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第3章「ゴルゴダの丘」
第54話 魔神のお料理教室
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「喜べ女ども。
今日はお肉だぞ。」
魔神シェーン・シェーン・クー様はそう言いながら買い物袋の中から私達の人数よりも多めの10人前分のお肉を取り出すのでした。
そのトリ肉の量にジュリアたちは「わあっ!!」と歓声を上げます。その歓声は彼女たちの普段の食生活のレベルを示すものでもありました。
「こ、これ・・・。私達が食べていいんですか?」
「お肉をこんなにたくさん見たのはお祭りの時だけですっ!!」
「いや~ん。お客もいないのにこんなにお肉食べたら精がついちゃう~」
ジュリアたち5人の女軍人たちは口々に肉を食べれる喜びに浸るのでした。
魔神シェーン・シェーン・クー様はそんな5人を優しい瞳で見ておられましたが、やがて私に向かって
「塩を1枚1枚に均等に振りかけておけ。
こんな風に両面にだぞ?」
そう言ってお肉を1枚手になさると、お塩を振りながら私に実演指導してくださります。
「は、はいっ!! 頑張ります。」
私は魔神様からご指導いただいたとおりに1枚1枚に塩をふりかけ、そして、干すように並べます。
「そうそう。これは下味だ。
塩が余分な水気を外に出してくれて後々料理も楽になるからな。」
魔神様は私の下ごしらえの指導をしながら、袋の中から根菜類を取り出すと、テーブルに並べて一つ一つ丁寧にナイフを使って皮をむきます。
「皮をむくのは特殊なことじゃない。
とにかく焦らず丁寧にやればいいんだ。皮の切り除き方が美しくなくても気にするなよ、結果的に全ての皮がめくれたら問題ない。
一番気にすることは、無駄な果肉まで削り落とさぬように薄く剥くことなんだ。」
魔神様は出来上がりの綺麗さを気にするなと仰るのですが、魔神様がナイフで丁寧に切られたその出来上がりは美しく、そして素早かったのです。
その出来上がりの美しさにジュリアたちも私もまるで芸術品のようだと感激しました。感激しながら剥きあがった野菜を見ている私に対して魔神様は食材各種をそれぞれ1個分づつ残されて「練習だと思って気軽にやってみろ」と、仰るのです。
私が緊張した面持ちでナイフを手に取って切り出すと、魔神様は
「食材と思って切るな。それよりも彫刻細工だと思ってやってみろ。
その方が綺麗に仕上げようと思うし、気が楽になる。料理は楽しんで作るものだからな。」
といってアドバイスをくださるのでした。そのおかげで私はリラックスして皮をむくことができました。
「ほう。お前は芸術のセンスが高いな。
なかなか上手だぞ。」
魔神様は私が皮をむいた食材の出来上がりをご覧になると褒めてくださいました。
(えへへ。魔神様に褒めていただけると、ちょっと誇らしいです。)
私は素直にそれを喜ぶのでした。
「では、次にスープの分の肉をさいの目に切り刻む。」
そう言って肉を1枚分だけナイフで小さなさいの目に切り刻むと、油を引いた鍋を火にかけて、そこにお肉を入れて炒め始めました。
「軽く焦げ目をつける。強火はダメだ。慌てなくてもいい。じっくりと焼くんだ。
さいの目に切っているから、じっくり焼いても直ぐに火は通る。」
そういってお鍋の中のお肉をある程度、炒めると、一度お肉をお皿に乗せてから、再び鍋を火にかけて、そこに皮をむいてから刻んだお野菜を放り込みます。
「これも軽く炒める。目安はお肉の油がしっかりと野菜にしみこむ程度だな。
どうせ煮込んじまうんだから気休めかもしれんが、俺は何となくこの作り方の方が上手いと思う。」
そう言って何度も何度もお鍋の中のお野菜をかき混ぜながら熱すると、やがてお肉の熱の入り方を見定めてから、お酒をいれてさらに炒めます。
そして、ほどほどに熱したら、お水を入れたし、更にお肉とハーブを入れます。
「こっちはしばらくこのまま煮込むだけだ。
その間にのこったお肉を焼こう。
こちらも鉄板でじっくり弱火で。溢れ出てて来たお肉の油はスプーンですくって再びお肉にかけてやりながらじっくりとやく。」
魔神様はお肉を焼く前にお肉に色々なハーブを刷り込ませていて、それが焼きあがるとお肉の焼ける匂いと相まってとても美味しそうな香りがお部屋に広がるのです。
「いいか? 肉を味付けするのには3タイプある。
一つはシンプルに塩で焼く。肉の質が良ければこれが一番うまい。
次にハーブを練り込んだもの。次にソースで味を調えるもの。ま、今回はハーブにしよう。このハーブのレシピはあとで紙に書いて渡してやるから、今後の参考にしろ。」
