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猫人族の奴隷
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ゴルマフはケースから札束を一つ二つと慣れた手つきで取り出していく。テーブルには計十二の札束が二列になって積まれた。
「こちらが謝礼になります」
序盤からこんなにもらっていいんですかね。リアルな札束に混乱してしまう。もちろんお札の絵柄は現実と違うが興奮を禁じえなかった。
大損害をこうむるとか言ってたけれど、俺にこれだけ渡したら一緒では?
「私どもは何より信用というものを重要視いたします」
俺の疑問を汲み取ったのかゴルマフが話し出す。
「奴隷でないにしろ、商品を運ぶ際にはあらゆる危険がつきまといます。こんな世の中ですからね」
おっかない世の中があったものだ。
「襲われてもいいよう護衛をつけるのですが、今回は甘かった。その甘さが良くない」
というと?
「起こりえる事象に対しての備えが足りていないということです。脇の甘さがこの業界では命取りになる。それが広まることも、です」
訳すと何も起きなかった、いいね? ということか。
そこで、ドアが開いて次は黒服の女が入ってきた。その後ろには白いワンピースを着たかわい子ちゃんが続く。かわい子ちゃんはガラスを背にして中央に立ち、こちらを見た。
「当商会一押しの奴隷でございます」
タダでくれると?
「こちらは戦闘経験もなく迷宮へ連れて行くには不向きな人材です」
迷宮か。ゲーム的にはそこの攻略がメインになりそうだ。
「ですが、この美しさ。家事全般は問題なくこなせますし、人前で行う仕事であれば人気になること間違いありません。そして、性奴隷になることも了承しております」
性奴隷……?
「もちろん、処女でもあります」
どこのエロゲーだ。かわい子ちゃんは笑顔でこちらを見ている。なんとなく媚びて見えるのは俺の心がそうさせるのか。
「値段は?」
「四千三百万ディルでございます」
通貨はディルって言うんだな。それよりも額だ。四千三百万はとんでもないように感じる。
予想ではテーブルにある札束一つが百万ディルだろう。文字はよく分からないけれど数字は現実と同じだから合ってるはず。ということは十二の札束で千二百万ディル。
それだとまるで足りない。普通、この額で買える奴隷が出てくるんじゃないんですかね。
「俺には手が届かないようだ」
「勉強させていただきますが」
「いや、いい。それなら他の奴隷を見せてくれ」
「わかりました」
ちょっと好みと違うし。お前が選べる立場かと現実だったら言われるに違いなかった。
ゴルマフが黒服の女へ視線を送ると一礼してかわい子ちゃんと部屋を出て行った。そして、入れ違いに入ってきたのは黒服の男とブーメランパンツ一丁のマッチョ男だ。
「……」
マッチョ男はガラスを背にしてポーズを取った。違う、そうじゃない。
「いかがですか?」
「チェンジ」
かぶり気味に返す。手ごろでエッチな女の奴隷を用意しろということが何故伝わらないのか。マッチョ男が連れて行かれると、今度は複数の白いワンピースを着た女たちが入ってきた。
ふむ、実に悪くない。角が生えたり獣耳があったりと人間ではない種族もいる。順番に見ていくが、あまり興味をなさそうにしていたりぎこちない笑いだったりだ。
ジャージなんて着てたら金持ちには見えないだろうけれど。少しは愛想よくしてほしいと思いながら、一人の少女に目が止まった。
獣耳と尻尾を持つ少女。鋭い眼差しからは意志の強さが感じられる。身長は百七十ほどの俺より少し低いぐらいで、胸の膨らみがそれなりにあった。そこ大事。小さいのもそれはそれでなのだが。
黒に近い紫色の髪は腰辺りまで伸びていて、とても似合っている。何より美人だ。
「左から二番目は?」
「彼女、ですか……」
その反応、訳あり? どうやら正解を引いたらしい。
「他の奴隷は下がらせてください」
ゴルマフは黒服に言うと、少女が一人その場に残った。
「ナカムラ様には正直にお話いたします。彼女は当商会でも扱いに少々困っていまして」
