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第15話 暑くて暑くて
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「こんちはー」
軽く挨拶をして部室に入る。すでに来ていた先輩はこっちを見て口をへの字に曲げた。愛してるのサインかな。
いつものようにテーブルを挟んで座るが、いつものように官能小説は本棚から取らない。
「ふわぁ……」
あくびをして目尻の涙を拭う。どうにも眠気が凄まじい。昨日は先輩との電話が終わったあとも、まったく寝付けなかった。
普段なら二回も射精せば眠くはなる。しかし、その眠気を興奮が上回ったのだから仕方ない。あー、実質一時間しか寝てないから辛いわー。
「……」
先輩をじっと見ても変わりなし。電話越しの乱れた姿が嘘のようだ。もしかしたら、夢だったのかもしれない。
「膝枕をしてもらってもいいですか?」
あの優しさが今も続いているのかどうか。
「好きにしたら?」
まさかの承諾が返ってきた。気が変わらないうちに早速、行動だ。
椅子から立ち上がって先輩の隣の椅子に置いてある鞄をどかす。もうひとつの空いた椅子も引いてその上に寝転ぶ。そして、小説を読んでいる先輩の腕と太ももの間に頭を潜り込ませた。当然、向きはお腹。
上を見れば胸の膨らみが見えている。下はスカート。そこに隠れた股座に顔をうずめて息を吸い込んだ。
「む、ふぅ……」
甘い匂いが胸いっぱいに広がる。
「天沢君、暑い」
確かに。雨の降る音が部室の中まで聞こえてくるほど。気温自体は多少下がっているはずだが、湿気がすごいのか嫌な暑さがある。
しかし、それが今重要なことだろうか。今は匂いを堪能する以外に……。
「っ!」
後頭部に痛みが走る。思わず太ももから離れて頭を押さえた。先輩を見ると小説を片手で振り上げていた。なるほど、角にやられたわけだ。
体勢を整えて椅子に座りなおすと、先輩は小説を開いて再び読み始めた。
膝枕自体に問題はなかった。問題なのはこの暑さか。ここにはエアコンもなければ扇風機すらない。暑い時期に使うことを想定されていない教室だな。倉庫という割には本棚しかないし。
元々は何かの部室に使われていたというのが妥当なところ。そんな教室にわざわざエアコンを設置もしないか。となれば、この暑さを自分でどうにかしないと膝枕を味わえない。
冬までなんて待てないし、まずは……。
「バンザイしてください」
「脇を嗅ぐの?」
「嗅ぎませんて」
いや、それもありか?
先輩は小説をテーブルに置いて両腕を上げた。そして、笑いながら俺を見るのだ。
「……」
やるしかない。遠慮なく身体に腕を回して脇に顔をうずめる。
「ん……」
当然のように甘い匂いはするが、微かに汗臭さも感じる。それがまたよかった。
「やっぱり、暑いわね」
「っ!」
次は頭頂部に痛みが。先輩から離れると、どうやら肘にやられたらしい。じっくりと堪能できないのも全てはこの暑さのせい。
「ベスト脱がしますからね」
「エッチ」
暑いんだったらベストなんて着なければいいじゃないという発想。この時期でも着ている女子生徒がそれなりに多いのが不思議だ。
椅子から立ち上がって後ろに回り、ベストの裾を掴む。上に持ち上げると先輩も腕を上げてくれる。胸を通り頭に腕が抜けるとベストが脱げた。
甘い香りがふわりと漂う。つい、そのまま抱きついてしまったのは不可抗力である。
「暑い」
先輩の後頭部が顔面にめり込んだ。容赦ない反撃に愛さえ感じる。
顔をベストで押さえながら椅子に座る。先輩は何事もなかったように小説を開いて読んでいた。
直接触れないのなら間接的に楽しむしかない。テーブルにベストを置いて、その上に顔をのせる。
まるで先輩に包まれている感覚。ああ、幸せっていうのはこの瞬間のことを言うんだろうな……。
「……」
頭がぼうっとする。顔を上げると少し暗くなった室内に瞬きを数回繰り返す。ふむ、どうやら寝ていたようだ。
先輩は先に帰ったのか隣にいない。起こしてくれればいいのに。
「ん?」
テーブルの上に紙切れがあった。見てみるとベストは洗って返すように、だそう。こんないい匂いのベストを洗うなんてもったいないことが俺にできるだろうか。
うん、できないな。持って帰って楽しむことにしよう。
◇
