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第2章 新国家「エデン」
第34話 英雄ヴァレリオ
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明けの明星様を目指す私たちは所詮、たった二人。いえ、戦えるのはヴァレリオ男爵ただ一人。私たちの無謀な賭けはそれに相応しい結末を迎えようとしています。
落馬した私たちを取り囲む兵士たちはいずれも統制が取れており、無差別に殺しあうこの戦場にあって異質な強さを秘めていました。戦争とはつまり個の強さではなく集団連携の強さが全て。無秩序な兵士がいくらいてもこの者達に勝ち目があるわけがなかったのです。訓練された騎士集団の恐ろしさと強さをこの者達は証明していました。
そして、その集団の主が顔を見せた時、私たちはこの集団の強さの理由を知りました。
「ラーマ姫様。この狂った戦場にたった一騎の騎士と共にお戻りになられるとは、気が狂われましたかな?」
集団の中央からフェデリコが顔を見せてそう言ったのです。
この度の遠征軍の指揮者フェデリコ・ダヴィデ将軍。この狂乱の戦場にあって一切の理性を失わず、また初戦に於いてもマルロを抱え込む絡め手まで見せたその手腕から、歴戦の勇士であることは間違いありません。そのフェデリコならば、明けの明星様の魅力に抗い、この狂った戦場でも理性を保つ精鋭を維持で来ていても不思議ではありませんでした。
そして、そんなフェデリコだからこそ、ヴァレリオ男爵の存在を決して軽くは見ませんでした。私を守ろうと短剣を身構えるヴァレリオ男爵を指差すと、彼の素性を尋ねました。
「貴公っ!! そのいでたちを見る限り貴族であろう。
まだ若いのに中々の面構えであるな。腕の方も相当確かと見える。手傷をすでに負っているように見えるが、その体であの狂った兵士共を蹴散らしてここまで来るとは、その強さ。あきれ果てるばかりである。
我が名はフェデリコ・ダヴィデ。この度の遠征軍の指揮を任された伯爵である。
心あらば、貴公も名乗りたまえ。」
フェデリコは既に勝利を得たと言っても良い状況であるというのに、ヴァレリオ男爵に対して貴族の例を忘れない態度で接するのです。これに応えぬヴァレリオ男爵ではありません。堂々と名乗りを上げるのでした。
「丁寧な名乗り上げ、傷み入る。
某の名は、ヴァレリオ・フォンターナ。この度の防衛線の指揮を任された男爵であります。」
ヴァレリオ男爵の名乗りを聞いて、フェデリコは目を見開いて驚き、彼の精鋭からもどよめきが起こるのでした。
フェデリコは信じられないものを見たかのように右手で口元を覆うようにすると、しばし、考え込んでから私に確認を求めるように私を見つめるのでした。この期に及んで下手な駆け引きをしても致し方ありません。私はコクリと頷くとフェデリコに物申します。
「いかにもっ!! この者は私の第一の信頼を受けるヴァレリオ・フォンターナ男爵ですっ!
この者は私と共にこの戦争を止めるために明けの明星様に意見申し上げるために、この戦場に戻ってきたのです。
フェデリコ将軍。心あれば、私たちを護衛し明けの明星様の元まで案内なさいっ!!」
私が胸を張ってそう言うと、フェデリコはあからさまに嫌悪感に顔を歪ませました。それはそうでしょう。何故敗戦が確定しているような姫に命令されなければならないのか。しかし、そこで怒りに身を任せて話を聞かないほどフェデリコはおろかな将軍ではないことを私は知っていました。それ故の啖呵でした。
そして、私の予想通り。フェデリコは話し合いに応じてくれました。
「明けの明星・・・? ああ、あの美しい、美しすぎる少年の事か。
あれはおかしい。
おおよそ、この世の者とは思われぬ魔力をしている。我々もアレがこの混乱を生み出した存在であることは察している。そしてアレを殺そうかとも思ったのだが、あんな馬鹿げた存在はどうやっても殺せぬ事はわかり切っているので手をこまねいていたところです。」
「して、姫様。あの者とどうやって交渉なさるおつもりですか?
