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第2章 新国家「エデン」
第19話 美の化身
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明けの明星様が金塊を持ってきたとき、私をめぐってのお金の競り合いに終止符が打たれたのでした。
大国スパーダもアンドレア様の祖国ドラァーゴも嫁取合戦にここまでお金が払えないと思ったらしく、それ以上の融資は申し出てきませんでした。
魔王様が姿を見せてから5日も経つと私の下へ話をしに来る諸侯もいなくなったので、それで終わったのだと落ち着くことができました。ただ、私は正直、ホッと致しました。
だって、この出来レースはズル過ぎるのです。魔王様の魔法で作ったインチキです。そうとは知らずに多くの国の殿方が私に貢いできました。それは本当に申し訳が無いことです。いくら魔王様の命令に逆らえずにやったこととはいえ、殿方たちの御好意を利用し欺くような行為をして良心が痛まないわけがありません。そして、これ以上の被害が出ずに済んだことに安心してしまったのです。
執務室の窓から外を見ると諸侯の融資のおかげで城下町が随分再生しているのがわかります。
各国のおかげでこれほどの短期間で民衆の暮らしが楽になったのは本当に有難いことでした。そして、融資されたお金の使い道を城ではなくて城下町にあてがったのは、せめて善行のためにお金を使おうという罪から逃げ出したいという気持ちの表れだったのかもしれません。
悲しい・・・。私は、このようなことになってしまって本当に悲しい。
しかし、これほど城下町が再生されて民衆が喜ぶ姿をこれほど短期間で成し遂げることは他の方法ではまず不可能だったことを考えると・・・・・・複雑な思いです。
「ああ・・・。せめて私に力があれば・・・・・・。」
私が窓の外から城下を見つめて呟きに対し魔王様は仰いました。
「お前に力があればやと?
何、寝言ぬかしとんねん。街の再生は、この世にお前ほど力を持った女はおらんちゅーことを証明した証拠やで? 誇ったらええ。」
魔王様は意外なことを仰いました。自分の力が足りないから町も再建できずに詐欺まがいの手段を甘んじて受け入れたというのに、そんな私にこの世で私ほどの力を持った女はいないと魔王様は仰ったのです。
「多くの権力者は暴力を使って富を得るが、お前は魔神と比類なき美貌でもって男どもから金を搾り取ったのだ。
これが力でなくて何という。美は力なのだ。」
「詐欺行為、出来レースと心を痛める必要は何処にもない。
金は賢く奪い合うものなのだ。
権謀術数、謀略を使って他者を蹴落として商売で成功する者も多い中、お前は何もせずに、ただ男どもに笑顔と乳房を見せびらかすだけで勝利したのだ。方法に善悪などない。それが商売の本質だ。」
「誇りに思うがええっ!!
ラーマ。お前は美しいっ!!
お前はその美貌で世界を手中に収めることも、破滅させることも出来るんやっ!!」
この私の外見には世界を滅ぼす力がある。俄かには信じがたいお話ですが、魔王様は自信満々で仰ったのです。
そんな私の疑問を察した魔王様はお隣に立っていたお姉様の腰元を抱きかかえて引き寄せると、服を優しく脱がし始めるのでした。
「ああっ・・・・・・。お許しを・・・旦那様。どうかお許しください。」
お姉様が涙をにじませて懇願しても魔王様は服を脱がそうとする手を止めようとはなさりませんでした。私は思わず歩み寄って魔王様の手を掴んで止めに入ります。
「おやめくださりませっ!!
人前で女性に辱めを与えるなど、それが男のすることですかっ!!
お姉様が泣いていおられるではないですかっ!!」
必死になって魔王様をお止めするのですが、魔王様は笑って卑猥なことを仰ったのです。
「お前は何もわかってない。この女は俺を求めてるんや。
泣いとるやと?
与えてほしいから、男が最も喜ぶ反応を見せとるだけだ。
この媚びた目を見ろ。これが嫌がっている女の目に見えるんか?
見よ。周りの男どもをっ!!」
言われるがままに見ると、男どもは全員、お姉様に釘付けになったように見入っていました。あの貞淑なヴァレリオ男爵でさえも・・・・・・。
「きゃああっ!! な、なにを見ているんですかっ!
