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第2章 新国家「エデン」
第23話 白馬に乗った王子様
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敵の数に怯える私の肩をヴァレリオ男爵は支えてくれました。そして、頼もしくも味方の兵を鼓舞するために気を吐いたのです。
「者共っ!! 決戦の時は今っ!!
恐れることはないっ!! 明けの明星様を信じよっ!!
生き残りたければ、迷いは捨てよっ!! 命さえ捨てよっ!!
命に執着すればするほど死神はお前たちを見つけると心得よっ!!」
「我らには秘策がある。あの明けの明星様の秘策がだ。
そして、我らの旗頭はラーマ姫様である。明けの明星様の御寵愛深きこのお方を御守りしていれば、必ず、必ず明けの明星様は我らをお見捨てにはならないっ!!」
「明けの明星様を信じよっ!!
我らが姫様を信じよっ!!
決戦の時、今来たれりっ!!」
ヴァレリオ男爵が剣を掲げてそう言うと、2万を超える軍勢に恐れおののいていたはずの私の家臣達が拳を突き上げながら「おおおお~~っ!!」と声を上げて、闘気をみなぎらせるのでした。
私はその時のヴァレリオ男爵に感動いたしました。
(・・・ステキ。やはり、殿方って頼りになるし、カッコいいっ!!!)
(普段、ちょっとエッチな誘惑に負けるくせに、こんなときになると本当にカッコいいですわっ!!)
ヴァレリオ男爵は見惚れる私に
「姫様。鎧のご準備を・・・。これからどうなるかわかりませんぞ。ですが、姫様の御命だけは私が守って見せます。ご安心くださいませ。」
とだけ囁くと、自分は作戦本部へと颯爽と向かっていくのでした。
「・・・物語に出てくる白馬の王子様って・・・きっと彼のような人の事なのですね。
町の娘が夢物語に恋い焦がれる気持。私にも少しわかった気がいたします。」
天蓋の中で鎧に着替える私をサポートしてくださるお姉様に私はポツリと言ってしまいました。
本当は侍女にやらせるようなお仕事をお姉様にしていただくのは無礼なのですが、お姉様はむしろご自分以外の者を外に追い払われて私を手伝ってくださいました。だから天蓋の中は私とお姉様だけ。だから油断したのでしょうか? 戦の前だというのに、ついそんなことを口走ってしまいました。
でも、お姉様は私をお責めにはなりませんでした。
「仕方ないわ。あのヴァレリオって子。顔も綺麗だし、背も高いし、声も低くてカッコいいですものね。
まだ乙女のあなたなら、ちょっと優しくされだけで気になってしまいます。」
そして
「でもね~。私の勘じゃ、あの子、ああ見えて相当に女慣れしているわよぉ~?
恋愛遍歴は、推して知るべしってね」
なんて言うのです。
「まぁ、私はああいう子よりもやっぱり旦那様みたいな圧倒的な王がいいわ~。
だって、私、もう旦那様なしでは生きていけない体にされてしまったんのですもの~。」
そう言って、明けの明星様の事を反芻しながら、いやらしく身をくねらせるお姉様。
・・・。ふ~ん、私って、そういうのじゃありませんからっ!!
着替えが終わって、天蓋の外に出るとヴァレリオ男爵が数十名の部下を引き連れて私を訪ねて参りました。
「姫様。こちらに控える者共は、私が最も信頼の置く手練れ衆。この者達を姫様に預けます。」
と思いもよらないことを言うので、私はビックリしてしまいました。
「そ、そんな凄い騎士達は、むしろ前線で戦うあなたにこそ必要でしょう? どうして・・・。」
「姫様。お静かに・・・。」
ヴァレリオ男爵はそう言うと私の耳元で小声で囁くのです。
(どうにも、此度の件。怪しい気がいたします。
いかに姫様が逸脱行為をなされたとはいえ、この敵の数に30名の兵で守らせるとは行き過ぎに御座います。
私が思いまするに、何者かが姫様を孤立させる目的があるのではないかと・・・・・・)
その言葉に私がハッとして思わず「裏切りがあるというのですかっ!?」と声を上げそうになると、ヴァレリオ男爵はその大きな掌で私の口を塞ぎました。
「んぐっ!!」
(しっ!! お声が大きゅう御座います。とにかく嫌な予感がいたしますし、念には念でございます。
お気を付けくださりませ。何か異変がございましたら、この者共に命じてすぐに私の部隊に集結してください。)
ヴァレリオ男爵は、それだけ伝えると「ご無礼を・・・」と言って頭を下げたのちに再びご自分のお仕事に戻られるのでした・・・。
か、カッコいいですぁっ!!! と、私がその後ろ姿に感動いたしていますと、お姉様が「・・・ふ~ん。あれじゃ初心なラーマが引っかかるのは、やっぱり無理ないですわね。」なんて嫌なことを仰います。
私、引っかかってなんかいませんっ!!
