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第1章「始まり」
第5話 失楽園
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「ようし、そしたらお前の願いを叶えてやらねばならんなぁ・・・」
私の着替えが終わり、魔王様がお花の香りをつけてくださいました単衣をアウターに羽織ったところで魔王様が仁王立ちでそうおっしゃいました。私は服を着ておりますが、魔王様の方は依然として全裸のままで目のやり場に困ります。
私がなんとか股間を見ずに魔王様のお顔に集中し、お話を聞こうとした瞬間でした。
「むっ!!」
と、魔王様が剣呑な表情を浮かべたと同時に魔王様の黒ヘビが天に向かってそそり立ちました。
「き・・・・・・きゃああああああああ~~~っ!!
なんですのっ!! い・・・いいい、一体何のおつもりですのっ!!」
私の悲鳴を遮るように魔王様が怒鳴ります。
「ドアホっ!!
勘違いすんなっ!! これは俺のアンテナじゃっ!!
危機を察知した知らせじゃっ!!」
「は、はい? 危機ってなんのでございますか?」
私はそこで魔王様が剣呑な表情をしていた意味が解りました。
いや・・・でも・・・その察知の仕方には悪意がございませんか?
私が恨みがましい目で魔王様を睨みつけていると、魔王様が右手人差し指で天を指差しながら、
「いや、お前がションベン垂れたり、泣き言うとる間にお前の城。・・・・・・落ちたぞ。」
「はい?」
「せやさかいにな、お前の父親の城が敵に攻め落とされて、お前の城兵が捕虜として捉えられて、父親のルーカも魔王ジャック・ダー・クーに処刑されることが決まったみたいやぞ。」
「・・・・は?」
「・・・めっちゃヤバいことになってんで? って、言ってるの? わかるか?」
「はい・・・。」
呆然と魔王様の説明を聞き終えた私は、事態を把握しようと冷静に頭の中を整理します。
え~と、まず私は、魔王ジャック・ダー・クーに攻め滅ぼされそうになっている我が国の臣民と父上をお救いするために供物として異界の魔王様のいる封禁の間に来ました。
で、一悶着ありましたが、私は無事、異界の魔王様に我が国を保護していただけるお約束を取り付けました。
でもっ!! その間に私の父親がおられますお城は攻め落とされてしまったと・・・・・・。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・?
「え・・・? じゃあ、私何のためにあれやこれやの恥辱を晒したんでございますかぁ?」
状況を理解した上で、やはり理解できない私は魔王様に尋ねました。
「知るかっ!!
お前がさっさとやることやらんのがわるいんやろうがっ!!
まぁ、ええ。今ならまだ取り戻せるわ・・・。」
魔王様は呆れたようにそう言いながら、私を抱き上げます。
「きゃぁっ!! な、なにをなさいますのっ!!?」
「おおっ、軽い軽い。
お前アホみたいにデカい乳と尻しとるくせに、羽のように軽いなぁ。」
アホみたいに・・・・・?
「し、失礼ですわよっ!! レディに向かってそんな猥褻なこと言ってっ!!
もしかして、それで褒めているおつもりですかっ!? そんなことを言われて喜ぶ女がいるものですかっ!!」
「あ~、はいはい。わかったから、もう喋るな。舌噛むぞ・・・っと。」
魔王様は、私の抗議を邪魔くさそうに遮ると、天に向けて右腕を差し上げて「裂けよ」と一言申されました。
するとどうでしょうか? 信じられないことですが、私たちの頭の上にあった岩屋の天井が・・・いえ、その上に立つお城の全フロアの床が破裂音を立てて吹き飛んだのです。しかも、恐ろしいことに破壊された天井などの落下物は一切ありませんでした。
「ああああああ、あのっ・・・ま、まままま、魔王様っ!!
