最弱幹部の人間生活

柚黒 鵜白

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四天王の溜息③

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屋敷を出た俺とキサナはさっそく最初の目的地である港へと向かう。そこには目的の人物達がいた。

「エルムスさん。お待たせしました」
「お、旦那に奥方。結婚したんだってな。おめっとさん。あとそんなに待っちゃいないよ」

左目の眼帯と義手の右手、それと義足の両足が特徴のこの女はエルムス。以前この領地に密入しようとした船の船長だった者だ。

今では船の船員と共に漁師をしており、しかも責任者にまでなっている。

「すみませんが今日は仕事で来させてもらいました。この後に色街と商業ギルドでの話し合いがありますのでさっそく始めさせていただきます」
「おう。・・・ところで、今日はなんでここに来たんだ?こっちからはなんも相談していないはずだが。あと口調は元に戻してくれ。なんかその話し方は寒気がする」

ひどい言われようだ。

「わかりました。・・・・今日は単純になにか変わったこと、もしくは相談事がないかの確認に来た」
「そうかそうか。だかなぁ、正直いまのところ漁に対して相談することはないんだが・・・・・あ、そういえば変わったことがあったな」
「なんでしょうか」
「クラーケンが出てきた」
「クラーケン、か」

キサナが難しい顔をする。やはり厄介な魔物なのか。それなら冒険者ギルドに依頼を・・・

「美味かったぜ」

討伐済みですか。そうですか。しかも調理までしたのですか。

「クラーケンって食べられたのか?」

・・・そういえばそうだ。もし美味いのならエルムス達に頼めば取ってきてくれるかもしれない。定期的に漁れればこの領の名産も増やせるな。

「あ、そういえば」
「どうした」

またたいしたことじゃないんだろ?

「昨日、ここに勇者が来た」

アクティブすぎやしないかい?勇者よ。

「あと、なんかアタシに相手をしろとか言ってきたな」

なんだ?溜まっているのか?少しは自重してくれ。

「断ったらそのときはアッサリ引いたけど、家へ帰る途中に眠りの魔法を放ってきたからボコボコにしてやった。ヒールは掛けたけど」

・・・・・これ、もう捕まえられないか?他にも勇者はいるんだから。まあメイド服とか執事服などの仕事道具は全部俺作の魔道具だから相手が勇者でも襲われたら逃げ切るくらいはできるだろう。まあ状態異常にされたら難しいだろうが。

いちおう状態異常にならないように街全体に“状態異常無効化”の結界を張っているからサンプルが取れていない催淫以外なら無効化できる。即死も含めてな。

まあ催淫状態にさせる媚薬は王族が後継を確実に産むためにしか使われないから買うことはできないがな。

「流石はシャクナ王国の王族だな。勇者様より強いとは」
「奥方よぉ。元をつけな元を。アタシは国から逃げて海賊を立ち上げただけの女だ」

エルムスはスラムや国民の中に埋もれている才能を発掘する慧眼、他国との交渉を自国に有利なものへと変化させる交渉力、そしてスラムの荒くれ者から他国の王族にまで仲間を作ることのできるカリスマ性、エルムスの兄弟姉妹たちにはない才能を持っているがために第四王女にして王位継承権第一位だった。

だが、そのことをよく思わなかった兄弟姉妹達やその家臣達、そして実の親である国王夫妻の陰謀によって罪人に仕立て上げられ、足に枷を嵌められた状態で投獄されたらしいが自分でその足を切り落として這って逃げようとしたが出血多量で死にかける。

この状態のエルムスを貴族達に見つけられて手当てされ、錬金術師によって義足をつけられて国外逃亡することになりいまに至る。

この一件で貴族達は国民達を引き連れて自分の領地に帰り、王族以外いなくなったためシャクナ王国は地図から消えて無くなり、新シャクナ王国として栄えているらしい。

ちなみに船員達は後継でない貴族の息女達で構成されており、船旅の途中で右腕を鮫の魔物に食われて義手を取り付けたらしい。

それと王女だったときのコネクションが使用できていたので俺が魔族だと知っていながらこの領を支援してくれる国が多い。

「まあこんなもんだろうな。流石に他に相談することなんかないぞ」
「そうか。何か困ったことがあれば聞きに来い」
「おう。それじゃあな」

そうして俺とキサナは港を去った。
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