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武闘

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 それから1時間ほど経った頃だっただろうか、不意に部屋の扉が開いたかと思うとサラが入ってきた。

「おいアオイ!お前に会わせたいやつがいる」

 サラはそう言いながらズカズカと部屋に入ってくる。俺は慌てて本を閉じるとその勢いのまま立ち上がった。

「え?誰ですか?」

 俺がそう尋ねると、サラは少し間を置いてから答えた。

「まぁ……会ってみればわかるさ」

 そしてそのまま俺を連れて部屋を出たのだった。部屋を出るとそこには大きな扉があった。おそらくこの先に誰かいるのだろうが、一体どんな人なのか少し不安になった。しかし、そんな俺の思いとは裏腹にサラは扉を開けると、そのまま中へ入っていったため俺も仕方なくついて行くことにした。
 部屋の中にいたのは黒いドレスを身に纏った美しい女性と強面で巨体の男性だった。どちらも耳が長く肌の色が浅黒いことからダークエルフであることがわかる。

「あら、サラじゃない。その人は誰かしら?」

 その女性は少し驚いたようにそう尋ねてきた。するとサラはニヤリと笑って言った。

「こいつはアオイだ。そのへんで拾ったんだが――ちょっと面白い奴でな……お前らに鍛えてやってほしいと思ったんだ」
「……え?私たち?」

 女性は困惑した様子でサラに尋ねるが、サラは大きく頷くだけだった。すると女性はやれやれといった様子で肩をすくめた後、俺たちに向き直って自己紹介をした。

「私はマデリン。見ての通りダークエルフよ」
「……アオイです。よろしくお願いします」

 俺がそう言うと、続いてもう一人の男性が口を開いた。

「わしはガンツじゃ!よろしく頼むぞ!」

 そう言って手を差し出してくるので握手を交わすことにした。そして全員の紹介が終わったところでサラが再び話し始めた。

「それじゃあ後はお前らに任せるから好きにしてくれ」

 それだけ言うとサラは部屋から出て行ってしまった。残された俺たちはお互いに顔を見合わせるしかなかった。

「……それで、私たちは何を任されたのかしら?」

 マデリンが首をかしげる。さっきのクーニャと同じパターンだなと思い、ここに至った経緯をまたしても説明した。

「なるほどねぇ……それで私たちに鍛えてもらいたいと」

 マデリンは興味深そうに俺の話を聞いてくれた。一方ガンツの方を見ると何やら難しい顔をしているようだった。気になったので声をかけようとすると、先に向こうの方から話しかけてきた。

「……のうお前さんよ。本当に強くなりたいのか?」
「はい、魔法が使えなくても生きていけるくらいには強くなりたいです」

 俺が即答するとガンツは何やら考え込むような仕草を見せた後こう言ってきた。

「……よしわかった。お前さんに稽古をつけてやろう!獲物はなにがいい?大抵のものは武器庫に揃っとるじゃろう」
「……実際に武器庫を見てもいいですか?」

 俺は少し考えてそう答えた。

「ああ、もちろんじゃ」

 ガンツはニヤリと笑って頷くと、そのまま歩き始めたので俺もその後を追うようについていくことにした。そしてしばらく歩くと武器庫と書かれた大きな扉の前に着いた。

「ここが武器庫じゃ」

 そう言ってガンツが扉を開けると中には様々な武器や防具などが綺麗に並べられている光景が広がっていた。

「……すごいですね」

 俺は思わず感嘆の声を漏らしてしまった。それほどまでにその空間は圧巻だったのだ。するとガンツは自慢げに胸を張って答えた。

「まぁ、わしも若い頃は冒険者をしておったからのぉ……その時に集めたものじゃ」

 そしてそのまま武器庫の奥へと進んでいくので俺もそれについて行くことにした。剣や弓、それに槍が大半を占めていたが、端の方にあった異彩を放つ武器に目がいった。

「これは……トンファーか?」

 そこにあったのは1対のトンファーだった。これなら俺でも使えそうだと思い手に取ってみた。元々空手は嗜んでいたため、打撃に近いフォームで扱うことのできるトンファーはしっくりときた。