これはそういうんじゃありませんから~~~~っ!!
しかし、ヴァレリオ男爵が騎士を貸してくれたおかげで安心したのか、お姉様の軽口のおかげで肩の力が抜けたのか・・・。私は2万を超える敵を前にしても恐れる気持がありませんでした。
そうして、合戦が始まるのを冷静な目で見ることができました。
敵が姿を見せてから2時間後の事。敵の戦闘部隊と後続部隊の連結が終了したようで、敵が進撃を開始しました。
両端に絶壁がそびえたつ道を乗り越えて、その先にある小高い岩山に陣を構えた私を目指して号令の太鼓を叩き鳴らすスパーダ軍がゆっくりと進んできます。その進撃速度は遅く、その姿勢から私はスパーダ軍が被害が出ることを恐れていないことを悟りました。通常、こういった場合は両脇の狙撃部隊を攻略するために側面の山にも兵を振り分けて各個撃破を図り、しかる後に敵の本陣を攻撃するべきなのです。それが大軍の戦法と言うもの。
しかし、敵は小細工など使わずに力ずくで突破しようと目論んでいると思われます。
この緩やかな進軍は、きっとその覚悟を象徴するものなのでしょう・・・・・・。
そうして私の予測はあたり、スパーダ軍は我が軍の両側面からの攻撃に甚大な被害を出してるというのに、いささかの迷いも感じさせない進軍を続けるのです。
「ど、どうしてっ!?
あんなに大勢の人が死んでいますっ!! どうして戦争をやめないのですかっ!」
死屍累々の屍の山をスパーダ軍は気にする様子もなく進軍してきます。そして、彼らの反撃を受けて私の家臣達も次々に死んでいきます。
「もう止めてっ!! みんな死んでしまいますわっ!!」
泣き叫ぶ私の声は戦場には届かず、戦は続きます。
死ぬ、死ぬ、死ぬ。大勢が死んでいます。
こ、こんなバカな話はありませんっ!! どうして、みんなわかってくれないのですかっ!!
そんなに誰かを殺したいのですかっ!!
その後。2時間にわたって続いた戦いは正午を過ぎて、ようやくスパーダ軍が一時撤退をしたのでした・・・。
安堵する家臣団を前に私は敵味方問わずに死んでいった者達の遺体を前に涙にくれるしかありませんでした・・・。
「右岸、損害105っ! 内、死亡者70名、負傷者35名っ!!
左岸、損害78っ! 内、死亡者69名、負傷者名9名っ!!
中央陣営、損害121っ! 内、死亡者88名、負傷者33名っ!!」
スパーダ軍を挟み撃ちにしている各陣営の人的損害の報告がまとまり、我々に連絡されました。
たった2時間のうちに我が軍は全兵力の10分の1以上を失ってしまったのでした。
「なんということだ。敵の被害は1500近くいようが、それでも2万を超える兵力。
この陣地は持って、あと2回。もうその次はどうしようもないだろうな。」
「こちらの損害が思ったよりも多い。一体、どういうわけなのだ?」
「魔法だよ、魔法。連中、よほど強い魔法使いを抱えているらしい。
そいつが岸壁の兵士を攻撃しているものだから、我が方は、思いのほかうまく連携が取れていないようだ。」
「対魔術師用の殺し屋が必要だな。
誰か手練れに心当たりはあるか? このまま魔法使いを野放しにしたら全滅になりかねない。」
重臣たちは必死になって作戦会議をしています。
これほど多くの人が死んでも戦いをやめられないなんて・・・。これも魔族の血がさせることなのでしょうか?
