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第2章 新国家「エデン」
第31話 契約の水
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「戦争停止を求めますっ!!
このまま戦い続けて何が得られるというのですか?
領地ですか? 食料ですか? 女ですか?
その為に死んでもいいというのは本末転倒っ!! あなた方は生きていくために死を選んでいるっ!!
仮に勝利した軍が明日、領地を得るとしましょうっ!!
仮に勝利した軍が明日、食料を得るとしましょうっ!!
仮に勝利した軍が明日、女を得るとしましょうっ!!
だが、そこにアナタはいないかもしれないっ!! だって今日ここで死ぬかもしれないのですからっ!!」
「御覧なさいっ!! この戦場に横たわる哀れな屍の山をっ!!
彼らとあなた方が同じにならないと何故思うのっ!?
戦闘をやめなさいっ!! そして、分かち合うのですっ!!
そうすれば手を取り合って色々と今までできなかった大きなことができるはずですっ!!」
「よく考えなさい。あなた方には大義が無いという事をっ!! 戦争など結局は不毛の連鎖を生み出すだけなのです。
逆に私には大義がありますっ!! より豊かで皆が笑顔になれる世界の実現のために戦争を止めようというのですからっ!!」
「この私の意見に逆らって愚かにもこれからも戦争を続けるというのならば、それはつまり他人を殺し、奪った命であなたの家族を養うことを意味するっ!!
考えなさいっ!! あなた方のお嫁さんや生まれてくる子供は、あなたが欲望のままに殺した人間の血肉で潤うという事を。戦争で奪った富で子供を養うという事は今日流れた人の血を乳飲み子が飲んで大きくなるのと同義ですよっ!?」
「殺し合いをやめなさいっ! 双方、生きて家に帰るのです。そしてご両親や妻を。そして子供を抱きしめておあげなさいっ!! 生きていくためにこんなに大切なものをあなた方は既に手にしているのですよっ!?
だが今日死んでしまった者には、それさえ与えられないっ!! あなた方は生き残っているっ!! それを大事になさいっ!!」
私がそこまで話したところで明けの明星様が大きな声で割り込んできました。
「あ~。お前アホか? 何を長々としょうも無い事をくっちゃべッとんねん?」
と仰って私の話を遮りました。その言葉は私の説得を一笑に付す発言であり、私の説得を聞いたものたちへ悪影響が出かねないものでした。これでは和平は生まれません。
私は抗議いたします。
「魔王様っ!! 私はまだ説得の最中ですっ!! 横やりはおやめくださりませっ!」
「いや、横やりってお前な・・・。いつまで喋るつもりやねん。制限時間があるっていうたやろ。」
「制限時間っ!? ええっ!?
そ、そんなに短いのですかっ!? わ、私、まだ3分の1も話したいことを話していませんっ!?
ど、どうしましょう・・・。」
私は絶句しました。そして、何故か私の抗議を受けた明けの明星様まで絶句しておられました。
「さ、3分の1て、・・・お前マジかっ?
センスゼロか?」
センスゼロ? 確かに生まれて初めてこんな演説したかもしれませんが、だからって演説のセンスゼロってことはないと思うのですけれどっ!!
魔王様の無慈悲な評価に腹を立てた私を見て「お前、ホンマにアホな奴やな」と笑いながら乱暴に私の頭をグリグリと撫でまわします。
そして、それから周りの兵士たちを指差しながら仰いました。
「賭けはお前の負けや。
見てみい、こいつらの顔を。何一つ納得してないやろ? 当たり前や。」
「お前の話には実がない。
要するに具体的やないねん。」
「子供を育てるのにお前の兵士の血を飲ませて育てるのかやと?
お前、それでこいつらの良心が揺らいで戦争をやめるとでも思ッとんか?
