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第1章「始まり」
第10話 妹よ
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明けの明星様の下に魔神ギーン・ギーン・ラー様が配下と加わり、それに合わせてその場にいた全ての者が明けの明星様にひれ伏したのでした。
私は、ただその様子を見ていただけです。
無力な私は、ただ、魔王様のお側に立っていただけでございます。それが私にはふさわしい。
魔王の娘というだけで特別に力を持たず、また、その魔王の娘という肩書もすべては明けの明星様との契約に使う供物のために与えられた仮初のもの・・・。私は魔王に愛された娘ではなくて飼い主に愛された家畜にすぎなったのです。
そんな私の役目も今日この時に全ての国民から魔王として認められた明けの明星様の台頭によって終わりを迎えるはずでした。
だって、私はすでに民衆から声を聞いていただけない存在になったのですから、もはや私はただの女になるべきだったのです。
ですが事態は誰もが考えつきもしなかった方向へ歩き出したのでした。
魔王様がひれ伏した民衆に向かって何かを呟いてすぐ後の事でした。天気は晴れだというのに恐ろしいほど大きな雷鳴が突然、鳴り響いたかと思うと、魔王様の背後に恐ろしいほど大きな門が現れたのでした。
それがなんなのか、この世界に住む者共はすぐにわかりました。
「ああっ!! あれが伝説に聞く異界の門っ!!」
「審判の時だっ!!
異界の王が現界なされてこの世界に三度目の終末をお与えになるのだっ!!」
「ああ・・・。恐ろしい、恐ろしい・・・」
「我々はもう、おしまいだっ!!」
私たちこの世界に生きとし生ける者たち全てがその門が何なのかわかっていました。
それはこの私たちが住む「混沌と炎の国」という名の世界の主。すなわち異界の王などと呼ばれる大神が現界めされるときに出現する異界の門です。
それを見た瞬間、誰もがこの世の終わりを悟ったのです。
なぜなら、私たちの住むこの混沌と炎の国はすでに大神の粛清に二度もあい、その上、もうすぐ三度目の世界が崩壊するときだと伝え聞いていたからです。
そうやって私たちが恐怖に震えていると、ついに混沌と炎の国の王の従者の鬼神二体が異界の門を開けて中から躍り出てきたのでした。
そして、異界の門から出現した二人の鬼神は巨大な金棒を振り回し、清めの舞を踊った後に、その巨大な金棒で地面を叩きならし混沌と炎の国の王が来られた事を宣言する。
「恐れ多くも畏くも、我らが混沌と炎の国の王のお出ましである!」
「控い! 控え~いっ!!」
やがて鬼神二体に引き続き、開かれた異界の門から大量の火玉を引き連れて炎に包まれた貴人が現れた。この世の者とは思えぬほどの美しいそのお姿を見た私たちのみならず、魔神ギーン・ギーン・ラー様までもが思わずひれ伏しました。
しかし、魔王様ただお一人だけが不遜にも全裸で仁王立ちのままで、異界の王をお迎えになられたのでした。
「おうっ!! この感覚は、せんどぶりやんけ!!
おう、ワレ。見たことない面しとるけど、天使やな。」
上から目線どころの話ではありません。完全に王が平民に・・・いや、もう異界の王がチンピラに絡まれたみたいになっていますっ!!!
ちょ、ちょちょちょちょちょ・・・・・ちょっとぉ~~~っ!!
な、ななな、なにやってるんですかっ!! 明けの明星様っ!!!
その御方は負債を抱えて夜逃げした人ではありませんよっ!! この世界の支配者にして調停者。異界の王であらせられる方なんですよっ!!
その御方がその気になったら、世界を白紙に戻すことだってできるんですからねっ!!!
などと、心の中で騒いでみても、畏れ多すぎて異界の王の前で声を上げるなんて真似は誰にもできませんよっ!!
だって、私たちと同じように平伏しておられた魔神ギーン・ギーン・ラー様に事態収拾をお願いしようと思って目くばせした時、魔神ギーン・ギーン・ラー様は立ち上がって異界の王に進言するどころか、「無理無理無理無理っ!!」といわんばかりに完全に目が泳いでいたんですものっ!!