魔神様がそう仰るとジュリアたちもそのレシピを欲しがるので、魔神様はそれを叶えてくれるのでした。
何と慈悲深い魔神様なのでしょう。私たちは魔神様の御情けに深く感謝するのでした。
そうして、お肉の焼き上がりには少々のお酒が降りかけられて、そのお酒が炎を巻き上げるので私たちは「わあっ!!」と、歓喜の声を上げるのでした。
そうやってお肉が焼きあがると、魔神様は葉物野菜を鉄板に残った油でいためたり、穀物を炒めたりして残りの料理を仕上げなさるのです。
「ま、こんな感じかな。
肉はシンプルに焼くのが美味いが、スープも絶品だ。皆、残さず食えよ。」
テーブルには多くのお肉とスープ。野菜炒めに穀物が並べられました。お肉はある程度の大きさにカットされていて、食べやすく取りやすいスタイルでした。
「ジーノとマリオも座れ。食事は多い方がいい。」
魔神シェーン・シェーン・クー様はそういって護衛の騎士二人も手招きしてテーブルに着くように仰いました。
そして、全員が席に着くと魔神シェーン・シェーン・クー様の御挨拶の後に食事が始まるのでした。
女たちはお肉に感激してキャアキャア言いながら食事をとり、男どもは魔神様が用意してくださったお酒に舌鼓を打つのでした。
それにしても魔神様の御料理の腕は確かなものです。お肉は外はパリパリとこんがり焼けているのに、中はジューシー。何度も上から肉の油を賭けたおかげでしょう。お肉の味付けも絶品ですし、最後にかけたお酒の甘味が肉の味を際立たせています。
スープは甘辛く煮込まれており、穀物とよく合いました。その穀物も野菜炒めと同様にお肉の油で炒めたものですから確かな味付けがなされていて、食が進みました。
「魔神様。大変美味しゅうございます。」
「うむ。お前もこういった料理を作ってやれるようになれよ。」
魔神様は胸を張ってお答えなさるのですが、その思いは私だけに向けられたものではなく、5人の女軍人たちも同様にその言葉に大きく頷いておりました。
きっとジュリアたちも今はこのような商売をしておりますが、ゆくゆくは素敵な旦那様とステキな家庭を築くことを夢見ているのでしょう。その時には今日のようなお料理は必要となってきますわよね。
私もジュリアたちも魔神様の御料理に舌鼓を打ちつつも、勉強をするのでした。
さて、楽しい食事が終わると、魔神様は今日仕入れた情報をお話になるのです。
「皆、聞け。
ここの町はダメだ。仕事をするには若い男が少なすぎる。全員、ここでは骨休めをしておけ。次に向かう大都市では乾くヒマもないほど男の相手をしなくてはならんかもしれん。
ま、それは冗談だがな。俺達の目的はあくまでも情報収集。次の町では少しサービス料金を上げるので狙うのは雑兵ではなく指揮官クラスだ。1日に1~2人相手をすれば上等だと思ってもらっていい。
ここでは情報が一致しないことが多い。」
私は魔神様の感想に同意します。
「そうですわね。町の皆さんの情報は一致していません。
私が標的になっていたり、ヴァレリオ様が標的になっていたり、様々です。
しかも、私たちが仕掛けた戦争なのか、人間側が私たちを討伐する目的で戦争を始めようとしているのだとか、全く真逆の情報が入り乱れています。
この町では大した情報は得られないでしょう。」
「うむ。しかし、少し気になるな。」
気になる。そう言って、魔神様は顎に手をあてて暫く何やら考えておられました。
「気になるというのは、情報の出どころですか?」
魔神様は大きく頷かれると私の意見をまとめます。
「うむ。この町の情報は一貫性が無く。その上、微妙に実情をかじっている。
ヴァレリオの存在やエデンの存在をかするようにして情報が集まっているのだ。
これには何やら意図を感じるな。その目的はわからぬが、きっとろくでもないものだろう。」
「そうですわね。
ならば、なおさらこの町にいることはあまり意味がございません。
早めにお仕事を切り上げて次の町に生きましょう。」
私の言い分に魔神様は大きく同意くださいましたが、ジュリアたちは少し複雑な表情をします。
「この町では有益な情報は得られないのはわかりました。
しかし、それでは、私たちはこの町で何のために体を売るのでしょう?」
確かに。彼女たちはそれを生業にしたスパイ。特別な女軍人ですが、だからと言ってこのようなお仕事に何も思わないわけではないようです。
意味のない労働に対して不満を抱くのは当然なのです。
しかし、魔神様は納得してもらうしかないと仰るのです。
「そこは行き当たりばったりで申し訳ないが、だからと言ってここで急に店をたたむのも怪しいだろ?
