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第2章 新国家「エデン」
第28話 試練に勝てなかった男
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死を覚悟したフィリッポたちの勢い凄まじく、下道へ駈け下りながら下から上がって来る兵士たちを切り刻むようにして進撃します。馬を降りて私たちを迎え撃たんとして山を登ってきたはずの敵兵士たちがフィリッポたちの勢いに恐れおののき逃げ出す者が出る始末。死を覚悟した兵士たちの恐ろしさを誰もが実感した瞬間でした。
しかし、そうはいっても多勢に無勢。山のふもとまで下りたときには、私たちの人数は10人ほど減っていました。しかも、麓にはまだ馬を降りていなかった騎兵が10名いて、さらに上からフェデリコの死に物狂いの兵士たちが追いかけてきています。
フィリッポはそれを背後に見ながら、剣を天に突き立てて声を上げます。
「密集陣形っ!!
一点突破っ!!」
その声を合図に精鋭部隊20名は私とフィリッポを中心に一糸乱れぬ動きで密集陣形となり、騎馬兵10名に向かって突撃します。
「姫様っ!! 肺腑が張り裂けても走っていただくっ!!」
フィリッポはそう宣言すると、私の腕を引っ張り上げながら走り出しました。ここで私が遅れれば皆が死んでしまうっ!! そう思って私は必死で走りました。そんな私たちに向かって騎兵は敢えて道を開けるように私たちから離れていきます。そうして、私たちの攻撃が届かぬ距離から弓矢で攻撃してきたのです。
「盾を掲げよぉおおおおおお~~~っ!!」
フィリッポの怒声は、それがどれほど危機的状況なのか教えてくれます。歩兵と騎馬兵の弓矢では狙い撃ちの的にされるだけ。私たちは盾を掲げて守りながら走るしかないのですが、人間の足と騎兵の足では勝負になりません。いずれ私たちは疲れ果てて足は止まり、矢の餌食になる結果が見えていました。
しかし・・・。そこは精鋭部隊の隊長。フィリッポは信じられない行動に出たのです。
「肩を貸せっ!!」
と、自分の前列に声をかけると、飛び上がって2人の肩を蹴りあがったかと思うと、右手に持った剣を勢いよく投げつけ、騎兵を一騎仕留めて見せたのでした。その攻撃に慌てたのは敵の騎兵。まさかの跳躍攻撃、そして剣を弓矢の如く投げ飛ばす尋常ならざるフィリッポの筋力に「ああっ!! 化物だっ!」と声を上げて恐れたのでした。
「隊長っ!! お見事っ!!」
そう言って、自分の剣を差し出す部下の剣を受け取ると「ありがとう・・・スマンな。」と、声をかけるフィリッポ。
そうして、先ほどの攻撃が功を奏したのか、騎兵たちがにわかに消極的になり、私たちから一層、距離を取るようになったののです。
「凄いっ!! もう弓も届かない距離まで離れましたよっ!!」
私が無邪気にそう言うと、フィリッポは苦い顔をして首を振りました。
「・・・。敵はこうやって我らに迂闊に手を出さなくなりましたが、その代わりに我々を走らせて疲れさせるのが目的です。」
私たちは何処まで行っても天敵に追われる獲物でした。
追われる獲物は逃げて走るしかないのです。今日一日でどれほど走ったでしょうか? 幼いころから軍事教練を受けてきた身とはいえ、正直生まれて初めてここまで走り続けました。呼吸は乱れに乱れて、肺腑が張り裂けるかというほどほど走りましたが、それでもまだ私は走らなければなりません。死んでいった兵士の事を思うとこれくらいの苦痛で泣き言は言えないのです。私は走ります。たとえ足がちぎれたとしても・・・。
そう思って走り続けましたが、とうとう合流地点まで走り抜けることができたのでした。
それを自覚できたのは、敵の騎兵が先ほどとは全く違う理由で私たちを追いかけてこなくなった頃の事です。
私たちの目の前にはアンドレア様の率いる1000の軍勢とヴァレリオ男爵が率いる800もの軍勢が灯す松明が夜の闇を焼くように揺らめいているのが見えたのです。