見てはいけませんっ!! 私のお姉様をいやらしい目で見ないで~~~っ!!」
私はもう、腹が立って執務室から全員追い出すと魔王様が笑うのです。
「見たかっ!! これが美の力や。
この女を見ろ。常識外れに大きなこの乳房は絹のような肌触りで水袋のように柔らかい。そしてどんな火酒よりも男を酔わせる甘露がとどめなく溢れる秘壺を隠し持つ。
わかるか? この女の前では、どんな権力者も屈強な男も跪くんや。
今、お前がその目で確かめたようにな・・・・・・。」
魔王様はそこまでお話になられると、お姉様を開放して私の目の前まで歩み寄ってくるのです。
そして、私の額にご自身の額がくっつくほどに近づけるのでした。
それだけで私は息が止まってしまうと思うほど、動揺してしまいます。
その御尊顔は、お美しすぎたのです。
私はその時に改めて魔王様が仰っていた美貌の魔力を思い知りました。
清流のように美しい青い瞳にお天道様のように輝く金の髪。白雪のように輝く肌に薄いピンクの唇。
お美しすぎる魔王様・・・。私は魔王様の御顔がこうして近づくだけで胸が高鳴り、呼吸は乱れ、肌は汗ばみ、女としての火照りを止められません。
真の美貌のお力は魔王様のものっ!! 決して誰も抗うことができないっ!!
私はそう確信せざるを得なかったのです。
「思い知ったか、美の力を。
そしてこの女と比類なく美しい姫よ。お前も同じ力を持っとるんや。
心して聴くがええ。
これから争いが起きるぞ。いや、この期に及んでは起きないで済むわけがないんや。
東方の童話に姫に難題を突き付けられた男どもが恋のライバルに勝つためならどんな不正もやってのけた話があるが、今からそれと同じことが起きるぞ。
そして、それはあの皇太子かて同じことや。お前を手に入れるためなら何でもする。何でもな。」
「ラーマよ。お前はその美しい瞳で世界が破滅に向かう姿を見ていればいい。
お前の美しさに目がくらんだ汚らわしい権力者共やお前を裏切る者達がこの世界から消え去っていく姿をな・・・・・・。」
・・・・・・そこまでは私の記憶があるのです。
どうやら、私。お話の途中で魔王様の美貌に耐えられなくなって・・・・・・失神してしまったようです。
「ようです」というのは、その時の状況は失神した私を解放してくださったお姉様から教えていただいたからです。
「旦那さまったら、『ようやく口説き落とせるってところまで来たのに、失神しやがってっ!』と、相当お怒りでしたわよ。」
そう仰るお姉様の艶やかな肌の張りを見ると、そのあと魔王様が何をしてお怒りをお沈めになられたのかは察せるのですが、とても聞く気にはなりません。
しかし・・・。
「明けの明星様は仰いました。これから争いが起きると・・・。
何が起きるというのでしょうか?」
とても気がかりだったことを私が口にすると、お姉様はとても厳しいお顔で教えてくださいました。
「戦争が起きるのです。
あなたが失神している間に大国スパーダの外交官が親書を携えてやってきました。
” この度の騒動でこちらが融資した金額がいくらか御存じか?
当国が噂聞きたるところによれば、此度の事は全て出来レースであったとか。
結婚商法でこのような出来レースがあるのは周知の事実。しかし、何事にも限度というものがある。
当国が融資した金額を考えれば、これは暗黙のルールを超えた無法と言わざるをえない。
かくなる上は当国のメンツの為にも実力行使で姫を頂く。 戦火をまき散らしたくなければ、無駄な抵抗はやめて姫の方から、こちらに来いっ!!
そのような内容のかなりきつい口調の親書でした。
そ、そんな・・・・・・。たかが私の結婚の事で戦争なんて・・・・・・。
「戦争は避けねばなりませんっ!!
私、私。スパーダに輿入れしますっ!!」
慌ててそういう私の唇を左手の指で押さえたお姉様は「もう手遅れです。」と仰るのです。
「親書は旦那様がおられる前で読み上げられたのです。あの旦那様の目の前でですよ?
外交官の首は一瞬で跳ねられ、遺体は城外に捨てられました。
外交官の首を撥ねるなどこれほどの無法はありません。これを謝罪したくらいで許す国があるものですか。
・・・・・・戦争回避など不可能なのです。」
私は目の前が再び真っ白になって意識を失ってしまいました・・・・・・。
そして、お姉様の仰ったとおり、どのような戦争回避のための外交策を使ってもすべてが無駄に終わり、外交官が殺されてから1カ月後、正式にスパーダが宣戦布告をいたしたのでした。詐欺レースにお金を巻き上げられた上に外交官が殺されてしまったのです。無理もない事なのです。
「・・・・・・どうしてこのようなことになってしまったのでしょう。
もともとはただの婚姻外交だったのに・・・。」
戦争を回避することが難しいと悟った私が頭を抱えてしまいました。しかし、魔王様は仰います、
「ふふふ。この世にメリットだけの存在などあるものか。全ては表裏の性質を持つ。
力を持つ者は、その力で人を惹きつけ支配もするが、同時に争いも産むのだ。
すなわち破滅も呼ぶ。」
ゾッとするような笑顔を浮かべて仰ったのですのです。
私は尋ねます。
「明けの明星様。では、今後はいかように?