恐れながら天井は何処へ行きましたのっ!?」
という、私の質問がかき消されるようにして、魔王様は私を連れて空高くに舞い上がったのです。
「きゃああああああああ~~~っ!!」
「やかましいっ!! 耳元で騒ぐんやないっ!! 俺が自分の力で飛んどんねん、危ない事なんかないから、黙っていっ!!」
魔王様は酷いお人です。私の悲鳴など気にもお止めにならずに、地下の封禁の間から雲の上ほどの高さまで一気に飛び上がられたのです。そのときの私の恐怖など、どうせ口にしてご説明差し上げてもお分かりにならないでしょうね。(諦め)
そして、上空高く飛び上がった魔王様は上空から下を睨みつけると、私の父を馬で引き摺り連れ去ろうとする魔王ジャック・ダー・クーをご覧になりました。
「ふふふ。
この世界の魔王は、魔王とは言ってもしょせん闇の属性と魔力が突出して高い霊長類の一国の王にしか過ぎんわ。さては、俺の魔力に恐れをなして逃げ出しおったな?」
といって、鼻で笑われると、我が城の庭に降りたたれました。
先ほどとは違って今度はゆっくりと羽が舞うような速度でしたが、私はもう、目を瞑って必死で魔王様に抱き着いてブルブルと震えるばかりでした。
「ほれ、もう地面やぞ。いつまでもしがみついてのうで、さっさと地に足つけて立たんかい。」
魔王様にそう言われて目を開けると、確かに私は地面の上に立っておりました。
「あ・・・はい。失礼いたしました・・・。」
恐怖に震えていたとはいえ、魔王様にしがみついていた私は慌てて自分の足で立とうといたしましたが、腰が抜けてフラフラとその場に座り込んでしまいました。
魔王様はそんな私に優しく手をお貸しくださいました。
「ほれ、しっかり立て。」
「も、申し訳ございません。」
謝りながら魔王様に立たせていただきました。そうして立ち上がってから、周りの惨状にようやく気が付いたのです。
そこには城兵隊の遺体が幾重にも折り重なるようにして放置されておりました。
「ひ・・・ひどいっ!!」
私はその有様を見て声を上げて泣きました。可哀想な私の兵士たち。
生き延びたいがゆえに私を欺いていたというのに、このような最期を迎えるなんて・・・。
「何も泣くことあらへんがな。生きとし生ける者、いつかは死ぬ定めよ。
それが早いか遅いか。平和の内に死ぬか、戦乱で死ぬかは些細なことよ。特にこの者達のように戦うために存在する兵は、戦で死ぬことも当然あるがな。」
無慈悲な魔王様の言い分には反論の余地もございませんが。
私は兵士たちが哀れで哀れで・・・・・・可哀想になって泣きました。
「まったく、上も下も緩い女やで。
さっきまで、こいつらにションベン引っ掻ける言うてた女とは思えんわ。」
魔王様は呆れたようにそういうと、庭の石像に向かって言いました。
「おいっ!! お前ら、いつまでそんなとこに隠れとんじゃ!!
お前んとこの姫さんが裸同然で出てきたんやで? さっさと服でもシーツでももって来んかいっ!!」
すると、その一声で石像が吹き飛び、石像を支える台座の下の隠し通路に隠れていた数名の兵士が悲鳴を上げながら出てきました。
「あああああっ!! お、お許しくださいませっ!! 異界の魔王様っ!!
すぐに姫様に御召物をご用意いたしますっ!! しばらくっ!! しばらくぅ~~~っ!!」
誰もが、魔王様の放つ暗黒伸クラスの魔力とオドを感じ取り、震えあがって魔王様の指示に従いました。
そうして、程なく兵士たちは、私の着替えが出来るように端女どもを連れて戻りました。
「うん。ご苦労さんやったな。
で? お前ら、ここで何してた? なんでお前らの王がやられとんのにこんなところにおった?
ん?」
魔王様は、兵たちをねぎらいながらもその行為が腹立たしいご様子で責めておられます。口調はお優しく、愛らしい大きな目元を緩めて笑顔を見せている姿が、また逆に恐ろしいのです。
(このままでは、魔王様に兵士が殺されてしまいますわっ!!)
