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2話 魔王の素質

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「待ってくださいナターシャ様!」
「い、いや来ないで!」

 視界の悪い森へと入ったのになんであの悪魔はこんなにも私を追って来れるの?
 やっぱり匂いとかで追ってきているのかな、そんなのどうしようもないよ。

「何故逃げるのですか?」
「追ってくるからでしょ!」
「ならば追うのをやめたら逃げるのをやめられますか?」
「う、うんやめる、やめるから止まって!」
「承知致しました」

 そうして悪魔はそこで制止した。
 止まったのを確認した私は全速力で駆け出した。

「お、お嬢様ぁぁあ」
「と、止まるわけないじゃん!」

 後ろを見ると悪魔の影はなかった。
 よし、なんとか撒いたようね。
 でもなんなのあいつ足早すぎ、あとちょっとで追いつかれるところだったわ。

「ん?」
「ガウ?」

 走り疲れた私は少し休もうと思い、良い感じの洞穴の近くで休もうとした時、その中にいた大きな熊と目があった。

「い、いやぁぁあ来ないでぇぇ」
「ガウゥゥゥウ」


 そうして私はまた走り出した。

「ごめん、ごめんなさい謝るから、今日のところは勘弁してぇぇえ」
「ガウゥゥゥウ」

 私の謝罪の言葉は虚しく森の奥へと流されていき、熊はそんな私を親の仇と言わんばかりの速度で追ってきた。

「た、助けて、誰でもいから助けてええ!」
「お嬢様大丈夫ですか!」
「え?」

 ダメ元で助けを求めると瞬時にさっきの悪魔が現れた。
 
「あ、あんだ一体どこから」
「お嬢様にバレぬよう隠れながら後をつけておりました」
「ま、マジかよ」

 隠れながら追ってくるとかもうそれ暗殺に使うような技じゃん。
 もう色々と物騒なのよこいつ、人相も悪いし……まぁ悪魔だから当然か。

「お嬢様、少々お待ちくださいこの獣を排除しますので」

 そう言って悪魔は、自身の手を武器のようにして構えた。
 いや待て待て、何をしようとしておるんじゃあんたは!

「は、排除ってそこまでする必要ないでしょ」
「お嬢様、何を甘いことを言っておられるのですか、相手は獣情けなどかける必要ありません」
「いやいや情けとかじゃなくてさ、可哀想とか思わないの」
「可哀想とは?」
 
 悪魔は私がそう言うと小首を傾げた。
 そ、そうだった、こいつ悪魔だった。
 血も涙もないってわけか。
 ここは私がなんとかするしかないようね。
 そう思い私は熊に自ら近づいた。

「さっきはごめん!貴方の巣を襲うように見えたかもだけど、そんなつもりはなかったの!」

 私の謝罪を聞き熊は止まった。

「ほらね、排除する必要なんてどこにもーー」
「ガオォォオ」
「う、うそ」
「お、お嬢様!」

 熊は一瞬だけ静止したが、すぐに動き出し私に向かって攻撃をしてきた。

「え、い、生きてる」

 最後に見たのは目の前の大腕を振り上げた熊だったけど、何故か生きてる。
 ふぅ、よかった……ってなにこれ。
 目の前には動かなくなった熊が横たわっていた。

「すみませんお嬢様、突然の事で加減ができませんでした」

 熊は殺されてしまっていた。

「……あ、貴方ねぇ何が手加減よ、殺してしまうくらいなら貴方が私の盾になんなさいよ、どうせ強いんでしょ」
「え、いや、そしたら怪我してしまいますしそれに殺した方が早いので」
「なにそれ、命はねみんな平等なの誰にも奪う権利なんてないし奪われていいものでもないの」
「……」
「だからどうせ命がなくなるくらいなら、怪我くらいしなさいよ」

 私はそう言って動かなくなった熊の近くに座った。

「ではお嬢様は、もしご自身がお強くて私の立場にあったなら盾になったというのですか」
「弱くてもするわよ!なんなら今だって貴方が熊を殺すとわかってたなら、私は貴方に助けなんて求めなければ良かったと思ってるわ」
「それではお嬢様が死んでしまいますよ」
「いや死なないわよ、根性で生きるもん」
「な、なんと」

 私の言葉を聞いた悪魔はそのまま止まってしまった。
 熊さんごめん、本当にごめんなさい、私があんなところ行かなければこんなことには……。
 ていうかあの悪魔、本当に動かなくなっちゃたんだけど、そんなに酷い事言ったかなぁ。
 ま、謝るくらいはしとくか。

「盾になれとか言ってごめんね、あと助けてくれてありがとう」
「……いえ、そんなことはどうでもいいです」
「は?」

 何こいつ謝ってるのに感じ悪っ。

「お嬢様、いやナターシャ様、貴方はなんと慈悲深きお方なのでしょう、どんな命であっても慈しむ事を忘れない貴方はまさしく魔王にふさわしい」
「え?」

 そう言ってなにやら感動した様子の悪魔は私の手を取ってきた。
 え、なになに意味わかんないんだけど。

「は、離して」
「いや離しません、やはり貴方には魔王になる素質がある」

 悪魔は私の腕を掴みそのままどこかへ連れて行こうと引っ張った。
 ちょちょちょっと待って、せめて話だけでもさせてよぉ。

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