そう、異界の王はこの世界において最強の存在にして恐怖の王だったのです。それは魔神様が口を挟むのも難しいほどに・・・・・・。
にもかかわらず、我らの魔王様はチンピラみたいに因縁吹っ掛けるんですものっ!!
もう、どうなっても知りませんからねっ!!
そして、嫌な予想は的中します。
魔王様の不遜な態度に怒りをあらわにした二体の鬼神は、狂ったように金棒を振り回して魔王様に襲い掛かりました。
「無礼であるっ!」
「天誅であるっ!!」
そういって魔王様に向けて襲い掛かってきた鬼神二体は、その金棒で魔王様を激しく打ち据えたり、炎や氷、雷を吐き出して攻撃をしました。魔王様の体はその都度、弾き飛ばされたり、地面に叩きつけられたり、燃やされたり、凍らされたりしました。しかし、魔王様は一向に表情一つを変えることなく、ダメージを受けた感じもありません。ただただ、鬼神二体にやられるがままにやりたい放題させている感じでした。
きっと、魔王様には魔王様で深いお考えがあっての事でしょう・・・・・・。
いや・・・でもあの気性の荒い魔王様ですよ? いつまでもこのままのわけがありません。
それまで真顔だったのに急に
「ええかげんにせんかいっ!」
と叫んだかと思うと両手の指でもって、天地に向けて縦一文字を描かれました。そして魔神ギーン・ギーン・ラー様にそうしたように鬼神二体を地面に這いつくばらせるのでした。
その偉業には、その術を掛けられた当人である魔神ギーン・ギーン・ラー様も目をまん丸にされて「異界の王の護衛をいとも簡単に・・・。」といって絶句なされておられました。
「オンドラああああああ~~~~~っ!!
兄貴が挨拶しとんのに、ワレ、いつまで黙っとんどっ!!
ええ加減、こっちは業沸いとんねん。(※腹わたが煮えくり返るほど怒っているの意。)
何とか抜かさんかいっ!! ワレっ!!」
魔王様はそう言いながら鬼神二体のそれぞれの頭を足蹴に踏みつけ、頭を砕こうとなされました。
それを見て、混沌と炎の国の王は慌てて止めに入られたのです。
「お、お待ちになってっ!!
お兄様っ!!!! その子たちを殺さないでっ!!」
・・・・・・。お兄様。確かに混沌と炎の国の王は魔王様の事をそう呼びました。
そして、そう呼びながら、ご自身の身を包んでいた火玉の武装を解かれ、その御姿の全てをお見せになられました。
それと同時にその場にいた者共全てが「あっ!!」とこえをあげました。その炎の衣装の下には、あまりにも美しすぎる女体が潜んでいたからです。その御美しさは女の私でさえも溜息がこぼれるほど。
それほどお美しい混沌と炎の国の王の御姿をご覧になられた魔王様は、納得したように。そして混沌と炎の国の王を納得させるようにこう仰いました。
「おうっ!! 最初からそないせんかいっ!!
そうすりゃ、こっちも悪い男やないんや。穏便に話し合いで済ませたったんや。」
そういって鬼神二体を踏みつけていた足をのけるのでした。
あまりにもあっさりとその苦痛から解放された鬼神二体は何が起こっているのか理解できないご様子で、困惑したように魔王様と己の主を交互に見比べるのでした。
混沌と炎の国の王は、そんな二体の鬼神を手招きして自分の手元に呼び戻すと、「いえ。お兄様は悪い男でしょ?」と、冷静に正論を返すのでした。
しかし、正論は理性ある者にしか通用しません。つまり、傍若無人を絵にかいたような魔王様には通用しないのです。
「おうっ!! なんやと?
ワレっ!! 俺が悪い男やと抜かしたな?
言うてみいっ!! 俺のどこが悪い男やっちゅーんねんっ!!」
「だってっ!! 偉大な父上にお逆らいになった悪い人ですよっ!!? お兄様はっ!!
