナお姉様のご説明を聞いてほっと胸を撫で下ろした私は、確認のためにもう一度尋ねました。
「それは、つまり。通常の馬車ではなくて神馬の馬車でございますね?」
その言葉を聞いてアンナお姉様は私が言いたいことをお察しになられました。
「いいですわよ、ラーマ。馬車を神馬に変えて彼らをエデンに送ってあげましょう。
ただし、私は敵兵に奇襲を仕掛けるヴァレリオをサポートしてあげなくてはいけません。私ができることは片道切符の馬車を作ってあげることだけです。」
と言って馬車を高速移動する神馬の馬車に変えることを了承くださいました。馬車に乗るのはもちろんジュリアたちですが、ジーノやマリオといった男は勿論、ジュリアたちも戦争の大変さを知っているので、神馬の馬車に乗ることを恐れる素振りは見せませんでした。頼りになる家臣です。
私は彼らの顔を見て安心して任せられると安心し、兵士が用意してくれた紙に命令書を書き、私の描いた命令書であることを証明する王家の指輪で印を押してジーノに手渡しました。
「では、しっかり働くのですよ」
「かしこまりました姫様。かならずフェデリコ様にお届けいたします。」
挨拶もそこそこに私たちは大急ぎに戦の準備を進めます。私はロレンツォを率いて別室で作戦会議です。そしてその間にも各々が自分のなすべきことを進めるのでした。
中でも層群の指揮を執られるヴァレリオ様と馬車のご用意をしてくださるアンナお姉様は大忙しでした。
そんな大変な事態なのに、私はアンナお姉様が私ではなくヴァレリオ様に着いたことを心配するのでした。
いえ。大変な事態だからこそ心配するのです。
(お姉様が私ではなくてヴァレリオ様につくとは珍しい・・・。きっとそジェノバの軍に攻撃を仕掛けることはヴァレリオ様であっても、アンナお姉様のサポートがないと危険だという事なのですね・・・。)
アンナお姉様の行動からヴァレリオ様の危険を悟る私は気が気ではありませんでしたが、アンナお姉様が一緒にいてくださるのなら大丈夫だろうと心に言い聞かせて、ヴァレリオ様の事をお姉様に任せるのでした。
そこから私たちは完全に別行動となりました。
私はゴルゴダ王城の防御を固める準備を。
ヴァレリオ様はアンナお姉様と共に敵を奇襲するために出陣。
ジーノ以下密偵部隊はフェデリコへの書状を携えエデンに帰国。
それ以外のゴルゴダの兵士は総動員して国境付近の領民を防衛都市まで撤退させるために出兵。
こうして私は数日間にわたってヴァレリオ様とアンナお姉様と会えなかったのです。
その間、寂しくなかったのかと言えばウソになりますが、私は私で自分の仕事に専念しなくてはいけなかったのです。
私は先ず、ロレンツォに命じて王城に蓄えてある武器、食料などの備品の正確な数をリストアップするように命じました。それから、王城周辺の地図を見ます。
王城は北に山。西に大きな川が流れている小高い丘の上に立てられていました。この立地条件は北から敵が回り込んでこみ難いように北に山がある場所を選んであるのです。
さらに王城の東側には水路が築かれています。この水路は王城の西側を流れる大きな川から水を引いた用水路です。広い農地を支えるこの用水路は農耕の手助けになることは勿論、敵の侵略に備えて敵が向かってくる東側の防壁にもなるのでした。
「ロレンツォ。城下町に住む町民達に非常事態宣言を発して彼らをかき集めて西の大川から引いている水を東側の水路に流れないように堰き止める工事をさせておきなさい。
堰き止める場所は水路と王城の間の位置。
ここに大量の水をせき止めて置けるため池がありますね?」
私の言葉を聞いたロレンツォは私の狙いを正確に察知してニヤリと笑うと「流石ラーマ姫様。万事抜かりなく準備いたします。」と頼もしい返事をするのでした。
それから私は200いるロレンツォの兵の内、100を弓矢製作に当たらせます。
「100の兵士に弓矢と手槍の製作にあてがいなさい。これは既に王城に準備してある弓矢や槍などと違って鉄製の鏃や鉄製の切っ先を準備する必要はありません。
十分な武具の装備をしていない雑兵に向けて使う武器です。思いの外、多くの量が必要と思います。
山に入って木を切り、7日のうちに数千本を用意しなさい。」
ロレンツォは私の指示を聞くとメモを取りながら「はっ!!」と小気味よい返事をします。
さらには「武器の配置采配は私にお任せくださいます。」と細かな気遣いも忘れません。本当に良い家臣ですね。
家臣に恵まれたヴァレリオ様の仁徳に感じ入りながらも残りの兵士の采配を命じます。
「残り100の兵士の内、20は城門の強化、点検に当たらせなさい。脆弱な点があれば補修をさせるのです。
残り80の内、20は城内の水と食料の補給経路の確保とその明瞭化です。誰が見ても一目で兵站経路と分かるようにしておきなさい。この経路に武器を置いたり、負傷兵を置いたりすると兵站が滞ります。今回はゴルゴダ王城の内部構造に明るくないエデンの兵士も加わるのですから、ここで手を抜くと後々大問題になりますよ。
それから残り60の内、10は落とし石の配置を万全に整えなさい。
残った50は、先ほど説明した川の堰き止め工事の指揮を執らせなさい。町民を指揮して正しい工事をさせるのです。」
「ははっ!!」
ロレンツォは私の命令を受けてその通りの人員配置に取り掛かります。そして、堰き止め工事以外の者にはすぐに作戦を実行させ、堰き止め工事指揮を執る者達には地図を使いながら堰き止め要領を丁寧に指示するのでした。
全ての行動準備が済んだ時、私はやっと一息ついて椅子に座ることができました。こういった行動は意外なほど体力を使うもの。私は椅子に腰かけ、ロレンツォが用意してくれたお茶を飲みながら窓の外を見上げてヴァレリオ様のご無事を願うのでした。
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