スパーダ軍の騎兵は敵の数に恐れおののき、撤退していきます。
そこでフィリッポがようやく足を止めたのでした。
全員、息も絶え絶えになって戦い、走り抜けました。
座り込むもの、倒れ込むものもいました。私も同じように恥も外聞もなく、地面に倒れ込んで焼けそうな肺で呼吸をするのでした。
しかし、そうやって私たちが呼吸を整えている間もフィリッポは手を休めませんでした。
松明の火で私たちの周りの草を燃やして自分たちの居場所を露にするのでした。
轟轟と燃える草を見つめながら、フィリッポは水筒の最後の水を飲み干しました。そして、全てに決別するかのように、その水筒を捨てるのでした。もう、彼はその人生で今後二度と水を飲まないということがわかっていたのです。
そうして、そんな彼の行動を見た部下たちも彼に習って水を飲みほすと水筒を捨てるのでした。
その姿を見るのはあまりにも忍びない。まだ若い子もいるというのに・・・。
彼らの無念をよく知る私は彼らと同じように水を飲んでも水筒の中の水を最後までは飲みませんでした。水はわずかに残し、皆の前でちゃぷちゃぷと小さな水音をたてて誓いました。
「この水はあなた達との契約を果たしてから飲みます。
かならず、あなた達の死を無駄にはしません。
周りに綺麗事だとか、理想夢想の愚かものだと蔑まれることになっても、かならず和平を成し遂げて見せます。」
「それがっ・・・!!
それが、今日死んでいく英雄たちに返せるせめてもの恩返しなのですっ・・・!!」
精一杯、涙をこらえて凛々しく宣誓したつもりだったのですが、フィリッポに「姫様。涙を流したら、水を飲んだ意味が無くなりますよ」という一言で皆から笑われてしまったのです。
そうして、私たちの下へ向かってくる3つの勢力、数千の兵士が踏み鳴らす足音がいよいよ近づいてくると、衝突までの僅かな時間を利用して私は騎士たち一人一人に叙勲の儀式をするのでした。
騎士達はフィリッポを頭に跪いて一列に並び、私は剣をもって彼らの肩を叩きながら、誓いの言葉を告げます。
「汝、我が国の剣として奉仕してくれたことをここに認めます。
汝の武勇、忠誠、勇気は我が国の誇り、
ここに汝の武勇をたたえて星1等を授与する。
努々、忠節専一に候也。」
フィリッポには騎士としては最高位の武勲章星1等を授け、部下たちには2等を授けました。星1等は国衆としての家格を得ることを意味します。私はフィリッポの家族にその権利を与え、また、彼の部下たちも彼の家臣団になることを示したのです。
誰もが神妙な顔で叙勲式を終えました。そうして、儀式が終わって立ち上がると、皆、晴れ晴れとした表情で2方向から向かってくる数千の敵を睨みつけて口々に叫ぶのでした。
「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!!
我らはエデン国王女ラーマ・シュー様の護衛部隊なりっ!!
命が惜しくないものから、かかってまいれっ!!」
勇敢な私の騎士達が名乗りを上げて敵を迎え撃たんと構えた時、我々の目前でアンドレア様の部隊とフェデリコの部隊が衝突するのが見えました。
「おおおっ!! ラーマっ!!
迎えに来たぞっ!! さぁっ!! 私と共に来いっ!!」
アンドレア様の部隊の先頭集団にはなんと、アンドレア様ご自身が先陣切って部隊を率いていました。その姿に呆気にとられたフィリッポは
「なんという蛮勇・・・。総大将自らが一番先頭に出てくるとは・・・
皇太子は理性を失ったのか?」
と、思わず声に出してしまいました。しかし、これには私も同意です。
「アンドレアお兄様は、命が惜しくはないのでしょうか?
総大将が自ら前線に出てくるとは・・・」
私は何もおかしなことは言っていません。ですが、皆さん声を上げて笑うのです。
「姫様がそれを仰いますかっ?」
フィリッポまで愉快そうに。
私のは成り行きですっ! アンドレア様とはちがいますっ!!