私にはわかりません。どうしてかように争い続けるのですか?
皆にそう問いかけてみても結果は目に見えています。私はお飾りの姫らしく、皆の意見に耳を傾けるしかないのでしょうか?
そう思った矢先、家臣団の一人が私に意見を求めました。
「姫様、いかがなさいましょうか?
撤退か、現状維持か? それとも攻撃に出るか・・・。」
彼の名はカルロ・ダ二エール。父上の代からの重臣にして古き血を引く家系の者。彼はジャック・ダー・クーが攻め込んできたときに自分の領地を守ることに専念して助けに来なかったことから、明けの明星様の怒りを買い、領地の半分を没収されてしまった没落した国衆でした。(※国衆とは支配自治権を認められた土豪。)
私は彼の目を見て一つの事に気が付きました。
それは彼が逃げたがっているという事です。
没落した家は戦働きで手柄を立ててお家復興を願うものですが、彼はこの期に及んでもまだ、生き残ることに執着しているのでした。
そして、そんな彼こそ私には助けになります。
「カルロ。よく聞いてくれましたね。
皆、私は。再度、再度、和平交渉の機会を求めます。
今は敵味方共に甚大な被害を受けております。いまならば、きっと。スパーダ軍も私の話を聞いて・・・」
私がそう言いかけた時、一人の家臣がテーブルを叩いて怒りをあらわにしながら、叫びました。
「いい加減になさいませっ!!
姫様に戦の何がわかるというのですかっ!!」
彼の名は、ヤコボ・エンリコ男爵。老兵にして、この度の戦のために一度引退した身でありながら出陣してくれたかつての将軍でした。彼は、先の戦で息子を亡くして爵位を復活させてまでこの戦に参加した歴戦の勇士。その彼が私に戦の何がわかると言われたら、反論の余地などあろうはずがございません。
「姫っ!! スパーダ軍の進軍を何とお心得か?
あの死をも恐れぬ進軍をする彼奴らが、少々の被害を受けたからと言って、どうして引き下がりましょうやっ!!
あなたにはわからないのです。戦争の狂気がっ!!」
「我が軍も同様なのですっ!!
死んでいった兵士一人として、無駄に命を落としたのではありませんぞっ!!
彼らの無念を、願いを、我らが果たさずしていかにするっ!!」
そう言ったヤコボが息を荒げる姿を見て、賛同せぬ者はおりませんでした。さすがのヴァレリオ男爵も
「・・・・・・では、こちらから攻撃を仕掛けるか、現状維持かの二択でございますな?」
と言うしかありませんでした。すでに盛り上がった我が軍の兵士の機嫌を損ねては、それこそ戦況に悪い影響が出ます。ヴァレリオ男爵は、申し訳なさそうに私を見てから、どちらの作戦をとるか採択を行うのでした。
私は、それを見守ることしかできないのです。
そうして攻撃が採択されました。夜襲による奇襲を仕掛けて敵の安眠を妨害して戦意を削ごうというのです。
作戦遂行はカルロ・ダニエール・・・。先ほど私に意見を求めた彼はこれまでの経緯もあって、今後裏切らないように奇襲作戦を任命されたのです。
可哀想なカルロ。ヴァレリオ男爵からその命を下された時、彼は震えていました。その作戦の危険性をよく理解していたからです。
・・・・・・どうして、そんなことをしてまで戦うのですか? 私たちは・・・。
そんな悲しい思いを抱えて一人で天蓋で泣いていた時の事でした。深夜の奇襲の前にカルロが他の重臣二人と共に私の下へ出陣の挨拶に来たのでした。
彼は言いました。
「私は死にたくありません」
「戦争でこれ以上、部下が死ぬのも耐えられません。
どうか姫様。私と共に来て敵を説得してくださいませ。」
と涙をこぼして言うのでした。そして、彼と共に来た彼の古い友人でもある重臣たちも彼を救うために私に頭を下げてお願いしてきたのです。
「ああっ!! そうですわっ!! 戦争など無意味なのですよっ!!