ほらっ!!
今だって妹の事を怒鳴って脅すじゃないですかぁっ!!」
混沌と炎の国の王も負けじと言い返します。て、いうか・・・。本当に魔王様の妹様なんですか?
「オンドラっ!! こんな妹想いの兄貴に何抜かすぅっ!! 妹や無かったら、今頃、ただでは済まさんかったぞ、コラっ!!
そもそもこんな異形のモン、俺にけしかけて何のつもりじゃ、ワレっ!!!」
あ、本当に妹様のようです。
う~ん、これがご家族同士のお話相なれば、私が口を挟む筋合いはありません。
しばらく黙って静観しておくことにしましょう・・・。
「・・・・・・って、ええええええええええええっ~~~~~~っ!!
ま、魔王様っ!! 異界の王とご家族様なんですかぁっ!!?
い、いったい。いったいどういう人なんですか? あなたっ!!?」
考える前に言葉が出てしまうほど衝撃の事実。
私、身の程もわきまえずに顔を上げて大声を上げてしまいました。
「・・・・・・あ・・・・・・。」
やってしまいました。
私・・・・・・。やってしまいました。
周囲の目が痛い。
魔神ギーン・ギーン・ラー様っ!! そんな「お・・・お前・・・なぜ、そんな無礼な真似が出来るんだ。頭おかしいのかっ?」って言いたげな目で私を見ないでっ!!
臣民も「なんてことをしてくれたんだっ!! これで俺達まで異界の王の怒りの巻き添えを食らったらどうしてくれるんだっ!! このお飾り姫っ!!」みたいな悪意がこもった目で私を睨まないでっ!!
鬼神様も私を「なんと無礼な小娘。 殺してくれようか?」みたいな殺気のこもった目で私を見てくるし・・・。
そして・・・そして何よりも混沌と炎の国の王が怖いっ!! メチャクチャ優しい笑顔を讃えておられるのがよけい怖いっ!! し、しかも、小さく唇を動かすだけで「あなた・・・。お兄様の身内でなければ、魂を凍り付かせて1000年嬲り者に致しますわよ」とか伝えてこないでっ!! わかってしまうっ!! そのお言葉っ!! だって、頭の中で何度もリフレインしてくるんだもんっ!! これ、あれですわよね? 異界の王が私の脳にだけ直接メッセージを伝えてきているのよね? だってこの頭の中の声、リアルすぎますものっ!!
などと、私が心の中で悶えておりますと、明けの明星様が助け舟を出してくださいました。
「お前、正味ええ根性しとるの。
すまんの、お前ら。俺の妻が無礼を働いたな。許せよ・・・。」
と、仰ってくださったのです。
そのお言葉をお聞きになった時、混沌と炎の国の王の顔つきが驚きに変わったのです。
「お、お兄様が・・・・・・。謝罪の言葉を・・・?
なんてことっ!?
この世の終わりが来たのかしらっ!!」
その一言は民衆を誤解させるのには十分な一言でした。
もう、その場は「この世の終わりだぁ~っ!!」と、大混乱。混沌と炎の国の王が慌てて「ああ、そういう意味じゃないのっ!! 今のは言葉のあやだからっ!!」と、訂正しても静まらないほどの大混乱が訪れたのです。
そして、その大混乱は再び魔王様の怒りを呼び起こしました。
「やかまっしゃ~~~!!
おんどれら、黙っとれ、ボケ~~っ!!
ここからは、俺の家族との会話じゃっ!! 今度騒ぎ立てたらそいつは殺すぞっ!! そいつだけじゃ気が収まらんから、その周りの連中15~6人巻き添えで殺すから、そのつもりでおれっ!!
