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パーツ屋とおっぱい

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「ふわぁ……」

 ベッドに寝転びながらテレビを見ているとあくびが出た。時刻は午前九時。まるで働きに出る気力が湧かない。昨日の失態のせいなんだけれど。

 どうやらスイーパーを破壊してしまうとリーパーという特殊なストレンジが現れるらしい。しかも超強いやつ。リフトまで追っかけてきた昨日の赤ランプだ。

 リフトからもう少し遠いところだったら死んでいたとプリムラに怒られた。でも、知らなかったのだから仕方ない。宿に戻ってもなんとなく気まずかったし。

 今日はそのまま寝るだけか、としょんぼりして布団に入ってたらプリムラに襲われたが。初めての時より激しかった気がする。あれは怒りの現れだったのか。

 気持ちが良かったのは言うまでもなく。たまに怒らせるぐらいならいいかもしれない。

「っ……」

 突然プリムラが腹に頭をのせてきた。

 腹筋を鍛えてくれているのかごろごろ頭を動かしてくる。それをするならもう少し下、具体的に言うと股間辺りでしてもらえると助かる。

 プリムラの頭に手を持っていき撫でてみた。耳がピクピクと動いてるのを感じる。そして、再びのあくび。

 ため息よりあくびのほうが多いのは良い傾向なんだろうか。正直、こうしてずっとのんびりしていたい。しかし、稼がねばいつかは終わってしまう。

 別にゆっくり過ごす日があってもいいのだが、それは稼ぎが軌道に乗ってからだ。起き上がろうとするとプリムラの頭が腹から落ちる。抗議のつもりか尻尾でぺしぺしされた。

「迷宮へ行こう」
「……ラガーシュシティには三つの迷宮があるみたいよ」

 他にもあるのか。考えずに言ったけれど、それならあまり迷うことはなかったな。

「他の迷宮はここから遠いのか?」
「地下鉄で一時間はかかると書いてあったと思う」

 結構だな。通勤で考えるとちょっと辛いライン。

「リーパーがいなくなるのは一週間?」
「誰かが倒さない限りはね」

 なるほど。まあ一週間なら文句を垂れる期間ではない。それに、俺のせいで近くの迷宮に行けないんだからな。

 そういえば、ボディポットの擬似魔力器官をそのまま持って帰ってきたっけ。

「擬似魔力器官はどこで売ればいい?」
「迷宮の近くにあるパーツ屋ね」

 意識して見てなかったから、それっぽい店は覚えてないな。行ってみるか。

 テレビを消して、一応迷宮へ行く準備も整えてから宿を出た。宿から迷宮へは歩いてすぐだ。通りを眺めながらパーツ屋を探す。

 ここらへんはガラス張りのディスプレイが一切ない。看板は見かけても文字が理解できないとさっぱりだった。

 プリムラに聞けば早いのはわかっている。ものを知らないで失敗したばかりだし。ただ、頼ってばかりもいられないとかいう糞みたいなプライドが邪魔をする、みたいな。トイレに流すと詰まりそうだから大事に仕舞っておこう。

 メインの道を外れて一本細い道に入ってみる。当然だが雰囲気はそう変わらない。人通りは一気に減るけれど。

 きょろきょろ頭を動かしながら周囲を見ていると空き地のような場所を発見する。いや、空き地じゃないか。奥に倉庫と建物がある。そして、タイヤだったり機械の部品などが積まれていた。

「ここを見てみよう」

 パーツ屋で間違いないよな、とプリムラを見て待っていると頷かれた。

 敷地内に入ると看板はあるが微妙に傾いていてやる気を感じられない。だがしかし、こういう場所こそが最高のパーツ屋であると本能が訴えかけてくる。

 建物の中へは入りにくいけれど、軽くノックをしてから引き戸を開けて入った。

「……」

 出迎えはなし。狭さを感じる空間で、細かい部品が置いてある棚とカウンターがあるだけだ。

「すまん!」

 ちょっと声を張り上げてアピールする。

「……」

 やっぱり反応なし。どうしたもんか悩んでいるとカウンターに置いてある物に気づいた。おっぱいの形をした銀色のやつ。乳首の部分をダブルクリックするとチンチンと音が鳴る。