翌日、部室に入るといつもと変わりない先輩が椅子に座って官能小説を読んでいた。今着ているベストは替えのやつか。
テーブルに鞄を置くが、今日も官能小説を読む気はない。なぜなら秘密兵器を持ってきたからだ。早速、鞄を開けて長方形の箱を取り出す。
中を開ければ入っているのは扇風機。少し小さいがこれで暑さも多少はマシになるはず。箱から扇風機を出してプラグをコンセントに差し込む。
そして、先輩の腰辺りを狙って電源をつける。羽が音を立てて回り始め、スカートが風で揺れた。
「これで涼しくなりましたよね」
「天沢君は私の下半身を冷やしてどうしたいのかしら」
「そんな恥ずかしいこと言えませんよ」
「あらあら、スケベな顔になってるわよ」
「先輩も物欲しそうな顔になってますね」
「ふふ、それじゃあ私の冷えた下半身を温めてもらえる?」
「お任せください」
昨日と同じ要領で椅子の上に寝転ぶ。扇風機の風が当たっている太ももへ頭をのせた。
「どうですか?」
上を向いて顔を見ようとするが、胸に遮られて見えなかった。
「天沢君が興奮しているせいで、まだ暑いわね」
確かに興奮はしてますけど。鎮めろと言われても無理な話なんで。
「っ!」
冷やりとした感触が顔に当たる。手を伸ばして確認すると保冷剤だった。
「さっきまで冷やされてたみたいに冷たい……」
「朝のうちに保健室の冷蔵庫に入れておいたの」
「……準備万端ですね」
「この教室が暑いから涼むために持ってきただけで、天沢君に膝枕をするために用意したわけじゃないのよ」
なんてことを言いながらデコピンをしてきた。どこのツンデレなんだか。保冷剤はハンドタオルに包まれて、頭と先輩のお腹の間に挟まれる。
遠慮なく股座で深呼吸をするが殴られることはなかった。その代わりに先輩の手が頭に置かれて髪の毛を弄られている。それが妙にこっぱずかしい。
お返しにお尻を撫でると髪の毛を抜かれる痛みが走った。昨日はそれなりに寝たはずだが、痛みに負けないだけの眠気が襲ってくる。先輩の匂いは睡眠導入剤にもなりそうだ……。
軽く挨拶をして部室に入る。すでに来ていた先輩はこっちを見て口をへの字に曲げた。愛してるのサインかな。
いつものようにテーブルを挟んで座るが、いつものように官能小説は本棚から取らない。
「ふわぁ……」
あくびをして目尻の涙を拭う。どうにも眠気が凄まじい。昨日は先輩との電話が終わったあとも、まったく寝付けなかった。
普段なら二回も射精せば眠くはなる。しかし、その眠気を興奮が上回ったのだから仕方ない。あー、実質一時間しか寝てないから辛いわー。
「……」
先輩をじっと見ても変わりなし。電話越しの乱れた姿が嘘のようだ。もしかしたら、夢だったのかもしれない。
「膝枕をしてもらってもいいですか?」
あの優しさが今も続いているのかどうか。
「好きにしたら?」
まさかの承諾が返ってきた。気が変わらないうちに早速、行動だ。
椅子から立ち上がって先輩の隣の椅子に置いてある鞄をどかす。もうひとつの空いた椅子も引いてその上に寝転ぶ。そして、小説を読んでいる先輩の腕と太ももの間に頭を潜り込ませた。当然、向きはお腹。
上を見れば胸の膨らみが見えている。下はスカート。そこに隠れた股座に顔をうずめて息を吸い込んだ。
「む、ふぅ……」
甘い匂いが胸いっぱいに広がる。
「天沢君、暑い」
確かに。雨の降る音が部室の中まで聞こえてくるほど。気温自体は多少下がっているはずだが、湿気がすごいのか嫌な暑さがある。
しかし、それが今重要なことだろうか。今は匂いを堪能する以外に……。
「っ!」
後頭部に痛みが走る。思わず太ももから離れて頭を押さえた。先輩を見ると小説を片手で振り上げていた。なるほど、角にやられたわけだ。
体勢を整えて椅子に座りなおすと、先輩は小説を開いて再び読み始めた。
膝枕自体に問題はなかった。問題なのはこの暑さか。ここにはエアコンもなければ扇風機すらない。暑い時期に使うことを想定されていない教室だな。倉庫という割には本棚しかないし。
元々は何かの部室に使われていたというのが妥当なところ。そんな教室にわざわざエアコンを設置もしないか。となれば、この暑さを自分でどうにかしないと膝枕を味わえない。
冬までなんて待てないし、まずは……。
「バンザイしてください」
「脇を嗅ぐの?」
「嗅ぎませんて」
いや、それもありか?