死を覚悟した面々はアンドレア様とフェデリコの部隊が激突して、激しい殺し合いを展開しているというのに何事もないかのように談笑するのでした。
目の前で人が殺しあっているというに、自分たちも死ぬのだと覚悟を決めている人と言うのは、本当に恐れを知らない。いえ。もしかしたら今日一日で色々なものを失いすぎて私たち、今、目の前で起きていることに現実味を感じていないのかもしれません。
しかし、そうは言っても戦争は実際に起こっているのです。
やがてアンドレア様は味方に守られながら、私の下へまっすぐに向かってきたのです。
「ラーマっ!
私だっ! さぁ、武装を解除してここへ来なさいっ!!」
叫びながら、片手で馬を操りながら反対の手で私を抱きしめるようなしぐさをしながら、アンドレア様は私の方へ向かってきます。
しかし、それを許すわけがないのです。私の大切な騎士達は口々に叫びます。
「笑止なりっ!!
気が狂ったか、皇太子っ!!
我らとの同盟を裏切り姫様を強奪しようなどと、それが騎士のすることかっ!!
ましてや総大将が先陣切ってくるとは、あきれ果てたうつけ者っ!!
貴様のような阿呆には、我らの姫様は渡さんっ!!」
「我らの姫様も逆臣に騙されて戦場にノコノコ出てくるような阿呆だが、貴様のような卑劣漢では決してないっ!!」
「その通りっ!! それに貴様のような阿呆と我らの姫様のような阿呆がくっつけば、この世の終わりよっ!!
天の理に逆らう行為と思って姫様の事は諦められよっ!!」
「・・・・・・。ね、皆。最後だからって私に対して厳しすぎない?」
口々に罵りの言葉を吐くのでアンドレア様は正気を失ったように雄たけびを上げると、
「ならば、問答無用ッ!!
貴様らを殺してラーマを奪い去るのみっ!!」
と、宣言してさらに速度を上げて走ってきました。今のアンドレア様は敵であるフェデリコの部隊から見れば、あまりにもわかりやすい標的。にも拘らず卓越した馬術と家臣たちの護衛を受けて、まるで大波の中の漂流物を避けて泳ぐ魚のようにスイスイと敵を交わして突撃してきました。
「総員。構えっ!! 弓~~っ!!」
フィリッポの号令で全員が弓を構えます。
「狙いっ!! あのクソ野郎っ!!」
次の号令で全員があのクs・・・アンドレア様に狙いを絞ります。
そうして、フィリッポはアンドレア様との距離がギリギリになるまで耐えに耐えてから発射の号令を出すのでした。
「はなてええええっ~~~!!」
フィリッポの号令でアンドレア様に向けて矢が放たれますが、アンドレア様の家臣達が盾を構えながら身を捨ててアンドレア様を守ります。そうして矢に打たれて倒れていく家臣達には見向きもせずにアンドレア様は私に向かってくるのでした。
「アンドレアお兄様っ!!
軽蔑いたしますっ!! あなたの家臣の命を何だとお思いですかっ!!
私のような女を手に入れるために家臣を地獄に追いやって、あなたに何の大義がございましょうっ!!」
「私はそのような下劣の輩は嫌いですっ!!
そうそうに可哀想な家臣を連れて御引取下さいっ!!」
「私は決してあなたの物にはなりませんっ!!」
最後の最後の抵抗。私はアンドレア様にはっきりとお断りの言葉を告げました。ですが、アンドレア様の御耳には私の声は届かないようです。一心不乱に私に向かって突撃してくるのです。
なにがアンドレア様を狂わせたのでしょうか?
聡明だったはずのアンドレア様が今では見る影もないほど蛮勇に狂ってしまわれています。
いえ、蛮勇ではなくて色欲でしょうか?
私という女を手に入れるために家臣の命を犠牲にするなど、それは愛ではなく色欲です。
アンドレア様は狂ってしまわれたのです。
だから・・・。気が付けなかった・・・。
もう一つの勢力。ヴァレリオ男爵が率いる軍勢が自分に向けて突撃してきていることにさえ・・・。
「者共っ!! 突撃せよっ!!
