上 下
44 / 146
サタン@異世界編PART1

消えた父親を探す少年

しおりを挟む
「お待たせ致しました……」

店主はそう言って怪物ウニをテーブルへゴトリと置くと、再び厨房へ戻って行った。

「こ、これか」

俺は初めて見る怪物ウニの見た目に若干不安感を覚える。

ここは異世界だからしょうがないのかもしれないが、俺がかつて現実世界で食べていたウニの色ではない。

紫と赤紫がまだらになっているような見た目で、かなり毒々しい。

さらに、割られた中身を見てみると、身の部分が緑とグレーになっている。

「っ……」

絵の具をひっくり返したような見た目の食べ物だが、これを食べるとなると少し勇気がいる。

「サ、サタン様。やはりおやめになった方が……」

メイジーが気遣ってくるが、もう後には引けない。

「い、いただきまーす!!」

自分を鼓舞するかのように食べようとしたその瞬間、店の入り口から大声が響いた。



「それを食べちゃダメだ!!!」



スプーンを口に入れようとしたまま硬直する俺。

声がした方を向くと、1人の少年がいた。

「え?でもせっかく頼んだし……」

俺は再びスプーンを口内に入れようとする。

「ダ、ダメだって言ってるじゃないか!!うわぁーーー!!!」

少年が俺に飛びかかると、俺もろともイスごと後ろへ倒れた。

そしてスプーンを取り上げ、さらにテーブル上の怪物ウニを手に取って地面に放り投げる。

その放り投げた勢いによって緑とグレーの中身が飛び散り、メイジーの高級な服に付着する。

「あらっ!!?」

「うわぁーーー!!こんなの!こんなの!!」

少年は怪物ウニを何度も何度も踏みつける。

「し、少年!よしなさい!」

クロエが止めに入ると、少年はようやく落ち着いたようだった。

「ふぅ…ふぅ…!」

「ね、ねぇ、君、どうしたの?」

子供に対してだからか、カトリーナが珍しく優しく対応する。

「ご、ごめんなさい……。俺、その……」

「落ち着いて。ね?」

メイジーが緑とグレーまみれの服のまましゃがみ、にっこり笑う。

(笑顔、怖っ……!)

「う、うん。あのね……」

少年は少しずつ話し始めた。

話によると、少年は父親と2人で暮らしていたらしい。

父親は貧しいながらも男気溢れる漁師で、周りからも慕われている人間だった。

それがある日、仕事の漁をしていると、いつもの鬼ウニと違うウニが大量に網にかかっているのを発見し、1つ食べてみたという。

(よく食ったな……)

するとそれがあまりにも美味しいので、仲間にも配り、漁協にも卸したそうだ。

その日から、父親は毎日怪物ウニを食べるようになったらしい。

そして、痛風の激痛により漁ができなくなったが、それでも怪物ウニを食べることだけはやめなかった。

次第に、父親の精神に異常が見られ始める。

何かを問いかけても、「ぺぺン」としか答えなくなり、そしてある朝少年が起きると、父親は消えていた。

街で目撃情報を集めると、ペペロニア方面に向かったという情報だけがあったが、それ以降、父親から音沙汰は無かったという。

「と、父ちゃんは、俺のことが一番大事っていつも言ってた……!いきなりいなくなるなんてあり得ない!」

「だから怪物ウニを食うとおかしくなると?」

「う、うん……」

少年は俯いた。

「それで、ペペロニアには行ってみたの?」

少年は首を振る。

「ペペロニアへは馬車じゃないと行けないし、お、俺、そんな金無くて……。だからこの街で情報を集めるしかなくて」

「そうか……」

クロエが悲しそうな顔で呟く。

「だ、だから、サ、サタンさんに、父ちゃんの行方を探してほしくて!」

「……え?なんで俺の名前を?」

いきなり名前を呼ばれてビックリした。

「友達のスマポでバズってるギガントモンスターの討伐動画見せてもらってたから……」

「サ、サタン様は有名なんですのね」

メイジーが改めてまじまじと見つめてきた。

「それで?父ちゃんがどこに行ったか探してくれって?」

俺は改めて少年に向き直る。

「う、うん……。と、父ちゃんは多分、ピッピンプンスカ教会本部へ向かったんだと思う……」

「ピッピンプンスカ教会ですって?なぜそう思われるのかしら?」

メイジーが問いかけると、少年はその理由を語り出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

(完)私の家を乗っ取る従兄弟と従姉妹に罰を与えましょう!

青空一夏
ファンタジー
 婚約者(レミントン侯爵家嫡男レオン)は何者かに襲われ亡くなった。さらに両親(ランス伯爵夫妻)を病で次々に亡くした葬式の翌日、叔母エイナ・リック前男爵未亡人(母の妹)がいきなり荷物をランス伯爵家に持ち込み、従兄弟ラモント・リック男爵(叔母の息子)と住みだした。  私はその夜、ラモントに乱暴され身ごもり娘(ララ)を産んだが・・・・・・この夫となったラモントはさらに暴走しだすのだった。  ラモントがある日、私の従姉妹マーガレット(母の3番目の妹の娘)を連れてきて、 「お前は娘しか産めなかっただろう? この伯爵家の跡継ぎをマーガレットに産ませてあげるから一緒に住むぞ!」  と、言い出した。  さらには、マーガレットの両親(モーセ準男爵夫妻)もやってきて離れに住みだした。  怒りが頂点に到達した時に私は魔法の力に目覚めた。さて、こいつらはどうやって料理しましょうか?  さらには別の事実も判明して、いよいよ怒った私は・・・・・・壮絶な復讐(コメディ路線の復讐あり)をしようとするが・・・・・・(途中で路線変更するかもしれません。あくまで予定) ※ゆるふわ設定ご都合主義の素人作品。※魔法世界ですが、使える人は希でほとんどいない。(昔はそこそこいたが、どんどん廃れていったという設定です) ※残酷な意味でR15・途中R18になるかもです。 ※具体的な性描写は含まれておりません。エッチ系R15ではないです。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

処理中です...