満員電車バトル〜座席を奪い合う4人、それぞれの人生〜

ウケン

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谷真守 編

自分の性格に似ていく親友

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それからシゲは少しずつ社会性を獲得していった。

高校は結局辞めてしまったが、定時制に通って無事に卒業することができた。

そんな中、私もシゲが知らない情報や、倫理、道徳、空気読みなど、学校ではあまり教えてくれないようなことを教えていった。

それから、シゲの受け売りの名言も。

「本当の友達には『友達として好き』って言わないんだよ。恥ずかしいからね」

「ふふ、そっか。確かにそうだね。真守の名言がまた出たね」

私はシゲが何かをするたびに、見て、聞いて、とにかく一緒に過ごしていた。

そのせいか、性格や喋り方が、私に近づいてきてしまった。

表情には出ないけれど、あまり自分に自信が無くて、心はおどおどしている感じまで似てしまっている。

「今日はありがとう。また明日ね」

シゲはそう言って駅前のマックの前で手を振った。

私も手を振る。

その後ろ姿を見ながら、本当のシゲのことを思い出していた。

『……それじゃな』

あの廃工場で最後に聞いたシゲの声。

あれは、こうなることを示唆していたのか。

体は生きるけど、自分という人間はもう戻らない。

だからお別れを言っていたのだろうか。

またシゲのことを考えるとじわりと涙が浮かんできてしまう。

(っ……シゲ……)

今のシゲとの日々もとても幸せだけど。

でも、私が好きなのはやっぱり……。

(……ダメダメ!今はしっかりしないと!)

少し落ち込んでしまった気持ちを、サポートしなければいけないという思いで慌てて振り払う。

(今のシゲが本当に幸せになったら、また思いっきり、泣こう……)

私は、これまでの間に、自分の気持ちにも整理を付けていた。

ーーー記憶が戻ったとしてもシゲに女としての気持ちは伝えない。

それはシゲが困惑するから、というだけでなく、それよりもシゲに幸せになってもらいたいから、という気持ちが強かった。

シゲは優しいから、私を受け入れてくれるかもしれない、と思ったこともある。

それに、今のシゲも私に好意を抱いてくれているようだ。

ある冬の夜、公園のベンチで肩を震わせて空を見ながら、

「真守とずっと一緒にいたいな」

そう言われた時は抱きしめてしまいたい気持ちに駆られた。

だけど、いつも『俺、子供は男の子2人と女の子1人が欲しいな』と言っていたくらい子供好きのシゲ。

その夢を終わらせる権利は私には無い。

それに、私自身が今の関係を終わらせたくない。

気持ちを伝えた瞬間に、今までの友達としての関係は終わりを迎え、もう戻れないことは明白だ。

それだけジェンダーの問題は大きい。

だから、彼にだけは告らないし、告らせない。

その時、初めて人の好意を未然に防ぐことの大切さを知った。

(告らせなければ良かったんだ)

でも、あの冬の夜の言葉も心当たりがあった。

(前に私が真由に言った気がするな……)

どうやら異性をその気にさせる性質まで似てしまったようで、私は少し苦笑いした。
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