私どもはどうすればよいのでしょうか?」
「知れたことっ!! 戦いになれば、皆殺しにするまでやっ!!
薄汚い連中がこの世界からいなくなったら、少しはこの世界も救われるってもんや。」
・・・・・・っ!!
なんということをっ!!
「明けの明星様っ!! 魔王様っ!!
それはなりませんっ!!
もとはと言えば、こちらに非があること。きちんと謝りましょうっ! そして何年かかっても融資していただいたお金を返しましょう。
話せばわかってもらえるはずですっ!!」
そう、あの時は私達も困窮し、ついやってしまったこと。非を詫びて懇切丁寧に事情を説明すればわかってもらえるはずです。
「お前は底なしのアホたれやな。
あいつらは出来レースがよくあることと認めたうえで戦争を仕掛けてきたんやで?
そんな奴らに話し合いが通用すると思うか?」
「ええか? お前、あいつらが止まると思うなよ。
あいつらはな。狂っとるんじゃ。
あいつらはお前と言う美の化身を手に入れる為やったら、何でもするぞ。
元々、疲弊した新国家エデンは狙われとった。金の競争で負けたら戦争で手に入れることになるのは自明の理。
お前は、その戦争の火種に油を注ぐ形になっただけで戦争はいつか必ず起こった。」
「この上でどこの誰が理性と理屈を求めると思う?
全てを奪い、蹂躙するまで止まらん。」
「魔族とはそういう物や。」
「・・・そ、そんな・・・。」
万事休す。私は戦争不可避を知らされると力無く、その場に座り込んでしまいました。
お姉様は私の下へ近づいて私をサポートするかのように抱いてくださいました。
「お姉様。・・・・・・。お姉様。
私・・・どうすればいいの?」
私の問いかけにお姉様は本当に悲しそうなお顔を見せるだけで答えることは出来ませんでした。
それが・・・答えだったのです。
魔王様は続けて仰いました。
「戦火は広がる。
名誉のため、名声の為。お前と言う美の象徴を手に入れるために争う愚かな者だけやないぞ。
お前と言う美の化身に心底惚れ込み、お前を手に入れる為やったら何でもする者もこの戦争に加担するからや。」
「見せてもらうぞっ!! 運命の花嫁よっ!
貴様が本当に世界を救える子羊なのかをなっ!!」
そう言うと魔王様は蜃気楼のように姿をお隠しになられました。
執務室には絶望に震える私とお姉様のみが残るのみでした。
大国スパーダもアンドレア様の祖国ドラァーゴも嫁取合戦にここまでお金が払えないと思ったらしく、それ以上の融資は申し出てきませんでした。
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各国のおかげでこれほどの短期間で民衆の暮らしが楽になったのは本当に有難いことでした。そして、融資されたお金の使い道を城ではなくて城下町にあてがったのは、せめて善行のためにお金を使おうという罪から逃げ出したいという気持ちの表れだったのかもしれません。
悲しい・・・。私は、このようなことになってしまって本当に悲しい。
しかし、これほど城下町が再生されて民衆が喜ぶ姿をこれほど短期間で成し遂げることは他の方法ではまず不可能だったことを考えると・・・・・・複雑な思いです。
「ああ・・・。せめて私に力があれば・・・・・・。」
私が窓の外から城下を見つめて呟きに対し魔王様は仰いました。
「お前に力があればやと?
何、寝言ぬかしとんねん。街の再生は、この世にお前ほど力を持った女はおらんちゅーことを証明した証拠やで? 誇ったらええ。」
魔王様は意外なことを仰いました。自分の力が足りないから町も再建できずに詐欺まがいの手段を甘んじて受け入れたというのに、そんな私にこの世で私ほどの力を持った女はいないと魔王様は仰ったのです。
「多くの権力者は暴力を使って富を得るが、お前は魔神と比類なき美貌でもって男どもから金を搾り取ったのだ。
これが力でなくて何という。美は力なのだ。」
「詐欺行為、出来レースと心を痛める必要は何処にもない。
金は賢く奪い合うものなのだ。
権謀術数、謀略を使って他者を蹴落として商売で成功する者も多い中、お前は何もせずに、ただ男どもに笑顔と乳房を見せびらかすだけで勝利したのだ。方法に善悪などない。それが商売の本質だ。」
「誇りに思うがええっ!!
