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谷真守 編
デブギャル心の叫び
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(あ………うっ………)
シゲに触れられる所まで近づいてみると、とても言葉では言い表せないくらいひどい状態だった。
遠目でも血が出ていることはわかっていたが、近づくとパックリ開いた頭の傷口が痛々しかった。
恐らく鉄パイプで殴られた傷だ。
(シゲ……痛かったよね……ごめん)
苛立って殴ったであろう半グレ達をグルリと睨みつけるが、美穂以外はこちらを見ていなかった。
この状況を作った元凶である美穂はなぜか泣きそうな顔でこちらを見ていたが、その顔をキッと睨みつけた。
「さ、さっさとしてよ!好きなら茂森くんとチューできるんでしょ!」
どうやらやらないと収まりがつかないらしい。
リーダーのお兄さんも、もう私たちに危害を加える気は無いようだったが、美穂の要求を止める気は無いようだった。
(いいよ、もう。私は私だ)
シゲの顔に自分の顔を寄せていく。
ぐちゃぐちゃになってはいるが、いつも話を聞いてくれた優しいシゲの顔が目の前にあった。
怒りで止まった涙が再び溢れてくる。
(シゲ……死なないで……)
鼻と鼻が付きそうになる位置まで顔を寄せる。
(嫌だと思うけど、ごめんね……)
そして、私はそっとキスをした。
「う、うっわ!マジでしてるんだけど!きっしょ!!」
こちらにスマホを構えて撮影しながら美穂が叫ぶ。
明日には学校でも広まってしまうかもしれない。
(もういいんだ……)
自暴自棄になりながら少しささくれ立ったシゲの唇から自分の唇を離すと、あることに気づいた。
(あっ!!)
その位置まで来ると、ほんのわずか、か細くてほとんど感じない程度だが、呼吸を感じた。
(シゲは生きている!!)
私は急に目の前が開けたような感覚があった。
一筋の光が見えたら、あとはその光を辿って全速力で走るだけ。
早くシゲを病院へ連れて行かなければ!
私は、大声で叫んだ。
「もういいでしょ!シゲを病院へ連れて行く!どいて!」
「な、なんなのよ……。勝手なこと言わないでよ!あーうざい!!お兄ちゃん!もうこいつ殺っちゃってよ!!」
兄にすり寄るデブギャル。
「美穂、悪いな。気が乗らねぇ」
鼻の頭を掻きながら答えるお兄さん。
「は!?意味わかんない!ここまでやっといて何それ!?」
「だってこいつ、中身男じゃねーじゃん」
「何言ってんの!?どう見たって谷くんは男でしょ!?早く殺って!」
「いや、無理」
お兄さんと半グレ達は帰り支度を始める。
「ふざけないでよ!じゃあもういいよ!警察にお兄ちゃん達がこんなんしてました、って言ってやるから!」
お兄さんは初めて美穂をギョロリと睨んだ。
「おい。俺をこれ以上怒らせるなよ?仲間にまで迷惑かけんな。さすがに調子に乗り過ぎだ」
「……ぐすっ。だって、だって…!私、本気で谷くんのこと、好きだったんだもん……!うわぁぁぁあん!!」
美穂の心からの声が廃工場に響く。
お兄さんは、美穂の頭を引き寄せ、ポンポンと撫でてあげていた。
私は今日、自分の真実に向き合ったけれど、彼女を傷つけてしまったことは事実だ。
犯罪じゃないけれど、意図的であってもそうでなくても、人の心を傷つけるという罪はそれだけ重いと、今日初めて知った。
美穂、私に告白してくれたみんな、ごめん。
こんなことされたから口では謝れないけれど、心では謝ろう。
そして、シゲをこんなにしてしまった罪を背負ってこれから生きていこう。
シゲが命名した"告らせゲーム"の代償は、思った以上に大きかった。
その時、廃工場の扉がバンッと開いた。
「雅さん!ムヒ、買ってきました!」
半グレメンバーの三下が声を張り上げて戻ってきたが、もうみんな帰り支度をしてすべて終わっていた。