ま、そんなに積極的に客を取らんでもいい。あと4日したら、この町を出て次の町に行く。そちらの方が儲かるからだと言えば、怪しむ者もいまい。」
魔神様に説得されてジュリアたちは少し渋い顔をしながらも同意するのでした。
「あの売春宿の主人はこれを見越して、あのみかじめ料を受け入れたふりをしたのだろう。
実際にはこの町の現状ならばあのみかじめ料は十分なプラスになったはずだ。
やられたな・・・。」
魔神様にとってもこの町には苦い思いをすることになったようで、苦々しい表情でそう愚痴をこぼされるのです。
まぁ、魔神様は大体、金銀財宝をため込んでおられるものですから、これぐらいの出費は痛くもかゆくもないのでしょうが、やり込められてしまったというのは魔神様にとっては良い気がしない思い出になったという事です。
「あれも勉強。これも勉強。」
そういってご自分を納得させる魔神様の潔さは私にとっては新鮮で、そして同時に自分もそうすれば肩の力が抜けるのでしょうかと、勉強になるのでした。
今日はお肉だぞ。」
魔神シェーン・シェーン・クー様はそう言いながら買い物袋の中から私達の人数よりも多めの10人前分のお肉を取り出すのでした。
そのトリ肉の量にジュリアたちは「わあっ!!」と歓声を上げます。その歓声は彼女たちの普段の食生活のレベルを示すものでもありました。
「こ、これ・・・。私達が食べていいんですか?」
「お肉をこんなにたくさん見たのはお祭りの時だけですっ!!」
「いや~ん。お客もいないのにこんなにお肉食べたら精がついちゃう~」
ジュリアたち5人の女軍人たちは口々に肉を食べれる喜びに浸るのでした。
魔神シェーン・シェーン・クー様はそんな5人を優しい瞳で見ておられましたが、やがて私に向かって
「塩を1枚1枚に均等に振りかけておけ。
こんな風に両面にだぞ?」
そう言ってお肉を1枚手になさると、お塩を振りながら私に実演指導してくださります。
「は、はいっ!! 頑張ります。」
私は魔神様からご指導いただいたとおりに1枚1枚に塩をふりかけ、そして、干すように並べます。
「そうそう。これは下味だ。
塩が余分な水気を外に出してくれて後々料理も楽になるからな。」
魔神様は私の下ごしらえの指導をしながら、袋の中から根菜類を取り出すと、テーブルに並べて一つ一つ丁寧にナイフを使って皮をむきます。
「皮をむくのは特殊なことじゃない。
とにかく焦らず丁寧にやればいいんだ。皮の切り除き方が美しくなくても気にするなよ、結果的に全ての皮がめくれたら問題ない。
一番気にすることは、無駄な果肉まで削り落とさぬように薄く剥くことなんだ。」
魔神様は出来上がりの綺麗さを気にするなと仰るのですが、魔神様がナイフで丁寧に切られたその出来上がりは美しく、そして素早かったのです。
その出来上がりの美しさにジュリアたちも私もまるで芸術品のようだと感激しました。感激しながら剥きあがった野菜を見ている私に対して魔神様は食材各種をそれぞれ1個分づつ残されて「練習だと思って気軽にやってみろ」と、仰るのです。
私が緊張した面持ちでナイフを手に取って切り出すと、魔神様は
「食材と思って切るな。それよりも彫刻細工だと思ってやってみろ。
その方が綺麗に仕上げようと思うし、気が楽になる。料理は楽しんで作るものだからな。」
といってアドバイスをくださるのでした。そのおかげで私はリラックスして皮をむくことができました。
「ほう。お前は芸術のセンスが高いな。
なかなか上手だぞ。」
魔神様は私が皮をむいた食材の出来上がりをご覧になると褒めてくださいました。
(えへへ。魔神様に褒めていただけると、ちょっと誇らしいです。)
私は素直にそれを喜ぶのでした。