危機を察した私が魔王様に進言いたします。
「恐れ多くも畏くも、魔王様に言上、申し奉りいたしたく御座候。」
私の声を聞いて魔王様は冷たい視線を私に向けられましたが、ここで引き下がるわけにはまいりません。
私はこの国の姫。兵士を守らねばならないのです。
「特別に言上許す。申せ。」
魔王様は私に発言をお許しになられましたので、私は魔王様の気が変わらぬうちに一気に話します。
「魔王様の御心、お揺るがしたてまつりましたこと、誠にもって遺憾に思い奉ります。
しかし、この者達の不始末は、すべて我が父の不徳の致すところにて、どうぞ兵士にはご容赦賜りたく、願い申し上げます。」
深々と頭を下げてそう話す私を見て魔王様は暫く何もおっしゃいませんでしたが、
「この者達は長年に渡ってお前を人身御供にするように欺いてたんやで?
なんで、それを許すような真似をする? お前は正気か?」
と、仰ってから、「は~っ」と、深いため息をついてから「もうええ。わかった。頭上げろ。」といって、兵たちをお許しになられました。
は~・・・。し、心臓が止まるかと思いましたわ・・・。
「しかし、お前ら。王を奪われたんやで?
このあと、どうするつもりや?」
魔王様がそう仰ると兵士たちは震えながら応えました。
「畏れ多くも魔王様に申し上げます。
私たちは敗れたのです。もう、おしまいです。
ここは魔王様のお慈悲にすがる以外に道はございません。」
諦観。不意打ちとはいえ圧倒的な戦力で自分たちの主が敗れたので兵士たちに戦う気力がもう残されてはいなかったのです。
ふと気が付くと、城壁内には戦乱から逃れた町民たちが異界の魔王様の魔力に引き寄せられたのか、いつの間にか集まってきていました。そうして、兵士の言葉を聞くと誰からということなく各々が地面に頭をこすりつけるかのように土下座をして魔王様の慈悲を請いました。
「お願いいたします。魔王様。
私たちにはすでに戦う力なく、惨めな敗残者の姿を晒すのみにございます。
どうぞ、お慈悲下れませ。私たちの代わりに仇を取って下さいませ・・・。」
口々に誰もがそう言いました。その言葉を大勢の者が口にしたので、まるで合唱のように城内に響き渡るほどの必死の願いだったのです。
ですが、それが逆に魔王様の反感を買いました。
魔王様は皆の想いを手で払いのけるかのように仕草をしてから叫びました。
「黙れっ!! 何をぬかすか、この臆病者共っ!!
お前ら、まだ手足があるやろっ!! 武器があるやろっ!! 命があるやろっ!!
それが失われてないのに、何抜かすっ!!」
「戦う力がないやと? 甘えたことを抜かすなっ!!
お前らに足りんのは、戦う力やないっ!!
魂やっ!!」
「お前ら、悔しくないかっ!? 家族を殺され、仲間を殺され、恋人を殺されて何とも思わんのか―――っ!!」
魔王様の叱責は多くの民の心に響き、臣民は悔し涙を浮かべて言いました。
「く、悔しいですっ!! 魔王様っ!!
出来るなら、この手で奴らを殺してやりたいですっ!!」
その一言を聞いて魔王様は嬉しそうに頷くと天に指差して宣言します。
「よう、申した。その心意気。その魂こそが大切なんやっ!!
者共っ!! 何も恐れることはないっ!!
蔵から武器を手に取り、我に続けっ!! 戦いはまだ終わってないっ!!」
「たとえ一敗地に塗れたからといって、それがどうだというのだ?
すべてが失われたわけではないっ!!
まだ不撓不屈の意志、
復讐への飽くなき心、
永久に癒やすべからざる憎悪の念、
降伏も帰順も知らぬ勇気があるのだ!