ラーマ。お前は美しいっ!!
お前はその美貌で世界を手中に収めることも、破滅させることも出来るんやっ!!」
この私の外見には世界を滅ぼす力がある。俄かには信じがたいお話ですが、魔王様は自信満々で仰ったのです。
そんな私の疑問を察した魔王様はお隣に立っていたお姉様の腰元を抱きかかえて引き寄せると、服を優しく脱がし始めるのでした。
「ああっ・・・・・・。お許しを・・・旦那様。どうかお許しください。」
お姉様が涙をにじませて懇願しても魔王様は服を脱がそうとする手を止めようとはなさりませんでした。私は思わず歩み寄って魔王様の手を掴んで止めに入ります。
「おやめくださりませっ!!
人前で女性に辱めを与えるなど、それが男のすることですかっ!!
お姉様が泣いていおられるではないですかっ!!」
必死になって魔王様をお止めするのですが、魔王様は笑って卑猥なことを仰ったのです。
「お前は何もわかってない。この女は俺を求めてるんや。
泣いとるやと?
与えてほしいから、男が最も喜ぶ反応を見せとるだけだ。
この媚びた目を見ろ。これが嫌がっている女の目に見えるんか?
見よ。周りの男どもをっ!!」
言われるがままに見ると、男どもは全員、お姉様に釘付けになったように見入っていました。あの貞淑なヴァレリオ男爵でさえも・・・・・・。
「きゃああっ!! な、なにを見ているんですかっ!
見てはいけませんっ!! 私のお姉様をいやらしい目で見ないで~~~っ!!」
私はもう、腹が立って執務室から全員追い出すと魔王様が笑うのです。
「見たかっ!! これが美の力や。
この女を見ろ。常識外れに大きなこの乳房は絹のような肌触りで水袋のように柔らかい。そしてどんな火酒よりも男を酔わせる甘露がとどめなく溢れる秘壺を隠し持つ。
わかるか? この女の前では、どんな権力者も屈強な男も跪くんや。
今、お前がその目で確かめたようにな・・・・・・。」
魔王様はそこまでお話になられると、お姉様を開放して私の目の前まで歩み寄ってくるのです。
そして、私の額にご自身の額がくっつくほどに近づけるのでした。
それだけで私は息が止まってしまうと思うほど、動揺してしまいます。
その御尊顔は、お美しすぎたのです。
私はその時に改めて魔王様が仰っていた美貌の魔力を思い知りました。
清流のように美しい青い瞳にお天道様のように輝く金の髪。白雪のように輝く肌に薄いピンクの唇。
お美しすぎる魔王様・・・。私は魔王様の御顔がこうして近づくだけで胸が高鳴り、呼吸は乱れ、肌は汗ばみ、女としての火照りを止められません。
真の美貌のお力は魔王様のものっ!! 決して誰も抗うことができないっ!!
私はそう確信せざるを得なかったのです。
「思い知ったか、美の力を。
そしてこの女と比類なく美しい姫よ。お前も同じ力を持っとるんや。
心して聴くがええ。
これから争いが起きるぞ。いや、この期に及んでは起きないで済むわけがないんや。
東方の童話に姫に難題を突き付けられた男どもが恋のライバルに勝つためならどんな不正もやってのけた話があるが、今からそれと同じことが起きるぞ。
そして、それはあの皇太子かて同じことや。お前を手に入れるためなら何でもする。何でもな。」
「ラーマよ。お前はその美しい瞳で世界が破滅に向かう姿を見ていればいい。
お前の美しさに目がくらんだ汚らわしい権力者共やお前を裏切る者達がこの世界から消え去っていく姿をな・・・・・・。」
・・・・・・そこまでは私の記憶があるのです。
どうやら、私。お話の途中で魔王様の美貌に耐えられなくなって・・・・・・失神してしまったようです。
「ようです」というのは、その時の状況は失神した私を解放してくださったお姉様から教えていただいたからです。
「旦那さまったら、『ようやく口説き落とせるってところまで来たのに、失神しやがってっ!』と、相当お怒りでしたわよ。」
そう仰るお姉様の艶やかな肌の張りを見ると、そのあと魔王様が何をしてお怒りをお沈めになられたのかは察せるのですが、とても聞く気にはなりません。
しかし・・・。
「明けの明星様は仰いました。これから争いが起きると・・・。
何が起きるというのでしょうか?」
とても気がかりだったことを私が口にすると、お姉様はとても厳しいお顔で教えてくださいました。
「戦争が起きるのです。
あなたが失神している間に大国スパーダの外交官が親書を携えてやってきました。
” この度の騒動でこちらが融資した金額がいくらか御存じか?
