透明な僕たちが色づいていく

川奈あさ

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5.白く輝く

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「昨日のメッセージなに!? 意味深なんですが……!」
 
 登校してすぐに香菜が私に飛びついた。相変わらず声が大きいから私は周りを見渡す。朝の教室はざわざわしていて、私たちに目を向ける人は特にいなかった。

「ここではちょっと……」
「もったいぶるねー」

 いつの間にか登校した友梨もいて笑っている。友梨の後ろに駆が見えて、私は声を潜めた。

「少しだけ外に行こう」

 香菜の声は大きいから駆に届いてしまっては困るのだ。
 
 私は二人を階段の踊り場まで誘導した。あまり使われないこの階段は誰も通らないから話をするにはちょうどいい。
 切り出す緊張する暇もなく、香菜が待ちきれないように訊ねてくる。

「それで一体なに!? まさかもうケンくんと付き合ってるとか!?」
「そんなわけないでしょ。連絡先どこで手に入れるの」
 
 そわそわしている香菜に友梨が呆れた顔をして笑う。
 ……なんと言おうか。二人が私に視線を向けるから落ち着かない。
 
「二人に謝りたいことがあるの」

 私の言葉に二人は緊張した面持ちに変わる。その真剣な顔に、私の心臓もどくどくと音を立てる。
 ……どんな反応が来るのか怖い。

「本当に申し訳ないんだけど、紹介してくれるって話、辞退させて欲しいの」
「え?」

 香菜がわかりやすく、嫌そうな表情を浮かべる。
 怯みそうになるけれど、ちゃんと言わないと。心の奥はわからないから。

「実は私好きなひとがいて……だから、その、せっかく紹介してもらっても付き合えないと思う」
「ええーっ!」

 香菜が叫んだ。友梨も驚いた顔で私を凝視する。

 次に続く言葉は別に言わなくてもいいことかもしれない。だけど、二人に心を少しでも明け渡したい。

「私、駆のことが好きなんだ」

 叫んでいた香菜の動作が止まり、友梨は不思議そうに「駆って?」と聞き返す。あまりピンときていないようだ。
 
「同じクラスの鍵屋駆」

 先程まで緊張して固くなっていた声が少し柔らかくなる。駆のことを思うと、不思議と少しだけ気持ちがほぐれる。
 
「えーっ! 鍵屋!?」
「え、うそうそ、なんでそんなことに!?」

 いつもはそこまではしゃぐことのない友梨も大きな声をあげた。やっぱり教室じゃなくて正解だった。
 二人の反応を見ると怒ってはいなさそうで、ほっとして話を続ける。

「いろいろあって、ちょっと仲良くなって。一緒にイルミネーション見に行く約束をしてて。だから他の人とイルミネーションにいくのは――」
「えーっ、そこまでいってるの!? なにそれもう付き合うじゃん」
「早く言ってよもう! おめでとう!」

 興奮している二人に少し面食らう。
 
「付き合ってるとかはないから! ……それでごめんね。黙ってて。せっかく紹介してくれようとしたのに」
「ほんとだよ、もっと早く言ってくれたらよかったのに! 私たち雫が恋人いないからお節介しようとしちゃったよ。……私もごめんね」 
「雫、恋人いないの嫌なのかなって思って。困らせてた?」

 やっぱり私は心の奥を見すぎてしまったようだ。
 そして何も言わなかった私のきもちは、二人に伝わっていなかった。糸をぐちゃぐちゃにしていたのは私だった。

「ううん。二人の気持ちはありがたいよ。言わなかった私が悪かったから、ごめんね」
「じゃあこれにて仲直りってことで! まあ喧嘩はしてないんだけどね!」

 明るく香菜が笑った。カラッとした香菜の笑顔はいつだって眩しい。

「それより! 付き合ってないって言ったけど、一緒にイルミネーションにいくなんて、もうそれはそういうことでしょ!?」
「ち、ちがうよ!」
「だって、二人でいくんだよね? やっぱりおめでとう!」
「今度はちゃんと教えてね。二人の話を」

 友梨がそう言ってくれたから私はしっかりと頷いた。
 話そう、自分のことを少しずつ。本音も含めて。

 教室に戻る途中、まだ興奮冷めやらぬ香菜に「教室ではこの話しないでね」と小さく注意してみる。

「なんで?」
「そりゃ鍵屋がクラスにいるからでしょ!」

 わかっていなさそうな香菜に友梨がつっこんで、笑いながら教室に入る。
 駆と目が合った途端、香菜と友梨の視線を背中から感じて身体が熱くなる。

 人に宣言してしまった、駆のことが好きだと。言葉にすることで駆が好きなのだと強く感じてしまう。
 言葉ってすごいな。気持ちが何倍にもなる。

 私は席に着く前に、山本さんの席に寄り道した。

「山本さん、昨日の投稿すごく良かった」

 美術室以外で、彼女に話しかけるのは初めてだ。山本さんは読んでいた本から顔を上げて、意外そうな顔をしたのちに小さく笑んでくれる。

「ありがとう、瀬戸さんのも」
「ねえ今度山本さんの150文字の作り方、教えて欲しいな」
「私も教えて欲しい。特に、誰かさんに向けた恋愛話、とか」

 どうやら私の気持ちはLetterを通じて山本さんにはバレバレだったらしい。山本さんはいたずらっこのように微笑んだ。
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