敗北を喫しないために、これ以外何が必要だというのか?」
魂を揺さぶるそのお言葉に臣民だけでなく、私も滂沱の涙を流して聞き入ったのでした。
私の着替えが終わり、魔王様がお花の香りをつけてくださいました単衣をアウターに羽織ったところで魔王様が仁王立ちでそうおっしゃいました。私は服を着ておりますが、魔王様の方は依然として全裸のままで目のやり場に困ります。
私がなんとか股間を見ずに魔王様のお顔に集中し、お話を聞こうとした瞬間でした。
「むっ!!」
と、魔王様が剣呑な表情を浮かべたと同時に魔王様の黒ヘビが天に向かってそそり立ちました。
「き・・・・・・きゃああああああああ~~~っ!!
なんですのっ!! い・・・いいい、一体何のおつもりですのっ!!」
私の悲鳴を遮るように魔王様が怒鳴ります。
「ドアホっ!!
勘違いすんなっ!! これは俺のアンテナじゃっ!!
危機を察知した知らせじゃっ!!」
「は、はい? 危機ってなんのでございますか?」
私はそこで魔王様が剣呑な表情をしていた意味が解りました。
いや・・・でも・・・その察知の仕方には悪意がございませんか?
私が恨みがましい目で魔王様を睨みつけていると、魔王様が右手人差し指で天を指差しながら、
「いや、お前がションベン垂れたり、泣き言うとる間にお前の城。・・・・・・落ちたぞ。」
「はい?」
「せやさかいにな、お前の父親の城が敵に攻め落とされて、お前の城兵が捕虜として捉えられて、父親のルーカも魔王ジャック・ダー・クーに処刑されることが決まったみたいやぞ。」
「・・・・は?」
「・・・めっちゃヤバいことになってんで? って、言ってるの? わかるか?」
「はい・・・。」
呆然と魔王様の説明を聞き終えた私は、事態を把握しようと冷静に頭の中を整理します。
え~と、まず私は、魔王ジャック・ダー・クーに攻め滅ぼされそうになっている我が国の臣民と父上をお救いするために供物として異界の魔王様のいる封禁の間に来ました。
で、一悶着ありましたが、私は無事、異界の魔王様に我が国を保護していただけるお約束を取り付けました。
でもっ!! その間に私の父親がおられますお城は攻め落とされてしまったと・・・・・・。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・?
「え・・・? じゃあ、私何のためにあれやこれやの恥辱を晒したんでございますかぁ?」
状況を理解した上で、やはり理解できない私は魔王様に尋ねました。
「知るかっ!!
お前がさっさとやることやらんのがわるいんやろうがっ!!
まぁ、ええ。今ならまだ取り戻せるわ・・・。」
魔王様は呆れたようにそう言いながら、私を抱き上げます。
「きゃぁっ!! な、なにをなさいますのっ!!?」
「おおっ、軽い軽い。
お前アホみたいにデカい乳と尻しとるくせに、羽のように軽いなぁ。」
アホみたいに・・・・・?
「し、失礼ですわよっ!! レディに向かってそんな猥褻なこと言ってっ!!
もしかして、それで褒めているおつもりですかっ!? そんなことを言われて喜ぶ女がいるものですかっ!!」
「あ~、はいはい。わかったから、もう喋るな。舌噛むぞ・・・っと。」
魔王様は、私の抗議を邪魔くさそうに遮ると、天に向けて右腕を差し上げて「裂けよ」と一言申されました。
するとどうでしょうか? 信じられないことですが、私たちの頭の上にあった岩屋の天井が・・・いえ、その上に立つお城の全フロアの床が破裂音を立てて吹き飛んだのです。しかも、恐ろしいことに破壊された天井などの落下物は一切ありませんでした。
「ああああああ、あのっ・・・ま、まままま、魔王様っ!!