こいつらは最初から奪いに来とるんやで? お前の臣民を殺して、奪って、自分の富にすることなんかお前に教えてもらわんでもようようわかっとる。
つまりな。良心に訴えかけても戦争が止まるわけないってことや。」
「お前が戦争を止めたかったら、見返りを提示せんかい。
『家畜を1000頭、絹を1000反、奴隷の女と男を3000人差し出して服従するから、命ばかりはお助けを。
属国になりますから、戦争を回避してくださいませ。』ってな。
それが弱者の交渉ってもんやぞ?」
明けの明星様は兵士の本音を語ったのでした。私のいう事には実がないという事はそういう事なのだと言いたいのです。
悔しい・・・。明けの明星様の言っておられることが真実であることは、明けの明星様の御話を聞いていた兵士たちの顔を見ればわかります。誰もかれもが私に向かって「世間知らずの小娘がっ!!」とでも言いたそうな目で私を睨んでいたからです。
私は敗れました。理想と夢想だと明けの明星様に断じられてしまったのです。
この世界の人間に良心など期待するなと・・・そう言われた気がしました。
「賭けはお前の負けだ。そこでよく見ておくがいい。この私利私欲のために他人から奪う事しか知らぬ穢れた魂共が自らの業により悉く滅んでいく様をなっ・・・・・。」
そう言って勝利宣言をする魔王様はさらに追い打ちをかけるようなことを私にお見せになるのでした。
その時、魔王様は人の心をかき乱すために特別なことは何もしませんでした。
ただ、その掌の中から魔法で無限の金貨を生み出して一言言っただけです。
「俺は魔王っ!! 明けの明星であるっ!!
愚かなる兵士諸君、今から存分に殺しあえっ!!
敵味方に関係なく、このラーマ以外の者を殺せっ!!
10人以上殺した者には金貨100枚。30人以上殺した者には金貨500枚。
100人以上殺した者には金貨1万枚と、この世で最も美しく甘美な肉を持つ俺を一晩抱かせてやろうっ!!」
そう言っただけでした。それで肉体を束縛していた兵士たちを解放したのです。
ただ、その一言で。その場の者たちが大勢殺し合いを始めたのです。私のことなど放っておいて・・・。
それは、私がしてきたことが本当に無駄なことだったと教えてくれました。この世界の魂は穢れている。明けの明星様の御言葉が真実であったことを証明して見せたのです。
だったら、だったら・・・。私を守ってくれた皆は何のために死んだのですかっ!!
もう、私は何も考えたくありませんでした。ただ、醜く殺しあう皆の姿に絶望していました。
この混乱する戦場で一人で10人も殺せるものですか。一人殺せば後ろから刺されるのが落ちです。そうやってお互いに刺されあって死んでいくだけです。
おまけに100人以上だなんて・・・明けの明星様のお美しさに目がくらんで、そんな馬鹿げた条件に目の色を変えるなんて・・・。バカみたい・・・。
私が絶望した時でした。フィリッポが私の肩を掴んで囁きました。
「姫様っ! これは良い兆しですっ!!
今なら逃げだせますっ!!」
フィリッポは誰もが富を求めて殺しあう最中、そういうと私の手を引いて足を引きずりながら連れ出そうとしました。どうにか生き残っていた護衛の二人も私の側に集まって来てくれました。
「姫様。騎兵を襲って馬を奪います。
どうかそれに乗ってお逃げ下さい。幸い、明けの明星様はラーマ様を標的から除外されました。
姫様だけは逃げ延びることができるでしょうっ!!」
そういって皆が己の私利私欲に目がくらんで愚かな殺し合いを始めているというのに、私のために最後の瞬間まで尽くしてくれるというのです。
「・・・どうして?
・・・どうして、あなた達は私のために戦ってくれるのですか?」
私は涙をこぼしながら尋ねると出血で顔面蒼白になったフィリッポが私の水筒を指差して言うのです。
「姫様はまだ、水筒の水を最後まで飲まれていません。
これは契約の水。ならば、一敗地に塗れたからと言って諦めないでください。
その最後の水が残っている限り、私達は姫様を信じています。和平を成しとげてくださいませっ!!」
そういうと3人は私の手を引きながら最後の力を振り絞って騎兵に襲い掛かるのでした。
(ああっ!! 私にはまだ、希望がありましたっ!!
皆が皆私利私欲のために戦っていない。良心を持った人がこの戦場にも残っているっ!!
なんて・・・なんてステキなことなのでしょうっ!!)
私がそう感動している間にも、二人の護衛が命を賭して騎兵を落馬させてその馬を奪い、私を馬に乗せてくれるのでした。
「姫様。月の方向と反対側を走って下さい。本陣はそちらの方向です。
かならず陣形を立て直して、和平交渉できるようにお願いします・・・。」
手綱を渡してくれた護衛の一人はそう言った瞬間に矢で頭を射抜かれて死んでしまいました。
「ああっ!?」
「かまうなっ!! お逃げ下さりませっ!! 姫様っ!!」
護衛の一人がそう言って背後を見ると、フェデリコが30人ばかりの兵士を従えてこちらに突撃してくるのが見えました。きっと、彼ほどの人物ならば、魔王様の暗示めいた誘惑に打ち勝つことができたのでしょう。
「ラーマ姫を捕えよっ!! この際だ、死ななければ怪我を負わせても構わんっ!!