あんな恐ろしい存在と。
いえ、そもそもラーマ姫。あなたと彼はどういうご関係なのですか?」
フェデリコは、どこまでも冷静な男でした。私の話を聞いて明けの明星様の由来を尋ねるとは流石です。しかし、それは私たちにとって最高の交渉材料であることを彼は知りませんでした。
私はここぞとばかりに答えます。
「フェデリコ。よくあのお方に手を出さずにいましたね。あなたが生きていられるのはその賢さのおかげ。
あのお方は、我が祖国に封禁されていた異界の魔王にして、この世界を滅ぼす力を秘めた恐ろしき御方。
そして、契約上、私の夫です。」
私の説明を聞いてフェデリコは、しばらく戸惑っていました。理解が追い付かぬようで、何度も何度も首をかしげながら、暫く考えていましたが、遂に答えは出ずに私に再び問うたのです。
「姫。どうにも話の要領が得られませんな。
ラーマ姫様の御話を聞いた上だと、あの美少年は、あなたの国の守り本尊ではないですか?
それがいかにして、今回のあなたの国を亡ぼすような事態を引き起こしたというのですか? つじつまが合わないのではないですか?」
フェデリコはもっともなことを言いました!!
「そんなの私の方が聞きたいですっ!! あのお方は私たち魔族の魂は穢れているとか言って悉く殺すおつもりなのですっ!!」
「はぁっ?」
「いや、事実です。明けの明星様は、確かに私にそう仰いました。」
フェデリコはおろか、話を聞いていた兵士たちも首をかしげて悩みました。意味が解らないと。
それはそうでしょうとも。だって話をしている私もヴァレリオ男爵にも意味がわからない話なのですから。
「あれほど禍々しいオドをしたお方が、我々の魂が穢れているとは筋が通らない。
それに、あれほどの存在があなたの国の守り本尊であるならば、私たちを蹴散らすことなど造作もない事のように思える。なぜ、何もせずにこのような真似を?
意味が分からぬ・・・・・・。」
フェデリコはどうしても合点がいかぬように尋ねます。
そこで私は明けの明星様から聞いたままのお答えを教えてやりました。
「あのお方は仰いました。自分はお天道様やお月様と同じく明けの明星なのだと。
私たちがアリの争いを見ても加担しないのと同じように、私たち魔族の争いも加担しないと・・・。」
意味が分からぬその答えを聞いてフェデリコは、焦りました。
ブツブツと口の中で「そんな・・・。それほど高位な存在なのか。だから、我々の死など気にも留めぬと・・・?」言っていました。
どうもフェデリコには、明けの明星様の御考えの一端が見えているように感じましたが、それは今はどうでもよい事。大切なことは私たちは明けの明星様の脅威を彼らに伝えることができたこと。そして、それは取引条件として仕えるという事です。
「おわかりですか? フェデリコ。
そして、皆の者。私は明けの明星様の妻。これに傷つけるという事は、明けの明星様に手向かうも同然。
そして私は、そこのヴァレリオ男爵に手を出すことを許しません。
ですから、私を明けの明星様の下へ送り届けなさいっ!!」
私の賭けは当たったようです。フェデリコは明らかに動揺しています。これほどの男でも明けの明星様を盾にされたらどうしようもないようです。私は勝利を確信しました。
「この女を殺せっ!!
この女は危険すぎるっ!!」
しかし、フェデリコは信じられないような決断をしたのでした。
その決断には私はおろか、彼の家臣達も動揺するほどでした。
「フェデリコ様っ! それでは我々は滅びますっ!!
一体、どうしてそのようなお考えにっ!?」
私たちを殺せと命じられた兵士たちも動揺して、思わずフェデリコに逆らう発言をしました。が、そこはフェデリコ。私たちには思いもつかないような決断に至った理由を理性的に説明しました。
「わからぬかっ!?