なんてステキな作戦なのっ! 必ずこの戦、私が止めて見せますっ!!」
やっと私の声が家臣に届き始めたのでした。
「者共っ!! 決戦の時は今っ!!
恐れることはないっ!! 明けの明星様を信じよっ!!
生き残りたければ、迷いは捨てよっ!! 命さえ捨てよっ!!
命に執着すればするほど死神はお前たちを見つけると心得よっ!!」
「我らには秘策がある。あの明けの明星様の秘策がだ。
そして、我らの旗頭はラーマ姫様である。明けの明星様の御寵愛深きこのお方を御守りしていれば、必ず、必ず明けの明星様は我らをお見捨てにはならないっ!!」
「明けの明星様を信じよっ!!
我らが姫様を信じよっ!!
決戦の時、今来たれりっ!!」
ヴァレリオ男爵が剣を掲げてそう言うと、2万を超える軍勢に恐れおののいていたはずの私の家臣達が拳を突き上げながら「おおおお~~っ!!」と声を上げて、闘気をみなぎらせるのでした。
私はその時のヴァレリオ男爵に感動いたしました。
(・・・ステキ。やはり、殿方って頼りになるし、カッコいいっ!!!)
(普段、ちょっとエッチな誘惑に負けるくせに、こんなときになると本当にカッコいいですわっ!!)
ヴァレリオ男爵は見惚れる私に
「姫様。鎧のご準備を・・・。これからどうなるかわかりませんぞ。ですが、姫様の御命だけは私が守って見せます。ご安心くださいませ。」
とだけ囁くと、自分は作戦本部へと颯爽と向かっていくのでした。
「・・・物語に出てくる白馬の王子様って・・・きっと彼のような人の事なのですね。
町の娘が夢物語に恋い焦がれる気持。私にも少しわかった気がいたします。」
天蓋の中で鎧に着替える私をサポートしてくださるお姉様に私はポツリと言ってしまいました。
本当は侍女にやらせるようなお仕事をお姉様にしていただくのは無礼なのですが、お姉様はむしろご自分以外の者を外に追い払われて私を手伝ってくださいました。だから天蓋の中は私とお姉様だけ。だから油断したのでしょうか? 戦の前だというのに、ついそんなことを口走ってしまいました。
でも、お姉様は私をお責めにはなりませんでした。
「仕方ないわ。あのヴァレリオって子。顔も綺麗だし、背も高いし、声も低くてカッコいいですものね。
まだ乙女のあなたなら、ちょっと優しくされだけで気になってしまいます。」
そして
「でもね~。私の勘じゃ、あの子、ああ見えて相当に女慣れしているわよぉ~?
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なんて言うのです。
「まぁ、私はああいう子よりもやっぱり旦那様みたいな圧倒的な王がいいわ~。
だって、私、もう旦那様なしでは生きていけない体にされてしまったんのですもの~。」
そう言って、明けの明星様の事を反芻しながら、いやらしく身をくねらせるお姉様。
・・・。ふ~ん、私って、そういうのじゃありませんからっ!!
着替えが終わって、天蓋の外に出るとヴァレリオ男爵が数十名の部下を引き連れて私を訪ねて参りました。
「姫様。こちらに控える者共は、私が最も信頼の置く手練れ衆。この者達を姫様に預けます。」
と思いもよらないことを言うので、私はビックリしてしまいました。
「そ、そんな凄い騎士達は、むしろ前線で戦うあなたにこそ必要でしょう? どうして・・・。」
「姫様。お静かに・・・。」
ヴァレリオ男爵はそう言うと私の耳元で小声で囁くのです。
(どうにも、此度の件。怪しい気がいたします。
いかに姫様が逸脱行為をなされたとはいえ、この敵の数に30名の兵で守らせるとは行き過ぎに御座います。
私が思いまするに、何者かが姫様を孤立させる目的があるのではないかと・・・・・・)
その言葉に私がハッとして思わず「裏切りがあるというのですかっ!?」と声を上げそうになると、ヴァレリオ男爵はその大きな掌で私の口を塞ぎました。
「んぐっ!!」
(しっ!! お声が大きゅう御座います。とにかく嫌な予感がいたしますし、念には念でございます。
お気を付けくださりませ。何か異変がございましたら、この者共に命じてすぐに私の部隊に集結してください。)
ヴァレリオ男爵は、それだけ伝えると「ご無礼を・・・」と言って頭を下げたのちに再びご自分のお仕事に戻られるのでした・・・。
か、カッコいいですぁっ!!! と、私がその後ろ姿に感動いたしていますと、お姉様が「・・・ふ~ん。あれじゃ初心なラーマが引っかかるのは、やっぱり無理ないですわね。」なんて嫌なことを仰います。
私、引っかかってなんかいませんっ!!
