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最終章 龍と英雄の子
エピローグ
しおりを挟む糸は確かに斬った。手応えも微かだが感じた。なのに、なんでまだ俺を追いかけてきたんだ?
そういえば、あのとき糸はどうやって出したんだ?まさか遠距離で出して繋げたわけじゃ・・・まさか
「マリオネット。操り人形か」
「さぁ。どうだろうな?」
もしこれでないのなら正直お手上げだ。だが、これで間違いないはずだ。おそらく糸はフェイク。本来は糸の代わりに魔力で操作している。
そのため磁石になっていないのだからヴェルディア・フライトも反応しなかった。
あのときも、たぶん短剣の持ち手のところに糸を仕込んでおき、その糸を好きなタイミングで別の持ち手と繋げるなどする。そうすることであの状況を完成させたわけか。
「まあ、そうなると流石に余裕というわけにはいかないな」
「へえ?じゃあどうするんだ?」
「こうする」
そういうと、俺は構えを取る。
刀を鞘に戻し、全身から力を抜く。隙が多そうな構えだが、これが俺の『剣術』の始めの構えだ。
「へえ。やっと使うんだな。そう来なくちゃな。さっきまでの剣術はチンピラがナイフを振る感じだったからな」
「ここまでさせたんだ。後悔すんなよ」
「へ!!そんな事しねぇよ。今のところ勝率は1勝1敗ってところだろ。決着つけようぜ。こっからは小細工抜きだ」
そう言って翔也も構えを取る。
しばらくの間。お互いの出方をうかがう。だが、動き出したのは同時だった。
「銃刀流“拳”、“散弾”、それと“機関”」
ナイフや刃物の破片、それと短剣などが飛んでくる。だが、それだけだ。
「从刀流“奔放”」
从刀流。俺が作ったじゅう刀流の剣術。勝手気ままに、心のままに戦う剣術だ。
この奔放は回避のため剣術だ。自分の直感を信じてただひたすらに攻撃を避け、相手に近づく技だ。
しかし、これは目の前の攻撃に対する危機感以外を全て遮断して行う技なので横や後ろからの攻撃には対処できないのだ。
そのため確実に一対一である状況でしか使用できない。まあ、そのときにはそのときの回避術を使うだけだが。
「チッ!!相変わらず鋭い第六感で。獣かオマエは」
「獣は俺じゃ、ねえよっ!!」
「し、しまっ!!」
今度はなにも障害はない。仮にあってももう知るか。取り敢えず翔也を殺せればそれでいい。
「こ、この!!くらえ“炸裂”」
「知るかよそんなの!!」
炸裂ということは炸裂弾と同じ。つまり爆薬か。確かに死ぬかもしれないが、死ぬ前にころせば済む話だ。
そのまま突っ込もうとする。だが、その足は途中で止まり、横に跳んだ。
「な!?あの距離で避けやがった」
翔也が驚いていたが、俺は自分の意思と関係なく避けた自分に驚いていた。
その理由を考えた。が、そうする前に頭を魔国での仲間たちの顔がよぎった。
そういうことか。
「どうやら、俺はほんの少しいただけなのにアソコが気に入っていたらしい。だったら戻らないとな」
ふと刀が光っていることに気づいた。よく見ると鞘も光っていた。
そのときまだヴェルディア・フライトのスキルを1つ使っていないことに気付く。
なぜか今使うべきだと考えた。そして刀を鞘ごと取り出すとヴェルディア・フライトを宙に投げる。
その瞬間、ヴェルディア・フライトは光で覆われ、そして2つに分かれるとその光が俺も包み込んだ。
その光が消えると腰にその重さを確かに感じる。そして武器を確認するとそこには確かにあった。
__________________________________
聖刀 フライト
神話級
使用できる者が作られた瞬間から決められた武器の1つ。遠島 霧雨が死んだ瞬間に消滅する。
二刀流の能力により『聖魔刀 ヴェルディア・フライト』より分離した。
空間把握と一刀流の能力を持つ。
__________________________________
__________________________________
魔刀 ヴェルディア
神話級
使用できる者が作られた瞬間から決められた武器の1つ。遠島 霧雨が死んだ瞬間に消滅する。
二刀流の能力により『聖魔刀 ヴェルディア・フライト』より分離した。
斬撃転移と一刀流の能力を持つ。
