どぐう、たべてみた。

トサカザムライ

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はじめてのハンバーガー

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【四天〇〇大学】
関西の私立大学の中で小学校教員就職者数ナンバーワンを誇る大学。主人公はここの学生である。他にも、公務員就職への支援が手厚い公共経営専攻や看護学科などがある。

********
「俺と宗教をつくらないか?」

俺の提案を聞いた少女の反応は意外なものだった。

『しゅうきょう?なんじゃそれは??』
「え?」

宗教を知らないだと?人間社会を生きていて、宗教を知らないというのは、いささか無理があるのではないか。

「宗教だぞ?神という空想の存在を崇め立てるアレだぞ??」
『神なら知っておるが、しゅうきょうとやらは知らん。それに、神は空想ではなく実在するぞ』

どういうことだろうか、神はいると言い張るのに宗教は分からないとは。俺には少女の言っていることが矛盾しているように聞こえた。しかし、こんな議論に時間を費やしても仕方がないので、俺は、少女に宗教について簡単に説明し、これから俺がやろうとしていることを伝えた。

『なるほど。大輔がそのシュウキョウとやらの教祖というものになって、ワシが後ろからサポートすればいいわけじゃな。』
「そういうことだ。」

意外と理解が早くて助かった。

『しかし、その信者とやらはどう集めるのじゃ?言いたくはないが、大輔には友達がいないはずであろう?』

なんと失礼な物言いをするクソガキだろうか。事実だとしても言っていいことと悪いことがあるだろう。しかし、こんなことで一々腹を立てていてはとても教祖役など務まらないだろう。

「それは大丈夫だ。」

そもそも大学内での宗教勧誘は禁止されており、万が一の場合は退学もありうるのだ。そんなリスクを背負うわけにはいかない。

「信者集めは他でやる。」

今日の講義は3限までしかないため、さっそく放課後、信者集めの準備に取り掛かる。信者集めの作戦は以下の通りだ。

① 身元がばれないように濃い変装を決めて、公園などを中心に勧誘する。
② 最初はタダで肩こりや風邪を治してやり、二回目から料金を取る。
③ 宗教団体に加入すればタダで治療することを伝える。

医療行為は本来、資格を持った者にしか許されない行為のため、医療関係者に目をつけられれば終わる可能性が高い。そのためこの作戦は、短期間しか行えない。ゆえに下準備はきっちりしないといけないのだ。
俺は藤井寺駅近くのショッピングセンターへと向かった。ここは2019年に開業したばかりで外装もとてもオシャレで綺麗な所だ。ここで勧誘用の洋服を見繕うことにする。生後20年、オシャレには無頓着だった俺だったが、自慢の陰キャムーブを発動してしまい、店員さんに聞くことも躊躇われたため、ネットで読者モデルの写真を漁り、見よう見まねで洋服をコーディネートした。
*以下、服の名前が分からないので見た目の印象だけ話す。
下は風通しのよさそうなウエストが引き締まったズボン。上は無地のグレーシャツに上から黒のベストを着用。
正直、これがオシャレなのかどうかさっぱり分からないが、以上の服を8000円だして買った。ついでに少女にも白いワンピースを買ってやった。今まで、彼女が着ていたのは、サイズの合わない男物の白Tシャツ。動くたびにちくbが見えていたのが気になっていたのだ。それに、これから設立する宗教のトップは実質彼女なのだから。
買い物が終わり、お腹が空いたので、少女を連れて一階のフードコートにあるバーガークイーンへと向かった。
自慢のパテが焼ける香ばしい匂いに腹の虫がうなりを上げる。二人前をテイクアウトし、入口そばの屋外テーブルで食べることに。少女も先ほどの店内の匂いに感化されたのか、獲物を狙う肉食獣の様に目をギラギラさせながら口からよだれを滝のように流していた。俺は袋に入ったバーガーやポテト、飲料などをテーブルに並べた。
今回注文したのは、期間限定で発売中のストロング・ザ・ワンパンチバーガーのセット、お値段2140円だ。
少女は紙で包まれたハンバーガーを持ち上げ、食べてよいのか?という視線を俺に向ける。俺は包み紙を一部めくり、豪快にかぶりついて見せた。少女も俺の真似をしかぶりつく。

『っっっっ!!!!!』

瞬間、少女の眼光が限界まで開かれ、数秒間フリーズしたように見えた。そして

『うまいッッ!!!』

町内中に響き渡るほどの大声量で初ハンバーガーの感想を叫ぶ少女。その声の大きさとは裏腹に、町を歩く人々の反応は皆無だ。

『大輔!なんじゃこの食べ物は!?』

勢いよく身を乗り出しながら、俺にそう聞いてくる少女。勢いをつけすぎて、椅子から落ちそうになり慌てて
バランスをとる。

「ハンバーガーだよ」
『なるほど、ハンバアガアと呼ぶのかこの美味なる食べ物は。』

二口目にいく少女。このとき、少女の口には初めての感覚が走っていた。口に含んだ瞬間あふれだす肉汁。分厚い肉に絡みあう辛みのある赤色のソースとそれを中和する白色のソース。間にある黄色い四角い食材が、コクを引き立ててくれている。上下についているもちっとした弾力のある茶色いパンで挟むことによって、ただの肉料理に上品さが加えられたような。少女はこの時はじめて、食事のすばらしさを知ったのだった。

気づくと、少女の手元にあったハンバーガーの存在は消えていた。

『大輔!!ワシのハンバアガアがなくなってしもうたあ!!』
「ポテトがあるだろ」
『ぽてと?』
「その紙に入ってる細長いやつだよ」

少女は隣に置いてあったポテトを手に取り口に入れる。暑さに耐えかね、舌の上で2回ほどバウンドさせてから食べる少女。そして

『っっっっ!!!!!』

両手拳を握り、足をバタバタさせる少女。とても分かりやすいリアクションに、心なしか表情が緩む。

『うまいッッ!!!』
「いてっ」

両手足をめいいっぱい伸ばし、美味しさを表現する少女。伸ばした足が俺の足のすねに当たったので、声が出てしまった。

食事を済ませ、今後の作戦を立てようと考えていると、向かい側の席で満足げに腹を膨らましながら、よだれを垂らして寝ている少女が見えた。時計を見ると時刻は17時を回っていたので、帰宅することにした。
少女はどうしようかと一瞬悩んだが、そのまま放置しておくことにした。

翌日、少女に会うと昨日のハンバーガーを食わせろとうるさかった。
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