他の奴隷と並べておいてよく言うよ。
「迷宮に入った経験があり、性奴隷で処女です。そこにはなんの問題もないのですが……」
最高だな。
「怪人に出会ったことがあると言うのです」
「怪人か……」
何それ。
「怪人はどこで生まれるかもわからない存在で、周りに災厄を撒き散らすことで知られています。そして、直接出会った者を不幸にするとも」
怪人そのものだけじゃなく出会ってしまった者もか。
「それで買い手がいないんだな」
「その通りでございます。私どもも事情を知らずに仕入れてしまいまして」
今のところ失敗談しか聞いてない。やり手に見えておっちょこちょい疑惑が浮上する。
「いくらだ?」
「ナカムラ様、まさか……」
まさかって、売る気まんまんなくせしてこのやろう。
「怪人をも恐れない豪胆さ、このゴルマフ感服いたしました」
ゴルマフは少女に視線を送る。少女は一歩こちらへ近づいて口を開いた。
「猫人族のプリムラです」
猫人族というのは種族だろう。名前は俺と二文字一緒だし。それがどうしたって話ね。
「興味があるのは迷宮です。人並み程度には家事もできます」
それだけ言ってぺこりと頭を下げた。
「聞きたいことがあればどうぞ」
と、ゴルマフに勧められるが聞くことなんてな。
「戦闘スタイルは?」
「素手です」
格闘タイプか。素手といっても金がかからないわけではないはず。グローブみたいな装備が必要とみた。
「好きな食べ物は?」
「……お肉、です」
予想外の質問だったのか少し考える素振りを見せる。でも他に聞くことないし。
「買うことにしよう」
こんな美人が性奴隷だなんて、買う以外の選択肢はなかった。
口にしてなかった紅茶を飲む。ハーブが効いていてスッキリする飲み口だ。
「さすがはナカムラ様。値段は千五百万ディルになります」
あれ、足りなくない? 危うく紅茶を吹き出しそうになった。買い手がいないくせに強気かよ。
「ですが、ナカムラ様にはご恩もあります。千百万ディルでいかがでしょうか?」
札束の内、百万だけは残しておいてやるよって?
「それでいい」
ありがとうございます。
「支払いはこのお金でよろしいでしょうか?」
「ああ、そうしてくれ」
一つの札束がこちらへ渡され、他がゴルマフの前に移動する。
「それでは手続きをいたします」
ゴルマフが立ち上がってプリムラと共に俺のそばに来た。俺も立ったほうがよさそうだ。
「左手を出してください」
どうぞ。
ゴルマフは俺の左手首とプリムラの左手首を掴む。すると、プリムラの左手首に不思議な文字が刻まれた鉄じみた腕輪が出現する。そこから鎖が伸び始め、俺の左手首までくる。そして、プリムラの左手首と同じように腕輪が現れた。
「これで完了しました」
ゴルマフの手が離れると腕輪は消えてなくなる。何かの魔法かな。
「ナカムラ様が死んでしまうと奴隷である彼女も死ぬことになります」
このゲームの死ぬって表現がどういうものかわからないのだが。モンスターにやられて死んだら終わりってハードなこと言う?
「ですが死後解放させることもできますし、他の主人の奴隷にすることもできます」
いや、その要素いる?
「主人を手にかける奴隷もいますので」
プリムラを見るとじっと俺のほうを見ていた。こんな美人に殺されるのなら本望です。いや、せめてエッチなことをしてからで頼む。
「条件を変更する際は当商会まで来ていただければいつでも対応させていただきます」
「わかった」
これでイベントも終わりか。百万ディルの札束をポケットに突っ込み部屋を出て、一階までエレベータで下りた。
「ナカムラ様、こちらをどうぞ」
ビルの入り口までついてきたゴルマフに一枚のカードを手渡された。
「IDカードでございます」
こいつ、いつの間に。というかそんな簡単に用意できるものなのか。IDカードには車の免許みたいに顔写真まで張りつけられていた。
「助かる。いくらだ?」
「それは感謝の気持ちでございます」
「そうか」
ありがたく受け取っておこう。
「またのご利用をお待ちしております」
ゴルマフとはそこで別れてビルを出た。
「ふぅ……」
少し疲れた。休憩のためログアウトしようとするが、どうやるんだ?