ええなっ!!!」
魔王様の一喝でこの世界の主。恐怖の象徴。それがまるで怯える草食動物のように潤んだ瞳で「ごめんなさいっ!! ごめんなさいっ!!」と、訴えかけたのでした。
異界の王ですらその有様ですから、民衆などは一喝だけで全員失神。魔神ギーン・ギーン・ラー様も額を地面につけるどころか、地面に顔面をめり込ませて謝罪の姿勢を見せるのでした。
・・・・・・。もしかしなくても、私のお父様。かなりヤバいお方と契約なさろうとしていたのですね・・・。
私は、ただその様子を見ていただけです。
無力な私は、ただ、魔王様のお側に立っていただけでございます。それが私にはふさわしい。
魔王の娘というだけで特別に力を持たず、また、その魔王の娘という肩書もすべては明けの明星様との契約に使う供物のために与えられた仮初のもの・・・。私は魔王に愛された娘ではなくて飼い主に愛された家畜にすぎなったのです。
そんな私の役目も今日この時に全ての国民から魔王として認められた明けの明星様の台頭によって終わりを迎えるはずでした。
だって、私はすでに民衆から声を聞いていただけない存在になったのですから、もはや私はただの女になるべきだったのです。
ですが事態は誰もが考えつきもしなかった方向へ歩き出したのでした。
魔王様がひれ伏した民衆に向かって何かを呟いてすぐ後の事でした。天気は晴れだというのに恐ろしいほど大きな雷鳴が突然、鳴り響いたかと思うと、魔王様の背後に恐ろしいほど大きな門が現れたのでした。
それがなんなのか、この世界に住む者共はすぐにわかりました。
「ああっ!! あれが伝説に聞く異界の門っ!!」
「審判の時だっ!!
異界の王が現界なされてこの世界に三度目の終末をお与えになるのだっ!!」
「ああ・・・。恐ろしい、恐ろしい・・・」
「我々はもう、おしまいだっ!!」
私たちこの世界に生きとし生ける者たち全てがその門が何なのかわかっていました。
それはこの私たちが住む「混沌と炎の国」という名の世界の主。すなわち異界の王などと呼ばれる大神が現界めされるときに出現する異界の門です。
それを見た瞬間、誰もがこの世の終わりを悟ったのです。
なぜなら、私たちの住むこの混沌と炎の国はすでに大神の粛清に二度もあい、その上、もうすぐ三度目の世界が崩壊するときだと伝え聞いていたからです。
そうやって私たちが恐怖に震えていると、ついに混沌と炎の国の王の従者の鬼神二体が異界の門を開けて中から躍り出てきたのでした。
そして、異界の門から出現した二人の鬼神は巨大な金棒を振り回し、清めの舞を踊った後に、その巨大な金棒で地面を叩きならし混沌と炎の国の王が来られた事を宣言する。
「恐れ多くも畏くも、我らが混沌と炎の国の王のお出ましである!」
「控い! 控え~いっ!!」
やがて鬼神二体に引き続き、開かれた異界の門から大量の火玉を引き連れて炎に包まれた貴人が現れた。この世の者とは思えぬほどの美しいそのお姿を見た私たちのみならず、魔神ギーン・ギーン・ラー様までもが思わずひれ伏しました。
しかし、魔王様ただお一人だけが不遜にも全裸で仁王立ちのままで、異界の王をお迎えになられたのでした。
「おうっ!! この感覚は、せんどぶりやんけ!!
おう、ワレ。見たことない面しとるけど、天使やな。」
上から目線どころの話ではありません。完全に王が平民に・・・いや、もう異界の王がチンピラに絡まれたみたいになっていますっ!!!
ちょ、ちょちょちょちょちょ・・・・・ちょっとぉ~~~っ!!
な、ななな、なにやってるんですかっ!! 明けの明星様っ!!!
その御方は負債を抱えて夜逃げした人ではありませんよっ!! この世界の支配者にして調停者。異界の王であらせられる方なんですよっ!!
その御方がその気になったら、世界を白紙に戻すことだってできるんですからねっ!!!
などと、心の中で騒いでみても、畏れ多すぎて異界の王の前で声を上げるなんて真似は誰にもできませんよっ!!
だって、私たちと同じように平伏しておられた魔神ギーン・ギーン・ラー様に事態収拾をお願いしようと思って目くばせした時、魔神ギーン・ギーン・ラー様は立ち上がって異界の王に進言するどころか、「無理無理無理無理っ!!」といわんばかりに完全に目が泳いでいたんですものっ!!