このイカれた状況を脱するためには、あの女を捕えるよりほかないっ!!」
フェデリコの声を聴いた30名の兵士たちはいずれも矢をつがえており、私さえも狙っていることが明らかでした。
そして、フェデリコの精鋭部隊の矢は精密で5発の矢を私の馬に命中させ、フィリッポと残りの護衛の胸を正確に貫くのでした。
「きゃあああっ!!」
悲鳴を上げながら落馬した私の目には、突撃してくるフェデリコの部隊と・・・・・・その後ろを馬に乗って突撃してくるヴァレリオ男爵の姿が見えたのでしたっ!!
「ラーマ様ぁ~~~~っ!!」
ヴァレリオは雄たけびを上げながら、手にした鉄槍でフェデリコの部下を蹴散らすように払い打つと地面に倒れる私を攫いに来てくれたのです。
「ああっ!! ヴァレリオっ!!」
ヴァレリオの姿を見て歓喜の声を上げる私の体が突然、宙に舞います。矢で胸を撃ち抜かれた護衛が今わの際に死力を振り絞って、ヴァレリオの馬に届くように私の体を持ち上げてくれたのでした。
ヴァレリオは馬から半身飛び出して私の体を抱きかかえるとそのまま、一気に駆け抜けていきます。
しかし、それを許すフェデリコではありません。大量の矢をヴァレリオの馬にめがけて矢を放ったのです。
私とヴァレリオが無事に逃げおおせることができたのは、その大量の矢をフィリッポが体で受け止めてくれたからでした。
大量出血で死んでいてもおかしくない体のフィリッポが宙を飛び、矢から私たちを守ってくれたのです。
10本以上の矢を受けたフィリッポの遺体は地面に落ちると痙攣する事さえなく、命を終えたのでした。
「いやああああ~~~~っ!!!!
フィリッポォォォォ~~~~~っ!!!」
私の悲鳴さえフィリッポには、もう届かないのでした・・・。
このまま戦い続けて何が得られるというのですか?
領地ですか? 食料ですか? 女ですか?
その為に死んでもいいというのは本末転倒っ!! あなた方は生きていくために死を選んでいるっ!!
仮に勝利した軍が明日、領地を得るとしましょうっ!!
仮に勝利した軍が明日、食料を得るとしましょうっ!!
仮に勝利した軍が明日、女を得るとしましょうっ!!
だが、そこにアナタはいないかもしれないっ!! だって今日ここで死ぬかもしれないのですからっ!!」
「御覧なさいっ!! この戦場に横たわる哀れな屍の山をっ!!
彼らとあなた方が同じにならないと何故思うのっ!?
戦闘をやめなさいっ!! そして、分かち合うのですっ!!
そうすれば手を取り合って色々と今までできなかった大きなことができるはずですっ!!」
「よく考えなさい。あなた方には大義が無いという事をっ!! 戦争など結局は不毛の連鎖を生み出すだけなのです。
逆に私には大義がありますっ!! より豊かで皆が笑顔になれる世界の実現のために戦争を止めようというのですからっ!!」
「この私の意見に逆らって愚かにもこれからも戦争を続けるというのならば、それはつまり他人を殺し、奪った命であなたの家族を養うことを意味するっ!!
考えなさいっ!! あなた方のお嫁さんや生まれてくる子供は、あなたが欲望のままに殺した人間の血肉で潤うという事を。戦争で奪った富で子供を養うという事は今日流れた人の血を乳飲み子が飲んで大きくなるのと同義ですよっ!?」
「殺し合いをやめなさいっ! 双方、生きて家に帰るのです。そしてご両親や妻を。そして子供を抱きしめておあげなさいっ!! 生きていくためにこんなに大切なものをあなた方は既に手にしているのですよっ!?
だが今日死んでしまった者には、それさえ与えられないっ!! あなた方は生き残っているっ!! それを大事になさいっ!!」
私がそこまで話したところで明けの明星様が大きな声で割り込んできました。
「あ~。お前アホか? 何を長々としょうも無い事をくっちゃべッとんねん?」
と仰って私の話を遮りました。その言葉は私の説得を一笑に付す発言であり、私の説得を聞いたものたちへ悪影響が出かねないものでした。これでは和平は生まれません。
私は抗議いたします。
「魔王様っ!! 私はまだ説得の最中ですっ!! 横やりはおやめくださりませっ!」
「いや、横やりってお前な・・・。いつまで喋るつもりやねん。制限時間があるっていうたやろ。」
「制限時間っ!? ええっ!?
そ、そんなに短いのですかっ!? わ、私、まだ3分の1も話したいことを話していませんっ!?
ど、どうしましょう・・・。」
私は絶句しました。そして、何故か私の抗議を受けた明けの明星様まで絶句しておられました。
「さ、3分の1て、・・・お前マジかっ?
センスゼロか?」
センスゼロ? 確かに生まれて初めてこんな演説したかもしれませんが、だからって演説のセンスゼロってことはないと思うのですけれどっ!!
魔王様の無慈悲な評価に腹を立てた私を見て「お前、ホンマにアホな奴やな」と笑いながら乱暴に私の頭をグリグリと撫でまわします。
そして、それから周りの兵士たちを指差しながら仰いました。
「賭けはお前の負けや。
見てみい、こいつらの顔を。何一つ納得してないやろ? 当たり前や。」
「お前の話には実がない。
要するに具体的やないねん。」
「子供を育てるのにお前の兵士の血を飲ませて育てるのかやと?
お前、それでこいつらの良心が揺らいで戦争をやめるとでも思ッとんか?
こいつらは最初から奪いに来とるんやで? お前の臣民を殺して、奪って、自分の富にすることなんかお前に教えてもらわんでもようようわかっとる。
つまりな。良心に訴えかけても戦争が止まるわけないってことや。」
「お前が戦争を止めたかったら、見返りを提示せんかい。
『家畜を1000頭、絹を1000反、奴隷の女と男を3000人差し出して服従するから、命ばかりはお助けを。
属国になりますから、戦争を回避してくださいませ。』ってな。
それが弱者の交渉ってもんやぞ?」
明けの明星様は兵士の本音を語ったのでした。私のいう事には実がないという事はそういう事なのだと言いたいのです。
悔しい・・・。明けの明星様の言っておられることが真実であることは、明けの明星様の御話を聞いていた兵士たちの顔を見ればわかります。誰もかれもが私に向かって「世間知らずの小娘がっ!!」とでも言いたそうな目で私を睨んでいたからです。
私は敗れました。理想と夢想だと明けの明星様に断じられてしまったのです。
この世界の人間に良心など期待するなと・・・そう言われた気がしました。
「賭けはお前の負けだ。そこでよく見ておくがいい。この私利私欲のために他人から奪う事しか知らぬ穢れた魂共が自らの業により悉く滅んでいく様をなっ・・・・・。」
そう言って勝利宣言をする魔王様はさらに追い打ちをかけるようなことを私にお見せになるのでした。
その時、魔王様は人の心をかき乱すために特別なことは何もしませんでした。
ただ、その掌の中から魔法で無限の金貨を生み出して一言言っただけです。
「俺は魔王っ!! 明けの明星であるっ!!
愚かなる兵士諸君、今から存分に殺しあえっ!!
敵味方に関係なく、このラーマ以外の者を殺せっ!!
10人以上殺した者には金貨100枚。30人以上殺した者には金貨500枚。
100人以上殺した者には金貨1万枚と、この世で最も美しく甘美な肉を持つ俺を一晩抱かせてやろうっ!!」
そう言っただけでした。それで肉体を束縛していた兵士たちを解放したのです。
ただ、その一言で。その場の者たちが大勢殺し合いを始めたのです。私のことなど放っておいて・・・。
それは、私がしてきたことが本当に無駄なことだったと教えてくれました。この世界の魂は穢れている。明けの明星様の御言葉が真実であったことを証明して見せたのです。
だったら、だったら・・・。私を守ってくれた皆は何のために死んだのですかっ!!
もう、私は何も考えたくありませんでした。ただ、醜く殺しあう皆の姿に絶望していました。
この混乱する戦場で一人で10人も殺せるものですか。一人殺せば後ろから刺されるのが落ちです。そうやってお互いに刺されあって死んでいくだけです。
おまけに100人以上だなんて・・・明けの明星様のお美しさに目がくらんで、そんな馬鹿げた条件に目の色を変えるなんて・・・。バカみたい・・・。
私が絶望した時でした。フィリッポが私の肩を掴んで囁きました。
「姫様っ! これは良い兆しですっ!!
今なら逃げだせますっ!!」
フィリッポは誰もが富を求めて殺しあう最中、そういうと私の手を引いて足を引きずりながら連れ出そうとしました。どうにか生き残っていた護衛の二人も私の側に集まって来てくれました。
「姫様。騎兵を襲って馬を奪います。
どうかそれに乗ってお逃げ下さい。幸い、明けの明星様はラーマ様を標的から除外されました。
姫様だけは逃げ延びることができるでしょうっ!!」
そういって皆が己の私利私欲に目がくらんで愚かな殺し合いを始めているというのに、私のために最後の瞬間まで尽くしてくれるというのです。
「・・・どうして?
・・・どうして、あなた達は私のために戦ってくれるのですか?」
私は涙をこぼしながら尋ねると出血で顔面蒼白になったフィリッポが私の水筒を指差して言うのです。
「姫様はまだ、水筒の水を最後まで飲まれていません。
これは契約の水。ならば、一敗地に塗れたからと言って諦めないでください。
その最後の水が残っている限り、私達は姫様を信じています。和平を成しとげてくださいませっ!!」
そういうと3人は私の手を引きながら最後の力を振り絞って騎兵に襲い掛かるのでした。
(ああっ!! 私にはまだ、希望がありましたっ!!
皆が皆私利私欲のために戦っていない。良心を持った人がこの戦場にも残っているっ!!
なんて・・・なんてステキなことなのでしょうっ!!)
私がそう感動している間にも、二人の護衛が命を賭して騎兵を落馬させてその馬を奪い、私を馬に乗せてくれるのでした。
「姫様。月の方向と反対側を走って下さい。本陣はそちらの方向です。
かならず陣形を立て直して、和平交渉できるようにお願いします・・・。」
手綱を渡してくれた護衛の一人はそう言った瞬間に矢で頭を射抜かれて死んでしまいました。
「ああっ!?」
「かまうなっ!! お逃げ下さりませっ!! 姫様っ!!」
護衛の一人がそう言って背後を見ると、フェデリコが30人ばかりの兵士を従えてこちらに突撃してくるのが見えました。きっと、彼ほどの人物ならば、魔王様の暗示めいた誘惑に打ち勝つことができたのでしょう。
「ラーマ姫を捕えよっ!! この際だ、死ななければ怪我を負わせても構わんっ!!
このイカれた状況を脱するためには、あの女を捕えるよりほかないっ!!」
フェデリコの声を聴いた30名の兵士たちはいずれも矢をつがえており、私さえも狙っていることが明らかでした。
そして、フェデリコの精鋭部隊の矢は精密で5発の矢を私の馬に命中させ、フィリッポと残りの護衛の胸を正確に貫くのでした。
「きゃあああっ!!」
悲鳴を上げながら落馬した私の目には、突撃してくるフェデリコの部隊と・・・・・・その後ろを馬に乗って突撃してくるヴァレリオ男爵の姿が見えたのでしたっ!!
「ラーマ様ぁ~~~~っ!!」
ヴァレリオは雄たけびを上げながら、手にした鉄槍でフェデリコの部下を蹴散らすように払い打つと地面に倒れる私を攫いに来てくれたのです。
「ああっ!! ヴァレリオっ!!」
ヴァレリオの姿を見て歓喜の声を上げる私の体が突然、宙に舞います。矢で胸を撃ち抜かれた護衛が今わの際に死力を振り絞って、ヴァレリオの馬に届くように私の体を持ち上げてくれたのでした。
ヴァレリオは馬から半身飛び出して私の体を抱きかかえるとそのまま、一気に駆け抜けていきます。
しかし、それを許すフェデリコではありません。大量の矢をヴァレリオの馬にめがけて矢を放ったのです。
私とヴァレリオが無事に逃げおおせることができたのは、その大量の矢をフィリッポが体で受け止めてくれたからでした。
大量出血で死んでいてもおかしくない体のフィリッポが宙を飛び、矢から私たちを守ってくれたのです。
10本以上の矢を受けたフィリッポの遺体は地面に落ちると痙攣する事さえなく、命を終えたのでした。
「いやああああ~~~~っ!!!!
フィリッポォォォォ~~~~~っ!!!」
私の悲鳴さえフィリッポには、もう届かないのでした・・・。
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