 それから少し待っているとカウンターの奥から人が現れた。

「客か?」

 つなぎを着た女の人だ。背が妙に高い。角が生えてるけれどなんの角だろうか。

 そして、何より目に付くのが胸元。中途半端に閉められたつなぎからは巨大な膨らみがこれでもかと主張していた。

「ん?」

 おっと、凝視しすぎてしまった。

「擬似魔力器官を売りに来た」

 リュックから持ってきていた擬似魔力器官をカウンターに出す。

「ボディポットのだね」

 見ただけでわかるのか。ストレンジによって違いがあるらしい。

「ひとつなら四百ディルだよ」

 五百ディルじゃなくて四百ディルね。物によって値段も前後するのか。まあいいと了承しようとしたところでプリムラに引っ張られる。カウンターから少し離れると耳元で囁かれた。

「他の店ならもう少し高く買い取ってもらえると思う」

 身体がぴくりと動く。自分の耳が弱いことを初めて知った。プリムラの腰を抱くと足を踏まれる。

 TPOをわきまえられない系ご主人様にはこれぐらいしてくれる奴隷がちょうど良かった。プリムラから離れてカウンターに戻る。

「もう少し高くならないか?」

 多少安くてもめんどうだからとそのまま売ってしまうのもいい。しかし、一度買い叩かれればその後も続くのは明白。ならば他の店に行ってもいいのだが、このおっぱいを見てしまえばそうもいかなかった。

 通いたいと思ってしまうのは男としてのさが。なんとかプリムラに言い訳できるレベルの値段にしてもらわないと。

「それじゃあ、中身を見てから決めさせてもらおう」

 そう言うとおっぱいはカウンターの下に手を伸ばした。

「……」

 これは……おっぱいのおっぱいがカウンターの上に載って……。

 手が伸びるのを我慢する。プリムラは奴隷だからこそ、色々と許してくれている部分がある、はず。そのノリを奴隷でもなんでもない相手にすれば逮捕待ったなしだ。

 プリムラのおかげ、じゃなくてせいで欲望のたがが外れてきている気がする。気をつけないと。

「よっと」

 おっぱいのおっぱいが力強く変形してカウンターの上に銀のトレイと工具が現れた。

 おっぱいはトレイの上に擬似魔力器官を置いて分解を始め、ネジやボルトが簡単に外されていく。見事な手際だ。

 そして、おっぱいは工具を置いて両手で擬似魔力器官を持つ。両手をひねるとパキリ、と乾いた音がして擬似魔力器官が半分に割れ、中から灰色の粉が出てきた。

「マジックソイルの品質は思っていた通りだよ」

 おっぱいは人差し指でマジックソイルとかいう粉に触れる。

「残るは魔石だ」

 続けてマジックソイルの中から出てきたのは灰色の小さな石。

「これも特別大きいものではない。四百ディルで妥当だね」

プリムラの表情を窺うと不満そう。このままでは売れないな……。

「四百五十ディルでどうだ?」
「別にうちで売ってもらわなくても構わないが」
「……」

 どうせおっぱいをダシにして普段から買い叩いているのだろう。実に卑怯な手法だ。しかし、ここで諦めるわけにはいかなかった。このおっぱいをこれからも眺めるため……。

「……四百三十」

 おっぱいは首を振る。

「……四百二十」

 ダメか……。

「……四百十」
「あんたもしつこいね……わかったよ、これからうちを贔屓にしてくれるのなら四百十ディルで買い取ろう」

 取引成立だ。握手をしようと手を出すが、お金を握らされた。

「今度来るときはひとつじゃなくて大量に持ってきな。そうすれば多少は色もつける」

 色、ね。おっぱいでも触らせてくれるのだろうか。
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