満員電車バトル〜座席を奪い合う4人、それぞれの人生〜

ウケン

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谷真守 編

親友の初彼女

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そんな日々を過ごしながら、10年の月日が経った。

私はシゲに対する自分の気持ちに気づいたものの、性別として女性を選択するかと問われると、そうではない気もしていたし、男でいた方が周りに迷惑はかけないので、相変わらず男性として生きていた。

(まぁ、ぶっちゃけどっちでも良いしね)

そんな私は高校卒業後は必死に勉強して、美容師の資格を取った。

今は都心の美容院に勤めながら、メイクの勉強もしている。

もう数年したら、自分のお店を持ちたいなんて夢もできてしまっている。

できるかはわからないけど、未来予想図を描いているのはとても楽しかった。

自分のことはそんな感じ。



一方、シゲには大きな変化があった。

記憶を失っても要領の良かったシゲは、勉強して4年生大学の経済学部へ進学し、無事に卒業した。

相変わらず記憶は戻らなかったが、家族を含め、もう今のシゲがシゲであると納得して、無理に記憶を呼び起こすようなことはしなかった。

私も色々悩んだけれど、結局はそれで良いと思った。

ーーーもうつらい思いはしてほしくない。

周りの人はみんなそう思っていたに違いない。

だから、次第に以前のシゲの話をする人はいなくなった。

そして、大学卒業後、シゲは小さな広告代理店に就職した。

その職場では大人しくおどおどした性格から少しパワハラを受けて落ち込んでいたが、私の怒りの助言ですぐに転職。

転職先ではそんなストレスも無く、生き生きと働いているようだった。

(私、やってることは姑か小姑みたい……)

そして、シゲが社会人の5年目にして、ついに人生初の恋人ができる。

ーーー恋人の名前は石口由香里さん。

シゲはとても嬉しかったようで、私を居酒屋に呼んで、真っ先に報告してきた。

「真守!!僕、彼女ができたよ!」

その時の弾けるような笑顔は、今でも忘れられないほど輝いていた。

「本当?それは良かったね!」

私はそう言ったものの、好きな人に恋人ができたという事実に、少し複雑な気持ちだった。

(シゲ……少し寂しいな……)

「うん!由香里さんって人でね。とっても良い人でさ!」

弾ける笑顔で語るシゲ。

その嬉しそうな姿を見ていたら、私も自然と笑顔になり、その恋を応援したい気持ちになっていった。

(シゲ。私のせいで青春をだいぶムダにさせちゃったけど……。彼女と幸せになってね……)

そうだ。

私はシゲが生きていてくれただけで満足。

(でも、彼女はチェックさせてもらうからね!)

また小姑のような表情になってしまったが、シゲの明るい未来を祈りながら、私は笑顔でビールグラスを傾けた。
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