「こちらが謝礼になります」
序盤からこんなにもらっていいんですかね。リアルな札束に混乱してしまう。もちろんお札の絵柄は現実と違うが興奮を禁じえなかった。
大損害をこうむるとか言ってたけれど、俺にこれだけ渡したら一緒では?
「私どもは何より信用というものを重要視いたします」
俺の疑問を汲み取ったのかゴルマフが話し出す。
「奴隷でないにしろ、商品を運ぶ際にはあらゆる危険がつきまといます。こんな世の中ですからね」
おっかない世の中があったものだ。
「襲われてもいいよう護衛をつけるのですが、今回は甘かった。その甘さが良くない」
というと?
「起こりえる事象に対しての備えが足りていないということです。脇の甘さがこの業界では命取りになる。それが広まることも、です」
訳すと何も起きなかった、いいね? ということか。
そこで、ドアが開いて次は黒服の女が入ってきた。その後ろには白いワンピースを着たかわい子ちゃんが続く。かわい子ちゃんはガラスを背にして中央に立ち、こちらを見た。
「当商会一押しの奴隷でございます」
タダでくれると?
「こちらは戦闘経験もなく迷宮へ連れて行くには不向きな人材です」
迷宮か。ゲーム的にはそこの攻略がメインになりそうだ。
「ですが、この美しさ。家事全般は問題なくこなせますし、人前で行う仕事であれば人気になること間違いありません。そして、性奴隷になることも了承しております」
性奴隷……?
「もちろん、処女でもあります」
どこのエロゲーだ。かわい子ちゃんは笑顔でこちらを見ている。なんとなく媚びて見えるのは俺の心がそうさせるのか。
「値段は?」
「四千三百万ディルでございます」
通貨はディルって言うんだな。それよりも額だ。四千三百万はとんでもないように感じる。
予想ではテーブルにある札束一つが百万ディルだろう。文字はよく分からないけれど数字は現実と同じだから合ってるはず。ということは十二の札束で千二百万ディル。
それだとまるで足りない。普通、この額で買える奴隷が出てくるんじゃないんですかね。
「俺には手が届かないようだ」
「勉強させていただきますが」
「いや、いい。それなら他の奴隷を見せてくれ」
「わかりました」
ちょっと好みと違うし。お前が選べる立場かと現実だったら言われるに違いなかった。
ゴルマフが黒服の女へ視線を送ると一礼してかわい子ちゃんと部屋を出て行った。そして、入れ違いに入ってきたのは黒服の男とブーメランパンツ一丁のマッチョ男だ。
「……」
マッチョ男はガラスを背にしてポーズを取った。違う、そうじゃない。
「いかがですか?」
「チェンジ」
かぶり気味に返す。手ごろでエッチな女の奴隷を用意しろということが何故伝わらないのか。マッチョ男が連れて行かれると、今度は複数の白いワンピースを着た女たちが入ってきた。
ふむ、実に悪くない。角が生えたり獣耳があったりと人間ではない種族もいる。順番に見ていくが、あまり興味をなさそうにしていたりぎこちない笑いだったりだ。
ジャージなんて着てたら金持ちには見えないだろうけれど。少しは愛想よくしてほしいと思いながら、一人の少女に目が止まった。
獣耳と尻尾を持つ少女。鋭い眼差しからは意志の強さが感じられる。身長は百七十ほどの俺より少し低いぐらいで、胸の膨らみがそれなりにあった。そこ大事。小さいのもそれはそれでなのだが。
黒に近い紫色の髪は腰辺りまで伸びていて、とても似合っている。何より美人だ。
「左から二番目は?」
「彼女、ですか……」
その反応、訳あり? どうやら正解を引いたらしい。
「他の奴隷は下がらせてください」
ゴルマフは黒服に言うと、少女が一人その場に残った。
「ナカムラ様には正直にお話いたします。彼女は当商会でも扱いに少々困っていまして」
他の奴隷と並べておいてよく言うよ。
「迷宮に入った経験があり、性奴隷で処女です。そこにはなんの問題もないのですが……」
最高だな。
「怪人に出会ったことがあると言うのです」
「怪人か……」