__________________________________
なるほど。これが二刀流の能力か。鞘も両方の腰についた。形は同じ鞘か。これならあの技を試せる。地球じゃできなかったからな。
「なんだか知らないが。たかだか刀が2本に増えただけだろ。そんなもんでビビるかよ。“散弾”そして“追尾”!!」
またしてもあの組み合わせで破片が飛んでくる。だが、先程とは違う。俺はそのまま真っ直ぐ翔也に向かって走り出す。
「馬鹿が、死ね!!」
そうして刃物の破片が飛んでくる。俺はヴェルディアを鞘に戻しフライトを構える。
そして、空間把握で飛んでくる破片を察知してそれらを全てフライトで逸らし、遂に至近距離まで持ち込んだ。フライトを持っていない手で鞘に収まっているヴェルディアを持つ。
これで、終わりだ。
「ちょ、おい!!まてよ!!俺はまだ死にたくは」
「从刀流、奥義“抜刀賛歌・罰天」
1度目の居合斬りを逆手で行ってすぐに先程とは反対の鞘にヴェルディアを転移。そしてそのまま居合斬りを放つ。こうしてできた相手の傷がバッテンになることからこう名付けることにした。アッチだと転移なんでできなかったからな。
罰天を受けたところから血が大量に噴き出され、そして翔也は倒れた。この出血量から見てコイツは死ぬだろう。ただ、罰天でコイツを斬った際に何か硬いものを斬った感覚がしたんだが。気のせいか?
確実に死んでいるかの確認をしているとヒュプノスがやってきた。
「やあ。終わった?」
「まあ、な。今は死んでいるかの確認中だ」
「ふうん。まあ、それは既に死んでるよ」
「見ただけじゃわからないだろ」
「ううん。たぶん霧雨。キミと戦う前には既に死んでいるよ」
「は?」
なに言ってんだコイツ?
「そうは言ってもさっきまで動いていたぞ?」
「たぶん、この宝玉の所為だね」
そう言うとヒュプノスは躊躇いなく翔也の切り口に手を突っ込み、そしてなにかを掴んで引っこ抜いた。
それはなにやらガラスのように綺麗なものだった。
「これはたぶん“死者の心臓”っていう魔道具だね。その名の通り死体の心臓に埋め込むと心臓の代理になるっていう魔道具だ。おそらくこれで生き返させられていたんだろう」
「そう、なのか」
そうだったとしても、なんで眞城先生が与えた致命傷の傷を受けても平気だったんだ?
「この“死者の心臓”を埋め込まれた死体は“死者の心臓”が壊されるまで動き続けるんだ。また殺すには“死者の心臓”を壊すしかないんだ」
「と、いうことは」
「もしキミがコレと同じ形で殺した復讐相手が他にもいるなら、たぶんそいつらもコッチに来ている。それもほぼ死ぬことはない体でね」
その一言を聞いた俺は俺が殺した残り2人の顔がよぎった。また、アイツらとも殺し合うのか。
そんなことを考えているとなにか柔らかいものが俺を包むのを感じる。それがヒュプノスが俺を抱きしめているからだと気付くまでにはそうかからなかった。いつのまにか頭も撫でられている。
「そんな怖い顔をしないの。キミは殺人マシーンじゃないの。今回の戦いはもう終わったんだよ。だから、落ち着いて。ね?」
その一言を耳にした瞬間。俺の中でせき止めていたものが一気に流れ込んできた。
「俺は、正しいことをしたのか?」
「この世に正しいことなんかないさ。間違わなければそれでいい」
「俺は、きっとこれからも人を殺す」
「それを選んだのはキミだ。だけど、サポートはする。なるべくキミが殺さなくてはならない人間は最小限に抑えてみせるさ。仲間じゃないか」
「ここまでくる短い間にいろんなものを失った」
「失ったなら仕方がないよ。諦めな。もう戻っては来ないんだから。だったら新しく作っていこうよ。自分が大切だと思うものをさ」
「俺は、もっと、もっと強くならないといけない。そうしないといつかまたなにかを失う」
「失わせないさ。もしまたなにかを失っても、その悲しさはボクが癒すよ。キミをこの道に誘ったのはボクだ。責任はとるよ」
「俺は、俺は、お、れは」
「強がっていたんだろ?思いっきり吐き出しな。今ならボク以外誰もいないんだから」
その一言を聞いた瞬間。俺はおもいっきり泣いた。
俺が泣き止むまで、ヒュプノスは俺を撫で続けた。
俺が泣き止む頃には既に日が暮れはじめていた。
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