あの明けの明星などと申す美少年は、我々の理解をはるかに超える存在だっ!!
あの魔力、禍々しいまでの闇のオド。あれこそ魔の化身。詳しい素性はわからぬが、これだけは断言できる。
おそらくは、魔神クラスをぶつけたところで勝てるはずもない高位の存在なのだ。」
「お前たちはそんな理解の範疇を超える存在と取引ができると本当に思っているのか?
そして、それが望んだ結果をもたらせてくれると信じられるのか?」
「現に見てみよっ! 妻であると自称したこの女ですら、あの者と意思の疎通ができているとはとても思えんっ!!
あのような存在とは関わってはいけないのだっ!!
我々はこの女を殺してあの者とのかかわりを消し、祖国に戻るべきなのだっ!!」
フェデリコの主張は私に衝撃を与えました。
それは私と明けの明星様が本当に意思の疎通ができているのかと言う部分です。私は顔面蒼白になるほど衝撃を受けたのです。
そうです。私と明けの明星様は本当に意思の疎通が本当に取れているのでしょうか? 正直、私は今まで、明けの明星様が私を大事にしてくれているので、難しい事を言われながらも意思の疎通が取れていると思っていました。時折仰る意味が分からぬお話も、なんとなく私の為だと思ってしまっていたのです。
ですが、ですが。確かにフェデリコの言う事にも一理あるのです。そうして、私はその可能性については一切考えておりませんでした。だって、明けの明星様が私を害するなんて考えてもいませんでしたもの。そんなことを考えることすら嫌ですもの。
しかし、フェデリコの言う通り、明けの明星様ほど高位の存在の価値観は私とは大きく違います。良かれと思う事も悪いと思う事も実は私たちの基準とは全く違い、お互いの意思が伝わっているようで全く違う解釈として伝わっているとしたら? 特に私の場合。アホたれ、アホたれ言われていますもの。通じてないかもしれません。
私は今までそんな問題について想像もしてこなかったツケを今払う時が来たのです。
それは今。私たちを殺すと言ったフェデリコに対して反論する材料がなかったというツケです。
私が何の反論も出来ないことを見極めてたフェデリコの部下たちは武器を構えてにじり寄ってきます。彼らもフェデリコの意見に賛同したのでしょう・・・。
フェデリコは言いました。
「ヴァレリオ男爵。貴公の采配見事であった。どこの勢力か知らぬが、別勢力を巻き込んで戦場を混乱の渦に巻き込むなど聞いたことがない。
私も初めて見る地獄絵図であったわ。」
「最後に貴公に尋ねる。
この混乱を招いた巨悪の根源であるラーマ姫を見限って、私の下へ来ぬか? 私の政治的力を持って爵位は保証しよう。貴公ほどの逸材をこのように狂った戦でうしなうなどあってはならぬ事なのだ。
どうだ?」
フェデリコの言葉が真実であることはわかります。だってヴァレリオ男爵をみた将軍は誰だって彼を欲しいと思うでしょう。
ですが、フェデリコ。そうはならないのです。
絶対にそうはならないのです。
「有難き御言葉。誠に傷み入ります。
ですが、はっきりとお断りいたします。」
「私は姫様の騎士。共に死のうと誓った仲でございます。その騎士の誓いを破るわけには参りませぬ。
さ、どうぞ。御遠慮なくかかってまいられよ。」
そういうとヴァレリオ男爵は並みいる騎士達に両手を開いて啖呵を切ります。
「ただしっ!! このヴァレリオ。手負いだとて容易く取られる命と思わないでいただこうっ!!」
ヴァレリオの口上を聞いた敵兵はにじり寄るのをやめて、お互いの顔を見合わせると整列しました。そして納剣すると騎士の作法に則って剣の鞘で地面を叩きだしたのです。
