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第1章「始まり」
第4話 邂逅と交渉
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邂逅とはまさにこの事。
私と魔王様は、封禁の間と呼ばれる岩屋の中でお互いに全裸という破廉恥極まりない姿でお会いすることになったのでした。
もちろん、私は淑女。将来の夫となることを約束された魔王様がお相手でも裸をお見せすることなど、あってはならないことですし、恥ずかしくてたまらない事でありましたので、大声で悲鳴を上げながら我が身をかがめ、両手で我が身を隠しました。
なのに魔王様ったら
「ピーピー、キャーキャー。ホンマにうっさい女やのう~。
ええやないか、今さら。どうせさっき具も全部俺に晒したんやから・・・・・・
それにお前こそ、さっきは俺の一物様をガン見しとって恥じらいも何もあるかぁ、この淫乱娘が。」
などと、事実無根のいじわるまで言います。
「み、みみみ、みてませ~んっ!!
わ、私、そんないやらしい子じゃありませーんッ!!!」
私は否定します。断固否定します。
私はあんな私の前腕ほどの大きさもあるような黒光りしたヘビなんか見ていませんっ!
絶対に見てませんからっ!!
「ま、どうでもええわい。
そんなことよりも契約の話をしよか。我が妻、ラーマよ。お前は父親のルーカから俺との契約についてどれくらい聞かされとんや?」
先ほどまで冗談を交えた柔和な顔をしておられた魔王様は、急に真面目なお顔になられてから、そう申されました。
私も魔王様の態度から、真面目に話をする時であると気持ちを入れ替えて対話に臨むのでした。
「はい。畏れ多くも我が父ルーカは、自分の命に危機が迫った時にこの世界を異界の魔王である貴方様に捧げることを代償に一族郎党の安泰を願い奉り、この封禁を破るお約束をいたしました。
私は父よりそう聞かされております。それ以上の事は誠に失礼ではございますが、存じ上げません。」
私は慎重に必要最低限のお話だけをいたします。それは、万が一、私の話した内容が魔王様と父上がなされた契約に抵触することがあってはならないからです。抵触することがあれば契約は破棄され、魔王様が我らに牙をむく恐れがあったからです。
そして、それは逆に言えば魔王様に契約の落ち度があれば私が優位に立てる可能性もあったのです。なのでここは慎重を期して情報交換する必要があったのです。
「ふうむ。左様か。」
私の話を聞き終えた魔王様は腕組をしながら何やら考えておられましたが、やがて興味深そうにニヤリと笑うと私の顔を覗き見るためにググッとお顔を近づけてこられました。
そして、私は大混乱です。
(いやぁ~~~。なんですのっ!? なんなんですのっ!?
この美顔はっ!?
美しすぎますっ!! 美しすぎますっ!!
カールをまいた美しい金髪。その前髪に隠れるようにして見える大きなブルーの瞳。
幼さを感じさせる大きな瞳に細い鼻筋、美しいピンクの薄い唇。なのに威厳に満ちた風格をまとっておられるなんてっ!!)
正直に告白いたしますと私の心は今、魔王様の魅力に取りつかれております。言葉を発するどころか息をするのにも心臓の鼓動を感じてしまうほど、私はトキめいてしまうのです。
その美しさは正に魔性。・・・・いいえ、神々しさまで感じさせられてしまうのでした。
魔王様はそんな私の心の動揺をさして気にする様子もなく、「お前は思った以上に賢いなぁ」と愉快そうに笑うのでした。
「相手に簡単に情報を漏らさず、相手の反応を見て相手の情報を引き出すか・・・。
兵法の心得があると見た。ルーカはお前を大切に育てたようやな・・・。」
・・・・・・大切に育てた。
そう、そうでしょうとも。私は魔王様のご命令により作られた装置。大切にも扱いましょうとも。
その大切な扱われ方を愛情と私が勘違いしてしまうほどに・・・・・・。
魔王様のお言葉は私に父と国民が私にしたことを思い起こさせ、悲しませるのでした。そして、魔王様は私にそうした反応を心得ておられたかのように、さらに愉快そうに「可可可」と小さく笑ったのでした。
「お前は、絶望をしている。
そうやな。恐らくはお前を欺いてきた父親と臣民に対してな。」
魔王様は私の心をズバリと言い当てると、その先が気になるご様子。
「なら、なんでや?