これはそういうんじゃありませんから~~~~っ!!
しかし、ヴァレリオ男爵が騎士を貸してくれたおかげで安心したのか、お姉様の軽口のおかげで肩の力が抜けたのか・・・。私は2万を超える敵を前にしても恐れる気持がありませんでした。
そうして、合戦が始まるのを冷静な目で見ることができました。
敵が姿を見せてから2時間後の事。敵の戦闘部隊と後続部隊の連結が終了したようで、敵が進撃を開始しました。
両端に絶壁がそびえたつ道を乗り越えて、その先にある小高い岩山に陣を構えた私を目指して号令の太鼓を叩き鳴らすスパーダ軍がゆっくりと進んできます。その進撃速度は遅く、その姿勢から私はスパーダ軍が被害が出ることを恐れていないことを悟りました。通常、こういった場合は両脇の狙撃部隊を攻略するために側面の山にも兵を振り分けて各個撃破を図り、しかる後に敵の本陣を攻撃するべきなのです。それが大軍の戦法と言うもの。
しかし、敵は小細工など使わずに力ずくで突破しようと目論んでいると思われます。
この緩やかな進軍は、きっとその覚悟を象徴するものなのでしょう・・・・・・。
そうして私の予測はあたり、スパーダ軍は我が軍の両側面からの攻撃に甚大な被害を出してるというのに、いささかの迷いも感じさせない進軍を続けるのです。
「ど、どうしてっ!?
あんなに大勢の人が死んでいますっ!! どうして戦争をやめないのですかっ!」
死屍累々の屍の山をスパーダ軍は気にする様子もなく進軍してきます。そして、彼らの反撃を受けて私の家臣達も次々に死んでいきます。
「もう止めてっ!! みんな死んでしまいますわっ!!」
泣き叫ぶ私の声は戦場には届かず、戦は続きます。
死ぬ、死ぬ、死ぬ。大勢が死んでいます。
こ、こんなバカな話はありませんっ!! どうして、みんなわかってくれないのですかっ!!
そんなに誰かを殺したいのですかっ!!
その後。2時間にわたって続いた戦いは正午を過ぎて、ようやくスパーダ軍が一時撤退をしたのでした・・・。
安堵する家臣団を前に私は敵味方問わずに死んでいった者達の遺体を前に涙にくれるしかありませんでした・・・。
「右岸、損害105っ! 内、死亡者70名、負傷者35名っ!!
左岸、損害78っ! 内、死亡者69名、負傷者名9名っ!!
中央陣営、損害121っ! 内、死亡者88名、負傷者33名っ!!」
スパーダ軍を挟み撃ちにしている各陣営の人的損害の報告がまとまり、我々に連絡されました。
たった2時間のうちに我が軍は全兵力の10分の1以上を失ってしまったのでした。
「なんということだ。敵の被害は1500近くいようが、それでも2万を超える兵力。
この陣地は持って、あと2回。もうその次はどうしようもないだろうな。」
「こちらの損害が思ったよりも多い。一体、どういうわけなのだ?」
「魔法だよ、魔法。連中、よほど強い魔法使いを抱えているらしい。
そいつが岸壁の兵士を攻撃しているものだから、我が方は、思いのほかうまく連携が取れていないようだ。」
「対魔術師用の殺し屋が必要だな。
誰か手練れに心当たりはあるか? このまま魔法使いを野放しにしたら全滅になりかねない。」
重臣たちは必死になって作戦会議をしています。
これほど多くの人が死んでも戦いをやめられないなんて・・・。これも魔族の血がさせることなのでしょうか?