「では、次にスープの分の肉をさいの目に切り刻む。」
そう言って肉を1枚分だけナイフで小さなさいの目に切り刻むと、油を引いた鍋を火にかけて、そこにお肉を入れて炒め始めました。
「軽く焦げ目をつける。強火はダメだ。慌てなくてもいい。じっくりと焼くんだ。
さいの目に切っているから、じっくり焼いても直ぐに火は通る。」
そういってお鍋の中のお肉をある程度、炒めると、一度お肉をお皿に乗せてから、再び鍋を火にかけて、そこに皮をむいてから刻んだお野菜を放り込みます。
「これも軽く炒める。目安はお肉の油がしっかりと野菜にしみこむ程度だな。
どうせ煮込んじまうんだから気休めかもしれんが、俺は何となくこの作り方の方が上手いと思う。」
そう言って何度も何度もお鍋の中のお野菜をかき混ぜながら熱すると、やがてお肉の熱の入り方を見定めてから、お酒をいれてさらに炒めます。
そして、ほどほどに熱したら、お水を入れたし、更にお肉とハーブを入れます。
「こっちはしばらくこのまま煮込むだけだ。
その間にのこったお肉を焼こう。
こちらも鉄板でじっくり弱火で。溢れ出てて来たお肉の油はスプーンですくって再びお肉にかけてやりながらじっくりとやく。」
魔神様はお肉を焼く前にお肉に色々なハーブを刷り込ませていて、それが焼きあがるとお肉の焼ける匂いと相まってとても美味しそうな香りがお部屋に広がるのです。
「いいか? 肉を味付けするのには3タイプある。
一つはシンプルに塩で焼く。肉の質が良ければこれが一番うまい。
次にハーブを練り込んだもの。次にソースで味を調えるもの。ま、今回はハーブにしよう。このハーブのレシピはあとで紙に書いて渡してやるから、今後の参考にしろ。」
魔神様がそう仰るとジュリアたちもそのレシピを欲しがるので、魔神様はそれを叶えてくれるのでした。
何と慈悲深い魔神様なのでしょう。私たちは魔神様の御情けに深く感謝するのでした。
そうして、お肉の焼き上がりには少々のお酒が降りかけられて、そのお酒が炎を巻き上げるので私たちは「わあっ!!」と、歓喜の声を上げるのでした。
そうやってお肉が焼きあがると、魔神様は葉物野菜を鉄板に残った油でいためたり、穀物を炒めたりして残りの料理を仕上げなさるのです。
「ま、こんな感じかな。
肉はシンプルに焼くのが美味いが、スープも絶品だ。皆、残さず食えよ。」
テーブルには多くのお肉とスープ。野菜炒めに穀物が並べられました。お肉はある程度の大きさにカットされていて、食べやすく取りやすいスタイルでした。
「ジーノとマリオも座れ。食事は多い方がいい。」
魔神シェーン・シェーン・クー様はそういって護衛の騎士二人も手招きしてテーブルに着くように仰いました。
そして、全員が席に着くと魔神シェーン・シェーン・クー様の御挨拶の後に食事が始まるのでした。
女たちはお肉に感激してキャアキャア言いながら食事をとり、男どもは魔神様が用意してくださったお酒に舌鼓を打つのでした。
それにしても魔神様の御料理の腕は確かなものです。お肉は外はパリパリとこんがり焼けているのに、中はジューシー。何度も上から肉の油を賭けたおかげでしょう。お肉の味付けも絶品ですし、最後にかけたお酒の甘味が肉の味を際立たせています。
スープは甘辛く煮込まれており、穀物とよく合いました。その穀物も野菜炒めと同様にお肉の油で炒めたものですから確かな味付けがなされていて、食が進みました。
「魔神様。大変美味しゅうございます。」
「うむ。お前もこういった料理を作ってやれるようになれよ。」
魔神様は胸を張ってお答えなさるのですが、その思いは私だけに向けられたものではなく、5人の女軍人たちも同様にその言葉に大きく頷いておりました。