なんで臣民を救うために俺の供物になるつもりになった?」
「いうとくけど、妻にすると言うたかて俺はお前を妊娠する道具にするつもりやぞ?
先ほど俺の一物様を見たやろ?
お前の腕のように太くて長い。
黒鉄のように固いかと思えば、絹糸のように柔軟で滑らかな肌心地の良さ。
お前に苦痛を与えるのにお前が泣いてすがり求めるほど甘露の味がする。
お前は一瞬で正気を失い、あとは俺の求めに従って魔性を産み落とし続ける人形にされる。」
「よく考えよ。
お前はお前を欺いた全ての者の為にこの世で最も惨めな扱いを受けることになるのだ。」
「そんなことをする必要がどこにある?
お前を欺いた者共やぞ。
むしろ、復讐を望まんか? お前を欺いた連中に。」
「お前が我が身を俺に捧げへんかったら、契約は成立せん。」
「ならば、どうや?
俺と新たな契約を結ばんか?
お前を救うために、お前を欺いた者共に俺が罰をあたえてやろう。
お前は何にも失うものはない。この世界の全てを俺に捧げるんやったらお前だけは生涯、俺が支配する王国で安楽な生活ができるように俺が取り計らう。」
「さぁ、よく考えてみい。哀れな姫君よ。
お前の国の存亡を救うためにお前が犠牲になるか、
お前の復讐を果たし、安楽な生活を手に入れるか」
「今すぐきめろ。
俺は短気や。長くは待たんぞ。即答せいや?。」
驚いたことに魔王様は、契約の脆弱性や矛盾点を見せるどころか、私に復讐の契約を持ち掛けてきたのです。それも即断せよと迫ってこられたのです。
そして恐ろしいことに魔王様がこの契約を持ち掛けてきたと同時に、私の脳裏に恐ろしい映像が二つ流れてきました。
一つは私が魔王様に凌辱の限りを尽くされつつも、正気を失った私が魔王様に泣いておすがりしながら魔王様を求める姿。そして、大量の魔性を産み出す映像。私はその時に赤子がどのようにして生まれてくるのかを知り、魔王様が私に裸を見せることを躊躇う必要がないと仰ったのか理解しました。
そして、もう一つの映像は、私が私を欺いた臣民、そしてお父様に復讐を果たす姿。
私は見ました。魔王様に殺される臣民とお父様の御姿を。そして、それを愉快そうに笑いながら葡萄酒を飲む私の姿を・・・・・・。
私は見たのです。
これは魔法であり、未来予知。魔王様は私の体を侵食して私に見せたこれから起こりうる未来の姿だったのです。
まさに神秘。このような奇跡の力があるなどと私は知りもしませんでした。いいえ。私はおろかこの世界の多くの魔王がそのような力はお持ちではありませんでしょう。もはやこの奇跡の力は神々の領域に達しているのでした。
その時、あらためて私は目の前にいる魔王様がこの世界を滅ぼす力を持つ存在であると知ったのでした・・・・・・。
なんという恐ろしいお力。魔王様がお見せになった未来は間違いなく訪れるのであろうと私は直感いたしました。ですが・・・・・・。
「・・・・・・お断りいたします。
魔王様、我が臣民をお救いください。」
私は映像を見たうえで契約を拒絶しました。
魔王様は私の返事を聞いてあからさまに不機嫌な表情を浮かべて尋ね返してきました。
「なんでや?
自己犠牲か? 我が偉大な父上が最も喜ばれる善行がお前の望みか?
よう考えてみい。アホ見るのはお前一人やで?
お前が自己犠牲を全うしても、お前の父も臣民もお前に感謝なんかせぇへんぞ?
当たり前の話や。お前はそういう装置として作られたんやから・・・。
機械が機械としての役目をはたして心を痛める奴が居るか? 居らんやろ?