恐れながら天井は何処へ行きましたのっ!?」
という、私の質問がかき消されるようにして、魔王様は私を連れて空高くに舞い上がったのです。
「きゃああああああああ~~~っ!!」
「やかましいっ!! 耳元で騒ぐんやないっ!! 俺が自分の力で飛んどんねん、危ない事なんかないから、黙っていっ!!」
魔王様は酷いお人です。私の悲鳴など気にもお止めにならずに、地下の封禁の間から雲の上ほどの高さまで一気に飛び上がられたのです。そのときの私の恐怖など、どうせ口にしてご説明差し上げてもお分かりにならないでしょうね。(諦め)
そして、上空高く飛び上がった魔王様は上空から下を睨みつけると、私の父を馬で引き摺り連れ去ろうとする魔王ジャック・ダー・クーをご覧になりました。
「ふふふ。
この世界の魔王は、魔王とは言ってもしょせん闇の属性と魔力が突出して高い霊長類の一国の王にしか過ぎんわ。さては、俺の魔力に恐れをなして逃げ出しおったな?」
といって、鼻で笑われると、我が城の庭に降りたたれました。
先ほどとは違って今度はゆっくりと羽が舞うような速度でしたが、私はもう、目を瞑って必死で魔王様に抱き着いてブルブルと震えるばかりでした。
「ほれ、もう地面やぞ。いつまでもしがみついてのうで、さっさと地に足つけて立たんかい。」
魔王様にそう言われて目を開けると、確かに私は地面の上に立っておりました。
「あ・・・はい。失礼いたしました・・・。」
恐怖に震えていたとはいえ、魔王様にしがみついていた私は慌てて自分の足で立とうといたしましたが、腰が抜けてフラフラとその場に座り込んでしまいました。
魔王様はそんな私に優しく手をお貸しくださいました。
「ほれ、しっかり立て。」
「も、申し訳ございません。」
謝りながら魔王様に立たせていただきました。そうして立ち上がってから、周りの惨状にようやく気が付いたのです。
そこには城兵隊の遺体が幾重にも折り重なるようにして放置されておりました。
「ひ・・・ひどいっ!!」
私はその有様を見て声を上げて泣きました。可哀想な私の兵士たち。
生き延びたいがゆえに私を欺いていたというのに、このような最期を迎えるなんて・・・。
「何も泣くことあらへんがな。生きとし生ける者、いつかは死ぬ定めよ。
それが早いか遅いか。平和の内に死ぬか、戦乱で死ぬかは些細なことよ。特にこの者達のように戦うために存在する兵は、戦で死ぬことも当然あるがな。」
無慈悲な魔王様の言い分には反論の余地もございませんが。
私は兵士たちが哀れで哀れで・・・・・・可哀想になって泣きました。
「まったく、上も下も緩い女やで。
さっきまで、こいつらにションベン引っ掻ける言うてた女とは思えんわ。」
魔王様は呆れたようにそういうと、庭の石像に向かって言いました。
「おいっ!! お前ら、いつまでそんなとこに隠れとんじゃ!!
お前んとこの姫さんが裸同然で出てきたんやで? さっさと服でもシーツでももって来んかいっ!!」
すると、その一声で石像が吹き飛び、石像を支える台座の下の隠し通路に隠れていた数名の兵士が悲鳴を上げながら出てきました。
「あああああっ!! お、お許しくださいませっ!! 異界の魔王様っ!!
すぐに姫様に御召物をご用意いたしますっ!! しばらくっ!! しばらくぅ~~~っ!!」
誰もが、魔王様の放つ暗黒伸クラスの魔力とオドを感じ取り、震えあがって魔王様の指示に従いました。
そうして、程なく兵士たちは、私の着替えが出来るように端女どもを連れて戻りました。
「うん。ご苦労さんやったな。
で? お前ら、ここで何してた? なんでお前らの王がやられとんのにこんなところにおった?
ん?」
魔王様は、兵たちをねぎらいながらもその行為が腹立たしいご様子で責めておられます。口調はお優しく、愛らしい大きな目元を緩めて笑顔を見せている姿が、また逆に恐ろしいのです。
(このままでは、魔王様に兵士が殺されてしまいますわっ!!)