戦場を混乱の渦に巻き込むのだっ!!」
アンドレア様が私たちにあと馬二頭ぶんの距離まで近づいたとき、ヴァレリオ男爵が横やりを入れるかのように突撃してきたのでした。
そして、第三の勢力の新たなる衝突は二つの敵勢力の陣形を渦潮のようにかき乱し、戦場は大混乱に陥ったのでした・・・。
しかし、そうはいっても多勢に無勢。山のふもとまで下りたときには、私たちの人数は10人ほど減っていました。しかも、麓にはまだ馬を降りていなかった騎兵が10名いて、さらに上からフェデリコの死に物狂いの兵士たちが追いかけてきています。
フィリッポはそれを背後に見ながら、剣を天に突き立てて声を上げます。
「密集陣形っ!!
一点突破っ!!」
その声を合図に精鋭部隊20名は私とフィリッポを中心に一糸乱れぬ動きで密集陣形となり、騎馬兵10名に向かって突撃します。
「姫様っ!! 肺腑が張り裂けても走っていただくっ!!」
フィリッポはそう宣言すると、私の腕を引っ張り上げながら走り出しました。ここで私が遅れれば皆が死んでしまうっ!! そう思って私は必死で走りました。そんな私たちに向かって騎兵は敢えて道を開けるように私たちから離れていきます。そうして、私たちの攻撃が届かぬ距離から弓矢で攻撃してきたのです。
「盾を掲げよぉおおおおおお~~~っ!!」
フィリッポの怒声は、それがどれほど危機的状況なのか教えてくれます。歩兵と騎馬兵の弓矢では狙い撃ちの的にされるだけ。私たちは盾を掲げて守りながら走るしかないのですが、人間の足と騎兵の足では勝負になりません。いずれ私たちは疲れ果てて足は止まり、矢の餌食になる結果が見えていました。
しかし・・・。そこは精鋭部隊の隊長。フィリッポは信じられない行動に出たのです。
「肩を貸せっ!!」
と、自分の前列に声をかけると、飛び上がって2人の肩を蹴りあがったかと思うと、右手に持った剣を勢いよく投げつけ、騎兵を一騎仕留めて見せたのでした。その攻撃に慌てたのは敵の騎兵。まさかの跳躍攻撃、そして剣を弓矢の如く投げ飛ばす尋常ならざるフィリッポの筋力に「ああっ!! 化物だっ!」と声を上げて恐れたのでした。
「隊長っ!! お見事っ!!」
そう言って、自分の剣を差し出す部下の剣を受け取ると「ありがとう・・・スマンな。」と、声をかけるフィリッポ。
そうして、先ほどの攻撃が功を奏したのか、騎兵たちがにわかに消極的になり、私たちから一層、距離を取るようになったののです。
「凄いっ!! もう弓も届かない距離まで離れましたよっ!!」
私が無邪気にそう言うと、フィリッポは苦い顔をして首を振りました。
「・・・。敵はこうやって我らに迂闊に手を出さなくなりましたが、その代わりに我々を走らせて疲れさせるのが目的です。」
私たちは何処まで行っても天敵に追われる獲物でした。
追われる獲物は逃げて走るしかないのです。今日一日でどれほど走ったでしょうか? 幼いころから軍事教練を受けてきた身とはいえ、正直生まれて初めてここまで走り続けました。呼吸は乱れに乱れて、肺腑が張り裂けるかというほどほど走りましたが、それでもまだ私は走らなければなりません。死んでいった兵士の事を思うとこれくらいの苦痛で泣き言は言えないのです。私は走ります。たとえ足がちぎれたとしても・・・。
そう思って走り続けましたが、とうとう合流地点まで走り抜けることができたのでした。
それを自覚できたのは、敵の騎兵が先ほどとは全く違う理由で私たちを追いかけてこなくなった頃の事です。
私たちの目の前にはアンドレア様の率いる1000の軍勢とヴァレリオ男爵が率いる800もの軍勢が灯す松明が夜の闇を焼くように揺らめいているのが見えたのです。
スパーダ軍の騎兵は敵の数に恐れおののき、撤退していきます。
そこでフィリッポがようやく足を止めたのでした。
全員、息も絶え絶えになって戦い、走り抜けました。
座り込むもの、倒れ込むものもいました。私も同じように恥も外聞もなく、地面に倒れ込んで焼けそうな肺で呼吸をするのでした。
しかし、そうやって私たちが呼吸を整えている間もフィリッポは手を休めませんでした。
松明の火で私たちの周りの草を燃やして自分たちの居場所を露にするのでした。
轟轟と燃える草を見つめながら、フィリッポは水筒の最後の水を飲み干しました。そして、全てに決別するかのように、その水筒を捨てるのでした。もう、彼はその人生で今後二度と水を飲まないということがわかっていたのです。
そうして、そんな彼の行動を見た部下たちも彼に習って水を飲みほすと水筒を捨てるのでした。
その姿を見るのはあまりにも忍びない。まだ若い子もいるというのに・・・。
彼らの無念をよく知る私は彼らと同じように水を飲んでも水筒の中の水を最後までは飲みませんでした。水はわずかに残し、皆の前でちゃぷちゃぷと小さな水音をたてて誓いました。
「この水はあなた達との契約を果たしてから飲みます。
かならず、あなた達の死を無駄にはしません。
周りに綺麗事だとか、理想夢想の愚かものだと蔑まれることになっても、かならず和平を成し遂げて見せます。」
「それがっ・・・!!