それは英雄に対する最高の賛辞でした。この場にいる全ての騎士が、例えこれから殺す相手だとしてもヴァレリオ男爵の見事な騎士道精神には心を強く打たれたのでしょう。
落馬した私たちを取り囲む兵士たちはいずれも統制が取れており、無差別に殺しあうこの戦場にあって異質な強さを秘めていました。戦争とはつまり個の強さではなく集団連携の強さが全て。無秩序な兵士がいくらいてもこの者達に勝ち目があるわけがなかったのです。訓練された騎士集団の恐ろしさと強さをこの者達は証明していました。
そして、その集団の主が顔を見せた時、私たちはこの集団の強さの理由を知りました。
「ラーマ姫様。この狂った戦場にたった一騎の騎士と共にお戻りになられるとは、気が狂われましたかな?」
集団の中央からフェデリコが顔を見せてそう言ったのです。
この度の遠征軍の指揮者フェデリコ・ダヴィデ将軍。この狂乱の戦場にあって一切の理性を失わず、また初戦に於いてもマルロを抱え込む絡め手まで見せたその手腕から、歴戦の勇士であることは間違いありません。そのフェデリコならば、明けの明星様の魅力に抗い、この狂った戦場でも理性を保つ精鋭を維持で来ていても不思議ではありませんでした。
そして、そんなフェデリコだからこそ、ヴァレリオ男爵の存在を決して軽くは見ませんでした。私を守ろうと短剣を身構えるヴァレリオ男爵を指差すと、彼の素性を尋ねました。
「貴公っ!! そのいでたちを見る限り貴族であろう。
まだ若いのに中々の面構えであるな。腕の方も相当確かと見える。手傷をすでに負っているように見えるが、その体であの狂った兵士共を蹴散らしてここまで来るとは、その強さ。あきれ果てるばかりである。
我が名はフェデリコ・ダヴィデ。この度の遠征軍の指揮を任された伯爵である。
心あらば、貴公も名乗りたまえ。」
フェデリコは既に勝利を得たと言っても良い状況であるというのに、ヴァレリオ男爵に対して貴族の例を忘れない態度で接するのです。これに応えぬヴァレリオ男爵ではありません。堂々と名乗りを上げるのでした。
「丁寧な名乗り上げ、傷み入る。
某の名は、ヴァレリオ・フォンターナ。この度の防衛線の指揮を任された男爵であります。」
ヴァレリオ男爵の名乗りを聞いて、フェデリコは目を見開いて驚き、彼の精鋭からもどよめきが起こるのでした。
フェデリコは信じられないものを見たかのように右手で口元を覆うようにすると、しばし、考え込んでから私に確認を求めるように私を見つめるのでした。この期に及んで下手な駆け引きをしても致し方ありません。私はコクリと頷くとフェデリコに物申します。
「いかにもっ!! この者は私の第一の信頼を受けるヴァレリオ・フォンターナ男爵ですっ!
この者は私と共にこの戦争を止めるために明けの明星様に意見申し上げるために、この戦場に戻ってきたのです。
フェデリコ将軍。心あれば、私たちを護衛し明けの明星様の元まで案内なさいっ!!」
私が胸を張ってそう言うと、フェデリコはあからさまに嫌悪感に顔を歪ませました。それはそうでしょう。何故敗戦が確定しているような姫に命令されなければならないのか。しかし、そこで怒りに身を任せて話を聞かないほどフェデリコはおろかな将軍ではないことを私は知っていました。それ故の啖呵でした。
そして、私の予想通り。フェデリコは話し合いに応じてくれました。
「明けの明星・・・? ああ、あの美しい、美しすぎる少年の事か。
あれはおかしい。
おおよそ、この世の者とは思われぬ魔力をしている。我々もアレがこの混乱を生み出した存在であることは察している。そしてアレを殺そうかとも思ったのだが、あんな馬鹿げた存在はどうやっても殺せぬ事はわかり切っているので手をこまねいていたところです。」
「して、姫様。あの者とどうやって交渉なさるおつもりですか?