きっとジュリアたちも今はこのような商売をしておりますが、ゆくゆくは素敵な旦那様とステキな家庭を築くことを夢見ているのでしょう。その時には今日のようなお料理は必要となってきますわよね。
私もジュリアたちも魔神様の御料理に舌鼓を打ちつつも、勉強をするのでした。
さて、楽しい食事が終わると、魔神様は今日仕入れた情報をお話になるのです。
「皆、聞け。
ここの町はダメだ。仕事をするには若い男が少なすぎる。全員、ここでは骨休めをしておけ。次に向かう大都市では乾くヒマもないほど男の相手をしなくてはならんかもしれん。
ま、それは冗談だがな。俺達の目的はあくまでも情報収集。次の町では少しサービス料金を上げるので狙うのは雑兵ではなく指揮官クラスだ。1日に1~2人相手をすれば上等だと思ってもらっていい。
ここでは情報が一致しないことが多い。」
私は魔神様の感想に同意します。
「そうですわね。町の皆さんの情報は一致していません。
私が標的になっていたり、ヴァレリオ様が標的になっていたり、様々です。
しかも、私たちが仕掛けた戦争なのか、人間側が私たちを討伐する目的で戦争を始めようとしているのだとか、全く真逆の情報が入り乱れています。
この町では大した情報は得られないでしょう。」
「うむ。しかし、少し気になるな。」
気になる。そう言って、魔神様は顎に手をあてて暫く何やら考えておられました。
「気になるというのは、情報の出どころですか?」
魔神様は大きく頷かれると私の意見をまとめます。
「うむ。この町の情報は一貫性が無く。その上、微妙に実情をかじっている。
ヴァレリオの存在やエデンの存在をかするようにして情報が集まっているのだ。
これには何やら意図を感じるな。その目的はわからぬが、きっとろくでもないものだろう。」
「そうですわね。
ならば、なおさらこの町にいることはあまり意味がございません。
早めにお仕事を切り上げて次の町に生きましょう。」
私の言い分に魔神様は大きく同意くださいましたが、ジュリアたちは少し複雑な表情をします。
「この町では有益な情報は得られないのはわかりました。
しかし、それでは、私たちはこの町で何のために体を売るのでしょう?」
確かに。彼女たちはそれを生業にしたスパイ。特別な女軍人ですが、だからと言ってこのようなお仕事に何も思わないわけではないようです。
意味のない労働に対して不満を抱くのは当然なのです。
しかし、魔神様は納得してもらうしかないと仰るのです。
「そこは行き当たりばったりで申し訳ないが、だからと言ってここで急に店をたたむのも怪しいだろ?
ま、そんなに積極的に客を取らんでもいい。あと4日したら、この町を出て次の町に行く。そちらの方が儲かるからだと言えば、怪しむ者もいまい。」
魔神様に説得されてジュリアたちは少し渋い顔をしながらも同意するのでした。
「あの売春宿の主人はこれを見越して、あのみかじめ料を受け入れたふりをしたのだろう。
実際にはこの町の現状ならばあのみかじめ料は十分なプラスになったはずだ。
やられたな・・・。」
魔神様にとってもこの町には苦い思いをすることになったようで、苦々しい表情でそう愚痴をこぼされるのです。
まぁ、魔神様は大体、金銀財宝をため込んでおられるものですから、これぐらいの出費は痛くもかゆくもないのでしょうが、やり込められてしまったというのは魔神様にとっては良い気がしない思い出になったという事です。
「あれも勉強。これも勉強。」
そういってご自分を納得させる魔神様の潔さは私にとっては新鮮で、そして同時に自分もそうすれば肩の力が抜けるのでしょうかと、勉強になるのでした。
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