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谷真守 編
浮気女への洗礼は"プロポーズ破棄"
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11月3日火曜日。
翌日、夜まで待ってみたが、シゲから連絡は無かった。
恐らく、嘘をつかれたのだろう。
もし由香里さんが、真実を語って、そしてそれをシゲが許すことにしたとしたら、私に連絡してくるはず。
可哀想なシゲ。
悲しみで震える肩を私が抱き寄せてあげたい。
でも、それはできない。
だから、今はせめて言葉で救おう。
0時近いが、私はシゲに連絡してみることにした。
プルルルル、と長めにコールした後、ガチャリと繋がった。
「もしもし……」
明らかに元気の無い声。
その声色から、純粋なシゲですら撃沈させてしまうほど由香里さんがヘタを打ったのは明白。
そして、何か核心的な話をしたに違いない。
私はすかさずフォローを入れる。
「シゲ……大丈夫?」
「うん……。ごめんね」
なぜか謝られてしまったが、焦らず急がず、どんな話をしたのか聞いていく。
「由香里さんと話せた?」
「………うん」
小さな声。
「それでどうだった?」
「昨日は、家で寝てたって、朝……メールが来た」
(石口由香里………!あの女……!)
「シゲ……その……」
私は何か慰めの言葉をかけようと口籠ったが、シゲは次の言葉を口にする前に、「ふぅーーーー」と大きく息を吐いた。
そして強い意志で言った。
「だから、プロポーズを破棄させてもらった」
「………え?」
あまりの展開の早さに思わず聞き返してしまった。
「プロポーズ破棄?」
「……うん。悲しいし、腹も立つし、未練はたくさんあるけど、男らしく送り出したいと思ったんだ」
唐突なシゲの言葉に驚いたが、私は妙に納得した。
どうやら私が心配する必要は無かったようだ。
私が思っている以上にシゲは実は頑固で、そして芯を持っている。
何がカッコいいのか、自分の中に信念がある。
だから、今回はその信念に基づいて、自分で決断した。
性格が私に似てしまったとずっと罪の意識があったが、それも吹っ飛んだ。
(なんだ……。元々の強いシゲだ……)
高校時代の2人を思い出し、少し涙が浮かぶ。
「そっか。自分で決めたんだね」
「……うん。まだ、由香里さんとの思い出が頭をよぎると胸が苦しいけど……。でも、何を言われてもカッコよく送り出すって決めたから」
これほどの"彼女の幸せのために送り出す"という決意。
私と話している内に、自分自身の言葉に納得して、シゲの中でさらに決意が強固なものになったようだ。
声色に憔悴やブレが無くなっている。
恐らくこれでは由香里さんが食い下がったとしても、もう無駄だろう。
残念だが彼女にはあの軽薄そうな男と幸せになってもらおう。
(石口由香里。ふっ……。さようなら)
私は一仕事終えたような気持ちになり、電話越しに聞こえない程度に一息ついた。
翌日、夜まで待ってみたが、シゲから連絡は無かった。
恐らく、嘘をつかれたのだろう。
もし由香里さんが、真実を語って、そしてそれをシゲが許すことにしたとしたら、私に連絡してくるはず。
可哀想なシゲ。
悲しみで震える肩を私が抱き寄せてあげたい。
でも、それはできない。
だから、今はせめて言葉で救おう。
0時近いが、私はシゲに連絡してみることにした。
プルルルル、と長めにコールした後、ガチャリと繋がった。
「もしもし……」
明らかに元気の無い声。
その声色から、純粋なシゲですら撃沈させてしまうほど由香里さんがヘタを打ったのは明白。
そして、何か核心的な話をしたに違いない。
私はすかさずフォローを入れる。
「シゲ……大丈夫?」
「うん……。ごめんね」
なぜか謝られてしまったが、焦らず急がず、どんな話をしたのか聞いていく。
「由香里さんと話せた?」
「………うん」
小さな声。
「それでどうだった?」
「昨日は、家で寝てたって、朝……メールが来た」
(石口由香里………!あの女……!)
「シゲ……その……」
私は何か慰めの言葉をかけようと口籠ったが、シゲは次の言葉を口にする前に、「ふぅーーーー」と大きく息を吐いた。
そして強い意志で言った。
「だから、プロポーズを破棄させてもらった」
「………え?」
あまりの展開の早さに思わず聞き返してしまった。
「プロポーズ破棄?」
「……うん。悲しいし、腹も立つし、未練はたくさんあるけど、男らしく送り出したいと思ったんだ」
唐突なシゲの言葉に驚いたが、私は妙に納得した。
どうやら私が心配する必要は無かったようだ。
私が思っている以上にシゲは実は頑固で、そして芯を持っている。
何がカッコいいのか、自分の中に信念がある。
だから、今回はその信念に基づいて、自分で決断した。
性格が私に似てしまったとずっと罪の意識があったが、それも吹っ飛んだ。
(なんだ……。元々の強いシゲだ……)
高校時代の2人を思い出し、少し涙が浮かぶ。
「そっか。自分で決めたんだね」
「……うん。まだ、由香里さんとの思い出が頭をよぎると胸が苦しいけど……。でも、何を言われてもカッコよく送り出すって決めたから」
これほどの"彼女の幸せのために送り出す"という決意。
私と話している内に、自分自身の言葉に納得して、シゲの中でさらに決意が強固なものになったようだ。
声色に憔悴やブレが無くなっている。
恐らくこれでは由香里さんが食い下がったとしても、もう無駄だろう。
残念だが彼女にはあの軽薄そうな男と幸せになってもらおう。
(石口由香里。ふっ……。さようなら)
私は一仕事終えたような気持ちになり、電話越しに聞こえない程度に一息ついた。
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