そう、異界の王はこの世界において最強の存在にして恐怖の王だったのです。それは魔神様が口を挟むのも難しいほどに・・・・・・。
にもかかわらず、我らの魔王様はチンピラみたいに因縁吹っ掛けるんですものっ!!
もう、どうなっても知りませんからねっ!!
そして、嫌な予想は的中します。
魔王様の不遜な態度に怒りをあらわにした二体の鬼神は、狂ったように金棒を振り回して魔王様に襲い掛かりました。
「無礼であるっ!」
「天誅であるっ!!」
そういって魔王様に向けて襲い掛かってきた鬼神二体は、その金棒で魔王様を激しく打ち据えたり、炎や氷、雷を吐き出して攻撃をしました。魔王様の体はその都度、弾き飛ばされたり、地面に叩きつけられたり、燃やされたり、凍らされたりしました。しかし、魔王様は一向に表情一つを変えることなく、ダメージを受けた感じもありません。ただただ、鬼神二体にやられるがままにやりたい放題させている感じでした。
きっと、魔王様には魔王様で深いお考えがあっての事でしょう・・・・・・。
いや・・・でもあの気性の荒い魔王様ですよ? いつまでもこのままのわけがありません。
それまで真顔だったのに急に
「ええかげんにせんかいっ!」
と叫んだかと思うと両手の指でもって、天地に向けて縦一文字を描かれました。そして魔神ギーン・ギーン・ラー様にそうしたように鬼神二体を地面に這いつくばらせるのでした。
その偉業には、その術を掛けられた当人である魔神ギーン・ギーン・ラー様も目をまん丸にされて「異界の王の護衛をいとも簡単に・・・。」といって絶句なされておられました。
「オンドラああああああ~~~~~っ!!
兄貴が挨拶しとんのに、ワレ、いつまで黙っとんどっ!!
ええ加減、こっちは業沸いとんねん。(※腹わたが煮えくり返るほど怒っているの意。)
何とか抜かさんかいっ!! ワレっ!!」
魔王様はそう言いながら鬼神二体のそれぞれの頭を足蹴に踏みつけ、頭を砕こうとなされました。
それを見て、混沌と炎の国の王は慌てて止めに入られたのです。
「お、お待ちになってっ!!
お兄様っ!!!! その子たちを殺さないでっ!!」
・・・・・・。お兄様。確かに混沌と炎の国の王は魔王様の事をそう呼びました。
そして、そう呼びながら、ご自身の身を包んでいた火玉の武装を解かれ、その御姿の全てをお見せになられました。
それと同時にその場にいた者共全てが「あっ!!」とこえをあげました。その炎の衣装の下には、あまりにも美しすぎる女体が潜んでいたからです。その御美しさは女の私でさえも溜息がこぼれるほど。
それほどお美しい混沌と炎の国の王の御姿をご覧になられた魔王様は、納得したように。そして混沌と炎の国の王を納得させるようにこう仰いました。
「おうっ!! 最初からそないせんかいっ!!
そうすりゃ、こっちも悪い男やないんや。穏便に話し合いで済ませたったんや。」
そういって鬼神二体を踏みつけていた足をのけるのでした。
あまりにもあっさりとその苦痛から解放された鬼神二体は何が起こっているのか理解できないご様子で、困惑したように魔王様と己の主を交互に見比べるのでした。
混沌と炎の国の王は、そんな二体の鬼神を手招きして自分の手元に呼び戻すと、「いえ。お兄様は悪い男でしょ?」と、冷静に正論を返すのでした。
しかし、正論は理性ある者にしか通用しません。つまり、傍若無人を絵にかいたような魔王様には通用しないのです。
「おうっ!! なんやと?
ワレっ!! 俺が悪い男やと抜かしたな?
言うてみいっ!! 俺のどこが悪い男やっちゅーんねんっ!!」
「だってっ!! 偉大な父上にお逆らいになった悪い人ですよっ!!? お兄様はっ!!
ほらっ!!