それが、今日死んでいく英雄たちに返せるせめてもの恩返しなのですっ・・・!!」
精一杯、涙をこらえて凛々しく宣誓したつもりだったのですが、フィリッポに「姫様。涙を流したら、水を飲んだ意味が無くなりますよ」という一言で皆から笑われてしまったのです。
そうして、私たちの下へ向かってくる3つの勢力、数千の兵士が踏み鳴らす足音がいよいよ近づいてくると、衝突までの僅かな時間を利用して私は騎士たち一人一人に叙勲の儀式をするのでした。
騎士達はフィリッポを頭に跪いて一列に並び、私は剣をもって彼らの肩を叩きながら、誓いの言葉を告げます。
「汝、我が国の剣として奉仕してくれたことをここに認めます。
汝の武勇、忠誠、勇気は我が国の誇り、
ここに汝の武勇をたたえて星1等を授与する。
努々、忠節専一に候也。」
フィリッポには騎士としては最高位の武勲章星1等を授け、部下たちには2等を授けました。星1等は国衆としての家格を得ることを意味します。私はフィリッポの家族にその権利を与え、また、彼の部下たちも彼の家臣団になることを示したのです。
誰もが神妙な顔で叙勲式を終えました。そうして、儀式が終わって立ち上がると、皆、晴れ晴れとした表情で2方向から向かってくる数千の敵を睨みつけて口々に叫ぶのでした。
「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!!
我らはエデン国王女ラーマ・シュー様の護衛部隊なりっ!!
命が惜しくないものから、かかってまいれっ!!」
勇敢な私の騎士達が名乗りを上げて敵を迎え撃たんと構えた時、我々の目前でアンドレア様の部隊とフェデリコの部隊が衝突するのが見えました。
「おおおっ!! ラーマっ!!
迎えに来たぞっ!! さぁっ!! 私と共に来いっ!!」
アンドレア様の部隊の先頭集団にはなんと、アンドレア様ご自身が先陣切って部隊を率いていました。その姿に呆気にとられたフィリッポは
「なんという蛮勇・・・。総大将自らが一番先頭に出てくるとは・・・
皇太子は理性を失ったのか?」
と、思わず声に出してしまいました。しかし、これには私も同意です。
「アンドレアお兄様は、命が惜しくはないのでしょうか?
総大将が自ら前線に出てくるとは・・・」
私は何もおかしなことは言っていません。ですが、皆さん声を上げて笑うのです。
「姫様がそれを仰いますかっ?」
フィリッポまで愉快そうに。
私のは成り行きですっ! アンドレア様とはちがいますっ!!
死を覚悟した面々はアンドレア様とフェデリコの部隊が激突して、激しい殺し合いを展開しているというのに何事もないかのように談笑するのでした。
目の前で人が殺しあっているというに、自分たちも死ぬのだと覚悟を決めている人と言うのは、本当に恐れを知らない。いえ。もしかしたら今日一日で色々なものを失いすぎて私たち、今、目の前で起きていることに現実味を感じていないのかもしれません。
しかし、そうは言っても戦争は実際に起こっているのです。
やがてアンドレア様は味方に守られながら、私の下へまっすぐに向かってきたのです。
「ラーマっ!