惨めに魔性の子を産み落とすお前の姿を侮蔑して唾を吐くのが関の山や。
せやさかいにお前、悔しゅうないんか? 復讐を果たさんかい。その方が絶対に良えで?」
魔王様は必死に私を説得しようとなされましたが、私の心は変わりません。
「いいえ。魔王様。
私にも一国の姫としての矜持というものがございます。」
私の返答は魔王様にとって意外なものであったかのようで愉快そうに
「矜持やと? プライドの事か? 傲慢なことよっ!!」と、お笑いになられました。
私は応えます。
「ええ。矜持でございますわ。
私は確かに偽りの姫君。つくられた虚像の権威しか持ち合わせておりませんし、それを持ち合わせるように幼いころから躾けられ、その生き方に誇りを感じて生きてきました。
一国の姫ならば、我が国の臣民を護るために命を捧げることは当然の事。」
「私は今日、全てを失いましたが、この使命を果たすことだけは、私にはできます。
私にできる唯一の姫らしいこと。私が臣民を救えるのならば、姫として何のためらいござりましょうや?」
私の返答に魔王様は怒り狂ったように怒鳴りつけます。
「そのお前のプライドっ!! 誰が認めるっ!!
臣民もお前の父もお前を嘲笑うっ!!
それがお前の望みかっ!!」
私は満面の笑みで我が心根を打ち明けました。
「私の臣民が哀れな私の姿を見て嘲笑い唾を吐こうというのなら、
私の犠牲のもとで魔王様から生き延びることができた哀れな者共に向かって
私はお小水をひっかけてやりますわっ!!
私を犠牲にして、この世界を犠牲にして生き延びようとした惨めな者共には、それに相応しい返礼だとは思いませんか?」
・・・・・・・。私の言葉を聞いて魔王様は暫く呆気にとられたように美しいそのお顔を崩して固まっておられましたが、やがて肩を揺らして大笑されました。
「ははははははっ!! なんちゅうこっちゃ!!
はははははっ! なんちゅう傲慢なことやっ!!
せやけど、その通りやっ!! お前の言う通りやっ!!」
「天晴れ成るかなっ!! 天晴れ成るかなっ!!
これこそ、まさに矜持。まさに姫巫女のプライドよ。」
「ラーマよ、よう申したっ!!
さればお前の望み叶えて仕わすっ!!」
魔王様は大変愉快そうでした。そして、笑うだけ笑われたのちに掌から大量の水流を巻き起こし、私の肌着と単衣を洗ってくださいました。
「ほれ、さっさと着ろ。俺の姫君が全裸というわけにはいかんわっ。」
そういって手渡された私の服は不思議なことに完全に乾き、花の香りさえいたしました。
どうやら私。本当に魔王様に気に入られたようでございます。
私と魔王様は、封禁の間と呼ばれる岩屋の中でお互いに全裸という破廉恥極まりない姿でお会いすることになったのでした。
もちろん、私は淑女。将来の夫となることを約束された魔王様がお相手でも裸をお見せすることなど、あってはならないことですし、恥ずかしくてたまらない事でありましたので、大声で悲鳴を上げながら我が身をかがめ、両手で我が身を隠しました。
なのに魔王様ったら
「ピーピー、キャーキャー。ホンマにうっさい女やのう~。
ええやないか、今さら。どうせさっき具も全部俺に晒したんやから・・・・・・
それにお前こそ、さっきは俺の一物様をガン見しとって恥じらいも何もあるかぁ、この淫乱娘が。」
などと、事実無根のいじわるまで言います。
「み、みみみ、みてませ~んっ!!
わ、私、そんないやらしい子じゃありませーんッ!!!」
私は否定します。断固否定します。
私はあんな私の前腕ほどの大きさもあるような黒光りしたヘビなんか見ていませんっ!
絶対に見てませんからっ!!
「ま、どうでもええわい。
そんなことよりも契約の話をしよか。我が妻、ラーマよ。お前は父親のルーカから俺との契約についてどれくらい聞かされとんや?」
先ほどまで冗談を交えた柔和な顔をしておられた魔王様は、急に真面目なお顔になられてから、そう申されました。
私も魔王様の態度から、真面目に話をする時であると気持ちを入れ替えて対話に臨むのでした。
「はい。畏れ多くも我が父ルーカは、自分の命に危機が迫った時にこの世界を異界の魔王である貴方様に捧げることを代償に一族郎党の安泰を願い奉り、この封禁を破るお約束をいたしました。
私は父よりそう聞かされております。それ以上の事は誠に失礼ではございますが、存じ上げません。」
私は慎重に必要最低限のお話だけをいたします。それは、万が一、私の話した内容が魔王様と父上がなされた契約に抵触することがあってはならないからです。抵触することがあれば契約は破棄され、魔王様が我らに牙をむく恐れがあったからです。
そして、それは逆に言えば魔王様に契約の落ち度があれば私が優位に立てる可能性もあったのです。なのでここは慎重を期して情報交換する必要があったのです。
「ふうむ。左様か。」
私の話を聞き終えた魔王様は腕組をしながら何やら考えておられましたが、やがて興味深そうにニヤリと笑うと私の顔を覗き見るためにググッとお顔を近づけてこられました。
そして、私は大混乱です。
(いやぁ~~~。なんですのっ!? なんなんですのっ!?
