満員電車バトル〜座席を奪い合う4人、それぞれの人生〜

ウケン

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谷真守 編

たどり着いたボクの性別

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告白されて以降、南ちゃんがボクへ話しかけてくることは無かったが、ここに来て久しぶりに声を聞いた。

(しっぺってことは、また……)

そう考えていると、暗がりから、ぬっとゴーリーが現れた。

「もうやめっ………もご」

思わず叫ぼうとした瞬間、また雅さんに口を押さえられた。

そして、ゴーリーはボクの制服の腕を捲ると、人差し指と中指の2本を固めて、力を込め始めた。

「ふしゅぅうぅうぅうううう」

深く呼吸しつつ、顔が鬼の形相に変わっていく。

腕の筋肉はパンプして膨らみ、ぶっとい血管が浮き出し、湯気が立ちそうなほど熱を持ってきている。

そしてその力のこもった腕を上空へ上げていく。

(このしっぺを食らったらヤバい……!)

ゴーリーに集まる力を見ていたら、受けるまでもなくこのしっぺのヤバさがわかってしまう。

「お前、終わったな」

雅さんがボクの口を押さえながら耳元で囁く。

「も、もご……もごっ!ももごーー!!」

や、やめっ、やめっ!やめろー!!

と叫んだ瞬間、、、

ヴンッ……!

ゴーリーの腕が音速で振り下ろされ、ボクの腕へまるで鉄パイプで思いっきり殴られたような衝撃が走った。

「ぐああああああああっ!」

その人差し指と中指から生み出されるあまりの衝撃にボクの体は腕ごと持っていかれる。

「うっ……がはっ……!」

そして腰から崩れ落ちて廃工場の地面に叩きつけられ、埃が大きく舞った。

「ぐっはぁああぁぁっっ!」

突然大声が響いたかと思うと、その勢いでボクを押さえていた雅さんも顔面から地面へ叩きつけられていた。

………パラパラパラ。

砂埃が落ち着いた頃、ゴーリーは闘気を散らし、ボクの腕を解放した。

しっぺの刑は雅さんの絶叫が終了のゴングとなった。

「OK、みんなありがとー♪じゃあ意見がまとまったので、こちらでどうやって刑を実行するか考えてみまーす!またねー!」

美穂は全員分の罰を聞き出してボクに制裁を加えたので、一回電話を切った。

ボクは自分の腕を見てみると、赤黒い内出血が指2本分出来ており、力を入れてみると骨にまでズキッという痛みが走った。

(くっ……ヒビ入ったか……痛い……)

ボロボロの体でシゲを見上げると、こんな大きな音がしているにも関わらず、目を覚ましている様子は無かった。

(まさか……シゲは、もう……)

最悪の結末が頭をよぎる。

ボクのせいでシゲが死………。

いや、まだだ。

そうだとしたら未だに括り付けておくわけないし、この工場内に腐敗臭だってするはず。

きっと気を失っているだけだ。

ーーーそうだよね……?

ーーー頼むよ、シゲ……。

ーーーごめん。

ーーーほんと、いつも心配ばっかかけてごめん。

そんな謝罪が頭の中で繰り返される。

気づけばボクはボロボロと涙を流していた。

廃工場の汚い床に染みを作っていく。

そして、その染みが広がるように、ボクの心の奥底にも、じわりとした感覚が広がっていく。


ーーーシゲ、死なないで。

ーーー神様、お願いします。

1年の時、友達ができずにクラスで1人でいた時に、シゲから初めて声を掛けられたことを思い出す。

『おいっ。美男子くん!こっち来て話そうぜ!』

ーーー話したい。

ーーーやっぱりボクはシゲがいないとダメだ。

ーーーダメなんだ。

ーーーだって。

それはいけないこと。

ーーーでも、だって、やっぱり。


シゲのおどけた笑顔が思い返される。


ーーースキなんだ。

いつも相談に乗ってくれる親友。
友達としてスキ?

ーーーボクはシゲがスキだ。

友達として?本当に……?
ボクはシゲをスキということに抵抗が無い。
恥ずかしくもない。

そう。だからーーー。

ーーー友達じゃない。

自分の中に初めて生まれた感情がある。

シゲを想っている時の鼓動は、いつもと違う。

『もっとシンプルに直感で生きれば良いんだよ。俺みたいに』

ーーーそうだ。

そうか、ボクはボクじゃないんだ。

ーーーシゲが好き。

ーーーうん、そうだ。

ーーーそれでいい。

ーーーそれがいい。




ーーー私はシゲが好き。



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