私だっ! さぁ、武装を解除してここへ来なさいっ!!」
叫びながら、片手で馬を操りながら反対の手で私を抱きしめるようなしぐさをしながら、アンドレア様は私の方へ向かってきます。
しかし、それを許すわけがないのです。私の大切な騎士達は口々に叫びます。
「笑止なりっ!!
気が狂ったか、皇太子っ!!
我らとの同盟を裏切り姫様を強奪しようなどと、それが騎士のすることかっ!!
ましてや総大将が先陣切ってくるとは、あきれ果てたうつけ者っ!!
貴様のような阿呆には、我らの姫様は渡さんっ!!」
「我らの姫様も逆臣に騙されて戦場にノコノコ出てくるような阿呆だが、貴様のような卑劣漢では決してないっ!!」
「その通りっ!! それに貴様のような阿呆と我らの姫様のような阿呆がくっつけば、この世の終わりよっ!!
天の理に逆らう行為と思って姫様の事は諦められよっ!!」
「・・・・・・。ね、皆。最後だからって私に対して厳しすぎない?」
口々に罵りの言葉を吐くのでアンドレア様は正気を失ったように雄たけびを上げると、
「ならば、問答無用ッ!!
貴様らを殺してラーマを奪い去るのみっ!!」
と、宣言してさらに速度を上げて走ってきました。今のアンドレア様は敵であるフェデリコの部隊から見れば、あまりにもわかりやすい標的。にも拘らず卓越した馬術と家臣たちの護衛を受けて、まるで大波の中の漂流物を避けて泳ぐ魚のようにスイスイと敵を交わして突撃してきました。
「総員。構えっ!! 弓~~っ!!」
フィリッポの号令で全員が弓を構えます。
「狙いっ!! あのクソ野郎っ!!」
次の号令で全員があのクs・・・アンドレア様に狙いを絞ります。
そうして、フィリッポはアンドレア様との距離がギリギリになるまで耐えに耐えてから発射の号令を出すのでした。
「はなてええええっ~~~!!」
フィリッポの号令でアンドレア様に向けて矢が放たれますが、アンドレア様の家臣達が盾を構えながら身を捨ててアンドレア様を守ります。そうして矢に打たれて倒れていく家臣達には見向きもせずにアンドレア様は私に向かってくるのでした。
「アンドレアお兄様っ!!
軽蔑いたしますっ!! あなたの家臣の命を何だとお思いですかっ!!
私のような女を手に入れるために家臣を地獄に追いやって、あなたに何の大義がございましょうっ!!」
「私はそのような下劣の輩は嫌いですっ!!
そうそうに可哀想な家臣を連れて御引取下さいっ!!」
「私は決してあなたの物にはなりませんっ!!」
最後の最後の抵抗。私はアンドレア様にはっきりとお断りの言葉を告げました。ですが、アンドレア様の御耳には私の声は届かないようです。一心不乱に私に向かって突撃してくるのです。
なにがアンドレア様を狂わせたのでしょうか?
聡明だったはずのアンドレア様が今では見る影もないほど蛮勇に狂ってしまわれています。
いえ、蛮勇ではなくて色欲でしょうか?
私という女を手に入れるために家臣の命を犠牲にするなど、それは愛ではなく色欲です。
アンドレア様は狂ってしまわれたのです。
だから・・・。気が付けなかった・・・。
もう一つの勢力。ヴァレリオ男爵が率いる軍勢が自分に向けて突撃してきていることにさえ・・・。
「者共っ!! 突撃せよっ!!
戦場を混乱の渦に巻き込むのだっ!!」
アンドレア様が私たちにあと馬二頭ぶんの距離まで近づいたとき、ヴァレリオ男爵が横やりを入れるかのように突撃してきたのでした。
そして、第三の勢力の新たなる衝突は二つの敵勢力の陣形を渦潮のようにかき乱し、戦場は大混乱に陥ったのでした・・・。
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