最弱幹部の人間生活

柚黒 鵜白

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勇者、来る④

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「はーい。サンドイッチお待たせしました♡」
「ありがとうございます」

注文したサンドイッチが届いた。この食事処“淫魔の尻尾”は名前こそ卑猥な感じだが、味は高級な料理店に負けず劣らずで、たまに「そんな安いだけが取り柄の店など興味もないわ」などと口では言う貴族達もお忍びで足を運ぶほどだ。

・・・・・そんな店の料理と勇者の作る料理を比べるのはどうかと思うのだが。

「それで、勇者様は「勇者様?魔族のアナタがそう呼ぶの?」・・・・・勇者はどんな料理を作るんですか?」

調子が狂うな。魔族だと領民達には知られているとはいえ、あまり言いふらして欲しくないんだよなぁ。

「勇者様の料理?アレはひとことでいうなら微妙ね」
「そうでござる。かなり時間をかけて“ちゃーはん”なるものを作っておりましたが、空腹でなければ食べれたものではございませんでした」
「そうですよ。他だと“ぱすた”とか“おこのみやき”なるものを作っていましたが、正直アレらはわざわざ魔物を警戒しながら作るものではありませんでした」
「そ、そうなのですか」

チャーハンにパスタはわかるが、“おこのみやき”ってなんだ?いったい何を焼くというんだろう。

「そういえば、勇者パーティーの皆様はいつ頃この領地に到着されたのですか?」
「えーとですね。昨日の夜到着していたのですが、時間が時間なので門が閉まっていたのですよ。だから勇者様が『今日は野宿にしよう。明日の朝、門が開いたら入ろう』ということで野宿をしていた次第です」
「・・・・・苦労しているんだな」

まさか俺とキサナがナニをしていたときに野宿をしていたとは。世の中、どうなるかわからないものだな。

「それで、オマエ達はどこに滞在する予定なんだ?」
「えーと。たしか領主様の家のはずだけど」

はい?

「いやいやいやいや、聞いてないぞ」
「え?王都から手紙が届いていたはずだけど・・・・」
「手紙?」

ほぼ毎日来る王子名義のキサナの夜会の誘いならきているが、勇者関連のものは知らないぞ?

「もしかしたらこちらの不手際かもしれない。今日は予定を繰り上げて冒険者ギルドに寄ってから戻って確認することにします」
「え?他にも行くところがあるのですか?」
「ええ。明日は港と色街、それと商業ギルドを領主様と視察する予定です」

特に色街はキサナがいないとめんどくさいことになるんだよなぁ。

「そうでござるか。では、すみません!!先ほど注文したものを全て3人前お願いします!!」
「はいはーい。ざる蕎麦とオークの揚げ物、それからシケの塩焼きにシュライプの丼にデス・バッファローのステーキを3人前有難うございます!!」
「まだ食うのかよ」

この駄エルフはよく食うなぁ。俺と旅をしていた頃より食べるようになったか?

「仕方がないと思うわよ?メイシャナちゃん、勇者様の料理を一皿しか食べなかったんだから」
「だから倒れていたのか・・・」

つまり、あまり美味くない勇者様の料理はあまり食べなくないからおかわりをしなかったため食べた後も空腹のままで、それをなんとか誤魔化していたがついに限界がきたということか。この駄エルフがお代わりしないって、それあまり美味くないというか不味いだけなんじゃね?

「はあ、注文はそれで終わりにしてくれよ。じゃないといつまで経ってもここから動けないからな」
「うっ!!申し訳ないでござる」

流石にこんなことで謝罪させると多少は罪悪感があるな・・・・相手は駄エルフとはいえ。

「別に謝ることじゃない。だが、オマエが食事している時間は暇になるのは事実だ。ということでだ」

チラッとテルツを見る。

「オマエ、なんで女装してんの?」
「だ、だから自分の趣味ではありません!!国王様に無理矢理」

今の国王、変態なの?

「説明が足りないわよ。・・・・えっと、勇者様が呼ばれたのは知っているわよね」
「ああ。そのパーティーが目の前にいるからな」
「それで、呼ばれてからの3ヶ月は訓練と勉学を施して、それから魔王の討伐に向かう勇者様に仲間を付けることになったの」
「それが女装することになったのとどんな関係が?」

正直関係性を感じない。

「それがね。始めに私とノーウェンちゃん。それとテルツが入って、旅の途中でサーフェスちゃんと合流する予定だったのよ。だけど、勇者様が女好きで、『仲間は全員顔立ちの整った女性でないとダメだ』って聞かなくて、だけどそんなパーティーを認めたらお目付役がいなくなるじゃない?」
「今サラッと最後の1人の名前が出てきたな。しかもアイツかよ。正直再会だけはしたくなかったよ」

というか勇者よ。本当になにがしたいんだ?ここに来る途中で別の勇者達とはあったけど、まともな奴は1人しかいなかったぞ。魔王を早く倒したいなら男女問わずに強い奴を仲間にするべきだろうに。これは放っておいてもナムブロック1人で余裕で殺せるな。アイツ厳密には魔族じゃないから聖剣の破魔のチカラは効かないし。

「それで、無理にでもテルツを同行させるために女装させたと?」
「ええ、そうなるわね。似合いすぎているのは嬉しい誤算だったわ」
「う、う、自分はこんな格好で戦うために努力したわけではないのに」
「・・・・・なんか、からかってすまなかった」

うーわー。勇者の奴そんなに女好きなのかよ。勇者達を泊めることになるんなら一応キサナには警告しておくか。まあ状態異常に掛けられても効かないし、夜這いし掛けてきても俺と同じ部屋で寝ることになったから対応できるわけだが。

「テルツ、オマエあれからメランナとはどうなった?」
「あ、はい。あの後無事結婚することができました。ノックさんがメランナに与えて下さったあのマジックアイテムのおかげで外にも出歩くことができるようになりました」
「そうか。それは良かった」

どうせなら死んでくれた方が助かったのだがな。

そんなことを思っているといつのまにか机の上の皿が空になっていた。

「ふう。ごちそうさまでござる」
「そうか・・・・・ごほん。それでは私は冒険者ギルドに所用があるため失礼致します。ここでの代金は私が支払わせていただきますね」

そう言ってレジに向かう。

「あの。お勘定お願いします」
「はいはーい。えーと。ざる蕎麦とオークの揚げ物、シケの塩焼きにシュライプの丼、をそれぞれ7人前、デス・バッファローのステーキを8人前、腸詰め肉のパン挟みを3人前、サンドイッチを2人前、それからモーネジュースを4人前で、合計21,990メルになります」
「・・・・高級料理店以外の食事で2万にいったのは初めてだな」

代金を支払って俺は冒険者ギルドに向かう。

・・・・・仕事のついでに、貯金から金を引き出そうかな。
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