「……お前さんそれに興味を持つのか?なかなか珍しいやつじゃな」

 ガンツは意外そうに俺を見た。

「え?そうなんですか?」

 俺が聞き返すとガンツは大きく頷いた後、語り始めた。

「……それはどこぞの武器商人が剣のおまけで押し付けてきたものじゃが、扱いが難しい上にあまり需要もない武器でな。誰も使い手がおらんかったからここに保管しておったんじゃ」

 俺はその話を聞いて少し考えた後に答えた。

「じゃあ……これにしようかな」

 するとガンツは驚いたような表情を浮かべた後、すぐに笑顔になった。

「そうか!ならば早速試してみるとしよう」

 そう言ってガンツはトンファーを俺に渡すと、そのまま武器庫の外へと連れ出し、広い開けた空間へ案内された。

「……お主は戦闘の心得があるのか?」
「一応格闘技と呼べるものは嗜んでいました」

 俺が答えると、ガンツは大きく頷いた後再び話し始めた。

「そうか!それではまずお主の実力を確認させてもらおう」
 そう言うとガンツは木刀を上段に構える。俺もトンファーを両手に握り構えを取る。

「では……参る!」

 ガンツはそう言うと一気に距離を詰めてきた。俺は左手のトンファーを横に薙ぐように振るうが、ガンツはそれを難なく躱しそのまま袈裟懸けに振り下ろしてくる。それを右手のトンファーで受け流してギリギリで避けた後、今度はこちらから攻撃を仕掛けた。

「はっ!!」

 掛け声と共にトンファーを振り下ろすとガンツはそれを受け止め鍔迫り合いの状態になる。しかしそれも束の間、ガンツは力任せに俺を突き飛ばして距離を取ると、今度は下から剣を振り上げてきた。俺はそれをバックステップで回避すると、再びトンファーを構え直した。

「ほう……なかなかやるのぉ」
「……ありがとうございます」

 俺が礼を言うと同時に再び攻撃を仕掛けてくる。今度は突き技を繰り出してきたのでそれを受け流すようにして避けるが、すぐに横薙ぎに払われる。俺は咄嗟に体を屈めて回避するが、そこに蹴りが飛んできて危うく直撃するところだった。

「ほれ!まだまだいくぞ!」

 そう言ってガンツは再び剣を振りかぶる。俺はそれをトンファーで受け止めると今度はこちらから攻撃を仕掛けることにした。トンファーを回転させながら振り下ろすとガンツはそれを難なく受け止めたので、そのまま連続で攻撃を続けることにする。
 しかしそれも全て受け止められてしまうので、一度距離を取ることにした。するとガンツはニヤリと笑って言った。

「いいのぉ……だがまだまだ甘いな」

 そう言って一気に距離を詰めてくると上段から剣を振り下ろしてきた。俺はそれをトンファーで受け止めようとしたが、受けきれずにそのまま吹き飛ばされてしまう。地面を転がった後すぐに立ち上がったがその時にはもう目の前にはガンツの姿があった。そして次の瞬間には首元に剣を突きつけられていたのだった。

「……参りました」

 俺がそう呟くとガンツはゆっくりと剣を下ろした。そして俺の肩に手を置いて言った。

「想像以上じゃったわ!まだまだ鍛錬は必要じゃが、お前さんなら魔法が使えんでも戦っていけるじゃろうな」

 そう言って豪快に笑う。俺も釣られて笑みを見せた。するとガンツはハッとした様子で手を打って言った。

「修行は明日から始めるとしよう――マデリンには対魔法との戦い方と回復のために同席してもらおう……というわけで今日は解散じゃ……」

 そう言うとガンツは手を振ってそのまま立ち去ってしまった。

「……解散と言われても――俺はどこに行けばいいのやら」

 とりあえずクーニャに貸してもらった本が読みかけだったことを思い出したため、クーニャのところに戻ることにした。
 部屋に戻ったがクーニャは奥にいるようで姿は見えなかった。そのまま適当な場所に陣取って続きを読み始めた。
 しばらく読んでいるうちに猛烈な眠気に襲われたため、そのまま横になる。すると程なくして深い眠りについたのだった。
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