上 下
24 / 61
第三章 魔王城

第六話

しおりを挟む


「ここは、どこだ?」

目を開くと、そこは知らない天井だった。ボケだと思うだろう?本当に知らない天井なんだよ。

「あの、大丈夫ですか?」

ふと近くから声がした。顔を向けるとそこにはミーナがいた。

「大丈夫ですか?」
「毎朝、俺に味噌汁作ってください」
「はい?別に構いませんが・・・いきなりどうされたのですか?」

やべ、思わず言ってしまった。まあ相手は気にしてないみたいだし、別にいいか。

「いや、なんでもない。ところでヒュプノスとゴロージは?」
「お2人でしたらキリサメさんをここまで連れてきて近くにいた私に任せるとおっしゃって王の間に行かれました」

王の間って、ヒュプノスは基本いそうにない場所なんだがな。なんか、嫌な予感がするな。

「なんでそこに?」
「なんでもキリサメさんが気絶された後に人族から宣戦布告があったらしいですよ?」

なにその急展開!?いきなり戦争て。

「それで今はその対策会議中と」
「はい。クインテットは全員集合らしいですよ」

へー。やっぱり幹部達と作戦を練るのか。参謀もたぶんいるんだろうな。・・・ん?クインテット?

「なあ。それってあんたも「ミーナとお呼びになってください」・・・ミーナも参加じゃないのか?確か幹部なんだろ?」

戦えるのかわからんが、遊撃というのだから戦えるのだろう。だが、クインテット全員集合というのならミーナもその対象のはずだ。

「あ、それでしたらキリサメさんが起き次第参加するように言われました。お身体の調子が良ければ行きましょう」
「おう」

ミーナに支えてもらいながら立ち上がり、ミーナに案内してもらいながら王の間へと足を運んだ。なにやら腕に柔らかい感触がしたが、気のせいだろう。

にしても戦争か。前回までは王ちゃんと取引きしていたらしいから死人は出なかったらしいが、今回からはどうなんだろうな。
__________________________________

王の間とやらに行くと、そこにそいつらはいた。目に移ったのでヒュプノスに声をかけることにした。

「よっ!!来たぞ。心配かけたな」
「キリサメか。ミーナから説明があったと思うが、今は会議中だ。そこに座れ」
「お、おう」

なんだ?ヒュプノスの雰囲気がいつもと違う。よく見たらムロムリのおっさん、グレイブ、ゴロージそれに隣にいるミーナですらいつもとは違う雰囲気を漂わせている。

「2人が来たことだ。状況を整理する。メルク」
「はい」

・・・まさかメルクは参謀もしているのか?

「宣戦布告を仕掛けてきた国はヒルドス。ヒナリスとベヘモットの近くにある魔族排他主義の国家です。
前々からこの国に嫌がらせをしてきており、セヒィロトの王が変わり魔族と戦争することを多くの国に通告したと同時に魔族の殺害を表向きに初め、既に何人もの同胞が殺害されております。
先程我が国の国民の首がこの城に届けられたことで宣戦布告と取らせていただきました。
戦い方の特徴としましては捨て駒を使って消耗した敵に本隊を仕掛けて撃破する消耗戦を多く使い、その捨て駒には自国の国民を使用します。その国民の選抜方法は姉妹や恋人など女性の知り合いがいる男性とし、その男性が逃げ出したり1人も殺せずに戦死した場合その女性達は娼婦とされるそうです。
法律の中に魔族を匿った者は国民ではなく敵とし、目の前で異性の知り合いが犯されるのを見せられながら処刑されるそうです」

なんとまあ独裁国家と言うべきか、宗教国家と言うべきか。少なくとも胸糞悪い話だな。要するに「自分の女が奪われたくないなら戦い、そして1人でも多く敵を打ち取れ」と言っているみたいなものだな。

「国の特色はもういい。それで、敵の中で注意すべき人物はどいつだ?」
「はい。全ての敵兵を調べたわけではないのでまだいるかも知れませんが、弓兵の中に聖弓を持った者が2人、騎馬隊の隊長、魔術師部隊は全員、それと敵将ですね。このうち敵将は現国王の息子で今回が初陣で、騎馬隊の隊長は現国王の弟だそうです。更にいうとこの2人と弓兵の2人、それと国家魔術師は国王から娼婦にされた者達を優先的にあてがわれているそうです」
「娼婦の情報はもういい。ボクの機嫌を損ねたいのか?」
「申し訳ございません」

今のヒュプノスを見ていると、確かに一国の王って思えるな。それも魔王。

「先程の続きとなりますが、ヒルドスは1人の助っ人を呼んでいるみたいです」
「その助っ人は誰だ?」

助っ人普通呼ぶなら傭兵とかなのでは?

「名前は存じておりませんが、その者の特徴としましては仮面をつけているそうです」

仮面?まさかな。

「その人物は戦い方が荒っぽく、味方も殺す為1人で暴れさせているそうです」

やっぱりあいつなのか?だがあいつは眞城先生が倒したはず。同一人物のはずがない。だが、もしあいつだとしたら

「そうか。ならそいつにはボクが」
「俺に行かせろ」

気づいたときにはそう言っていた。

「キリサメ。いきなりどうしたんだ?キミには発言を求めていない。決めるのはボクだ」
「俺が思っている通りなら俺はそいつを知っている」
「友人なのかい?」
「いや、敵だ。それも俺が殺さないといけない」
「私怨なら駄目だ。行かせるわけには行かない」
「あいつは俺の獲物だ。誰にも譲らない」
「勘違いするなよ?」

ヒュプノスの声がこの上なく冷え冷えとしていた。

「これは戦争だ。復讐の場ではない。泥水をすすったり汚い手を使ってでも己が国を守る為の行為だ。私怨に駆られて負けましたなどということは許されない。負けたらただ奪われるのだから。そうなったらいくらキミであってもボクは許さない」

かなり真剣な表情で俺の姿を捉える。それもかなり濃い殺気を発しながら。その場にいる者たちはその殺気のせいか動けないでいる。正直俺も倒れれるのなら倒れたいと感じるレベルだからな。だが、ここで引くわけには行かない。

「負ける気は無い。必ず勝つ。だから行かせろ」

ここで降りたら後で後悔するのだから。

「そうか。だが信用するわけにはいかない。キミはゴロージにすら勝てなかった。人柄は信用するが、実力は信用できない」

ゴロージには勝てなかった。だが負けたわけではない。俺が転移を使いこなせなかったせいだ。

「どうすれば信用できる」
「ボクと戦え」

は?

「ま、魔王様。流石にそれは」
「なんだいミーナ?キミはいつからボクに口答えできる立場になったんだい?偉くなったものだ」
「い、いえ。そういうわけでは」
「なら黙っててくれないかい?」

ミーナが恐怖を抱くのも仕方がない。今のヒュプノスにはそれを起こすだけの覇気がある。

「・・・それでお前に認められればいいんだな?」
「まあ、そうなるな」
「どうすれば認められるんだ?」
「ボクに一撃入れてみろ。それで認めてやる」
「自信があるんだな。よほどの」
「まあな。今回は真面目にやってやる。本気は出さないがな」

舐めたことを

「さて、作戦会議は一次中止にする。キリサメと戦った後に再開する。キリサメ。付いて来い」

そう言われると黙ってついていった。

俺の覚悟を実力と共に認めさせるために。
しおりを挟む

処理中です...