この美顔はっ!?
美しすぎますっ!! 美しすぎますっ!!
カールをまいた美しい金髪。その前髪に隠れるようにして見える大きなブルーの瞳。
幼さを感じさせる大きな瞳に細い鼻筋、美しいピンクの薄い唇。なのに威厳に満ちた風格をまとっておられるなんてっ!!)
正直に告白いたしますと私の心は今、魔王様の魅力に取りつかれております。言葉を発するどころか息をするのにも心臓の鼓動を感じてしまうほど、私はトキめいてしまうのです。
その美しさは正に魔性。・・・・いいえ、神々しさまで感じさせられてしまうのでした。
魔王様はそんな私の心の動揺をさして気にする様子もなく、「お前は思った以上に賢いなぁ」と愉快そうに笑うのでした。
「相手に簡単に情報を漏らさず、相手の反応を見て相手の情報を引き出すか・・・。
兵法の心得があると見た。ルーカはお前を大切に育てたようやな・・・。」
・・・・・・大切に育てた。
そう、そうでしょうとも。私は魔王様のご命令により作られた装置。大切にも扱いましょうとも。
その大切な扱われ方を愛情と私が勘違いしてしまうほどに・・・・・・。
魔王様のお言葉は私に父と国民が私にしたことを思い起こさせ、悲しませるのでした。そして、魔王様は私にそうした反応を心得ておられたかのように、さらに愉快そうに「可可可」と小さく笑ったのでした。
「お前は、絶望をしている。
そうやな。恐らくはお前を欺いてきた父親と臣民に対してな。」
魔王様は私の心をズバリと言い当てると、その先が気になるご様子。
「なら、なんでや?
なんで臣民を救うために俺の供物になるつもりになった?」
「いうとくけど、妻にすると言うたかて俺はお前を妊娠する道具にするつもりやぞ?
先ほど俺の一物様を見たやろ?
お前の腕のように太くて長い。
黒鉄のように固いかと思えば、絹糸のように柔軟で滑らかな肌心地の良さ。
お前に苦痛を与えるのにお前が泣いてすがり求めるほど甘露の味がする。
お前は一瞬で正気を失い、あとは俺の求めに従って魔性を産み落とし続ける人形にされる。」
「よく考えよ。
お前はお前を欺いた全ての者の為にこの世で最も惨めな扱いを受けることになるのだ。」
「そんなことをする必要がどこにある?
お前を欺いた者共やぞ。
むしろ、復讐を望まんか? お前を欺いた連中に。」
「お前が我が身を俺に捧げへんかったら、契約は成立せん。」
「ならば、どうや?
俺と新たな契約を結ばんか?
お前を救うために、お前を欺いた者共に俺が罰をあたえてやろう。
お前は何にも失うものはない。この世界の全てを俺に捧げるんやったらお前だけは生涯、俺が支配する王国で安楽な生活ができるように俺が取り計らう。」
「さぁ、よく考えてみい。哀れな姫君よ。
お前の国の存亡を救うためにお前が犠牲になるか、
お前の復讐を果たし、安楽な生活を手に入れるか」
「今すぐきめろ。
俺は短気や。長くは待たんぞ。即答せいや?。」
驚いたことに魔王様は、契約の脆弱性や矛盾点を見せるどころか、私に復讐の契約を持ち掛けてきたのです。それも即断せよと迫ってこられたのです。
そして恐ろしいことに魔王様がこの契約を持ち掛けてきたと同時に、私の脳裏に恐ろしい映像が二つ流れてきました。
一つは私が魔王様に凌辱の限りを尽くされつつも、正気を失った私が魔王様に泣いておすがりしながら魔王様を求める姿。そして、大量の魔性を産み出す映像。私はその時に赤子がどのようにして生まれてくるのかを知り、魔王様が私に裸を見せることを躊躇う必要がないと仰ったのか理解しました。
そして、もう一つの映像は、私が私を欺いた臣民、そしてお父様に復讐を果たす姿。
私は見ました。魔王様に殺される臣民とお父様の御姿を。そして、それを愉快そうに笑いながら葡萄酒を飲む私の姿を・・・・・・。
私は見たのです。
これは魔法であり、未来予知。魔王様は私の体を侵食して私に見せたこれから起こりうる未来の姿だったのです。
まさに神秘。このような奇跡の力があるなどと私は知りもしませんでした。いいえ。私はおろかこの世界の多くの魔王がそのような力はお持ちではありませんでしょう。もはやこの奇跡の力は神々の領域に達しているのでした。
その時、あらためて私は目の前にいる魔王様がこの世界を滅ぼす力を持つ存在であると知ったのでした・・・・・・。
なんという恐ろしいお力。魔王様がお見せになった未来は間違いなく訪れるのであろうと私は直感いたしました。ですが・・・・・・。
「・・・・・・お断りいたします。
魔王様、我が臣民をお救いください。」
私は映像を見たうえで契約を拒絶しました。
魔王様は私の返事を聞いてあからさまに不機嫌な表情を浮かべて尋ね返してきました。
「なんでや?