当国が噂聞きたるところによれば、此度の事は全て出来レースであったとか。
結婚商法でこのような出来レースがあるのは周知の事実。しかし、何事にも限度というものがある。
当国が融資した金額を考えれば、これは暗黙のルールを超えた無法と言わざるをえない。
かくなる上は当国のメンツの為にも実力行使で姫を頂く。 戦火をまき散らしたくなければ、無駄な抵抗はやめて姫の方から、こちらに来いっ!!
そのような内容のかなりきつい口調の親書でした。
そ、そんな・・・・・・。たかが私の結婚の事で戦争なんて・・・・・・。
「戦争は避けねばなりませんっ!!
私、私。スパーダに輿入れしますっ!!」
慌ててそういう私の唇を左手の指で押さえたお姉様は「もう手遅れです。」と仰るのです。
「親書は旦那様がおられる前で読み上げられたのです。あの旦那様の目の前でですよ?
外交官の首は一瞬で跳ねられ、遺体は城外に捨てられました。
外交官の首を撥ねるなどこれほどの無法はありません。これを謝罪したくらいで許す国があるものですか。
・・・・・・戦争回避など不可能なのです。」
私は目の前が再び真っ白になって意識を失ってしまいました・・・・・・。
そして、お姉様の仰ったとおり、どのような戦争回避のための外交策を使ってもすべてが無駄に終わり、外交官が殺されてから1カ月後、正式にスパーダが宣戦布告をいたしたのでした。詐欺レースにお金を巻き上げられた上に外交官が殺されてしまったのです。無理もない事なのです。
「・・・・・・どうしてこのようなことになってしまったのでしょう。
もともとはただの婚姻外交だったのに・・・。」
戦争を回避することが難しいと悟った私が頭を抱えてしまいました。しかし、魔王様は仰います、
「ふふふ。この世にメリットだけの存在などあるものか。全ては表裏の性質を持つ。
力を持つ者は、その力で人を惹きつけ支配もするが、同時に争いも産むのだ。
すなわち破滅も呼ぶ。」
ゾッとするような笑顔を浮かべて仰ったのですのです。
私は尋ねます。
「明けの明星様。では、今後はいかように?
私どもはどうすればよいのでしょうか?」
「知れたことっ!! 戦いになれば、皆殺しにするまでやっ!!
薄汚い連中がこの世界からいなくなったら、少しはこの世界も救われるってもんや。」
・・・・・・っ!!
なんということをっ!!
「明けの明星様っ!! 魔王様っ!!
それはなりませんっ!!
もとはと言えば、こちらに非があること。きちんと謝りましょうっ! そして何年かかっても融資していただいたお金を返しましょう。
話せばわかってもらえるはずですっ!!」
そう、あの時は私達も困窮し、ついやってしまったこと。非を詫びて懇切丁寧に事情を説明すればわかってもらえるはずです。
「お前は底なしのアホたれやな。
あいつらは出来レースがよくあることと認めたうえで戦争を仕掛けてきたんやで?
そんな奴らに話し合いが通用すると思うか?」
「ええか? お前、あいつらが止まると思うなよ。
あいつらはな。狂っとるんじゃ。
あいつらはお前と言う美の化身を手に入れる為やったら、何でもするぞ。
元々、疲弊した新国家エデンは狙われとった。金の競争で負けたら戦争で手に入れることになるのは自明の理。
お前は、その戦争の火種に油を注ぐ形になっただけで戦争はいつか必ず起こった。」
「この上でどこの誰が理性と理屈を求めると思う?
全てを奪い、蹂躙するまで止まらん。」
「魔族とはそういう物や。」
「・・・そ、そんな・・・。」
万事休す。私は戦争不可避を知らされると力無く、その場に座り込んでしまいました。
お姉様は私の下へ近づいて私をサポートするかのように抱いてくださいました。
「お姉様。・・・・・・。お姉様。
私・・・どうすればいいの?」
私の問いかけにお姉様は本当に悲しそうなお顔を見せるだけで答えることは出来ませんでした。
それが・・・答えだったのです。
魔王様は続けて仰いました。
「戦火は広がる。
名誉のため、名声の為。お前と言う美の象徴を手に入れるために争う愚かな者だけやないぞ。
お前と言う美の化身に心底惚れ込み、お前を手に入れる為やったら何でもする者もこの戦争に加担するからや。」
「見せてもらうぞっ!! 運命の花嫁よっ!
貴様が本当に世界を救える子羊なのかをなっ!!」
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