今だって妹の事を怒鳴って脅すじゃないですかぁっ!!」
混沌と炎の国の王も負けじと言い返します。て、いうか・・・。本当に魔王様の妹様なんですか?
「オンドラっ!! こんな妹想いの兄貴に何抜かすぅっ!! 妹や無かったら、今頃、ただでは済まさんかったぞ、コラっ!!
そもそもこんな異形のモン、俺にけしかけて何のつもりじゃ、ワレっ!!!」
あ、本当に妹様のようです。
う~ん、これがご家族同士のお話相なれば、私が口を挟む筋合いはありません。
しばらく黙って静観しておくことにしましょう・・・。
「・・・・・・って、ええええええええええええっ~~~~~~っ!!
ま、魔王様っ!! 異界の王とご家族様なんですかぁっ!!?
い、いったい。いったいどういう人なんですか? あなたっ!!?」
考える前に言葉が出てしまうほど衝撃の事実。
私、身の程もわきまえずに顔を上げて大声を上げてしまいました。
「・・・・・・あ・・・・・・。」
やってしまいました。
私・・・・・・。やってしまいました。
周囲の目が痛い。
魔神ギーン・ギーン・ラー様っ!! そんな「お・・・お前・・・なぜ、そんな無礼な真似が出来るんだ。頭おかしいのかっ?」って言いたげな目で私を見ないでっ!!
臣民も「なんてことをしてくれたんだっ!! これで俺達まで異界の王の怒りの巻き添えを食らったらどうしてくれるんだっ!! このお飾り姫っ!!」みたいな悪意がこもった目で私を睨まないでっ!!
鬼神様も私を「なんと無礼な小娘。 殺してくれようか?」みたいな殺気のこもった目で私を見てくるし・・・。
そして・・・そして何よりも混沌と炎の国の王が怖いっ!! メチャクチャ優しい笑顔を讃えておられるのがよけい怖いっ!! し、しかも、小さく唇を動かすだけで「あなた・・・。お兄様の身内でなければ、魂を凍り付かせて1000年嬲り者に致しますわよ」とか伝えてこないでっ!! わかってしまうっ!! そのお言葉っ!! だって、頭の中で何度もリフレインしてくるんだもんっ!! これ、あれですわよね? 異界の王が私の脳にだけ直接メッセージを伝えてきているのよね? だってこの頭の中の声、リアルすぎますものっ!!
などと、私が心の中で悶えておりますと、明けの明星様が助け舟を出してくださいました。
「お前、正味ええ根性しとるの。
すまんの、お前ら。俺の妻が無礼を働いたな。許せよ・・・。」
と、仰ってくださったのです。
そのお言葉をお聞きになった時、混沌と炎の国の王の顔つきが驚きに変わったのです。
「お、お兄様が・・・・・・。謝罪の言葉を・・・?
なんてことっ!?
この世の終わりが来たのかしらっ!!」
その一言は民衆を誤解させるのには十分な一言でした。
もう、その場は「この世の終わりだぁ~っ!!」と、大混乱。混沌と炎の国の王が慌てて「ああ、そういう意味じゃないのっ!! 今のは言葉のあやだからっ!!」と、訂正しても静まらないほどの大混乱が訪れたのです。
そして、その大混乱は再び魔王様の怒りを呼び起こしました。
「やかまっしゃ~~~!!
おんどれら、黙っとれ、ボケ~~っ!!
ここからは、俺の家族との会話じゃっ!! 今度騒ぎ立てたらそいつは殺すぞっ!! そいつだけじゃ気が収まらんから、その周りの連中15~6人巻き添えで殺すから、そのつもりでおれっ!!
ええなっ!!!」
魔王様の一喝でこの世界の主。恐怖の象徴。それがまるで怯える草食動物のように潤んだ瞳で「ごめんなさいっ!! ごめんなさいっ!!」と、訴えかけたのでした。
異界の王ですらその有様ですから、民衆などは一喝だけで全員失神。魔神ギーン・ギーン・ラー様も額を地面につけるどころか、地面に顔面をめり込ませて謝罪の姿勢を見せるのでした。
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