あんな恐ろしい存在と。
いえ、そもそもラーマ姫。あなたと彼はどういうご関係なのですか?」
フェデリコは、どこまでも冷静な男でした。私の話を聞いて明けの明星様の由来を尋ねるとは流石です。しかし、それは私たちにとって最高の交渉材料であることを彼は知りませんでした。
私はここぞとばかりに答えます。
「フェデリコ。よくあのお方に手を出さずにいましたね。あなたが生きていられるのはその賢さのおかげ。
あのお方は、我が祖国に封禁されていた異界の魔王にして、この世界を滅ぼす力を秘めた恐ろしき御方。
そして、契約上、私の夫です。」
私の説明を聞いてフェデリコは、しばらく戸惑っていました。理解が追い付かぬようで、何度も何度も首をかしげながら、暫く考えていましたが、遂に答えは出ずに私に再び問うたのです。
「姫。どうにも話の要領が得られませんな。
ラーマ姫様の御話を聞いた上だと、あの美少年は、あなたの国の守り本尊ではないですか?
それがいかにして、今回のあなたの国を亡ぼすような事態を引き起こしたというのですか? つじつまが合わないのではないですか?」
フェデリコはもっともなことを言いました!!
「そんなの私の方が聞きたいですっ!! あのお方は私たち魔族の魂は穢れているとか言って悉く殺すおつもりなのですっ!!」
「はぁっ?」
「いや、事実です。明けの明星様は、確かに私にそう仰いました。」
フェデリコはおろか、話を聞いていた兵士たちも首をかしげて悩みました。意味が解らないと。
それはそうでしょうとも。だって話をしている私もヴァレリオ男爵にも意味がわからない話なのですから。
「あれほど禍々しいオドをしたお方が、我々の魂が穢れているとは筋が通らない。
それに、あれほどの存在があなたの国の守り本尊であるならば、私たちを蹴散らすことなど造作もない事のように思える。なぜ、何もせずにこのような真似を?
意味が分からぬ・・・・・・。」
フェデリコはどうしても合点がいかぬように尋ねます。
そこで私は明けの明星様から聞いたままのお答えを教えてやりました。
「あのお方は仰いました。自分はお天道様やお月様と同じく明けの明星なのだと。
私たちがアリの争いを見ても加担しないのと同じように、私たち魔族の争いも加担しないと・・・。」
意味が分からぬその答えを聞いてフェデリコは、焦りました。
ブツブツと口の中で「そんな・・・。それほど高位な存在なのか。だから、我々の死など気にも留めぬと・・・?」言っていました。
どうもフェデリコには、明けの明星様の御考えの一端が見えているように感じましたが、それは今はどうでもよい事。大切なことは私たちは明けの明星様の脅威を彼らに伝えることができたこと。そして、それは取引条件として仕えるという事です。
「おわかりですか? フェデリコ。
そして、皆の者。私は明けの明星様の妻。これに傷つけるという事は、明けの明星様に手向かうも同然。
そして私は、そこのヴァレリオ男爵に手を出すことを許しません。
ですから、私を明けの明星様の下へ送り届けなさいっ!!」
私の賭けは当たったようです。フェデリコは明らかに動揺しています。これほどの男でも明けの明星様を盾にされたらどうしようもないようです。私は勝利を確信しました。
「この女を殺せっ!!
この女は危険すぎるっ!!」
しかし、フェデリコは信じられないような決断をしたのでした。
その決断には私はおろか、彼の家臣達も動揺するほどでした。
「フェデリコ様っ! それでは我々は滅びますっ!!
一体、どうしてそのようなお考えにっ!?」
私たちを殺せと命じられた兵士たちも動揺して、思わずフェデリコに逆らう発言をしました。が、そこはフェデリコ。私たちには思いもつかないような決断に至った理由を理性的に説明しました。
「わからぬかっ!?
あの明けの明星などと申す美少年は、我々の理解をはるかに超える存在だっ!!