そして、三下が見たのは、ゴーリーのしっぺで気絶した雅さんの姿だった。
シゲに触れられる所まで近づいてみると、とても言葉では言い表せないくらいひどい状態だった。
遠目でも血が出ていることはわかっていたが、近づくとパックリ開いた頭の傷口が痛々しかった。
恐らく鉄パイプで殴られた傷だ。
(シゲ……痛かったよね……ごめん)
苛立って殴ったであろう半グレ達をグルリと睨みつけるが、美穂以外はこちらを見ていなかった。
この状況を作った元凶である美穂はなぜか泣きそうな顔でこちらを見ていたが、その顔をキッと睨みつけた。
「さ、さっさとしてよ!好きなら茂森くんとチューできるんでしょ!」
どうやらやらないと収まりがつかないらしい。
リーダーのお兄さんも、もう私たちに危害を加える気は無いようだったが、美穂の要求を止める気は無いようだった。
(いいよ、もう。私は私だ)
シゲの顔に自分の顔を寄せていく。
ぐちゃぐちゃになってはいるが、いつも話を聞いてくれた優しいシゲの顔が目の前にあった。
怒りで止まった涙が再び溢れてくる。
(シゲ……死なないで……)
鼻と鼻が付きそうになる位置まで顔を寄せる。
(嫌だと思うけど、ごめんね……)
そして、私はそっとキスをした。
「う、うっわ!マジでしてるんだけど!きっしょ!!」
こちらにスマホを構えて撮影しながら美穂が叫ぶ。
明日には学校でも広まってしまうかもしれない。
(もういいんだ……)
自暴自棄になりながら少しささくれ立ったシゲの唇から自分の唇を離すと、あることに気づいた。
(あっ!!)
その位置まで来ると、ほんのわずか、か細くてほとんど感じない程度だが、呼吸を感じた。
(シゲは生きている!!)
私は急に目の前が開けたような感覚があった。
一筋の光が見えたら、あとはその光を辿って全速力で走るだけ。
早くシゲを病院へ連れて行かなければ!
私は、大声で叫んだ。
「もういいでしょ!シゲを病院へ連れて行く!どいて!」
「な、なんなのよ……。勝手なこと言わないでよ!あーうざい!!お兄ちゃん!もうこいつ殺っちゃってよ!!」
兄にすり寄るデブギャル。
「美穂、悪いな。気が乗らねぇ」
鼻の頭を掻きながら答えるお兄さん。
「は!?意味わかんない!ここまでやっといて何それ!?」
「だってこいつ、中身男じゃねーじゃん」
「何言ってんの!?どう見たって谷くんは男でしょ!?早く殺って!」
「いや、無理」
お兄さんと半グレ達は帰り支度を始める。
「ふざけないでよ!じゃあもういいよ!警察にお兄ちゃん達がこんなんしてました、って言ってやるから!」
お兄さんは初めて美穂をギョロリと睨んだ。
「おい。俺をこれ以上怒らせるなよ?仲間にまで迷惑かけんな。さすがに調子に乗り過ぎだ」
「……ぐすっ。だって、だって…!私、本気で谷くんのこと、好きだったんだもん……!うわぁぁぁあん!!」
美穂の心からの声が廃工場に響く。
お兄さんは、美穂の頭を引き寄せ、ポンポンと撫でてあげていた。
私は今日、自分の真実に向き合ったけれど、彼女を傷つけてしまったことは事実だ。
犯罪じゃないけれど、意図的であってもそうでなくても、人の心を傷つけるという罪はそれだけ重いと、今日初めて知った。
美穂、私に告白してくれたみんな、ごめん。
こんなことされたから口では謝れないけれど、心では謝ろう。
そして、シゲをこんなにしてしまった罪を背負ってこれから生きていこう。
シゲが命名した"告らせゲーム"の代償は、思った以上に大きかった。
その時、廃工場の扉がバンッと開いた。
「雅さん!ムヒ、買ってきました!」
半グレメンバーの三下が声を張り上げて戻ってきたが、もうみんな帰り支度をしてすべて終わっていた。
そして、三下が見たのは、ゴーリーのしっぺで気絶した雅さんの姿だった。
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