私にはわかりません。どうしてかように争い続けるのですか?
皆にそう問いかけてみても結果は目に見えています。私はお飾りの姫らしく、皆の意見に耳を傾けるしかないのでしょうか?
そう思った矢先、家臣団の一人が私に意見を求めました。
「姫様、いかがなさいましょうか?
撤退か、現状維持か? それとも攻撃に出るか・・・。」
彼の名はカルロ・ダ二エール。父上の代からの重臣にして古き血を引く家系の者。彼はジャック・ダー・クーが攻め込んできたときに自分の領地を守ることに専念して助けに来なかったことから、明けの明星様の怒りを買い、領地の半分を没収されてしまった没落した国衆でした。(※国衆とは支配自治権を認められた土豪。)
私は彼の目を見て一つの事に気が付きました。
それは彼が逃げたがっているという事です。
没落した家は戦働きで手柄を立ててお家復興を願うものですが、彼はこの期に及んでもまだ、生き残ることに執着しているのでした。
そして、そんな彼こそ私には助けになります。
「カルロ。よく聞いてくれましたね。
皆、私は。再度、再度、和平交渉の機会を求めます。
今は敵味方共に甚大な被害を受けております。いまならば、きっと。スパーダ軍も私の話を聞いて・・・」
私がそう言いかけた時、一人の家臣がテーブルを叩いて怒りをあらわにしながら、叫びました。
「いい加減になさいませっ!!
姫様に戦の何がわかるというのですかっ!!」
彼の名は、ヤコボ・エンリコ男爵。老兵にして、この度の戦のために一度引退した身でありながら出陣してくれたかつての将軍でした。彼は、先の戦で息子を亡くして爵位を復活させてまでこの戦に参加した歴戦の勇士。その彼が私に戦の何がわかると言われたら、反論の余地などあろうはずがございません。
「姫っ!! スパーダ軍の進軍を何とお心得か?
あの死をも恐れぬ進軍をする彼奴らが、少々の被害を受けたからと言って、どうして引き下がりましょうやっ!!
あなたにはわからないのです。戦争の狂気がっ!!」
「我が軍も同様なのですっ!!
死んでいった兵士一人として、無駄に命を落としたのではありませんぞっ!!
彼らの無念を、願いを、我らが果たさずしていかにするっ!!」
そう言ったヤコボが息を荒げる姿を見て、賛同せぬ者はおりませんでした。さすがのヴァレリオ男爵も
「・・・・・・では、こちらから攻撃を仕掛けるか、現状維持かの二択でございますな?」
と言うしかありませんでした。すでに盛り上がった我が軍の兵士の機嫌を損ねては、それこそ戦況に悪い影響が出ます。ヴァレリオ男爵は、申し訳なさそうに私を見てから、どちらの作戦をとるか採択を行うのでした。
私は、それを見守ることしかできないのです。
そうして攻撃が採択されました。夜襲による奇襲を仕掛けて敵の安眠を妨害して戦意を削ごうというのです。
作戦遂行はカルロ・ダニエール・・・。先ほど私に意見を求めた彼はこれまでの経緯もあって、今後裏切らないように奇襲作戦を任命されたのです。
可哀想なカルロ。ヴァレリオ男爵からその命を下された時、彼は震えていました。その作戦の危険性をよく理解していたからです。
・・・・・・どうして、そんなことをしてまで戦うのですか? 私たちは・・・。
そんな悲しい思いを抱えて一人で天蓋で泣いていた時の事でした。深夜の奇襲の前にカルロが他の重臣二人と共に私の下へ出陣の挨拶に来たのでした。
彼は言いました。
「私は死にたくありません」
「戦争でこれ以上、部下が死ぬのも耐えられません。
どうか姫様。私と共に来て敵を説得してくださいませ。」
と涙をこぼして言うのでした。そして、彼と共に来た彼の古い友人でもある重臣たちも彼を救うために私に頭を下げてお願いしてきたのです。
「ああっ!! そうですわっ!! 戦争など無意味なのですよっ!!
なんてステキな作戦なのっ! 必ずこの戦、私が止めて見せますっ!!」
やっと私の声が家臣に届き始めたのでした。
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