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谷真守 編
『別れさせ屋』現る
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0時18分。
由香里さんがどこに住んでるかまでは知らないが、この時間まで出てこないとなると、電車で帰るという選択肢は無さそうだ。
タクシーで帰るという可能性もあるが、それはそれで"終電を見送ってタクシーで帰るくらい一緒にいたい仲"ということになる。
いずれにしても嘘や言い逃れできる状況ではない。
シゲは純粋だから由香里さんの嘘を信じてしまうかもしれないが、そこは私という心眼が真実を晒す。
そうこうしている内に、シゲから着信があった。
「もしもし?どうだった?」
「出ない……」
明らかにシゲの元気が無くなっている。
「そっか。やっぱり、由香里さんは……」
「嫌だ……。僕たちは1年半も付き合って、お互いのことを信頼してるから……。だから疑いたくないんだけど……」
シゲは今にも泣きそうなほど震えた声で呟いた。
「シゲ……。由香里さんのこと好き?」
「うん。もちろん」
そこは力強く答えた。
だからこそ、そこに綻びがあるッ!!
私はここから『別れさせ屋』のように畳み掛ける。
「だったらさ。由香里さんの幸せを考えてあげるのも、ひとつの道じゃないかな」
「由香里さんの幸せ……?」
「そう。もしかしたら彼女は今、ホテルの彼に心が傾いているのかもしれない。プロポーズを保留したのも、きっとそのせいだ」
後半は適当だったが、前半は当たらずも遠からずだろう。
「う、うん……」
「だから、明日の彼女の出方を見るべきだと思う。今日のシゲの着信に対して、"寝ていた"とか嘘をついたら、ホテルの彼の方が好き。逆に、真実を話してくれたらシゲを選んだってことだ」
「し、仕事の可能性も……」
シゲはまだ現実を見ようとしない。
「それはない。あんな大きな出版社で枕営業みたいなこと絶対させないし、あったとしても彼氏がいたら断るでしょ。いい加減現実見なよ!!」
「っ………」
少し語気が強くなってしまった。
「でもね、それは仕方ないことなんだ。"付き合ってる"って状態に法的拘束力なんか無いし、単なる口約束のお遊びに過ぎない。だから、より良い人を選ぶのは間違っていないんだ」
「………」
「だからさ、明日もし彼女が嘘をついたなら、"男らしく"見送ってあげるのもカッコいいと思う。彼女に幸せになってもらうために」
"男らしく"。
シゲが一番好きな言葉。
シゲの優しさならきっとこの選択をしてくれるだろう。
私はそう確信していた。
「……………っ」
言葉に詰まるシゲだったが、私は落ち着かせながら、幸せな未来へ向けて新たな道を歩き出した方が良いと説得していった。
すると、次第にシゲも納得してくれたようで、
「……わかった。ちょっと考えてみる……」
と言ってくれた。
「じゃあ、明日由香里さんから連絡があったらボクにも教えて。そろそろ帰らないとヤバいから帰るよ」
「うん。わかった。ありがとう」
私は電話を切って、長い息を吐きながら星空を見上げた。
時刻はすでに0時45分。
(言ってた私がタクシーだ)
そう自嘲しながら曙橋の自宅へ帰るべく、靖国通りへ歩き出した。
由香里さんがどこに住んでるかまでは知らないが、この時間まで出てこないとなると、電車で帰るという選択肢は無さそうだ。
タクシーで帰るという可能性もあるが、それはそれで"終電を見送ってタクシーで帰るくらい一緒にいたい仲"ということになる。
いずれにしても嘘や言い逃れできる状況ではない。
シゲは純粋だから由香里さんの嘘を信じてしまうかもしれないが、そこは私という心眼が真実を晒す。
そうこうしている内に、シゲから着信があった。
「もしもし?どうだった?」
「出ない……」
明らかにシゲの元気が無くなっている。
「そっか。やっぱり、由香里さんは……」
「嫌だ……。僕たちは1年半も付き合って、お互いのことを信頼してるから……。だから疑いたくないんだけど……」
シゲは今にも泣きそうなほど震えた声で呟いた。
「シゲ……。由香里さんのこと好き?」
「うん。もちろん」
そこは力強く答えた。
だからこそ、そこに綻びがあるッ!!
私はここから『別れさせ屋』のように畳み掛ける。
「だったらさ。由香里さんの幸せを考えてあげるのも、ひとつの道じゃないかな」
「由香里さんの幸せ……?」
「そう。もしかしたら彼女は今、ホテルの彼に心が傾いているのかもしれない。プロポーズを保留したのも、きっとそのせいだ」
後半は適当だったが、前半は当たらずも遠からずだろう。
「う、うん……」
「だから、明日の彼女の出方を見るべきだと思う。今日のシゲの着信に対して、"寝ていた"とか嘘をついたら、ホテルの彼の方が好き。逆に、真実を話してくれたらシゲを選んだってことだ」
「し、仕事の可能性も……」
シゲはまだ現実を見ようとしない。
「それはない。あんな大きな出版社で枕営業みたいなこと絶対させないし、あったとしても彼氏がいたら断るでしょ。いい加減現実見なよ!!」
「っ………」
少し語気が強くなってしまった。
「でもね、それは仕方ないことなんだ。"付き合ってる"って状態に法的拘束力なんか無いし、単なる口約束のお遊びに過ぎない。だから、より良い人を選ぶのは間違っていないんだ」
「………」
「だからさ、明日もし彼女が嘘をついたなら、"男らしく"見送ってあげるのもカッコいいと思う。彼女に幸せになってもらうために」
"男らしく"。
シゲが一番好きな言葉。
シゲの優しさならきっとこの選択をしてくれるだろう。
私はそう確信していた。
「……………っ」
言葉に詰まるシゲだったが、私は落ち着かせながら、幸せな未来へ向けて新たな道を歩き出した方が良いと説得していった。
すると、次第にシゲも納得してくれたようで、
「……わかった。ちょっと考えてみる……」
と言ってくれた。
「じゃあ、明日由香里さんから連絡があったらボクにも教えて。そろそろ帰らないとヤバいから帰るよ」
「うん。わかった。ありがとう」
私は電話を切って、長い息を吐きながら星空を見上げた。
時刻はすでに0時45分。
(言ってた私がタクシーだ)
そう自嘲しながら曙橋の自宅へ帰るべく、靖国通りへ歩き出した。
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