自己犠牲か? 我が偉大な父上が最も喜ばれる善行がお前の望みか?
よう考えてみい。アホ見るのはお前一人やで?
お前が自己犠牲を全うしても、お前の父も臣民もお前に感謝なんかせぇへんぞ?
当たり前の話や。お前はそういう装置として作られたんやから・・・。
機械が機械としての役目をはたして心を痛める奴が居るか? 居らんやろ?
惨めに魔性の子を産み落とすお前の姿を侮蔑して唾を吐くのが関の山や。
せやさかいにお前、悔しゅうないんか? 復讐を果たさんかい。その方が絶対に良えで?」
魔王様は必死に私を説得しようとなされましたが、私の心は変わりません。
「いいえ。魔王様。
私にも一国の姫としての矜持というものがございます。」
私の返答は魔王様にとって意外なものであったかのようで愉快そうに
「矜持やと? プライドの事か? 傲慢なことよっ!!」と、お笑いになられました。
私は応えます。
「ええ。矜持でございますわ。
私は確かに偽りの姫君。つくられた虚像の権威しか持ち合わせておりませんし、それを持ち合わせるように幼いころから躾けられ、その生き方に誇りを感じて生きてきました。
一国の姫ならば、我が国の臣民を護るために命を捧げることは当然の事。」
「私は今日、全てを失いましたが、この使命を果たすことだけは、私にはできます。
私にできる唯一の姫らしいこと。私が臣民を救えるのならば、姫として何のためらいござりましょうや?」
私の返答に魔王様は怒り狂ったように怒鳴りつけます。
「そのお前のプライドっ!! 誰が認めるっ!!
臣民もお前の父もお前を嘲笑うっ!!
それがお前の望みかっ!!」
私は満面の笑みで我が心根を打ち明けました。
「私の臣民が哀れな私の姿を見て嘲笑い唾を吐こうというのなら、
私の犠牲のもとで魔王様から生き延びることができた哀れな者共に向かって
私はお小水をひっかけてやりますわっ!!
私を犠牲にして、この世界を犠牲にして生き延びようとした惨めな者共には、それに相応しい返礼だとは思いませんか?」
・・・・・・・。私の言葉を聞いて魔王様は暫く呆気にとられたように美しいそのお顔を崩して固まっておられましたが、やがて肩を揺らして大笑されました。
「ははははははっ!! なんちゅうこっちゃ!!
はははははっ! なんちゅう傲慢なことやっ!!
せやけど、その通りやっ!! お前の言う通りやっ!!」
「天晴れ成るかなっ!! 天晴れ成るかなっ!!
これこそ、まさに矜持。まさに姫巫女のプライドよ。」
「ラーマよ、よう申したっ!!
さればお前の望み叶えて仕わすっ!!」
魔王様は大変愉快そうでした。そして、笑うだけ笑われたのちに掌から大量の水流を巻き起こし、私の肌着と単衣を洗ってくださいました。
「ほれ、さっさと着ろ。俺の姫君が全裸というわけにはいかんわっ。」
そういって手渡された私の服は不思議なことに完全に乾き、花の香りさえいたしました。
どうやら私。本当に魔王様に気に入られたようでございます。
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