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4.黒の消滅
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しおりを挟む十二月に入った頃〝オトとキイの物語の冬〟が終わった。
自覚した恋心を認めきれない冬に、私たちは少しばかり設定をプラスした。キイはグループ内に好きな人がいて、その相手には恋人がいる。オトはそんなキイの恋に気づいているという一方通行の関係。
キイに恋をしても苦しいだけだとオトは自分の気持ちに抗おうとする。だけど結局感情に嘘はつけなかった。というのが〝オトとキイの冬〟。
春は片思いだけど少しずつ関係を深める、夏には告白を決意する、という流れにする予定だ。
四季の中で、冬の配分を多くすることに決めた。オトが恋を自覚するまでの感情の揺らぎが、この話一番の切なさで見どころではないか、と考えたからだ。
春と夏は想像しないといけないから大変という消極的な理由もあるにはあるけれど。
今までぼんやりとしていた物語像がしっかりと固まり〝オトとキイの物語〟の完成形が見えてきた。
物語は順調に完成に向かう反面、keyの投稿は一旦停止となった。
私たちが、イルミネーションをまだ見に行けていないからだ。
オトがキイへの気持ちを認める舞台をイルミネーションに決めた。
オトとキイはいつものグループで遊んだ後、偶然二人きりの帰路となる。イルミネーションが素敵なエリアを通りかかり、キイの提案で少しだけ立ち寄ることになる。
煌めく世界の中にいるキイが、ライトよりも輝いて見えて、オトはついに抗っていた気持ちを認め降参する。
〝オトとキイの物語〟の山場となるこのシーンは、臨場感あるものにしたいという駆の考えのもと。実際にイルミネーションを見に行ってから150文字を考えることにした。
だから今は先に春や夏の150文字を作っているところ。イルミネーションシーンを投稿するまでは、時系列を考えて投稿を一時停止している。
肝心のイルミネーションは、十二月二週目の土曜日に約束した。
オトの気持ちとリンクしてしまったらどうしよう。
その日が来るのが楽しみなような、怖いような複雑な気持ちで私は今日もスノードームを逆さにする。
**
「今日はお弁当ないんだ。だから学食に行こうかと思って」
「私もー。雫は? お弁当だよね?」
いつものように私がお弁当を取り出すと、二人が申し訳なさそうに言った。
私たちは教室でお弁当を食べることが多く、学食を利用することはあまりないからだ。
「うん。じゃあ私も学食で食べるよ」
二人に合わせて微笑むと一瞬。ほんの一瞬、間があいた。
「えー付き合ってくれるの? ありがとー」
「じゃあ行きますか」
ああ、しまった。
きっと今のは〝不正解〟だったんだ。
二人は笑顔のままでいてくれるけど、私が学食に行かない可能性にかけていたんじゃないだろうか。きっと教室に一人残るのが〝正解〟だった。
だけど不正解を選んでしまったなら、もう進むしかない。私は二人の隣に並ぶと笑顔を浮かべて「二人は何食べるの?」とどうでもいい質問をしながら学食に進んだ。
ガヤガヤとした学食で香菜はラーメン、友梨はうどんを購入した。私はトレイを持っていないから率先して席を探す。
「ここ空いてるよー」
「ありがとう。――ん、なんか珍しい組み合わせ」
席に座ろうとした香菜がジィとどこかのテーブルを見ている。香菜の視線の先には……駆と、山本さんがいた。
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