危機を察した私が魔王様に進言いたします。
「恐れ多くも畏くも、魔王様に言上、申し奉りいたしたく御座候。」
私の声を聞いて魔王様は冷たい視線を私に向けられましたが、ここで引き下がるわけにはまいりません。
私はこの国の姫。兵士を守らねばならないのです。
「特別に言上許す。申せ。」
魔王様は私に発言をお許しになられましたので、私は魔王様の気が変わらぬうちに一気に話します。
「魔王様の御心、お揺るがしたてまつりましたこと、誠にもって遺憾に思い奉ります。
しかし、この者達の不始末は、すべて我が父の不徳の致すところにて、どうぞ兵士にはご容赦賜りたく、願い申し上げます。」
深々と頭を下げてそう話す私を見て魔王様は暫く何もおっしゃいませんでしたが、
「この者達は長年に渡ってお前を人身御供にするように欺いてたんやで?
なんで、それを許すような真似をする? お前は正気か?」
と、仰ってから、「は~っ」と、深いため息をついてから「もうええ。わかった。頭上げろ。」といって、兵たちをお許しになられました。
は~・・・。し、心臓が止まるかと思いましたわ・・・。
「しかし、お前ら。王を奪われたんやで?
このあと、どうするつもりや?」
魔王様がそう仰ると兵士たちは震えながら応えました。
「畏れ多くも魔王様に申し上げます。
私たちは敗れたのです。もう、おしまいです。
ここは魔王様のお慈悲にすがる以外に道はございません。」
諦観。不意打ちとはいえ圧倒的な戦力で自分たちの主が敗れたので兵士たちに戦う気力がもう残されてはいなかったのです。
ふと気が付くと、城壁内には戦乱から逃れた町民たちが異界の魔王様の魔力に引き寄せられたのか、いつの間にか集まってきていました。そうして、兵士の言葉を聞くと誰からということなく各々が地面に頭をこすりつけるかのように土下座をして魔王様の慈悲を請いました。
「お願いいたします。魔王様。
私たちにはすでに戦う力なく、惨めな敗残者の姿を晒すのみにございます。
どうぞ、お慈悲下れませ。私たちの代わりに仇を取って下さいませ・・・。」
口々に誰もがそう言いました。その言葉を大勢の者が口にしたので、まるで合唱のように城内に響き渡るほどの必死の願いだったのです。
ですが、それが逆に魔王様の反感を買いました。
魔王様は皆の想いを手で払いのけるかのように仕草をしてから叫びました。
「黙れっ!! 何をぬかすか、この臆病者共っ!!
お前ら、まだ手足があるやろっ!! 武器があるやろっ!! 命があるやろっ!!
それが失われてないのに、何抜かすっ!!」
「戦う力がないやと? 甘えたことを抜かすなっ!!
お前らに足りんのは、戦う力やないっ!!
魂やっ!!」
「お前ら、悔しくないかっ!? 家族を殺され、仲間を殺され、恋人を殺されて何とも思わんのか―――っ!!」
魔王様の叱責は多くの民の心に響き、臣民は悔し涙を浮かべて言いました。
「く、悔しいですっ!! 魔王様っ!!
出来るなら、この手で奴らを殺してやりたいですっ!!」
その一言を聞いて魔王様は嬉しそうに頷くと天に指差して宣言します。
「よう、申した。その心意気。その魂こそが大切なんやっ!!
者共っ!! 何も恐れることはないっ!!
蔵から武器を手に取り、我に続けっ!! 戦いはまだ終わってないっ!!」
「たとえ一敗地に塗れたからといって、それがどうだというのだ?
すべてが失われたわけではないっ!!
まだ不撓不屈の意志、
復讐への飽くなき心、
永久に癒やすべからざる憎悪の念、
降伏も帰順も知らぬ勇気があるのだ!
敗北を喫しないために、これ以外何が必要だというのか?」
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