先輩は小説をテーブルに置いて両腕を上げた。そして、笑いながら俺を見るのだ。
「……」
やるしかない。遠慮なく身体に腕を回して脇に顔をうずめる。
「ん……」
当然のように甘い匂いはするが、微かに汗臭さも感じる。それがまたよかった。
「やっぱり、暑いわね」
「っ!」
次は頭頂部に痛みが。先輩から離れると、どうやら肘にやられたらしい。じっくりと堪能できないのも全てはこの暑さのせい。
「ベスト脱がしますからね」
「エッチ」
暑いんだったらベストなんて着なければいいじゃないという発想。この時期でも着ている女子生徒がそれなりに多いのが不思議だ。
椅子から立ち上がって後ろに回り、ベストの裾を掴む。上に持ち上げると先輩も腕を上げてくれる。胸を通り頭に腕が抜けるとベストが脱げた。
甘い香りがふわりと漂う。つい、そのまま抱きついてしまったのは不可抗力である。
「暑い」
先輩の後頭部が顔面にめり込んだ。容赦ない反撃に愛さえ感じる。
顔をベストで押さえながら椅子に座る。先輩は何事もなかったように小説を開いて読んでいた。
直接触れないのなら間接的に楽しむしかない。テーブルにベストを置いて、その上に顔をのせる。
まるで先輩に包まれている感覚。ああ、幸せっていうのはこの瞬間のことを言うんだろうな……。
「……」
頭がぼうっとする。顔を上げると少し暗くなった室内に瞬きを数回繰り返す。ふむ、どうやら寝ていたようだ。
先輩は先に帰ったのか隣にいない。起こしてくれればいいのに。
「ん?」
テーブルの上に紙切れがあった。見てみるとベストは洗って返すように、だそう。こんないい匂いのベストを洗うなんてもったいないことが俺にできるだろうか。
うん、できないな。持って帰って楽しむことにしよう。
◇
翌日、部室に入るといつもと変わりない先輩が椅子に座って官能小説を読んでいた。今着ているベストは替えのやつか。
テーブルに鞄を置くが、今日も官能小説を読む気はない。なぜなら秘密兵器を持ってきたからだ。早速、鞄を開けて長方形の箱を取り出す。
中を開ければ入っているのは扇風機。少し小さいがこれで暑さも多少はマシになるはず。箱から扇風機を出してプラグをコンセントに差し込む。
そして、先輩の腰辺りを狙って電源をつける。羽が音を立てて回り始め、スカートが風で揺れた。
「これで涼しくなりましたよね」
「天沢君は私の下半身を冷やしてどうしたいのかしら」
「そんな恥ずかしいこと言えませんよ」
「あらあら、スケベな顔になってるわよ」
「先輩も物欲しそうな顔になってますね」
「ふふ、それじゃあ私の冷えた下半身を温めてもらえる?」
「お任せください」
昨日と同じ要領で椅子の上に寝転ぶ。扇風機の風が当たっている太ももへ頭をのせた。
「どうですか?」
上を向いて顔を見ようとするが、胸に遮られて見えなかった。
「天沢君が興奮しているせいで、まだ暑いわね」
確かに興奮はしてますけど。鎮めろと言われても無理な話なんで。
「っ!」
冷やりとした感触が顔に当たる。手を伸ばして確認すると保冷剤だった。
「さっきまで冷やされてたみたいに冷たい……」
「朝のうちに保健室の冷蔵庫に入れておいたの」
「……準備万端ですね」
「この教室が暑いから涼むために持ってきただけで、天沢君に膝枕をするために用意したわけじゃないのよ」
なんてことを言いながらデコピンをしてきた。どこのツンデレなんだか。保冷剤はハンドタオルに包まれて、頭と先輩のお腹の間に挟まれる。
遠慮なく股座で深呼吸をするが殴られることはなかった。その代わりに先輩の手が頭に置かれて髪の毛を弄られている。それが妙にこっぱずかしい。
お返しにお尻を撫でると髪の毛を抜かれる痛みが走った。昨日はそれなりに寝たはずだが、痛みに負けないだけの眠気が襲ってくる。先輩の匂いは睡眠導入剤にもなりそうだ……。
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