満員電車バトル〜座席を奪い合う4人、それぞれの人生〜

ウケン

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谷真守 編

親友の彼女が男と手を繋いで歩いているのを見た

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23時15分。

3杯目のカミュのロックを飲み終えたところで時計を見る。

(あ、ヤバ……もうこんな時間)

あまりにも面白い小説の展開に引き込まれすぎて、時間を全く気にしていなかった。

小説のあらすじは、自分のせいで海難事故に巻き込まれてしまった彼氏が記憶を失い、何年も地方で別人として暮らしていたらしい。

ひょんなことから再会するが、その間に彼氏には恋人も出来ていて、自分を思い出してほしい気持ちに揺れる主人公の女性だったが、どうすべきか悩む、という物語。

(悩む~~!)

まだ冒頭少しだけしか読んでいないが、穏やかで落ち着いている田舎町の情景を描写しているにも関わらず、アップテンポな展開で飽きさせない秀逸な作品だと思った。

(帰ってまた読もう……)

そう思い、立ち上がると、目の前の靖国通りに見知った顔を見つけた。

(あれは、由香里さん……?)

シゲの彼女の石口由香里だった。

しかも、隣には見知らぬ男がおり、仲良さげに手を繋いで、大げさにぶんぶん振って楽しそうに歩いている。

(えっ……。なにこれ……)

突然湧いてきた黒い感情。

シゲと由香里さんが付き合い始めたのは、今から1年半ほど前。

由香里とはすでにシゲを介して何度か会っていた。

少し気が強いが、ハキハキしていて姉御肌の女性だった。

曲がったことが嫌いそうな性格だし、少し私の性格に似ておどおどしたシゲには合っていると思った。

そして、何より先日、シゲはプロポーズしているはず。

彼女に「考えさせてほしい」と言われたと、寂しげに私に電話をかけてきていた。

「シゲは前よりずっとしっかりしてるし、魅力的だから。きっと大丈夫だよ。自信を持って」

私はその時、そう言って励ましたが、もしかするとプロポーズを断ったのはシゲの問題ではなく、彼女に別の男がいるからかもしれない。

それにいくら親しい友人でも、男女で手を繋いで歩くというのは普通ではない。

私も高校時代は色々な女の子と"友達として好き"だから手を繋いだこともあったが、大人になった今ならわかる。

シゲならきっとこう言ったはず。

『本当の友達とは、恥ずかしくて手なんか繋がない』

つまり男女の関係でなければあり得ない状況だ。

(これは、少し様子を見る必要がありそう……)

私は彼女たちを見失わないように、手早く会計すると、すぐに靖国通りへ飛び出した。
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