何それ。
「怪人はどこで生まれるかもわからない存在で、周りに災厄を撒き散らすことで知られています。そして、直接出会った者を不幸にするとも」
怪人そのものだけじゃなく出会ってしまった者もか。
「それで買い手がいないんだな」
「その通りでございます。私どもも事情を知らずに仕入れてしまいまして」
今のところ失敗談しか聞いてない。やり手に見えておっちょこちょい疑惑が浮上する。
「いくらだ?」
「ナカムラ様、まさか……」
まさかって、売る気まんまんなくせしてこのやろう。
「怪人をも恐れない豪胆さ、このゴルマフ感服いたしました」
ゴルマフは少女に視線を送る。少女は一歩こちらへ近づいて口を開いた。
「猫人族のプリムラです」
猫人族というのは種族だろう。名前は俺と二文字一緒だし。それがどうしたって話ね。
「興味があるのは迷宮です。人並み程度には家事もできます」
それだけ言ってぺこりと頭を下げた。
「聞きたいことがあればどうぞ」
と、ゴルマフに勧められるが聞くことなんてな。
「戦闘スタイルは?」
「素手です」
格闘タイプか。素手といっても金がかからないわけではないはず。グローブみたいな装備が必要とみた。
「好きな食べ物は?」
「……お肉、です」
予想外の質問だったのか少し考える素振りを見せる。でも他に聞くことないし。
「買うことにしよう」
こんな美人が性奴隷だなんて、買う以外の選択肢はなかった。
口にしてなかった紅茶を飲む。ハーブが効いていてスッキリする飲み口だ。
「さすがはナカムラ様。値段は千五百万ディルになります」
あれ、足りなくない? 危うく紅茶を吹き出しそうになった。買い手がいないくせに強気かよ。
「ですが、ナカムラ様にはご恩もあります。千百万ディルでいかがでしょうか?」
札束の内、百万だけは残しておいてやるよって?
「それでいい」
ありがとうございます。
「支払いはこのお金でよろしいでしょうか?」
「ああ、そうしてくれ」
一つの札束がこちらへ渡され、他がゴルマフの前に移動する。
「それでは手続きをいたします」
ゴルマフが立ち上がってプリムラと共に俺のそばに来た。俺も立ったほうがよさそうだ。
「左手を出してください」
どうぞ。
ゴルマフは俺の左手首とプリムラの左手首を掴む。すると、プリムラの左手首に不思議な文字が刻まれた鉄じみた腕輪が出現する。そこから鎖が伸び始め、俺の左手首までくる。そして、プリムラの左手首と同じように腕輪が現れた。
「これで完了しました」
ゴルマフの手が離れると腕輪は消えてなくなる。何かの魔法かな。
「ナカムラ様が死んでしまうと奴隷である彼女も死ぬことになります」
このゲームの死ぬって表現がどういうものかわからないのだが。モンスターにやられて死んだら終わりってハードなこと言う?
「ですが死後解放させることもできますし、他の主人の奴隷にすることもできます」
いや、その要素いる?
「主人を手にかける奴隷もいますので」
プリムラを見るとじっと俺のほうを見ていた。こんな美人に殺されるのなら本望です。いや、せめてエッチなことをしてからで頼む。
「条件を変更する際は当商会まで来ていただければいつでも対応させていただきます」
「わかった」
これでイベントも終わりか。百万ディルの札束をポケットに突っ込み部屋を出て、一階までエレベータで下りた。
「ナカムラ様、こちらをどうぞ」
ビルの入り口までついてきたゴルマフに一枚のカードを手渡された。
「IDカードでございます」
こいつ、いつの間に。というかそんな簡単に用意できるものなのか。IDカードには車の免許みたいに顔写真まで張りつけられていた。
「助かる。いくらだ?」
「それは感謝の気持ちでございます」
「そうか」
ありがたく受け取っておこう。
「またのご利用をお待ちしております」
ゴルマフとはそこで別れてビルを出た。
「ふぅ……」
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