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異世界の飯事情

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 最大のミッションである下着選びは終わった。まさかの乳首シールとはな。

 自分の下着は適当に済まして残るは迷宮用の装備だ。

「迷宮には何が必要になる?」
「まずは武器。あとはお金になる物を取る道具にそれを持って帰るリュックかしら」
「防具は?」
「ベールがあれば必要ないわね」
「ベール?」
「……」

 プリムラが眉をひそめてこちらを見た。どうせ常識だって言うに違いない。いいから説明を頼む。

「ベールは単純な魔法よ。身体の周りに魔力の膜を張るの。そうすることで衝撃から身体を守ることができる。簡単に言えば防具の代わりね」
「なるほど」

 よくわからないが、つまりは防具が要らないということか。お金の節約ができるのなら歓迎だ。

「それじゃあ武器だな。グローブでいいのか?」
「ええ。ご主人様は迷宮に入るのかしら」
「そのつもりだ」
「戦い方は?」
「決めかねている」

 もはや遠い昔のように感じるステータスの振り分け。せっかく課金までしたのに。まあ、今となってはか。

 ガラスの反射を見ればランダムで設定したキャラクターは反映されていなかった。元の世界にいた頃の姿そのままだ。

 魔力が増えている実感はないし、特殊武器とやらもないが運はいい気がする。大金が手に入ってプリムラとも会えたわけで。

 ポケットに入ってた指輪の使い道はまだ謎だが。

「それ、コヴナントリングでしょ?」

 指にはめず眺めていると知らない言葉をかけられた。

「そこに武器が収納されてると思うんだけど。持ってるのに知らないの?」
「……確か、そんな話だったな」

 いい加減に意味のない見栄も張りたくなってくる。

「ご主人様の武器はどんなものなの?」
「……銃だ」

 たぶん、そのはず。

 この指輪が武器になると仮定しておこう。となるとキャラクター作成のときに設定したステータスも期待できる。非常識な世界でもなんとかやっていけそうだ。

 剣や槍が置かれたディスプレイが目に入ったので店に入る。店内にはごちゃごちゃと武器が陳列されていた。

 わくわくレベルがかなり高い内装だ。タルへ無造作に突っ込まれている武器でさえ中二心をくすぐった。

 グローブは……ここか。

「ただの手袋に見えるな」

 触ってみると金属のような物が埋め込まれているらしい。中はクッションみたいに柔らかい素材が使われている。値段は千ディルの物もあれば、一万ディルを超える物もあった。

 プリムラは試着しつつ真剣に選んでいる。服と下着のときとは大違いだな。俺も武器を見ているとつい食指が動いてしまう。

 試しに剣を持ってみると結構重かった。鍛えないと振り回すのは難しいか。

「これでいいかしら」

 プリムラが選んだグローブを持ってきた。色は黒で指先が出ているタイプだ。

「ちょっと高いんだけど」

 値札を見ると八千ディルだった。

「問題ない」

 グローブを買って店を出たあとは、小型と言うには凶悪なナイフとレンチなどの工具、それにリュックを買った。

 ナイフとリュックはわかるが工具の意味がいまいち謎。そして、歯ブラシなどの生活用品を見繕えば買い物は終了だ。

 次に銀行へ行って口座を作った。IDカードで管理されていたので持っていて大助かり。町に住むのなら必須アイテムだな。

 とりあえず十万ディルを手元に残してあとは全部預けた。今日使ったのが十万と少し。迷宮の収入がどれぐらいになるかが問題だ。

「どこかで食事にしよう」

 そろそろいい時間で辺りが暗くなり、街灯がつき始めていた。

「ハンバーガーで構わないか?」

 初日にしては豪勢に欠けるが、どれほどの味か一度食べてみたかった。安牌でもあるし。普通のレストランに行ってグロテスクな料理を出されるのだけは勘弁願いたい。

「もしかして、あたしも食べるの?」
「奴隷は主人と一緒に食べないとかそういう話?」
「それが一般的だと思う」

 この世界の習慣に逆らうつもりはないが、食事ぐらいはな。

「俺は奴隷を見たのは今日が初めてだ。奴隷に対する習慣なんて知らないし、それに合わせるつもりもない。プリムラとは一緒に食事をとる」
「……わかったわ」

 そもそも俺なんて大した人間ではないんだ。もっとぞんざいに扱って欲しいところ。さすがに罵倒は遠慮するけれど。

 そして、少しほっとするハンバーガーの看板を見つけて店の中に入った。内装はカウンター席とテーブル席があり、持ち帰り用の注文カウンターも別にあった。

 荷物があるのでテーブル席に座る。メニューを見ると種類はそれなりだ。しかし、文字がわからないため絵で判断するしかなかった。これがノーマルかな?

 パンからはみ出る肉とレタスっぽい野菜が挟まっている。その横に数字が三つ並んでいた。

「この数字は?」
「大きさによって値段が違うのよ」

 飲み物だけじゃなくて食べるほうもか。

「小さい順にレギュラー、ミディアム、ラージね」

 なるほど、理解した。

「俺はこのレギュラーにしよう」

 お腹は空いてるが普通のサイズで様子見だ。レギュラー自体がでかい可能性もあるし。

「あたしも同じのにします」

 ノーマルなハンバーガーが一番安いんだな。ご主人様より高い物はさすがに選べないか。元の世界でも上司より高い物を頼むと怒る人がいるあれ。

 奴隷に優しくと思っていたが、こっちが気を使わないといけないのかもしれない。

「あとはポテトも頼もう。飲み物は……どれが定番なんだ?」
「シュガーシュワーかしら」
「じゃあそれにしよう。プリムラもそれでいいか?」
「そうね、いただきます」

 たまにある丁寧な言葉遣いはなんなのか。逆に奴隷根性が染みついてないってこと? むしろ俺のほうが奴隷根性では負けていない気さえしてきた。

 意識しないとすぐ下手になってしまいそうだが、最低限は舐められないように気をつけよう。この世界は色々とシビアな気がするし。

 注文を済ませるとあまり時間はかからずに頼んだ物が運ばれてきた。思っていたよりは大きい。早速両手で持ってかぶりついた。

「……へぇ」

 これは素直に美味しい。ソースはケチャップの風味が残るバーベキューソースだ。レタスの他にみじん切りにされた玉ねぎの食感と味がした。

 そしてこの肉、パサパサ感が皆無だった。肉肉しさ満点でジューシー。これで値段が三百五十ディルときた。食費は覚悟しないでいいな。

 プリムラも俺が食べたあとにかぶりついた。美味しいのか表情が柔らかい。

「肉が好きだって言ってたけど、ハンバーガーもあり?」
「……ありよ」

 俺がじっと見ていたのに気づくと少し微妙な表情になった。そんなところも可愛い。一日でここまで惚れるとは思わなかった。

 プリムラを眺めるのもそこそこに食事へ戻る。ポテトも美味しい。テーブルの真ん中に置いてプリムラにも食べるよう勧めた。

 シュガーシュワーとやらは甘い炭酸だ。こういう庶民的な雰囲気の店でこれなら、俺の舌はこの世界に適用できそうでひと安心だった。
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