魔王〜明けの明星〜

黒神譚

文字の大きさ
上 下
32 / 102
第2章 新国家「エデン」

第31.5話 「サタン」

しおりを挟む
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 ラーマの悲鳴が戦場にとどろいていたころ、皇太子アンドレアは呆然ぼうぜんと殺しあう兵士たちを見ていた。
 
 (何故だ? 何故こんなことになった?
  混乱する戦場を利用してラーマを奪い、国に連れ帰って祝言しゅうげんを上げる予定だったはずなのに・・・
  どうして、こんなことに・・・?
  私はこれからどうすればいいっ!?)

 混乱する頭の中、必死に正解を導きだそうとしても、この異常事態を解決することなど不可能であった。
 そうして頭を抱えた皇太子が乗る馬の頭の上に一人の美少年が天からゆっくりと降り立った。この世の者とは思われぬほど美しい全裸の美少年。アンドレアが裏切りを決意したあの時、夢で見た高位の存在だった。

 地獄絵図のような混乱の戦場に取り残されたアンドレアはその美少年を見た瞬間に、泣きながらその美しい足にすがり付き、助けをう事しかできなかった。

「お助け下さいませっ!! 御身の御言葉に従ってラーマを奪いに来たら、この混乱ですっ!!
 どうか、私をお導き下さいませっ!! ラーマをっ!! ラーマの下へお導き下さいませっ!!」

 アンドレアは地獄に仏を見たかのように救いを求めたのだが、その美少年は仏ではなかった。そればかりかアンドレアを足蹴あしげにして落馬させると、軽蔑けいべつ眼差まなざしを向けるのだった。
 すがろうとした相手に無下むげにされて混乱したアンドレアは声を上げて抗議した。
 
「私は御身の望んだままに行動したまでっ!! どうしてこのような仕打ちを受けねばならんのですかっ!?」

 美少年はアンドレアにそう言われても相変わらず軽蔑の目をむけたままだった。それどころか自分の一物を握ると、アンドレアの美しい顔に向けて小便をするのだった。
 アンドレアは悲鳴を上げたが、不思議なことに体は一ミリたりとも動かせず、ただ美少年の小便を浴びせかけられるだけだった。

「皇太子、試練サタンに敗れた者よ。お前はなりそこなったのだ。
 己の欲に負け、誘惑に負けた。
 見ろ、この戦場に横たわるしかばねの海を。そう。お前の痴情ちじょうがもたらした惨劇さんげきを見るがいい。
 死んだ兵士と夫を亡くした妻の叫びを心で聞くがいい。父親を亡くしたがために収入が無くなり、食事を得られずに死んでいく子供のうつろな瞳を思い描くがいい。
 お前が寝ているときも起きているときも、死んだ後もその瞳はお前を見ているぞ。」

「わかるか、皇太子。お前はラーマを奪うのではなく、ラーマを支えてやらねばならなかった。
 この狂った戦況の中でも未だなお和平実現を信じているあの純粋な娘をお前はどうして助けてやらなかったのだ?
 お前は何故、愛を持ってラーマに接しようと思わなかったのだ?
 今この場で殺しあう私利私欲に狂った者共と、男の性欲をかき乱すラーマの肉体を自分のものにすることしか考えられなかったお前と何が違うというのだ?」
 
「冥土の土産に聞いておけ。あの娘こそ試練サタンに打ち勝つ者。お前には手の届かぬ存在なのだ。」


 その時、アンドレアは初めて自分がたばかられたのだと知った。

「ああああああああ!
 だましたなっ! だましたなっ!!
 ちくしょうっ!! 殺してやるっ!! 地獄に堕ちろっ!! この悪しき魂めがっ!!」

 アンドレアの言葉を聞いた美少年は怒り狂ったように声を荒げて言う。

「地獄に堕ちろだと? 何を今さらっ!?」
「何を今さら言う。ここを見ろ。この戦場を見ろっ!! 地獄はここだっ!! ここにあるっ!!」
「お前が作った地獄だっ!! よくわかっているだろうっ!!」

 美少年はそれだけ言うと煙のように姿を消した。
 あとに残されたアンドレアは己の罪の深さを知り、その後悔に耐えられなくなりナイフで自決するのだった・・・。

 そうして、その遺体は誰の目にも留められず、ただ狂ったように殺しあう兵士たちに踏みつけられていくのだった・・・。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...