あの魔力、禍々しいまでの闇のオド。あれこそ魔の化身。詳しい素性はわからぬが、これだけは断言できる。
おそらくは、魔神クラスをぶつけたところで勝てるはずもない高位の存在なのだ。」
「お前たちはそんな理解の範疇を超える存在と取引ができると本当に思っているのか?
そして、それが望んだ結果をもたらせてくれると信じられるのか?」
「現に見てみよっ! 妻であると自称したこの女ですら、あの者と意思の疎通ができているとはとても思えんっ!!
あのような存在とは関わってはいけないのだっ!!
我々はこの女を殺してあの者とのかかわりを消し、祖国に戻るべきなのだっ!!」
フェデリコの主張は私に衝撃を与えました。
それは私と明けの明星様が本当に意思の疎通ができているのかと言う部分です。私は顔面蒼白になるほど衝撃を受けたのです。
そうです。私と明けの明星様は本当に意思の疎通が本当に取れているのでしょうか? 正直、私は今まで、明けの明星様が私を大事にしてくれているので、難しい事を言われながらも意思の疎通が取れていると思っていました。時折仰る意味が分からぬお話も、なんとなく私の為だと思ってしまっていたのです。
ですが、ですが。確かにフェデリコの言う事にも一理あるのです。そうして、私はその可能性については一切考えておりませんでした。だって、明けの明星様が私を害するなんて考えてもいませんでしたもの。そんなことを考えることすら嫌ですもの。
しかし、フェデリコの言う通り、明けの明星様ほど高位の存在の価値観は私とは大きく違います。良かれと思う事も悪いと思う事も実は私たちの基準とは全く違い、お互いの意思が伝わっているようで全く違う解釈として伝わっているとしたら? 特に私の場合。アホたれ、アホたれ言われていますもの。通じてないかもしれません。
私は今までそんな問題について想像もしてこなかったツケを今払う時が来たのです。
それは今。私たちを殺すと言ったフェデリコに対して反論する材料がなかったというツケです。
私が何の反論も出来ないことを見極めてたフェデリコの部下たちは武器を構えてにじり寄ってきます。彼らもフェデリコの意見に賛同したのでしょう・・・。
フェデリコは言いました。
「ヴァレリオ男爵。貴公の采配見事であった。どこの勢力か知らぬが、別勢力を巻き込んで戦場を混乱の渦に巻き込むなど聞いたことがない。
私も初めて見る地獄絵図であったわ。」
「最後に貴公に尋ねる。
この混乱を招いた巨悪の根源であるラーマ姫を見限って、私の下へ来ぬか? 私の政治的力を持って爵位は保証しよう。貴公ほどの逸材をこのように狂った戦でうしなうなどあってはならぬ事なのだ。
どうだ?」
フェデリコの言葉が真実であることはわかります。だってヴァレリオ男爵をみた将軍は誰だって彼を欲しいと思うでしょう。
ですが、フェデリコ。そうはならないのです。
絶対にそうはならないのです。
「有難き御言葉。誠に傷み入ります。
ですが、はっきりとお断りいたします。」
「私は姫様の騎士。共に死のうと誓った仲でございます。その騎士の誓いを破るわけには参りませぬ。
さ、どうぞ。御遠慮なくかかってまいられよ。」
そういうとヴァレリオ男爵は並みいる騎士達に両手を開いて啖呵を切ります。
「ただしっ!! このヴァレリオ。手負いだとて容易く取られる命と思わないでいただこうっ!!」
ヴァレリオの口上を聞いた敵兵はにじり寄るのをやめて、お互いの顔を見合わせると整列しました。そして納剣すると騎士の作法に則って剣の鞘で地面を叩きだしたのです。
それは英雄に対する最高の賛辞でした。この場にいる全ての騎士が、例えこれから殺す相手だとしてもヴァレリオ男爵の見事な騎士道精神には心を強く打たれたのでしょう。
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