最弱幹部の人間生活

柚黒 鵜白

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最弱幹部

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剣と魔法の世界世界 カスターク。その世界はいま魔王軍に侵略されている。そこに、異世界から勇者が召喚される。

それを知った魔王軍は四天王たちを緊急招集する。
__________________________________

「全員揃ったな?では、会議を始める」

その部屋の中には5つの人影があった。この者達が現魔王軍のトップ達である。

「魔王様。人間共になにか動きがあったのですか?」

この女の名前はテリーナ。魔法を得意とする魔族だ。

青い長髪をたなびかせ、誰も寄せ付けないその美貌は人間の国にもいないだろう。

「ああん?なにかしたから集まったんだろうが。馬鹿じゃねぇか?」

この男の名はボルケン。肉弾戦が得意な魔族だ。

身体についたその筋肉は決して飾りではなく、強化魔法無しでも剣や魔法をある程度防ぐことができる天然の鎧でもある。

「へー。私が馬鹿?なら貴方は脳味噌まで筋肉でできた筋肉“馬鹿”かしらね?」
「ああ?やるのか?」
「やってあげましょうか?」
「2人とも、落ち着いてよ」

衝突しそうな2人を止めている少年はナムブロック。

見た目は無邪気な子供だがその性格は残忍で、1度殺した人間の首を切り取り、それを大勢の前に晒すということを平然とこなすのだ。

「・・・はあ、なんで俺ここにいるんだろう」

この一見やる気のない男はノック。自他共になんで魔王軍の幹部になっているのか疑問になるほど弱い魔族だ。

魔王とはよく遊ぶ仲であり、そのコネで四天王入りしたのではないかと最近考え始めていた。

その見た目はいわゆる村人Aのようなどこにでもいそうな顔だ。背中に翼がはえていなければ人間だと言われても違和感がないのだ。

いまだに騒いでいるその空気を、残った1人が机を思いきり叩いたことで静まり返った。

それを確認すると、最後の1人は真剣な顔をして話し出す。

この女の名はナーザル。現魔王だ。

長い赤い長髪を後ろに1つに括っており、その頭には魔王の象徴である王冠がのっているの。

「みなのもの、此度は急な呼び出しをしてすまなかった。今回は人間共に動きがあったためその対策を考えようと思い集まってもらった」
「魔王様、此度はいったいなにが?」

テリーナの質問に対し魔王は頷くと、そのひとことを発した。

「明日、異世界より勇者が呼び出される」
「なっ!!」
「ホォー」
「勇者かぁ。殺したことないなぁ」
「まためんどくさいものを」

魔王の発言にそれぞれ驚き、関心、喜び、呆れで答える。

「それで、いったいなにをすればいいんですか?」
「弱者は黙ってろ。いまは魔王様が話しておられる」
「・・・・・へいへい」

自分で最弱だと認めているがゆえに、ノックは黙ることにする。

テリーナの発言に魔王は一瞬だけピクリと眉を動かした。しかし、それからすぐにもとの真剣な顔に戻った。

「以前の魔王・・・・・つまりお父様は異世界より来た勇者に道半ばに敗れた。だが、今回はそうなるわけにはいかない!!そのため私は1つ作戦を考えた」
「それは、なんでしょうか?」

テリーナ、ボルケン、ナムブロックの3人は魔王の次の言葉を黙って待つ。だが、ノックは別のことを考えていた。

(今日の晩飯餃子にするか。どうせルーの言うことだ、しょうもないことに決まってる)

そう思いながら適当に聞こうと思った。だが、それは適当に聞けないことだった。

「勇者が召喚される“ペティシア”の魔国領側にある“ハーゼティリア”という領地がある。そこでこの中の誰かが潜り込み、勇者を迎え撃ってほしい」

その言葉に全員が俺を見る。

「なんで皆さん。そこで俺を見るんですか?」
「いや、やっと新しい四天王をその席に座らせられると思ってな」

遠回しに俺が行って死ねと?

「弱い奴には興味がねぇ」

あ、なるほど。弱い奴に弱い奴をぶつけて、強くなった勇者を倒したいと。

「安心してよ。首は飾ってあげるから」

首以外も拾って下さい。

「大丈夫さ。ノックならできる」

その根拠はなんだ?

文句はある。だが、よく考えて欲しい。

最強クラスの剣を持った騎士にそこらで拾った木の棒を持った子供が勝てますか?

そう。つまりだ。いまここで俺が言えることは1つしかないのだ。

「・・・・・その役目、引き受けさせていただきます」
「うむ。よろしく頼むぞ」
「はっ!」

まったく、弱いというのも考えものだな。

さて、すぐに殺されないように役になりきりますか。


















なぜこうなった?

「ハーゼティリア領現領主、キサナ・ハーゼティリア様」
「はい」
「ハーゼティリア領現領主補佐、ノック・ガシア」
「・・・・・・・・はい」

俺は確かこの領地を支配する為に侵入したはずだよな?

「両者共に変わることのない、永遠の愛を捧げますか?」
「はい」
「・・・・・・・・はい」

なのに、なのになんで。

「では、誓いの口付けを」
「ノック」
「・・・・・はい」
「オマエが魔族だとしても関係ない。私はもうオマエ以外考えられないのだ。オマエ以外とこんなことはしたくない」
「・・・はい」
「だから、こうしたからには、私は絶対にノックを幸せにしてみせる」
「・・キサナ様」
「ノック、それは違うぞ」

長い髪を横に括った金髪の女はノックに顔を近づけると、その唇に自分のソレを重ねる。

しばらくの間、周りの歓声を聞きながらキスを続ける。そして、ある程度時間が経つと顔を離し、その眼をノックに向ける。

「キサナと呼べ。それが今日からノックの妻となる者の名だ」
「・・わかった。キサナ、今日からよろしく頼む」
「ああ!!」

俺の嫁になるその女は思わず見惚れてしまうような笑顔を俺に見せる。・・・・・その前にだ。


なんで俺はいま、領主と結婚してんだよ!!!!!!

その心の叫びは、虚しくも誰にも届かなかった。
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