16 / 17
第二章
能動する天使
しおりを挟む色々回想とかしてみたけれど、ひとつ確かなことがある。
私はクズだ。
そこはもう受け入れよう。
あの夏の日、不二子ちゃんが差し入れで言いたかったクズは私の事でもあったんだろうな。
入っていたお菓子は二個ずつだったから、お前ら二人ともクズだなって。
山田はストーカーのクズ。
私は自分の気持ちも人に伝えないクズ。
山田はまだ行動に移している。それが例え犯罪であったとしてもだ。その後でちゃんと誠意を見せてもいる。
それに比べて私は特に行動も言動も何もしない。
何もしないからこそ山田以上のクズなんだ。
*****
「もうすぐ今年も終わっちゃうわね。長かったような短かったような……毎年もっと何か出来たんじゃないかって思っちゃうのよねー」
「そうだね花愛さん。もう少し沢山の愛を囁けたかも知れないね」
「まあ、洋平さんったら。これ以上は正直鬱陶しいから止めてもらえないかしら」
「辛辣な花愛さん……好き……」
年越し蕎麦を食べ終えて、のんびり炬燵に入りながら紅白を観てる。
正直よく知らない興味もない歌手が気持ち良さそうに歌ってるけど、今の気持ち悪いパパのデレデレ顔を見たくないからテレビをガン見している。
「それにしても、来年から美咲はどうするつもりなの?」
「何が?」
パパを適当にあしらってママが聞いてくる。
「ほら、山田くんのことよ。美咲が心ない言葉で振っちゃったでしょう?」
「私、そんな酷いこと言ってないもん!!」
「あら、ここまで尽くしてもらっていたのにふったんでしょ?なら一緒じゃないの」
ぐうの音も出ない…
「きっと意気地無しの美咲は来年もその先もずーっと山田くんに思いを伝えることなく年をとっていくのかしらね……」
「そっ、そんなことないもん。次こそはちゃんとお返事するもん」
「次ね……はっきり言って無いわよ。次なんてそんな都合の良いことなんて。高校の時もあったんでしょう?こんな事が。しかも次を待つだけで自分からは何も行動をしない」
確かに今まで私から一度も行動を移したことなんてなかった。いつもいつもあの人からの行動を待ってた。
してくれる全ての事にありがとうなんてお礼も言ったことなかった。
でも、こんな私をずっと見捨てず、好きでいてくれた……
「今年のことは今年中に終わらせるべきなじゃないかしら。善は急げ、思い立ったが吉日なんても言うわね」
隣でパパが慌てているけれど、そんなことを気にせずママはのほほんと笑ってる。
「美咲ちゃん、当たって砕けてきなさい」
「えっ、砕けるの?」
「よしよししてあげるから」
「慰めかたじゃなくて、私フラれちゃうの?」
「そっそんなわけない!!うちの可愛い可愛い美咲がフラれることなんて絶対にない!!」
「あら、じゃあパパのお許しも出たし、これで山田くんとの交際はうちでは問題ないわね」
「えっ花愛さん、違っ」
「えっ?」
こてんと首をかしげるママ。
身もだえるパパ。
「いいのよね?パパ?」
「……はい」
「パパのお許しが出たから、大丈夫よ」
行ってらっしゃいってママが私の背中を押す。
「行ってきます!!」
そう言って私は家を飛び出した。
後で小さく「女の子の夜の一人歩きなんて危険すぎる」ってパパの声が聞こえたような気がした。
*****
除夜の鐘が鳴り響く。
ひとつの鐘の音ごとになんだか素直になれていく気がする。
ハアハア荒くなる息が白くて。
ああ、こんなに寒い日でも彼は文句ひとつ言わずに毎日私のご飯を作ってくれたのに。何でお礼の一つも言えなかったんだろう、って自分にどんどん腹が立ってくる。
ドキドキなるこの鼓動は走ってるからだけじゃない気がする。
もう引き返してしまおうかって何度か思った。
でも、その度に彼のしてくれた行動に対して私の誠意のない態度を思い出した。
フラれて当たり前、寧ろ嫌悪されるかもしれないけど、けじめをちゃんと付けるべきだって思い直して足を進める。
彼の家までもう少し、家を何故知っているかなんて聞かないで。
あーそうね、パパに聞いたことにしておこうかな。ほら、パパは少しの間彼のストーカーやってたから。
ピンポン押して彼以外の家族の誰かが出てくるだろうなんて考えてもなかった。
彼のご両親が出てきたら何て言おうかなんて今さらになって焦る。
新年しかも明けて早々の深夜だし、常識のない子って思われたらどうしよう。
かなり間が空いて、応答のないインターフォンと開かない扉に不安になった。
あれ、帰省中だった?って。
でも、その不安を無くすように玄関の電気が点いて。
──開いた扉から驚いたような貴方の顔が見えて、私が口を開こうとしたその時。
「何をしてるんだ!!バカヤロー!!」
何故か突然怒られました。
解せぬ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる